16 / 63
十六話 月の願い
しおりを挟む
―――夜の管理所
本来なら静かな管理所であるが今日は違った。ドタドタと騒がしい足音と叫び声が管理所に響いていた
「どこへ行った!?」
「早く見つけろーッ」
現在、管理所は不審侵入者によって大騒ぎであった。一人の職員が汗を流しながら他の職員に伝える。
「奴は保管室から出てきたぞっー」
「何だってーっ」
「ま、不味い!!」
職員達は心底焦った。保管室には特殊兵器、エルカード、マジックアイテムなどの危険物があり持ち出されたと考えたからだ。
「奴を絶対捕まえろーッ!」
追いかける者達の足音が建物内に響く。侵入者は三階のある部屋に逃げ込んだ。その部屋の扉には所長室と書かれてあった。職員が驚き声を荒げた。
「やべーぞッ 奴は所長室に行っちまったぞッ」
現在、アサキシは診療所に行っており、この場にはいない。しかし職員たちはもし部屋が荒らされたのなら そう考えただけで青ざめた。職員たちにとってアサキシは頼もしくあるが、恐ろしくもあるのだ。
アサキシはミスをした人間にきびしいのだ。
「いやッ所長室は窓があるがッ!! ここは三階そこで行き止まりだッ」
言葉を発して、扉を勢いよく開ける職員達。扉が開く音で侵入者は振り向いた。侵入者は人の姿をしていたが頭には兎耳が生えていた。人では無かった。
「もう逃げられんぞッ!」
「今だ! 取り押さえろッー」
職員たちは襲い掛かった。だが侵入者は光る玉を取り出し、窓から飛び降りた。そして一筋の光になって月へ飛んだ。部屋には職員達だけになった。
「何ものなんだ……」
職員達は夜空に輝く月を見て、ただ困惑した。
―――
昼の人里
白いジャケットとに黒いスカートをはいた黒髪の少女、了は鍛冶屋にいた。
この鍛冶屋は管理所公認で武器の製造が認められている。鍛冶屋の室内は暑く、鉄の匂いが漂い様々な工具が置かれていた。
「注文の品はできてますか」
了の呼びかけに奥から、片目を隠し、赤い手ぬぐいを首に巻いた男装の少女が剣を携えて来た。
「できてますよ、はい」
「ありがとう。小鉄さん」
小鉄から剣を受け取り状態を見る。剣は刃がなく実質鈍器に近いものであった。了はその出来に満足した。小鉄は「刃の無い剣なんて頼まれたのは初めてだと」了に言う。
「私はこれでいいのさ。刃があれば余計傷つけてしまうだろ」
「十分危険ですよ。しかしなんでそんな物注文したんですか?」
「まあ色々あってな剣を持つことにしたんだ」
了は葉月との戦いの事を思い出す。武器が無くてえらく不便だった。剣を持つことで闘いの幅が広がるだろう。そう考えて携帯することにしたのだ。
小鉄はその言葉に納得したのか頷き、納得した。
「そうですか。今日は他にご予定でも?」
「ああ、管理所に呼ばれてね」
「管理所ですか。昨日大変でしたものね……」
「? じゃあ行ってくるよ」
小鉄の含みのある言葉に了は不思議に思いながらも、謝辞を述べて店を出た。
―――
管理室 所長室
コンコン、了は扉をノックをして中に入る。
「失礼するぜ」
「ようこそ」
了を迎えたのは青と白の袴を着た、アサキシである。彼女は了を見るや否や話し始める。
「さて、早速だが要件を話そう。管理所が昨日の夜、何者かによって侵入された」
「! 怪我人は出たのか?」
侵入者がここに入った事に驚き、負傷者が出たのかと心配する了。また彼女は小鉄の言葉の含みがこの事件に関してのモノだと分かった。了の言葉にアサキシは首を振り否定した。了は負傷者が出てないことで、安どのため息を吐いた。しかし、アサキシの顔は険しい。
「出てはいないが、保管していたエルカードが盗まれた」
エルカード。所有者に力を与える道具で、使い方によっては大変な凶器に変わる。それが盗まれたのだ。了は今回の事件は深刻なものだと判断した。
「盗まれたエルカードはどんなものだ?」
「使えば人間になることができる、ヒューマンのエルカードだ」
