ネコじいちゃん

hanahui2021.6.1

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⑤ 疑問

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「けんしーん‼聞いてくれよー」 
朝一番、登校してすぐに リクが泣きついてきた。
ボクが「どうしたの・・・?」と尋ねる前に
「実はさぁー。今朝、変な夢 見ちまって 気持ち悪ぃー
どーいう内容だったか、全全然覚えてないのになんか胸くそ悪いのだけ 残ってて…
これってどうしたら良いんだ?
何したら、気分 はれる?」
「あっ!それ、ボクにも経験ある。
アレって困るよねー」
共感するも、打開策 思い浮かばず…かわりにボクは、前に見た奇妙な夢の話をした。
「そういえば。ボクも最近、変な夢見ちゃったんだよねー」   許可をもらわないまま、勝手に話し始める。
「女の子が出てきて 【おはなを助けて】って言うんだ。
そりゃ もう必死になって、訴えてくるんだけど、一体なんのことか わからない。
だってそうでしょ?
もし単純に 植物の花のことだったなら、そんなに必死になること おかしくない⁉
そう考えると納得いかないんだけど…運悪く お母さん 迎えに来ちゃうんだ。
だから 結局、何のことか 判明しないまま終わる。そんな夢」
「それも 嫌だなー」 リクは、ボクが同じような経験をしていることで気が済んだのか、アッサリとその話題を手放した。

そのままグダグダと 他愛無い話を続けていると、やがてチャイムが鳴り、ホームルームが始まった。

授業が終わり、休み時間に入って すぐ。
ボン‼ 椅子の座面を蹴り上げられ、ダイレクトに振動が伝わってくる。
初めの頃は、たまたま当たってしまったのだと思っていた。。
まさか、自分を呼ぶための行為だとは、誰も考えないだろう。
「なぁ 謙信!
なんで? 歴史の授業ってあるんだ?
何のために 勉強しなきゃいけねぇんだ?」
」抗議しようと、後ろを振り向いた ボクに投げられた疑問。「そんなの…わからないよ…」 呟いて 言葉を 飲みこむ。 
『ボクだって、博士じゃないんだから そんなこと わかるわけないじゃないか!!』 思わず悪態が出るが
それを 苦笑いで誤魔化し
「言われてみればそうだねー」 一度、同意して
「ウーン…ボクにもわからないなー
その問いに、答えられそうな人、一人いるには居るけど…」 中途半端なまま、言葉を濁す。
時、ボクの脳裏では ある人物の姿が、浮かび上がっていた。勿論ネコの姿ではなく、人の姿であるけれど… 。
「居るけど…なんだよ?」 焦れたように リクが先を促す。
「いちお 聞いてみてもいいかな?…知ってるとは思うけど…」 なかなかに 歯切れが悪い。
「何か 不都合があるのか?」 リクは、しつこく食いついてくる。
「あまり、人前に出たがらない人だから…ね!」 しぶしぶという感じで受け答えしているのに、すべてをスッ飛ばして
「今日 帰りに、オマエん家 行っていいか?
そん時に相談しようぜ!」 晴れやかな ニコニコ顔でリクが、提案してくる。
「…うーーーん………」 唸って考え込むボク。
「なっ!」 伺いを立てている というより
「いーいだろっ!」 やや強引にど頷かせるという感じで、ぐいぐいと攻めてくるリク。
リクの熱意が篭っているからか、掴まれた手首が、しだいに熱をはらみ ほのかに…熱い。
「でもなー」
やや弱点につながりそうなアレを 気安く他人に
『見せて良いものだろうか?』 なかなか ふんぎりのつかないボク。
わざわざ 自ら弱点をひけらかす人物なんて 居ないだろう。
特に まだ相手が 自分にとって好意的なのか、害になるのか?判明しないうちは。
「おーい!け・ん・し・ん‼ 
生きてるかー?」 いつまでも 黙ったままのボクにシビレを切らし リクが大声で叫びあげる。
その行動に【ギョッ‼】とした。
慌てて周囲を見回すが、幸い みんなには 気づかれてないみたいで、【ほっ!】と胸を撫で下ろす。
「しょうがないなー。じゃあ、来ていいよ」 ボクはしぶしぶ頷いた。

