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プロローグ
0、夕日に照らされしは苦い思い出
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町を焼き尽くすほど真っ赤な夕日が、廊下の窓ガラスから差し込んでくる。彼女の顔が赤く見えるのは、その夕日を受けたからなのか、あるいは血の巡りが良すぎるだけなのか。
楽器の曲線に映って歪んで見える僕の顔も夕日に照らされていたが、彼女ほど赤くはなかった。
彼女はチューバをクロスで拭きながら言った。
「ごめんね。こんな遅くまで練習付き合わせちゃって」
僕はユーフォニアムを拭きながら答えた。
「シアちゃんには1年のときから師匠をやってもらってるんだから、僕に断る道理なんてないよ」
彼女は目線を下に落とした。
「……やっぱり阿瀬君はずるいや」
「ん?何がずるいのさ」
彼女は楽器を拭く手を止めた。わずかに開いた窓の隙間から漏れる風が、彼女の肩まである髪の毛をふわりと揺らした。
「私さ、阿瀬君のことがずっと好きだったんだよね……」
彼女の声は震えていた。
「だからさ、よかったら……付き合ってくれない、かな」
彼女はそう言って、顔を上げてはにかんだ。
*
気がついたら、僕は自分の部屋の天井を眺めていた。
「……またあの夢か」
僕は小さな声でつぶやいた。
去年の夏のあの日から、定期的に見るようになった夢。あの子に告白されるだけの夢。
人によってはむしろありがたいかもしれないが、僕にとっては忘れたくても忘れられない苦い思い出のフラッシュバックだ。どうしても寝起きの気分が悪くなるので、できれば見たくない。
カーテンの隙間から差し込んでくる朝日は夢に出てきた血みたいに赤い夕日とは違って、透明で澄んでいた。
僕はベッドから起き上がり、部屋を見渡した。物が散乱しているわけでもないが、特段きれいでもない僕の部屋。ここ数年、模様替えも一切していなのでなんら変わり映えはない。しかし、その中に紛れる新生活の入り口たちは、さっきまでの不快感を消し去り、高揚感をいたずらに高めた。
ふと時計をみると、まだ5時にもなっていなかった。
早く起きすぎてしまった。睡眠時間が惜しい僕は、再び枕と布団に身を任せた。しかし、この選択は間違っていたのかもしれない。
楽器の曲線に映って歪んで見える僕の顔も夕日に照らされていたが、彼女ほど赤くはなかった。
彼女はチューバをクロスで拭きながら言った。
「ごめんね。こんな遅くまで練習付き合わせちゃって」
僕はユーフォニアムを拭きながら答えた。
「シアちゃんには1年のときから師匠をやってもらってるんだから、僕に断る道理なんてないよ」
彼女は目線を下に落とした。
「……やっぱり阿瀬君はずるいや」
「ん?何がずるいのさ」
彼女は楽器を拭く手を止めた。わずかに開いた窓の隙間から漏れる風が、彼女の肩まである髪の毛をふわりと揺らした。
「私さ、阿瀬君のことがずっと好きだったんだよね……」
彼女の声は震えていた。
「だからさ、よかったら……付き合ってくれない、かな」
彼女はそう言って、顔を上げてはにかんだ。
*
気がついたら、僕は自分の部屋の天井を眺めていた。
「……またあの夢か」
僕は小さな声でつぶやいた。
去年の夏のあの日から、定期的に見るようになった夢。あの子に告白されるだけの夢。
人によってはむしろありがたいかもしれないが、僕にとっては忘れたくても忘れられない苦い思い出のフラッシュバックだ。どうしても寝起きの気分が悪くなるので、できれば見たくない。
カーテンの隙間から差し込んでくる朝日は夢に出てきた血みたいに赤い夕日とは違って、透明で澄んでいた。
僕はベッドから起き上がり、部屋を見渡した。物が散乱しているわけでもないが、特段きれいでもない僕の部屋。ここ数年、模様替えも一切していなのでなんら変わり映えはない。しかし、その中に紛れる新生活の入り口たちは、さっきまでの不快感を消し去り、高揚感をいたずらに高めた。
ふと時計をみると、まだ5時にもなっていなかった。
早く起きすぎてしまった。睡眠時間が惜しい僕は、再び枕と布団に身を任せた。しかし、この選択は間違っていたのかもしれない。
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