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第31話 初夜……じゃなくて決戦前夜
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決戦前夜――。
共同生活をする間、食事の用意は俺の担当だった。
進んでやると言ったわけではない。ただ自然とそうなっていた。
まあ所詮居候の身なのでそこはしゃーない。
それに、料理自体もド素人というわけでもない。むしろ偶にやる分には好きだ。
一人暮らしを長いことしていると、1年に一回くらい料理を極めたいという欲求が湧くのが人間だ(2週間~1か月で消失するが)。だから多少の知識と経験もある。
というわけで、俺は最後の晩餐として事前に作ると決めていた料理をミーサに振舞った。
「……なにこれ?」
俺の出した料理に、ミーサがポカンとした表情を浮かべる。
そんな気はしていたが、やはり初めて見るらしい。
「カツ丼。俺の世界の、俺の国の料理」
「……かつどん?」
「トンカツ自体は知ってるだろ? 豚肉を衣付けた揚げたやつ。ポークフライとでも言えばいいのか」
「まあそれはさすがに」
「それを卵でとじてツユで煮込んだ感じ」
「ふ~ん……」
ミーサがクンクンと丼の匂いを嗅ぐ。悪くはなかったのか、「へぇ」という表情を浮かべた。
「で、なんでまた?」
「まあ戦勝祈願みたいなもんかな」
「戦勝祈願?」
「俺の国である風習……まあそこまではいかんけど。単なる語呂合わせの願掛けだな。カツを食って勝負に勝つ、的な。スポーツの試合や学校の試験の前とかに食べたりするんだよ」
「へぇ~」
「ま、ペロにはさすがに素焼きだけど。衣はあれだし」
とにかく料理は完成。実食の時間。
「じゃ、いただきます」
まずはミーサが一口食べる。
「……どうだ?」
俺は口に合うかどうか若干ドキドキしながら見つめた。
すると、ミーサが口に手を当てながら言った。
「……おいしい」
「!!」
おお、よかった……。
これで出した時点で拒否反応が出たら俺の心がまた傷ついていたところだ。
料理を作り始めて思ったが、自分で食べるより他人が食べておいしいと言ってもらう方が結構うれしかったりする。
それにしてもここまで素直な反応が返ってくるとは。
案外かわいいところもあるじゃないか。作った甲斐があるというものだ。
「というわけで、おじさんのひと切れもらっていい?」
「いやダメだろ! なにが、というわけでなんだよ!」
「え~」
「え~、って……一個ちょうだい業界でカツひと切れなんて余裕でライン越えだぞ。つーか俺の方が身体でかいのに」
「いいじゃん別に。私まだ成長期だし。おじさん衰退期でしょ?」
「なんだ衰退期って!? ねぇよそんな期間っ! 少なくとも30歳はまだ脂で胃もたれしないし平行線だから。停滞期だから」
「でも細胞とか二十歳過ぎれば衰えていく一方とかなんとか聞いたことあるけど」
「くっ……」
こいつ、嫌なところをついてきやがる。
「だからと言ってお前、せめてこのレベルなら何かと交換だろ……」
「じゃあ、はい」
「いやはいじゃないわ! よく三つ葉でカツと釣り合うと思ったな!」
「だっておじさん見るからに草食系だから好きかと思って」
「草食系ってそういう意味じゃないだろ!」
たしかにゴリゴリのインドア派なのは間違いないけども……。
俺とミーサの会話はいつもこんな感じだった。