++++++++++++++

 そして放課後ーーー
リクは宣言通り ボクの家に立ちより、目を大きく見開いていた。
目の前には、チョコンと座布団に座ったネコが 湯呑み片手に 人と同じ言葉を話している。しかも、目を凝らすと、座りかたも よく目にする猫の丸まっている姿ではなく、キチンと座布団の上で正座をしていた。
「その疑問に答えることはできるが、それには少し 話が長くなってしまうかもしれん。
そこで提案なんじゃが、もし急いでなければ、他の日、例えば学校のない日にずらしたら どうじゃろうか? 」

++++++++++++++
それからが、若干 大変だった。
ボクの部屋に移動するなり、リクは 豹変した。
今まで、ほぼ無言。
 借りてきたネコ状態だったクセに 一気に まくしたてる。
「なっ!謙信。あれ…誰?」と
質問に始まり、ネコになった経緯 や これからの生活のことまで、洗いざらいを知りたがり…。
やがて…満足すると
「オマエのじいちゃん、スゲーな!滅多にできねぇ体験だぜ‼」瞳を輝かせ、はしゃぐ始末。
対するボクは、
『馬鹿にされなかった!』その展開に ぼうぜんとしていた。ほぼ確定的に 弱点になると決めつけていた思考を裏切り 割と真剣に聞いている。
『コイツ、あんま悪いヤツじゃないかも…しれないな?
それどころか案外、根はマジメだったり するのかも?』
単純なボクはソレに気を良くして、【ばあちゃん奪還作戦】に至った経緯まで 芋づる式にしゃべってしまった。
ということで…
「じゃあ、まず 【依頼集め】だな!
みんなに どんどん相談してもらおうぜ‼」
みるみるうちに乗り気になってしまったリクは、言うなりポケットからスマホを取り出した。
「チョ、ちょっと待って‼」 ボクの静止に
「なんだよー」 リクは不服そうに口をとがらせ こちらを睨む。
「今、何やろうとした?」ボクは、かまわず続けた。
」「ネットで拡散なんてしたら、ボクたちの行かれないような遠いところの依頼まで舞い込んできちゃうよ‼ 
それに…」 
途中から消え入るように 言い淀んだボクに
「それに…。なんだよ」 容赦なく、リクの追及が入る。
「実をいうと、あんまりボク、やりたくないんだよね。じいちゃんのこと好きだから 助けなきゃいけないって思いはあるんだけど。
じいちゃんの知ってることって古いじゃん。
だから、今の時代で通用するのかな⁉って思っちゃうんだよね」
「だったらなんで提案したんだよ?
なんで、お祖父さんをその気にさせた?」
「ソレって…気づいてないだけで
実は…オマエ自身が、その姿を見てみたいって思ったからじゃないのか?
それに…やってもみないうちから、【出来ねぇ】って決めつけてるんじゃねぇ。
やってみて ダメだったら、やめりゃいいだけのことじゃねぇか‼
試してもみないうちから諦めるなんて、ただの【意気地なし】だ‼」
リクに気合いを入れ直されて
「うーん、そーだよね…」 胸中に はびこる不安を抱えながら、ボクは あいまいに返事する。
「とりあえず、チラシを配ってみるっていうのは どうだ? 気軽に おためし期間と いこうぜ」
「で、その結果を見てから、
今後どうするか決めりゃいいんじゃねぇか?」
「それに オマエ さっき、遠いところはムリって言っててたけど。
オレはネットを介しての面接ってのも、ありだと思うぜ。
ま、吉と出るか 凶と出るかわからないけど、とにかくやってみようぜ‼」
なんか面白がっている気のするリクに、やや強引に 腕を引かれ…ボクたちは 動きだした。
しかし、僕たちは忘れていた。
肝心のじいちゃんが、この場に不在であることに。

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