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第4話 決めました。男吉川、このメスガキをわからせます。

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 昼。草原。

 またか……。
 目を覚ました俺は、視界の端に映る緑の影と青臭い香りに思わずため息を吐いた。

 まだ3回目とはいえ、そこはかとなくテンプレの気配がする。
 もしやこれから毎回草原で起きる羽目になるのだろうか?
 さすがに勘弁してほしい。いつか絶対寝違える気がする。日差しも暑くて眩しいし。つーか雨だったらどうなるんだ?

 まあでも牢屋よりはマシか……というか生きてるだけマシ、なのか? 

 どうやら俺が不死身という、あの首切り少女の説明は本当だったらしい。
 昨日のことはハッキリと記憶がある。

 しっかし、だとしてもあんないきなりヤるかね?
 しかも逆ギレだったし。こっちはちょっと説教しただけなのに。これだから最近の若い子は……いかん。この言い回しは年寄りのそれだ。自重しないと。

 あれ? でもつーかナチュラルにおじさんて呼ばれてたよな俺? 
 マジか、まだ30歳なのに。あれくらいの子からすればもうおじさんていう認識なのか……ちょっと凹むわ。

 ん? でも待てよ? あの子普通にタメ口じゃなかったか?
 おいおい、おじさんとか言う割にめっちゃ敬う気ないじゃん。え、むしろ舐められてる?
 つーかなんだクソニートって。捨て台詞にしてもひどすぎるだろ。あ、ダメだ。思い出したらめっちゃ腹立ってきた。

「ちくしょう、今度会ったら絶対文句言ってやる……」

 と、俺がぶつぶつ言いながら体を起こしたところで――

「ふ~ん。誰に文句言うの?」
「誰って、あのメスガ――ってもういるし!!」

 声がしたので振り返ってみると、例の少女はすでに背後に立っていた。

「あれだね。たぶんだけど、場所だけじゃなく起きる時間もいっしょなんだね。昨日も同じくらいだったし。あ、そういえば最初におじさんを召喚したときもよく考えたらお昼だったかも。そのせいかな?」

 少女がフムフムと頷く。
 俺相手に話しかけている、というよりは自問自答。召喚魔法の効果を吟味するかのようだった。

 が、俺からすればそんな情報はどうでもいい。

「お前……また俺を殺しに来たのか……?」
「そりゃね。じゃあ早速――」
「おぉい! ちょい待て!」

 流れるように手刀を構える少女を慌てて制する。

「びっくりした。マジかお前。人殺すってテンポじゃねーぞ」
 まるでちょっとコンビニに行こうかみたいなテンションじゃねーか。恐ろしすぎる。

「だって好きにしゃべらせるとまた説教しようとするでしょ? 文句がどうのとか言ってたし」
「わかったわかった。もう説教はしない」
「ゼッタイ?」
「絶対」
「約束できる?」
「するする」
「じゃ、破ったら土下座ね」
「……ああ」
 す、すげえ。まさか赤の他人、しかも年下からここまで自然と土下座を要求される日が来るとは……。

 というかなんだこの子、やっぱ引きずってたのか。
 もしや意外に繊細なのか? まあ甘やかされて育った子どもほど打たれ弱かったりするしな。きっと親に怒られたこととかないんだろうな。

「はぁ……しょうがないなぁ」
 少女がしぶしぶ右手を下ろす。
 ……おかしい。なんで俺が駄々こねてるみたいな空気なんだ……?

 しかし、ここは仕方ない。さすがに今機嫌を損ねられたら一巻の終わりだ。
 どういう理屈か知らんが、俺にあの人間業とは思えない手刀に抗う術はない。グッと堪えよう。

 さて、せっかく生き永らえたんだ。
 なんとかここからこの状況を脱出する方向に持っていかないと。

「あの、一つ質問してもいいでしょうか?」
 俺はまるで取引相手に接する営業マンのような丁寧さで問いかけた。

「なに?」
「君の目的がレベルアップというのはわかった。でも、そもそもどうして俺なんだ? 別にモンスターを倒せば経験値が得られるんだろ? ならそれで十分だろ」

 そう、そこが疑問だった。
 単に経験値を求めるなら、本来であればわざわざ異世界から生贄を召喚する必要はないはず。

「ところがどっこい。そういうわけにもいかないのよね」
 が、少女はやはり首を横に振った。
「なんでまた」
 当然、俺も返す刀で問う。

 そして、その答えは思いのほかシンプルだった。

「いないのよ、モンスターが」
 言いながら、少女は苦虫を噛み潰したような表情を浮かべた。

「つい最近、偉大なが魔王を倒しちゃったせいでね。おかげで使役されてたモンスターたちもみんな散り散りになって、今やこの国にはもうほとんどモンスターがいないの」
「そりゃあまた……平和でいいことじゃないか」
「どこがよ。おかげで経験値は全然稼げないのよ」
 ええ……。
 マジかよ。魔王がいないとか普通最高なんじゃないの?