もし危険な魔物だとしても、ヒューマンのエルカードを使えば人間に化けて人々の中に潜り込むことができる。また他人に変装して悪事を行う事が出来る。悪人の手に渡ればとても危険なカードだ。またこのカードは人間になれる以外に、『化け物の姿から人に戻す力』もある。
盗まれたカードを聞いて、了は険しい顔で尋ねる。
「……犯人の目星はついているのか」
「ついている。犯人はこの世界の者では無い。おそらく兎の妖怪で、『月』に関係する者だ。月の奴らがヒューマンのエルカードを盗んだ」
「本当かそれ……」
深刻なモノと考えていたため、月の関する者と言うアサキシの言葉に思わず、疑いの目を向けた。が、アサキシは真面目な顔で「本当の事だ」と返した。そして了に仕事を命じる。
「エルカードの奪還だ。月にあれば月に行け」
アサキシの言葉に了は思わず渋い顔をする。いきなり月に行けなんて言われたら、こうもなるだろう。そんな了に構わずアサキシは話続ける。
「もちろん。奴らの仲間が潜伏している場所を見つけた」
「……私の他に行った奴はいるのか」
「『菫』の奴が少し前に向かったよ」
『菫』、その名前を聞き了は肩を落とした。彼女はやりすぎる傾向にあるからだ。
「そうか。行ってくる」
「受けてくれるのか。期待して待っているよ」
アサキシの頼みを聞き了が部屋から退出しようと 扉に手をかけた時、廊下から声が響き聞こえた。誰かが無理にこちらへ、向かってきて来ていた。
「申し訳ありませんが、今来客中でございまして……」
「私はアサキシのことを知っている。問題ない」
その言葉と共に扉が開けられた。了の目の前に現れたのは刀を携えたポニーテールの少女、葉月であった。了は彼女を見て驚く。
「お前なんでここに!?」
「管理所が襲われたと噂を聞いてな。魔物の仕業と考え私も力になろうと考えここに来た」
慌ててる了に対し、一方的に話をする葉月。おもわず葉月に対して文句を言おうとしたがアサキシが制した。
「うむ。封魔の者がいれば今回の事件早期解決するかもしれん。了と一緒に頼むよ」
アサキシの言葉に軽く頭を下げる葉月。了はどうにでもなーれとなり、流れに身を委ねることにした。
―――
了と葉月は管理所を出て、アサキシに教えられた場所、暗闇の森にいた。居る理由はこの森のどこかに侵入者の仲間がいると情報をアサキシから伝えられたからだ。侵入者の仲間を探している途中、了は葉月に話しかけた。
「葉月お前は犯人が魔物だったら殺すのか」
「そうだ。魔物はすべて消えてしまえばいい」
葉月の言葉には妖怪に対しての怒りが込められていた。了は優しく諭すように話す。
「……お前が魔物に対して深い怒りを持っているのは知っている。でもな魔物にも良い奴がいるんだ」
「そんな奴はいない」
葉月はバッサリと切り捨てる。そう否定した葉月に了はあることを話始める
「なあ、私とお前が戦った時の事を覚えているよな」
「忌まわしい記憶だ」
了の言葉に、彼女は苦虫を噛んだ顔になる。負けたことがよほど悔しかったのだ。
「あの時お前は私の攻撃を受け、瀕死だったよな」
「ふん、あのとき殺しとけばよかったはずだ。何故助けた」
「私も助けるかどうか考え、襲われた奴に聞いた。そいつは、ムクは助けたいと言い助けたい
「なに……」
葉月は困惑した。殺そうとした者に助けられたからだ。普通なら助けはしない。葉月は疑問を口に出した。
「なぜそんなことを言ったんだ……」
「ムクはお前のことを友人だと思ってたからだ。殺されそうになったにもかかわらずな」
「…………」
その言葉にうつむく葉月。
「葉月、お前が魔物を憎む気持ちは分かる。だがな一度は魔物に命を助けられたんだ。だからな一度くらいは魔物を助けたらどうだ」
「…………」
了の問いかけに彼女は何も言わず森の中を進む。
本来なら静かな管理所であるが今日は違った。ドタドタと騒がしい足音と叫び声が管理所に響いていた