基本的にミーサの方に主導権があり、俺がイジられる側。
別に望んでそうなっているわけじゃないのに、気が付けばそういう立ち位置になっている……不思議だ。
決戦前夜という割に、ミーサは相変わらずだった。
ある意味感心する。俺なんてずっとソワソワしているのに。
改めて考えると、大したヤツだなと思う。
まだ子どもであんな過去を背負いながら、今まで気丈に頑張ってきたこと。まずこれがすごい。
目的があったとはいえ、普段の生活の苦しさとか、どこかで心折れていてもおかしくなかったはず。
たぶん、一番はペロの存在が大きかったと思う。
ペロ自体が癒しになっているのはもちろんだが、犬は意外と繊細で飼い主のちょっとした変化にもすぐ気づく。
だから落ち込んでいる場合でもなかったのだろう。
俺も実家で犬を飼っていたからなんとなく理解できる。寄り添ってほしい気持ちと、心配させたくないという気持ち。
あとはまあ本人の持って生まれた性格か。
神経が図太いというか。大人相手にも生意気だしな。
ま、なんにせよ総じてよくやっていると思う。
そこは素直に尊敬する。
「ねぇ、今日はベッド使ってもいいよ」
食事も終えてそろそろ寝ようかという頃、ミーサから提案があった。
「えっと……なんでまた?」
「別に、なんとなく。明日は大事な日だしね。寝違えてミスりました、とかなったら最悪でしょ?」
「はぁ……」
意外……というか完全に予想外だった。
俺の知る限り、この家に就寝スペースは二つしかない。
ミーサの使う寝室と、俺にあてがわれたリビング。
リビングでは床にタオルケットを敷いて寝ていたので、ベッドがもう一つあるなど知らなかったのだ。
なんだなんだ、だったら最初から提供してくれてもよかったのに。
まあいいか。貸してくれるだけありがたいと思おう。これで毎朝の背中バキバキ問題がようやく解決できる。
今夜くらいぐっすり眠らせてもらおう。
「で? 俺のベッドはどこに?」
「は? ベッドなんてひとつしかないよ」
「え」
一瞬、俺の中の時が止まった。
「来たいなら早く来て。もう寝ないとなんだから」
「…………」
……なんだこれは。どういうことだ……?
いっしょに寝る……という解釈でいいのか? わからん。ガチでどういう風の吹き回しなんだ……?
そしてなんで結局俺がお願いしたみたいな空気にされたんだ……?
俺はわけのわからないまま、『入るな』という張り紙の言いつけを守って一度も入ったことのなかったミーサの寝室に入った。
部屋は殺風景だった。
女の子らしいぬいぐるみやら飾り付けやら、そういう類は一切ない。買う余裕なんてないのだろう。せいぜいベッドと机があるだけの、まるで生活感のない部屋。
……けど、めちゃくちゃいい匂いがした。
「じゃ、おじさん壁側ね。私はペロとこっち」
「あ、はい」
促されるまま俺はベッドに入った。
壁側から俺、ミーサ、ペロの順で川の字で寝る。
ミーサはペロを抱えていて、いつもそうやって寝ているんだろうなと思った。
そして当然、俺とミーサが向き合うことはない。お互い背中合わせ。触れてさえいない。
だが、それでも俺の心臓はひたすらドキドキしていた。
思えばこの世界に来てからドキドキすることばかりだった気がするが、これはその中でもトップレベルだった。
マジでどうしてこうなった……? これじゃ逆に寝られん、というか疲れて明日に支障をきたすんじゃ……あ、やべ。このポジションだとトイレ行きたくなったらどうすればいいんだ……?