 少女がキッと睨んでくる。
 俺の中では茶化すつもりもなく一般的な感想を述べたつもりだったのだが、どうやら気に障ったらしい。
 というか、サラッと登場したけど勇者や魔王がいる世界なんかここ……。

「つまり、強くなりたいのに肝心の倒すべき敵がいない。だから俺を召喚した……と、そういうこと?」
「そ」
「……」
 そ、って……完全に生贄じゃないっスか。
 よくもまあそんな私利私欲のために呼び出してくれたもんだな。

 しかしまあ、一応これで事情は理解した。
 あとは俺がどう動くかだが……。

「わかった。じゃあこうしよう」
「?」
 ポンと手を叩く俺に、少女が首を傾げる。

「俺も君の経験値を上げる方法をいっしょに考える」

 これが俺の結論。

 結局のところ、少女の目的は強くなること。
 なら、代替手段が見つかればそれで事足りるはず。晴れて俺も解放されるというわけだ。

「考えるって、なにか案があるの?」
「いや、今のところは……。けど、探せば何か見つかるだろ。こう見えて俺も伊達に30年生きてない。積み上げた人生経験がある。この世界のことをある程度把握すれば、使えそうな案の一つや二つ出して見せる」

 念のため断っておくが、別に適当言って誤魔化そうというわけではない。
 ちゃんと本気で考えるつもりだ。

 というのも、少女には俺を元の世界に帰してもらう必要がある。
 この場を逃れるだけでは意味がないのだ。そういう意味では、目的に貢献して媚びを売っておくのは悪くない。

「それに俺を倒してどれくらい経験値が入るのか知らんが、一日一回じゃ効率も悪いだろう。絶対別の方法を考えたほうがいい」
「まあ、たしかにもっと効率を上げたいのは山々だけど……」
「だろ?」
 あれ? 案外いけそう?
 内心一蹴されるかもとビクビクだったんだが……。

 とはいえこれはチャンス。
 畳みかけるなら今しかない。

「なんなら方法が見つかるまで、ちゃんと考えてるか監視してくれてもいい。他にもほら、空いた時間で君の家の手伝いとかさ、なんでもやるから。どうだ?」
「……なんでも?」
「ああ、なんでも」
 少女がピクッと反応する。
 俺も思わず前のめりになる。

「ほんとに? ほんとのほんとに本気で知恵絞れる?」
「絞る。絞りまくる」
「どれくらい? 果汁でいくと何パー?」
 か、果汁? よくわからんが、とにかく全力だ。
「100パー100パー。もう果汁っていうか脳汁全部絞り切る! 100%特濃脳汁ジュース出す勢いでがんばる!」

 もうヤケクソだった。ぶっちゃけ自分でも何を言ってるのかわからない。
 だが、この際助かるならなんでもいい。

「なるほどね。そこまで本気なんだ……」
「!」

 そんな俺の必死さが伝わったのか、少女も腕を組んで考え込んだ。

 きた……! いける、いけるぞ!
 絶望続きの異世界生活だったが、ようやく俺にも一筋の光明が――。

「でもやっぱこっちのが早いわ」
「え」


 ザシュ。


 その瞬間、生首が宙を舞った……無論、俺の。

「ていうかなに、特濃脳汁ジュースって。きもちわる。100%とか意味わかんないし」
 少女が呆れた表情を浮かべる。
 いや、それはお前が果汁がどうのとか言うから……と言いたいのに例のごとく口は動けど声は出ない。

 ああ……そうか。やっとわかった。
 これは戦争。歩み寄ろうなどと考えた俺がマヌケだったのだ。

 勝利。屈服。そして帰還。
 これこそが俺の唯一の道。

 事ここに至って、俺は決意した。


 絶対にこの少女を……否、この“メスガキ”をわからせてやるッ!!!


 こうして、俺にとって本当の意味での異世界生活が幕を開けた。



☆本日の勝敗
●俺 × 〇メスガキ

敗者の弁:というわけで明日から本気出します!(吉川)
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