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第1部 1章 底辺ぼっち、スキルの目覚める
その名は、『セーブ』スキル
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「へ…………?」
思わず間の抜けた声を漏らし、時杉がポカンとする。
しかし、すぐにそんなはずはないと首を振る。
「な、なに言ってるんですか? 前にも言いましたけど、俺はノースキルで……」
「だから、目覚めたんじゃないの?」
「いやでも、普通スキルって生まれたときから持ってるものだし、そんな急にポンと目覚めるなんて……」
「けどノースキル自体がそもそも世にも珍しいじゃん? ないとは言い切れないかもよ?」
「それは……」
たしかに前例がない以上、デルタの言い分も一理ある。
例えばの話。生まれる前に目覚めるはずのものが、今になってだいぶ遅れてやって来た……なんて可能性もありえなくはない。
とはいえ、それでも時杉としてはやはり疑念しかない。
時代が進み、スキルの測定技術は格段に進歩した。
スマートフォンなどの機械で生体情報をスキャンすれば、その人間がどんなスキルを持っているか容易に検知できる。
おかげで肉体の成長や経験によってスキルが進化した場合でも、それすらすぐに反映されるようになった。
そしてだからこそ、時杉は毎朝起きたら必ずスマホをチェックしていたし、その度に裏切られてきた。
そういう経験があるからこそ、今更スキルと言われてもピンとこない。
しかし、デルタはすっかりその気になっているようで……。
「ねえねえ! だったら今チェックしてみようよ!」
「……まあ、そこまで言うなら一応見て見ますけど」
促されるままにスマホを取り出す時杉。
(スキルか。まあどうせ《NO SKILL》だろうな……)
などと考えつつ、慣れた手つきでダンマスを開く。
メニューからマイページ内のスキルのタブを呼び出す。
すると……。
┏ ───────────────────────── ┓
〇スロット1
日時:8月31日(日)22時31分
場所:東京都北区第13ダンジョン 第4階層
┗ ───────────────────────── ┛
「え」
身に覚えのない表示に時杉が固まる。
そしてさらに、その上にスキル名の欄には――。
(……【セーブ】?)
まさか……。
その文字列を読んだ瞬間、時杉はピンときた。
横から覗き込んでいたデルタも呟く。
「セーブって……たぶんゲームとかによくあるアレだよね。あ、もしかして夢ってそういうこと!?」
まさに同じことを、時杉も思った。
モンスターやダンジョンの構造。
次々と直前に見た夢を追体験するように進行していく攻略の道のり。
だが、もしもその“夢”が夢ではなく、実際に一度起こった事実だったら……?
そしてその事実が、もしも時間ごとリセットされたのだとしたら……?
そう考えれば、たしかに辻褄は合う。
(でも、いったいなんでまた急に……? それに、たとえスキルに目覚めたとしても、俺は使った覚えなんて――)
――あーあ、こんなことならちゃんとダンジョンに入る前に“セーブ”しとけばよかった……。
「あ」
事ここに至って、ようやく時杉の中で全てがつながった。
(ということは……)
試しに呟いてみる。
「……【セーブ】」
――ピロン♪
「!?」
┏ ───────────────────────── ┓
〇スロット1
日時:9月1日(月)0時25分
場所:東京都北区第13ダンジョン 最終第7階層
┗ ───────────────────────── ┛
アプリの画面が更新される。
日時の欄を見比べると、右上にあるスマホの時計と一致している。
ここまで来ると、もう間違いなかった。
「おーっ! ほんとに変わった! ほら、やっぱりそうじゃんっ!」
デルタが時杉の肩に手を乗せて飛び跳ねる。
「すごいすごいっ! こんなスキル初めて見たよっ! おめでとうトッキー! これでもうノースキルから脱却だね!」
まるで自分のことのようなハシャぐ。
一方、当の本人である時杉はいまだに固まったままだった。
(これが……俺の?)