「どこへ行った!?」
「早く見つけろーッ」
現在、管理所は不審侵入者によって大騒ぎであった。一人の職員が汗を流しながら他の職員に伝える。
「奴は保管室から出てきたぞっー」
「何だってーっ」
「ま、不味い!!」
職員達は心底焦った。保管室には特殊兵器、エルカード、マジックアイテムなどの危険物があり持ち出されたと考えたからだ。
「奴を絶対捕まえろーッ!」
追いかける者達の足音が建物内に響く。侵入者は三階のある部屋に逃げ込んだ。その部屋の扉には所長室と書かれてあった。職員が驚き声を荒げた。
「やべーぞッ 奴は所長室に行っちまったぞッ」
現在、アサキシは診療所に行っており、この場にはいない。しかし職員たちはもし部屋が荒らされたのなら そう考えただけで青ざめた。職員たちにとってアサキシは頼もしくあるが、恐ろしくもあるのだ。
アサキシはミスをした人間にきびしいのだ。
「いやッ所長室は窓があるがッ!! ここは三階そこで行き止まりだッ」
言葉を発して、扉を勢いよく開ける職員達。扉が開く音で侵入者は振り向いた。侵入者は人の姿をしていたが頭には兎耳が生えていた。人では無かった。
「もう逃げられんぞッ!」
「今だ! 取り押さえろッー」
職員たちは襲い掛かった。だが侵入者は光る玉を取り出し、窓から飛び降りた。そして一筋の光になって月へ飛んだ。部屋には職員達だけになった。
「何ものなんだ……」
職員達は夜空に輝く月を見て、ただ困惑した。
―――
昼の人里
白いジャケットとに黒いスカートをはいた黒髪の少女、了は鍛冶屋にいた。
この鍛冶屋は管理所公認で武器の製造が認められている。鍛冶屋の室内は暑く、鉄の匂いが漂い様々な工具が置かれていた。
「注文の品はできてますか」
了の呼びかけに奥から、片目を隠し、赤い手ぬぐいを首に巻いた男装の少女が剣を携えて来た。
「できてますよ、はい」
「ありがとう。小鉄さん」
小鉄から剣を受け取り状態を見る。剣は刃がなく実質鈍器に近いものであった。了はその出来に満足した。小鉄は「刃の無い剣なんて頼まれたのは初めてだと」了に言う。
「私はこれでいいのさ。刃があれば余計傷つけてしまうだろ」
「十分危険ですよ。しかしなんでそんな物注文したんですか?」
「まあ色々あってな剣を持つことにしたんだ」
了は葉月との戦いの事を思い出す。武器が無くてえらく不便だった。剣を持つことで闘いの幅が広がるだろう。そう考えて携帯することにしたのだ。
小鉄はその言葉に納得したのか頷き、納得した。
「そうですか。今日は他にご予定でも?」
「ああ、管理所に呼ばれてね」
「管理所ですか。昨日大変でしたものね……」
「? じゃあ行ってくるよ」
小鉄の含みのある言葉に了は不思議に思いながらも、謝辞を述べて店を出た。
―――
管理室 所長室
コンコン、了は扉をノックをして中に入る。
「失礼するぜ」
「ようこそ」
了を迎えたのは青と白の袴を着た、アサキシである。彼女は了を見るや否や話し始める。
「さて、早速だが要件を話そう。管理所が昨日の夜、何者かによって侵入された」
「! 怪我人は出たのか?」
侵入者がここに入った事に驚き、負傷者が出たのかと心配する了。また彼女は小鉄の言葉の含みがこの事件に関してのモノだと分かった。了の言葉にアサキシは首を振り否定した。了は負傷者が出てないことで、安どのため息を吐いた。しかし、アサキシの顔は険しい。
「出てはいないが、保管していたエルカードが盗まれた」
エルカード。所有者に力を与える道具で、使い方によっては大変な凶器に変わる。それが盗まれたのだ。了は今回の事件は深刻なものだと判断した。
「盗まれたエルカードはどんなものだ?」
「使えば人間になることができる、ヒューマンのエルカードだ」