「ねぇ、起きてる?」
「……あ、ああ」
半分パニックとなっていた俺に、ミーサがふと声をかけてきた。まだ眠っていなかったようだ。
「おじさんって兄弟とかいるの?」
突然の質問。なんでまたこんなタイミングで、と思ったがとりあえず答える。
「え? ああ。兄貴と妹がひとりずつ」
「へぇ。どうりで」
「どうりで?」
「いや、なんとなく一人っ子ぽくないなと思ってただけ」
「俺はひと目見たときからお前は一人っ子だと思ったよ。いたとしても兄か姉」
「なにそれ」
「……いやなんとなく」
こんな生意気なヤツに弟や妹がいるわけないと思ったから……とは言わなかった。
まあ今の印象はちょっと違うけど。
「兄妹とは仲いいの?」
「いや、別に。つーか何年も会ってないな。実家にも帰ってないし」
「そうなんだ。じゃあ好きな食べものは?」
「食べもの? ……まあ、甘いモノかな。ケーキとか」
「え、意外。むしろ苦手かと思った」
「なんでまた?」
「なんとなく。男の人ってある程度トシいくとそうじゃない? 酒場の客とかみんなそんな感じだし」
「まあ俺は酒飲みでもないしな、嫌いじゃないけど。どっちかという甘党だ」
「ふ~ん。ケーキか。昔お父さんに焼いてあげたことあるよ」
「えぇ……!?」
「……なんで意外そうなの?」
「いや、まあ。料理してるの見たことないし」
「それはこんな状況だから。やろうと思えばできるし」
「あ、そうっスか」
全然想像つかない。
というかなんださっきからこの会話。
今までこんな会話したことなかったのに。なんでまた急に……。
「――ねぇ……明日、勝てると思う?」
「!」
……そういうことか。
まぁ……そりゃそうだよな。ずっとそのために準備してきて、ようやく明日その日を迎える。
勝てば報われ、負ければたぶんおしまい。次の機会は二度と訪れない。
不安、緊張……恐怖。そういう感情が押し寄せてきても仕方がない。
……それこそ、こんな頼りないおじさんに拠り所を求めるくらいに。
「余裕だろ」
「……!!」
俺はあえて平然と言った。
「……ほんと?」
「ああ。俺も全力で手伝うしな」
「……唯一の懸念材料」
「なんでだよ!」
「うそうそ。じょーだんだってば。ほんと、これだからおじさんは。だからずっと童貞なんだよ?」
「いや関係なくないっスか。つーかなんで童貞って決めつけてんだ」
「え、違うの?」
「……ノーコメント」
「あぁ……」
おいなんだその反応。やめろその「でしょうね」みたいなため息。
くそ、なんなんだコイツ……!
ちょっとしおらしくなったと思ったらすぐにまたいつもの調子だし……最後の最後まで人をおちょくりやがって。
やっぱとんだメスガキじゃねぇか。
「おじさん」
「……なに?」
はぁ、今度はなんなんだ?
「……ありがとね」
「…………」
……ほんとに、なんなんだコイツは。
「それは、普通勝ってからじゃないのか?」
「……フフ、そうだね。じゃ、明日よろしく」
「ああ」
たぶん、ここで後ろから抱きしめたりとかできるような男だったなら、人生のどっかで童貞卒業してたんだろうな……。
そんなことを考えながら、俺は眠りについた。
共同生活をする間、食事の用意は俺の担当だった。
進んでやると言ったわけではない。ただ自然とそうなっていた。
まあ所詮居候の身なのでそこはしゃーない。
それに、料理自体もド素人というわけでもない。むしろ偶にやる分には好きだ。
一人暮らしを長いことしていると、1年に一回くらい料理を極めたいという欲求が湧くのが人間だ(2週間~1か月で消失するが)。だから多少の知識と経験もある。
というわけで、俺は最後の晩餐として事前に作ると決めていた料理をミーサに振舞った。
「……なにこれ?」
俺の出した料理に、ミーサがポカンとした表情を浮かべる。
そんな気はしていたが、やはり初めて見るらしい。
「カツ丼。俺の世界の、俺の国の料理」
「……かつどん?」
「トンカツ自体は知ってるだろ? 豚肉を衣付けた揚げたやつ。ポークフライとでも言えばいいのか」
「まあそれはさすがに」
「それを卵でとじてツユで煮込んだ感じ」
「ふ~ん……」
ミーサがクンクンと丼の匂いを嗅ぐ。悪くはなかったのか、「へぇ」という表情を浮かべた。
「で、なんでまた?」
「まあ戦勝祈願みたいなもんかな」
「戦勝祈願?」
「俺の国である風習……まあそこまではいかんけど。単なる語呂合わせの願掛けだな。カツを食って勝負に勝つ、的な。スポーツの試合や学校の試験の前とかに食べたりするんだよ」
「へぇ~」
「ま、ペロにはさすがに素焼きだけど。衣はあれだし」
とにかく料理は完成。実食の時間。
「じゃ、いただきます」
まずはミーサが一口食べる。
「……どうだ?」
俺は口に合うかどうか若干ドキドキしながら見つめた。
すると、ミーサが口に手を当てながら言った。
「……おいしい」
「!!」
おお、よかった……。
これで出した時点で拒否反応が出たら俺の心がまた傷ついていたところだ。
料理を作り始めて思ったが、自分で食べるより他人が食べておいしいと言ってもらう方が結構うれしかったりする。
それにしてもここまで素直な反応が返ってくるとは。
案外かわいいところもあるじゃないか。作った甲斐があるというものだ。
「というわけで、おじさんのひと切れもらっていい?」
「いやダメだろ! なにが、というわけでなんだよ!」
「え~」
「え~、って……一個ちょうだい業界でカツひと切れなんて余裕でライン越えだぞ。つーか俺の方が身体でかいのに」
「いいじゃん別に。私まだ成長期だし。おじさん衰退期でしょ?」
「なんだ衰退期って!? ねぇよそんな期間っ! 少なくとも30歳はまだ脂で胃もたれしないし平行線だから。停滞期だから」
「でも細胞とか二十歳過ぎれば衰えていく一方とかなんとか聞いたことあるけど」
「くっ……」
こいつ、嫌なところをついてきやがる。
「だからと言ってお前、せめてこのレベルなら何かと交換だろ……」
「じゃあ、はい」
「いやはいじゃないわ! よく三つ葉でカツと釣り合うと思ったな!」
「だっておじさん見るからに草食系だから好きかと思って」
「草食系ってそういう意味じゃないだろ!」
たしかにゴリゴリのインドア派なのは間違いないけども……。
俺とミーサの会話はいつもこんな感じだった。
基本的にミーサの方に主導権があり、俺がイジられる側。
別に望んでそうなっているわけじゃないのに、気が付けばそういう立ち位置になっている……不思議だ。
決戦前夜という割に、ミーサは相変わらずだった。
ある意味感心する。俺なんてずっとソワソワしているのに。
改めて考えると、大したヤツだなと思う。
まだ子どもであんな過去を背負いながら、今まで気丈に頑張ってきたこと。まずこれがすごい。
目的があったとはいえ、普段の生活の苦しさとか、どこかで心折れていてもおかしくなかったはず。
たぶん、一番はペロの存在が大きかったと思う。
ペロ自体が癒しになっているのはもちろんだが、犬は意外と繊細で飼い主のちょっとした変化にもすぐ気づく。
だから落ち込んでいる場合でもなかったのだろう。
俺も実家で犬を飼っていたからなんとなく理解できる。寄り添ってほしい気持ちと、心配させたくないという気持ち。
あとはまあ本人の持って生まれた性格か。
神経が図太いというか。大人相手にも生意気だしな。
ま、なんにせよ総じてよくやっていると思う。
そこは素直に尊敬する。
「ねぇ、今日はベッド使ってもいいよ」
食事も終えてそろそろ寝ようかという頃、ミーサから提案があった。
「えっと……なんでまた?」
「別に、なんとなく。明日は大事な日だしね。寝違えてミスりました、とかなったら最悪でしょ?」
「はぁ……」
意外……というか完全に予想外だった。
俺の知る限り、この家に就寝スペースは二つしかない。
ミーサの使う寝室と、俺にあてがわれたリビング。
リビングでは床にタオルケットを敷いて寝ていたので、ベッドがもう一つあるなど知らなかったのだ。
なんだなんだ、だったら最初から提供してくれてもよかったのに。
まあいいか。貸してくれるだけありがたいと思おう。これで毎朝の背中バキバキ問題がようやく解決できる。
今夜くらいぐっすり眠らせてもらおう。
「で? 俺のベッドはどこに?」
「は? ベッドなんてひとつしかないよ」
「え」
一瞬、俺の中の時が止まった。
「来たいなら早く来て。もう寝ないとなんだから」
「…………」
……なんだこれは。どういうことだ……?
いっしょに寝る……という解釈でいいのか? わからん。ガチでどういう風の吹き回しなんだ……?
そしてなんで結局俺がお願いしたみたいな空気にされたんだ……?