学年最下位の『スキルなし男』。
それが時杉蛍介という人間。
今も昔も時杉にとってスキルとは、喉から手が出るほど欲しい……けれど決して手に入らない憧れの代物。
これからもずっとそうなんだと、なんとなくそう思っていた。
それがまさか、急にこんな……。
一周回って逆に不安になってきた。
果たしてこんな幸せが俺の身に起きていいのだろうか?
しかし、そんな時杉にさらに追い打ちをかけるように……。
「あ、そうだ。せっかくだからフレンド登録しようよ」
「ふ、フレンド……!?」
フレンドとは、ダンジョンマスター上での友だちのこと。
正式なパーティーとまではいかないが、メッセージのやり取りができたり、相手がダンジョンに潜ったかの通知が届いたりするようになる。
そしてもちろん、底辺ボッチである時杉の登録件数はゼロ。
実の妹でさえ「お兄ちゃんとダンジョンとか自殺行為じゃん」と登録を断固拒否された過去がある。
「うん、またいっしょに潜りたいし。今日はもう遅いからあれだけど、アタシもそのスキルに興味あるしね。ダメ?」
「あ、いえ、もちろん……」
「やった! じゃあ申請送るね」
デルタがササッとスマホを操作する。
直後、時杉のスマホがブブッと震えて承認依頼の通知が届く。
(き、来た……! ほんとに……!)
恐る恐る『承認』のボタンを押す。まるで初めてスマホに触るおじいちゃんのようだった。
ドキドキと心臓が暴れる。
そして……。
「!!!」
これまで一度も増えたことのない時杉のフレンドリストに、人生初のフレンドの名が刻まれる。
(ま、マジか……。マジで俺が誰かと……あ、ヤバい。なんかフラフラしてき――)
「ん? どったのトッキー? だいじょう――」
――バターンッ!
「うわぁああトッキぃいー!!? トッキーが死んだぁああ!!!」
「…………」
享年、16歳。時杉、死亡。
……というのはさておき。
かくして、様々な人生初をたった一夜で手に入れた時杉。
彼の攻略者人生は、ここから始まる。
思わず間の抜けた声を漏らし、時杉がポカンとする。
しかし、すぐにそんなはずはないと首を振る。
「な、なに言ってるんですか? 前にも言いましたけど、俺はノースキルで……」
「だから、目覚めたんじゃないの?」
「いやでも、普通スキルって生まれたときから持ってるものだし、そんな急にポンと目覚めるなんて……」
「けどノースキル自体がそもそも世にも珍しいじゃん? ないとは言い切れないかもよ?」
「それは……」
たしかに前例がない以上、デルタの言い分も一理ある。
例えばの話。生まれる前に目覚めるはずのものが、今になってだいぶ遅れてやって来た……なんて可能性もありえなくはない。
とはいえ、それでも時杉としてはやはり疑念しかない。
時代が進み、スキルの測定技術は格段に進歩した。
スマートフォンなどの機械で生体情報をスキャンすれば、その人間がどんなスキルを持っているか容易に検知できる。
おかげで肉体の成長や経験によってスキルが進化した場合でも、それすらすぐに反映されるようになった。
そしてだからこそ、時杉は毎朝起きたら必ずスマホをチェックしていたし、その度に裏切られてきた。
そういう経験があるからこそ、今更スキルと言われてもピンとこない。
しかし、デルタはすっかりその気になっているようで……。
「ねえねえ! だったら今チェックしてみようよ!」
「……まあ、そこまで言うなら一応見て見ますけど」
促されるままにスマホを取り出す時杉。
(スキルか。まあどうせ《NO SKILL》だろうな……)
などと考えつつ、慣れた手つきでダンマスを開く。
メニューからマイページ内のスキルのタブを呼び出す。
すると……。
┏ ───────────────────────── ┓
〇スロット1
日時:8月31日(日)22時31分
場所:東京都北区第13ダンジョン 第4階層
┗ ───────────────────────── ┛
「え」
身に覚えのない表示に時杉が固まる。
そしてさらに、その上にスキル名の欄には――。
(……【セーブ】?)