もし危険な魔物だとしても、ヒューマンのエルカードを使えば人間に化けて人々の中に潜り込むことができる。また他人に変装して悪事を行う事が出来る。悪人の手に渡ればとても危険なカードだ。またこのカードは人間になれる以外に、『化け物の姿から人に戻す力』もある。
盗まれたカードを聞いて、了は険しい顔で尋ねる。
「……犯人の目星はついているのか」
「ついている。犯人はこの世界の者では無い。おそらく兎の妖怪で、『月』に関係する者だ。月の奴らがヒューマンのエルカードを盗んだ」
「本当かそれ……」
深刻なモノと考えていたため、月の関する者と言うアサキシの言葉に思わず、疑いの目を向けた。が、アサキシは真面目な顔で「本当の事だ」と返した。そして了に仕事を命じる。
「エルカードの奪還だ。月にあれば月に行け」
アサキシの言葉に了は思わず渋い顔をする。いきなり月に行けなんて言われたら、こうもなるだろう。そんな了に構わずアサキシは話続ける。
「もちろん。奴らの仲間が潜伏している場所を見つけた」
「……私の他に行った奴はいるのか」
「『菫』の奴が少し前に向かったよ」
『菫』、その名前を聞き了は肩を落とした。彼女はやりすぎる傾向にあるからだ。
「そうか。行ってくる」
「受けてくれるのか。期待して待っているよ」
アサキシの頼みを聞き了が部屋から退出しようと 扉に手をかけた時、廊下から声が響き聞こえた。誰かが無理にこちらへ、向かってきて来ていた。
「申し訳ありませんが、今来客中でございまして……」
「私はアサキシのことを知っている。問題ない」
その言葉と共に扉が開けられた。了の目の前に現れたのは刀を携えたポニーテールの少女、葉月であった。了は彼女を見て驚く。
「お前なんでここに!?」
「管理所が襲われたと噂を聞いてな。魔物の仕業と考え私も力になろうと考えここに来た」
慌ててる了に対し、一方的に話をする葉月。おもわず葉月に対して文句を言おうとしたがアサキシが制した。
「うむ。封魔の者がいれば今回の事件早期解決するかもしれん。了と一緒に頼むよ」
アサキシの言葉に軽く頭を下げる葉月。了はどうにでもなーれとなり、流れに身を委ねることにした。
―――
了と葉月は管理所を出て、アサキシに教えられた場所、暗闇の森にいた。居る理由はこの森のどこかに侵入者の仲間がいると情報をアサキシから伝えられたからだ。侵入者の仲間を探している途中、了は葉月に話しかけた。
「葉月お前は犯人が魔物だったら殺すのか」
「そうだ。魔物はすべて消えてしまえばいい」
葉月の言葉には妖怪に対しての怒りが込められていた。了は優しく諭すように話す。
「……お前が魔物に対して深い怒りを持っているのは知っている。でもな魔物にも良い奴がいるんだ」
「そんな奴はいない」
葉月はバッサリと切り捨てる。そう否定した葉月に了はあることを話始める
「なあ、私とお前が戦った時の事を覚えているよな」
「忌まわしい記憶だ」
了の言葉に、彼女は苦虫を噛んだ顔になる。負けたことがよほど悔しかったのだ。
「あの時お前は私の攻撃を受け、瀕死だったよな」
「ふん、あのとき殺しとけばよかったはずだ。何故助けた」
「私も助けるかどうか考え、襲われた奴に聞いた。そいつは、ムクは助けたいと言い助けたい
「なに……」
葉月は困惑した。殺そうとした者に助けられたからだ。普通なら助けはしない。葉月は疑問を口に出した。
「なぜそんなことを言ったんだ……」
「ムクはお前のことを友人だと思ってたからだ。殺されそうになったにもかかわらずな」
「…………」
その言葉にうつむく葉月。
「葉月、お前が魔物を憎む気持ちは分かる。だがな一度は魔物に命を助けられたんだ。だからな一度くらいは魔物を助けたらどうだ」
「…………」
了の問いかけに彼女は何も言わず森の中を進む。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
69
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる