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第十九話 魔物と人 3

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 一方、葉月は道なき道歩き、山々を一望できる崖にきていた。

「ここから、中々の妖力を感じたが……」

 周りを見渡すと木々とその上から見下ろすカラスしかいない。カラスたちは葉月をじっと見つめている。それを不気味と感じ、一人つぶやいた。

「誰もいないのか? うお!?」

 その時、木々をそらすほどの暴風が葉月を襲った。突如の暴風に驚いたがすぐさま飛ばされぬ様、刀を引き抜いて地面に深く差した。葉月は暴風を耐え抜いた。
 暴風は葉月が飛ばされぬと分かったのか、突如無風となった。無風となり刀を抜き取とり、辺りを警戒する。

「いったい何、む」

 上空からカラスの羽が舞い降りてきた。上を見上げると、黒翼を生やし山伏の服装着た少女。しかし人間でないカラス天狗、風華であった。風華の目は葉月を捕らえていた。

「今の風お前かッ!?」

 見上げる葉月の声に相手はそうだと答える。風華は葉月を見下ろす。

「人間どうやら私の計画に気づいたようね」

「お前がこの騒動をおこしたッ!?」

「そうよ何かある?」

 風華は怒号怯えず、見下した態度をとる。葉月はそんな彼女を睨みつける。

「人に迷惑をかけた。死で償うきは……」

「ないッ!」

 葉月の声には殺意がにじみ出ていた。しかし天狗の反応は拒絶であった。風華は翼を広げ、言葉と共に急接近してきた。
 即座に刀を抜き取り、振りかざす葉月。しかし刀は風華を斬れず、空を斬った。紙一重で避けられたのだ。攻撃を回避した風華はすかさず葉月を殴り飛ばす。

「遅い!!」

「グアア」

 葉月はふっ飛ばされはしたが、服に仕込んであるふだの力のお陰で少しは痛みを軽減できた。そして体をひねり何とか着地に成功し不要なダメージも避けた。しかし体の痛みよりも、単純な速さで刀が追いついてないことに冷や汗を流した。
 立ち上がり再び構える葉月。それを見て呆れる風華。

「人間なんて、やっぱりこんなもんか」

「…………」

 天狗の言葉に葉月は青筋を浮かべた。しかし天狗の言葉は止まらない。

「なのに、他の連中は人間との歩み寄りだとか……ありえないッ」

 天狗は猛っていた。かつての葉月の様に。

「御託は要らんッ」

「おっと」

  葉月は話を無視して、斬りかかる。天狗は再び翼を広げ空に回避する。刀は敵を斬りつけることが出来なかった。地にいる葉月をあざ笑う。

「空も飛べない」

「それはどうかな」

 しかし彼女は余裕の笑みを浮かべていた。懐から大量の札を取り出し空一面に投げる。その行動に怪訝な顔する風華。
 札はあたり一面にまで舞うと、葉月は霊力を使った。すると札は落ちることなく、ピタっとその場で静止した。札で足場を作ったのだ。

「行くぞッ」

 葉月は札を飛び移りながら天狗に襲い掛かる。札は葉月の重さも感じないかのように停止している。
 それ見ても風華は余裕の表情を崩さない。攻撃を避ける自信があるからだ。ついに、刀が風華の頭を斬断できる間合いに入った。刃が彼女に襲いかかる。

「へぇ、でもっ!」

 しかし、またもや風華は紙一重で避け、葉月に向かって手刀を繰り出す。

スパン 肉が切断された音が二人の耳に響いた。

「……へ」

 手刀を繰り出した風華の、左手は葉月が持つ短刀に切断されていた。切断された左手を見てあっけにとられる風華に対して葉月は叫ぶ。

「何度も同じ攻撃するかよ!」

 彼女は風華が攻撃を避ける事を考えて、逆に避けるが出来ない時。攻撃する瞬間を狙い、懐からから短刀を取り出し振りかざしたのだ。この作戦は見事成功した。切断された左手からくる激痛に叫ぶ風華。

「グギャアアアアア」

 彼女は痛みのあまり、怯んだ。葉月はその隙を見逃さず、追撃のため霊力を札に与える。すると近くに静止していた札がピラニアの如く風華に襲いかかった。
 本来なら札のスピードでは風華を捕らえることは不可能だが、怯み隙が生じたことで可能になった。札は風華にまとわりつき力を弱らせていく。
 纏わりついた札を取り除こうとするが、葉月はそんなことをさせない。再び霊力を発動した。

「雷ッ!」

「翼がッ!」

 葉月の言葉により札に電流が流れていく。
 電流によって翼は破壊され飛ぶことが出来なくなってしまった。風華は叫び声を上げながら崖の上、地に落ちていく。
 風を使おうにも札に力を吸われ使えず、やがて崖の上に落ちた。鈍い音が鳴った。
 なんとか痛みに耐え、うめき声を抑えながら立ち上がろうとする風華。そして空にいる葉月を見上げた。
「!?」

「グゥオオ!」

 葉月は刀を構え風華に向かって落下した。風華は死の危険を感じ取り転がり回避した。何とか避けれた安心感から全身から汗が噴き出し肩で息する。その様子をみて馬鹿にする葉月。

「先ほどと大違いだな」

「!!」

 その葉月の言葉に怒り、血を流しながら立ち上がる

「なめるな、人間」

 そう言い右手に扇を出現させた。扇は風を纏い鋭い刃になっていた。葉月はそれを用心する。

「なぜ人を襲う?」

 唐突に葉月が話しかけたのは相手のペースを乱すためである。相手はそれを知ってか知らずか話す。

「なぜ? 当たり前だろ、妖怪だからさ」

「へえ……」

 それを聞き、刀に殺意を込めた。天狗は話続ける。

「なのに、ほかの連中は人と和解したから不要に傷つけるなだとか。時代錯誤だ、意味の無い事をするな。挙句の果てに戦うなだと。それならば封魔と戦い死んだ者はいったいなんだッ!」

 その言葉に反応する葉月。どこか思う所が似ていると感じたからだ

「時代錯誤と呼ばれても結構、私は人よりも強いッ! それを証明する戦いの中でなあッ!!」

 不動の覚悟だった。その覚悟を葉月は感じ取り、自分は封魔の者だ、と伝えた。その言葉に天狗は驚き、笑った。

「そうか、強いはずだ。だが負けんッ」

 封魔であることを知り怯えず、より闘志を燃やす

「私の名は風華。お前はッ」

 風華は倒すべき敵を見据え問いかける。葉月も風華を見据え、返答する。

「私の名は葉月、来いッ!」

 名を聞いた風華は駆けた。そして葉月の首を狙う。だが刀で扇ははじかれてしまう。
 しかし、それを読んでいたかのように手がない左腕で葉月の脇腹を抉ろうとする。葉月は短刀で防御しようとしたが追いつかなかった。

「シャアア!」

 天狗は吼えた。左腕は脇腹を抉り内臓を破壊する。これができたのは切断された骨の鋭さと天狗の力のなせる技だった。内臓を破壊され激痛で苦悶の表情になる葉月。しかし、

「……かかったな」

「!?」

 葉月は服に仕込んである札を起動させた。風華はすぐさま異変に気付いた。

「左手が動かん!?」

 左手を抜こうにしても、びくともしない。そんな異常事態から距離を取るために、風華は左腕を右腕で切断しようとする。

 その行動を葉月は短刀で切り裂き止めようとするが、風華は切り裂かれても止めようとしない。そして何度も自分の左腕を引き裂いていく。あまりの痛みに涙を浮かべる。

 しかし、そのかいあってか左腕の拘束が少しゆるむ。そしてそのまま葉月の腹をけり脱出を試み様みる。だが、その試みは失敗に終わる。葉月が刀で逃げられない様に風華の背中から自分事突き刺したのだ。他者が葉月のこの行動を見たら、狂人の所業だと叫ぶだろう。
 大量の血が地面に広がる。出血死を覚悟する量だ。そんなこと構わずに葉月は叫ぶ。

「これで逃げられんッ」

「だがお前はッ!?」

「勝つつもりだ」

 そう告げ、刀と札にありったけの霊力を使った。二人に大量の雷が降りそそぐ。

「ガガガガガガ」

「グググググ」

 雷は周りの音を消し光が二人を包んでいく。
 光が止み、そこにいたのは刀を引き抜いた葉月と地に伏している瀕死の風華だった。

「なぜ、お前は……」

 疑問を口にする風華。

「それは私は自らの術によって自滅しない様に雷を再び霊力に戻していたからだ」

「そうか……」

 風華はそれを聞き笑い気絶した。勝利した彼女は刀を鞘にしまった。何もせずともあと少しで相手は死ぬ。それがわかっていたからだ。

「眠れ……」

 気絶している風華に言葉かけ、怪我によって地に伏した。葉月も自身の死を覚悟する。その時第三者の声が聞こえた。

「すごかった、すごかった」

「!」

 葉月は何者かの声に警戒を強め、立とうとする。声の方には河童と菫を背負ッている鬼のイバラキがいた。

「争う気はないよ」

 そう言い菫と河童をおろす。そして風華に近づき良くやったと声をかけながら、かまいたちの薬を与えた。
すると傷は治り手も再生した。それに満足したのか葉月に向かう。

「お前はいったい?」

 その問いに鬼とだけ答え、薬を渡そうとする。その行動に驚いたが妖怪から施しは受け取らんと拒否する。
「ほどこしじゃない 戦いの褒美だ」

 そう言いながら鬼は葉月に無理やり与えた。葉月の傷も治り全快した。

「いやーかまいたちの薬はすごい、すごい」

 傷が治りケラケラ笑う鬼。そんな不思議な空気の中、了が現れた。

「なんだ、当然雷が落ちてくるし、それで見にきたら」

 了は場の状況に困惑した。地に寝ている3人、葉月に鬼。そんな彼女にイバラキは笑いながら相手をし喧嘩があっただけと説明した。了はイバラキに対して何者か尋ねる。すると鬼は笑いこう答えた。

「私か、人間を襲おうと考えた首謀者さ」

「!」

 イバラキの言葉を聞き、了はカードを取り出し身構えた。葉月はそれに驚き、否定しようとする。

「了! 違うそい」

「お嬢ちゃん内緒な」

 イバラキは葉月の言葉を遮りそして、殴り気絶させた。了はただ困惑した。

「どういうことだ?」

「さあ? あんたがわかることは私に負けたらこいつらが死ぬってことさ」

 菫と葉月を指さす。その言葉からは殺気がにじみ出て、場の空気を圧迫した。

「そんなこと言われれば本気でやるぜ……」

 絶対に助けるその思いを持ち、了は戦闘態勢をとる。鬼との戦いが始まった。<オーガ>カードの力を使い、鬼になって相手に向かう了。

「鬼には鬼の力だッ!」

「変身したッ!?」

 イバラキは驚きはするが、怯まない。

「オラッ!」

「フンッ!」

 了は相手の顔狙い殴りかかった。しかし受け止められてしまう。拳を掴みながら話しかけるイバラキ。

「いい力だ、あんた名前は?」

 その問に了とだけ答える。

「そうかい、私の名はイバラキ。いい殺し合いしようッ!」

「!?」

 その時了は自身の危機を感じ、右脚でイバラキに前蹴りを放つ。蹴りは見事イバラキの腹部に直撃。
しかし、
「痛ってなー」

 直撃を食らったにもかかわらず、イバラキに傷一つつけられなかった。それを見て了は「なんだと!?」と驚愕する。繰り出した蹴りは妖怪相手でも、地に倒れさせる程の威力をもっていたからだ。了の驚きにイバラキは笑みを浮かべて叫ぶ。

「次はこっちの番だッ!」

 即座に了の右脚を掴み投げ様とする。了は何とか振りほどこうとしたが、力負けしていた。

 (私は鬼の力を得たなのに、奴の力は私以上かッ!)

 了はその事実に恐怖した。そしてなすすべもなくイバラキに木々がある方に勢い良く投げ飛ばされた。

「チィイ」

 すぐさま鬼の力を解き、新たにグリフォンのカードを使用。翼を背に生やして得た飛行能力で木々への衝突を防ぐ。そして投げられた勢いを翼に乗せて 空高く舞い上がった。

「ならばさッ」

 了は空から、頭部目掛けて斬りにかかった。その速度は隼と肩を並べるものだ。

 (頭なら多少はダメージを受けるはずだッ!)

 そう考え、剣を振りかざす。剣は鉄の鈍い光を放ちイバラキに襲い掛かる。だがイバラキは逃げもせず、逆に飛びかかった。

「嘘だろっ!?」

 その予想外の行動に了の攻撃が少し乱れた。剣は角に直撃。されど破壊できなかった。危険はあるがイバラキは予想外の行動をして、了の攻撃を不完全な物にした。次の自分の攻撃の確実にするために。
 イバラキの思惑どおり攻撃の失敗により、了の剣先は頭部からそれて隙が生まれてしまった。イバラキは鬼の剛腕を了に振るう。

「ハアッッ!」

 イバラキの拳は了の腹を直撃した。拳は了の腹部に深く沈み、内臓と骨に損傷を与えた。了に途轍もない激痛が襲う

「ギャアアアアアア」

 そして叫びと共に勢いよくふっ飛ばされる。地面が迫ってきたがあまりの痛みに衝突を防ぐことができない。了は地面に直撃し、太鼓が大きくなった様な音をあたりに響かせた。叩き付けられた衝撃で地面は砕け、砂煙が辺りに舞う。イバラキはそれを見てつぶやく。

「死んだか?」

 だが言葉と裏腹に攻撃の構えを解かない。 エルカードが砂煙の中から鳴り響く。

 <ドラゴン>

「!!」

 砂煙からイバラキに向かって大量の水弾が襲い掛かる。

「これはやばいなッ」

 イバラキは直感で水弾が妖怪に対して危険と感じ、即座に地面を引きはがし盾にし防いだ。水弾は地面の盾に当たりパシャンと音を立てただけだ。<ドラゴン>の力は妖怪には効くが、そのほかのモノには威力を発揮しない。