俺はわけのわからないまま、『入るな』という張り紙の言いつけを守って一度も入ったことのなかったミーサの寝室に入った。
部屋は殺風景だった。
女の子らしいぬいぐるみやら飾り付けやら、そういう類は一切ない。買う余裕なんてないのだろう。せいぜいベッドと机があるだけの、まるで生活感のない部屋。
……けど、めちゃくちゃいい匂いがした。
「じゃ、おじさん壁側ね。私はペロとこっち」
「あ、はい」
促されるまま俺はベッドに入った。
壁側から俺、ミーサ、ペロの順で川の字で寝る。
ミーサはペロを抱えていて、いつもそうやって寝ているんだろうなと思った。
そして当然、俺とミーサが向き合うことはない。お互い背中合わせ。触れてさえいない。
だが、それでも俺の心臓はひたすらドキドキしていた。
思えばこの世界に来てからドキドキすることばかりだった気がするが、これはその中でもトップレベルだった。
マジでどうしてこうなった……? これじゃ逆に寝られん、というか疲れて明日に支障をきたすんじゃ……あ、やべ。このポジションだとトイレ行きたくなったらどうすればいいんだ……?
「ねぇ、起きてる?」
「……あ、ああ」
半分パニックとなっていた俺に、ミーサがふと声をかけてきた。まだ眠っていなかったようだ。
「おじさんって兄弟とかいるの?」
突然の質問。なんでまたこんなタイミングで、と思ったがとりあえず答える。
「え? ああ。兄貴と妹がひとりずつ」
「へぇ。どうりで」
「どうりで?」
「いや、なんとなく一人っ子ぽくないなと思ってただけ」
「俺はひと目見たときからお前は一人っ子だと思ったよ。いたとしても兄か姉」
「なにそれ」
「……いやなんとなく」
こんな生意気なヤツに弟や妹がいるわけないと思ったから……とは言わなかった。
まあ今の印象はちょっと違うけど。
「兄妹とは仲いいの?」
「いや、別に。つーか何年も会ってないな。実家にも帰ってないし」
「そうなんだ。じゃあ好きな食べものは?」
「食べもの? ……まあ、甘いモノかな。ケーキとか」
「え、意外。むしろ苦手かと思った」
「なんでまた?」
「なんとなく。男の人ってある程度トシいくとそうじゃない? 酒場の客とかみんなそんな感じだし」
「まあ俺は酒飲みでもないしな、嫌いじゃないけど。どっちかという甘党だ」
「ふ~ん。ケーキか。昔お父さんに焼いてあげたことあるよ」
「えぇ……!?」
「……なんで意外そうなの?」
「いや、まあ。料理してるの見たことないし」
「それはこんな状況だから。やろうと思えばできるし」
「あ、そうっスか」
全然想像つかない。
というかなんださっきからこの会話。
今までこんな会話したことなかったのに。なんでまた急に……。
「――ねぇ……明日、勝てると思う?」
「!」
……そういうことか。
まぁ……そりゃそうだよな。ずっとそのために準備してきて、ようやく明日その日を迎える。
勝てば報われ、負ければたぶんおしまい。次の機会は二度と訪れない。
不安、緊張……恐怖。そういう感情が押し寄せてきても仕方がない。
……それこそ、こんな頼りないおじさんに拠り所を求めるくらいに。
「余裕だろ」
「……!!」
俺はあえて平然と言った。
「……ほんと?」
「ああ。俺も全力で手伝うしな」
「……唯一の懸念材料」
「なんでだよ!」
「うそうそ。じょーだんだってば。ほんと、これだからおじさんは。だからずっと童貞なんだよ?」
「いや関係なくないっスか。つーかなんで童貞って決めつけてんだ」
「え、違うの?」
「……ノーコメント」
「あぁ……」
おいなんだその反応。やめろその「でしょうね」みたいなため息。
くそ、なんなんだコイツ……!
ちょっとしおらしくなったと思ったらすぐにまたいつもの調子だし……最後の最後まで人をおちょくりやがって。
やっぱとんだメスガキじゃねぇか。
「おじさん」
「……なに?」
はぁ、今度はなんなんだ?
「……ありがとね」
「…………」
……ほんとに、なんなんだコイツは。
「それは、普通勝ってからじゃないのか?」
「……フフ、そうだね。じゃ、明日よろしく」
「ああ」
たぶん、ここで後ろから抱きしめたりとかできるような男だったなら、人生のどっかで童貞卒業してたんだろうな……。
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