まさか……。
その文字列を読んだ瞬間、時杉はピンときた。
横から覗き込んでいたデルタも呟く。
「セーブって……たぶんゲームとかによくあるアレだよね。あ、もしかして夢ってそういうこと!?」
まさに同じことを、時杉も思った。
モンスターやダンジョンの構造。
次々と直前に見た夢を追体験するように進行していく攻略の道のり。
だが、もしもその“夢”が夢ではなく、実際に一度起こった事実だったら……?
そしてその事実が、もしも時間ごとリセットされたのだとしたら……?
そう考えれば、たしかに辻褄は合う。
(でも、いったいなんでまた急に……? それに、たとえスキルに目覚めたとしても、俺は使った覚えなんて――)
――あーあ、こんなことならちゃんとダンジョンに入る前に“セーブ”しとけばよかった……。
「あ」
事ここに至って、ようやく時杉の中で全てがつながった。
(ということは……)
試しに呟いてみる。
「……【セーブ】」
――ピロン♪
「!?」
┏ ───────────────────────── ┓
〇スロット1
日時:9月1日(月)0時25分
場所:東京都北区第13ダンジョン 最終第7階層
┗ ───────────────────────── ┛
アプリの画面が更新される。
日時の欄を見比べると、右上にあるスマホの時計と一致している。
ここまで来ると、もう間違いなかった。
「おーっ! ほんとに変わった! ほら、やっぱりそうじゃんっ!」
デルタが時杉の肩に手を乗せて飛び跳ねる。
「すごいすごいっ! こんなスキル初めて見たよっ! おめでとうトッキー! これでもうノースキルから脱却だね!」
まるで自分のことのようなハシャぐ。
一方、当の本人である時杉はいまだに固まったままだった。
(これが……俺の?)
学年最下位の『スキルなし男』。
それが時杉蛍介という人間。
今も昔も時杉にとってスキルとは、喉から手が出るほど欲しい……けれど決して手に入らない憧れの代物。
これからもずっとそうなんだと、なんとなくそう思っていた。
それがまさか、急にこんな……。
一周回って逆に不安になってきた。
果たしてこんな幸せが俺の身に起きていいのだろうか?
しかし、そんな時杉にさらに追い打ちをかけるように……。
「あ、そうだ。せっかくだからフレンド登録しようよ」
「ふ、フレンド……!?」
フレンドとは、ダンジョンマスター上での友だちのこと。
正式なパーティーとまではいかないが、メッセージのやり取りができたり、相手がダンジョンに潜ったかの通知が届いたりするようになる。
そしてもちろん、底辺ボッチである時杉の登録件数はゼロ。
実の妹でさえ「お兄ちゃんとダンジョンとか自殺行為じゃん」と登録を断固拒否された過去がある。
「うん、またいっしょに潜りたいし。今日はもう遅いからあれだけど、アタシもそのスキルに興味あるしね。ダメ?」
「あ、いえ、もちろん……」
「やった! じゃあ申請送るね」
デルタがササッとスマホを操作する。
直後、時杉のスマホがブブッと震えて承認依頼の通知が届く。
(き、来た……! ほんとに……!)
恐る恐る『承認』のボタンを押す。まるで初めてスマホに触るおじいちゃんのようだった。
ドキドキと心臓が暴れる。
そして……。
「!!!」
これまで一度も増えたことのない時杉のフレンドリストに、人生初のフレンドの名が刻まれる。
(ま、マジか……。マジで俺が誰かと……あ、ヤバい。なんかフラフラしてき――)
「ん? どったのトッキー? だいじょう――」
――バターンッ!
「うわぁああトッキぃいー!!? トッキーが死んだぁああ!!!」
「…………」
享年、16歳。時杉、死亡。
……というのはさておき。
かくして、様々な人生初をたった一夜で手に入れた時杉。
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