「次はどんなのを見せてくれるんだ」

 笑みを浮かべながら了に問う。砂煙から現れた了は腹部に深手を負っており、内臓が見え隠れしていた。(攻撃を受けたとき変身してなきゃ死んでいたな)そんな考えと同時に了は焦っていた。了は思考する。
 (私が持つ主力の3枚のカードが効かなかった。ドラゴンは効き目はあるが決め手には欠ける。どうする負けるのか私は …… いや命がかかっているんだ)
菫と葉月を見る。もしまければイバラキに殺されてしまう。二人の命を守るため了はある事を決意した。

「あれ、やるか」

 了はカード3枚取り出し構える。その様子を見たイバラキは闘志が消えてないことを喜んだ。

「奥の手かい」
 イバラキの言葉に、了は不敵に笑う。
「まあな、体への負荷が凄くて普段は使えない切り札さ。だが今使うぜ…… お前を倒すためにな」

 そして三つのカードを同時に発動した。

 <オーガ><グリフォン><ドラゴン>

「ウオオオオオオオ」

 了に3つの力が宿る。 そして体に鬼の角 グリフォンの翼 ドラゴンの手甲が現れた。了の異形の形態を見てイバラキは闘志を燃やす。了は雄たけびを上げて、イバラキにロケットの如く突撃。相手の腹部にアッパー攻撃を行う。それにすかさず反応して拳を受け取ろうとするイバラキ。

「お前の力は…… 何ッ!」

 だが彼女は受け止めれず空にふっ飛ばされる。攻撃の威力からかイバラキの口から血が飛び散った。

「まだだッああああああ」

 了の追撃はやまない。グリフォンの力で竜巻を発生させ、更に鬼の力で火を発生させ竜巻に加える。炎の竜巻がイバラキを襲う。それを見たイバラキは、「クソッ!」と心の中で思いながら、大量の空気を吸い込み、勢いよく吐き出した。口から吐き出される暴風の様な息で 火の竜巻はかき消された。
 攻撃を回避してイバラキは何とか地面に着地しよう地面に足をつけた瞬間、バスッと謎の音とともに足に鋭い傷がついた。これにより着地失敗して地面に膝をつき余計な隙を生んだ。イバラキは足の傷に目をやる。

「これはまさかッ?」

 与えられた傷はただの傷でなく聖水によるダメージも含まれていた。了は風の力で水弾に速度を与え、水の刃に変えたのだ。上空から了はガンドレッドを相手に構えて水の刃を発射。水の刃がイバラキに再び襲い掛かる。

「こんなものはさぁッ!」

 イバラキも負けじと口から猛火を吐き出して、炎の盾を作り水を蒸発させる。水が刃になったとしても水は水、高温の火で蒸発可能だ。イバラキは水の刃も攻略して今だ健在。その様子を上空で冷や汗をかきながら見据える了。

「これでもか…… ならこれで最後にしてやるぜッ」

 了はその言葉と共に空高く飛び上がった。やがて元いた山を見下ろす場所にまで来た。

「行くぞ!!」

 そう叫び翼を広げ急降下した。その速さは天狗の速度に匹敵した。そしてイバラキ目掛け、飛び蹴りを仕掛ける。

「ウオオオオオオオオオオオオオオ」

 叫び共にグリフォンの風の力、鬼の力の火の力で爆風を起こし更に加速して行く。だが轟音を立てて急接近する了を見ても、イバラキは逃げない。彼女は了を見つめ、

「私は…… もう逃げん」

 足が地面にめり込ませ、了の攻撃に怯まぬようにする。足の力で地面に深い亀裂が発生、大地を砕く。そして了を倒すために、右拳に自分の力全てを込め迎撃準備する。

 全力と全力、両者の間合いが交じった。鬼の拳、了の蹴りがぶつかり当たりに衝撃が響き、了は叫ぶ。

「これで終わりだ!!」

「グウオオオオオオオオオ」

 了の蹴りでイバラキの拳は岩石が砕けるかのような音を立てて砕けた。だが了の蹴りは止まらない。拳だけでなくイバラキの腹を貫いた。力のぶつかり合いで大地は粉砕され、欠片を当たりにばらまき、炎風が二人を隠す。やがて炎風止み、立っていたのは、

「…………」

「…………」

 右腕が破壊されたイバラキと了だった。イバラキは砕けた手を了に向けて告げた。

「了…… お前の勝ちだ」

 そして前のめりに倒れた。戦いは了の勝利で終わった。

「何とか勝てたか」

 イバラキに勝てたことに了は安堵して、イバラキと同様に彼女も倒れた。
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