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第5話 不意打ちが卑怯? 戦術と言ってもらおうか①

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 翌日。草原。

「あのメスガキ……もう許さん」
 目が覚めた俺は怒りに震えていた。
 人が下手に出ていれば調子に乗りやがって……。

 ――絶対にてやる。

 俺は昨日の誓いを改めて胸に刻んだ。

 とはいえ、さすがに殺し合いを望んでいるわけではない。
 向こうは俺と違って不死身でもないしな。

 目的はあくまで元の世界に帰ること。
 であれば、あのメスガキを屈服させ、こちらの要求を飲むしかない状況させ作り出せればそれで十分。

 そうと決まれば早速策を練ろう。
 どうやら今日は少し早く目が覚めたらしい。周囲にまだメスガキの姿はない。
 ヤツが来るまでの間に、なんとか勝利する方法を考えるんだ。

「……やっぱり、力づくしかないよな」
 少し考え、そう結論付けた。

 体格差を生かして身動きを封じる。
 シンプルだが妥当だろう。

 いくらあのメスガキの態度がでかかろうが、所詮は大人と子ども。体格の差は歴然。
 腕を掴んで後ろに回り込んで体重をかければ抵抗できまい。そうなれば、あとはいかようにでも料理できるはず。

「う~ん……いけるか?」
 正直不安しかなかった。

 というのも、当然ながら人生の中でそんな動きはやったことがない。
 格闘漫画の知識でなんとなくのイメージこそできるが、身体がついてくるのか自信がない。

 あと単純に俺の運動神経は別にそこまでよくない。せいぜい同世代の平均程度。
 加えて社会人になってからの圧倒的な運動不足。
 今の俺の足腰では、いざ襲い掛かってもあっさり躱される恐れが高い……。

 が、そこで閃く。

「そうか……武器」
 傷つけるためではなく、脅しとしての武器。

 何度も言うが、所詮は子ども。
 大人の俺が武器を持って「オラァ!」などと本気で凄めば必ず怯む。
 そうして相手がビビって動けなくなったところを安全に取り押さえる――これだ。

 名付けて『蛇に睨まれた蛙作戦』。
 こいつで決める。

 となると、次の問題はどうやって武器を調達するかだ。

 着の身着のまま異世界にやってきたせいで、今の所持品はせいぜいスーツのポケットに入っていた財布とスマホだけだ。この状況ではクソの役にも立たない。

 金が使えれば町に行って武器になりそうなものを購入するという手立てがあるが、生憎ここは異世界。日本円なんて持って行ってもきっと門前払いだろう。そもそも町に入れない可能性すらある。
 さてどうする。

 しかし、実のところ武器についてはもう目途が立っていた。

 草原の向こう、少し遠目に森が見える。
 あそこで武器となりそうな鋭い木の枝を拾ってくる。
 少々心もとないが、女の子を脅す程度なら十分だろう。

 というわけで、早速出発する。
 急がないとあのメスガキがやって来てしまう。

 森には歩いて5分ほどで着いた。

「うおぉ……」
 テレビでも図鑑でも見たことのない種類の背の高い木が夥しく連なっている。
 いかにも異世界らしい光景に圧倒されてしまった。
 あとちょっと不気味だ。夜だったら引き返していたかもしれん。

「ハア、なんで俺がこんな目に……」
 おずおずと森の中を練り歩きながら自然と愚痴がこぼれる。
 本当なら今頃家でゴロゴロしながらポテチでも頬張っていたかもしれないのに……いや、無理か。せいぜい塩舐めるくらいだな。仕事ないし節約しないと。

「お」
 歩き始めて数分、割とすぐに目的だった木の枝は見つかった。

 長さも太さもちょうどいい。うまい具合に途中で折れ、先っぽが鋭く尖っている。
 さながらちょっとした槍だ。男心をくすぐられる。
 だがこんなところでテンションを上げている場合ではない。ここからが勝負だ。

「まだ来てない……か」
 スタート地点の草原に戻り周りを見渡すも、未だメスガキの姿はなし。
 時間的には昼を過ぎてそうだが、用事でもあるのだろうか。いや、来ないに越したことはないんだけど。

 待っている間、俺は作戦が成功した後のシミュレーションをすることにした。

 まずは当然謝罪だ。
 俺を騙して異世界に召喚したこと、問答無用で首を刎ねたこと、そしてニートだのなんだのの暴言の数々。これらをきっちり謝罪してもらう。でなければ俺の怒りは収まらん。
 元の世界に帰るのはあくまでその後だ。

「クク……」
 自然と笑みがこぼれる。

 正直、少しワクワクしている自分がいた。
 大人としてこれでいいのかはともかく、はっきり言って見物だ。あの生意気な少女が力の差を思い知り、泣きながらごめんなさいと謝る姿を想像するだけで溜飲が止まらない。

「……待てよ?」

 そこで、不意に嫌な予感がした。

 これまでの経験が脳裏をよぎる。
 すでに3回も殺された。そしてそのすべてが手刀による一閃。

 俺は、……?

 いや、見えなかった。
 いずれのときも速すぎて斬られた後に気付くレベル。残像すら残らなかった。
 あの速さ、某マンガに登場する団長の手刀を見逃さなかった人くらいでないと見切るのは不可能だろう。そしてその域に達するには相当な鍛錬が必要なはず。

「やばい……」
 こうなると途端に雲行きが怪しくなってくる。
 いくら武器を持って脅そうとしても、向かい合った瞬間に問答無用で首を刎ねられたらどうしようもない。

 くっ、どうする……?
 さすがにもうすぐであのメスガキもやってくるはず。

 先ほどまでの愉悦はどこへやら、俺の心は急速に焦り散らかしていた。
 このままただ棒立ちで待ち構えていたら、また生首を晒す羽目になってしまう。

 しかし、土壇場で俺の脳みそが覚醒する。

「!」

 天啓。

「いける。これなら……」

 咄嗟に思い付いた作戦だが、この方法なら先手を取れるはず。
 時間もないし、もうこれしかない。
 俺はすぐさま行動に移った。



 メスガキが来たのはその5分後だった。
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