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第1部 2章 底辺ぼっち VS DQN

DQN VS 底辺ぼっち③

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『お待たせしました。二人とも、それでは行きますよ』

 ドローンのスピーカーを通して和歌森先生の声が響く。

『よーい……スタート!』

 ビーという電子音が鳴る。


 ――勝負開始。


 まず先に動いたのは……。

「へっ! いくぜぇっ!!」

 合図と同時に全力で走り出す豪山。

 狙いは先の授業のときと同じく強行突破。
 ダンジョンのど真ん中を突っ切り、ゴールまでの最短ルートを突っ切る算段。

 一見無謀とも取れる行為。

 だが、これは豪山の自信の表れ。
 たとえCランクの第10階層であろうとも、己のスキルがあれば必ずや突破できるという強い自負心に基づいた行為。

(チマチマ進む気なんざねぇ! これがオレのやり方っ! 攻略スタイルっ! ノースキルのクソ雑魚ド底辺ぼっち野郎には、逆立ちしたってできやしねぇ強者のやり方だっ!!)

 生い茂る木々の中を駆け抜けていく豪山。
 だが、走り始めてわずか20メートルも進まないうち、最初の罠が起動する。

 ヒュンヒュン――!

「ッ!?」

 目の前を横切った高速の影に、豪山が立ち止まる。

(チッ、早速来やがったか……! んだこりゃあ……?)

 目を凝らして確認する。
 すると、影の正体は樹木に絡まっていたつるだった。周囲の木々から伸びた二本のツルが、むちのような挙動で同時に襲い掛かってきたのだ。

 “な、なんだあれ!? とんでもなく速いぞ!?”
 “てかあれ、ホントにツルかよ!? 太すぎねぇか!?”
 “しかも一本一本生き物みたいに動いてる! あれじゃあもはや蛇だぜ!”
 “きゃあ! キモ~い!”

 スクリーン越しでも伝わるトラップの恐ろしさに、クラスメイトたちからも悲鳴が上がる。
 彼らの目には、縦横無尽に動き回るツルがさながら双頭の大蛇のように映っていた。

 しかし、これこそが第10階層。
 難易度“C”とされる所以ゆえん

(くそがっ! こんなもんまともにけさせる気ねぇだろ! ……だったらよ!)

 迫りくるツルに向かって、豪山が両腕を突き出す。
 そして伸ばした親指と人差し指をつなぎ合わせ長方形を作り――。

「【切り取りカット】ッ!!」

 叫ぶや否や、ツルの一部がスッパリと空間から消失する。

 さらに続けざま、豪山は残ったもう一本のツルに照準を合わせ――。

「【貼り付けペースト】ッ!」

 切り取ったツルが空間に再出現する。
 尚も迫っていた後続のツルとぶつかり、お互いが弾け飛ぶ。

 “うまい! スキルで相殺した!”
 “すげぇ、さすがアシュラくんだ! あのトラップをしのぎ切るなんて!”

「ヘッ、どうよ! なにがCランクだ! このオレ様を舐めんじゃねぇぜっ!」

 華麗にトラップを回避し、豪山が叫ぶ。

(いける! いけるぞッ! たとえCランクだろうが、オレ様のスキルは通用する!!)

 豪山の攻略者ランクはD。しかし、その実力はすでにCレベルだと言われ続けて久しい。
 昇格できない理由としては、主に筆記試験の問題。ただ、それゆえに実戦であればCランクだろうとクリアできるという自信が元からあったのだ。
 そしていきなりのピンチを乗り切ったことで、その自信はさらに深まった。

 だが、その直後だった。

「なっ……!!?」

 豪山の顔が青ざめる。
 襲い掛かってきたのは、今しがた葬ったものと全く同じツルのトラップ。

 しかし、今度は……。


 ヒュンヒュンヒュンヒュンヒュン――!!!!!
 ヒュンヒュンヒュンヒュンヒュン――!!!!!
 ヒュンヒュンヒュンヒュンヒュン――!!!!!


「ウソだろおい……」

 豪山が呆然と呟く。

 押し寄せる大蛇の群れ。
 その数は十か二十か。

 回避は…………不可能だった。

「ぐふぉっ……!!」

 逃げ場を失った豪山に、ツルによる横なぎが直撃する。
 咄嗟に腕でガードしたものの、豪山の身体は軽々と壁まで弾き飛ばされ激突した。

「ぐっ……! うぅっ……!」

 地面に崩れ落ちた豪山から苦しそうな呻き声が漏れる。
 傍から見ても、もはや攻略続行は不可能だった。

 “マジかよ、あのアシュラくんが一発で……”
 “やっぱCランクなんて無茶だったんだ……”

 仮にもクラスでナンバーワンの実力を誇る豪山が為す術もなくKOされたことで、クラスメイトたちに動揺が広がる。

(あ、ありえねぇ……まさかこのオレ様が……。これがCランクのトラップか……。くそったれ……完全に甘く見てたぜ……)

 想像はしていたつもりだったが、それ以上だった。
 一度目の攻撃を回避した喜びも束の間、豪山は突きつけられた現実に己の浅はかさを悔やんだ。

(だが、オレ様でこのザマだ。こんなもん、あのなし男ごときじゃ一生かかってもクリアなんてできっこねぇだろ――)

 今頃どこかで同じようにぶっ倒れているかもしれない。
 それどころか、ビビってスタート地点で震えてるかも。

 しかし、そんな想像をしながら豪山が顔を上げると……。

「なん……だと……!?」

 信じられない光景に豪山が絶句する。
 それは彼にとって、本日二度目の衝撃だった。



 ヒュン――!

「……」

 ――スッ。


 ヒュン――!

「……」

 ――スッ。


 ヒュン――!

「……」

 ――スッ。



 前後左右上下、あらゆる方向から襲い掛かるツルの猛攻。

「……ふぅ」

 そのをことごとく避けきり、時杉は汗を拭った。
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