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第1部 1章 底辺ぼっち、スキルの目覚める

二度目の「はじめまして」

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「ここは……第4階層?」

 辺りを見渡しながら時杉が呟く。
 どこもかしこも似たような光景で確証はなかったが、雰囲気から察した。

「……戻ってきた? でも、どうやって……?」

 さっきまで自分がいたのは第7階層だったはず。
 それが今は第4階層。もちろん移動した記憶などない。

「いや、そんなことより……」

 気になったのは、もっと根本的なこと。

「俺……はずじゃ……」

 直前のこととあって、最後のシーンはまだしっかりと目に焼き付いている。

 第7階層で出会った謎のモンスター。
 ソイツの放った鋭い衝撃波のような攻撃が、自分を目掛けて飛んできて――。

「ッ!」

 そこまで思い出し、ゾクっとする。
 無意識に右手で首筋を押さえていた。

(よかった……ちゃんとついてる)

 ほうっ、とため息が漏れる。

 こうして動けているのだから当然だが、切断されたと思った首はしっかりとつながっていた。
 それどころか傷もないようで、痛みも全くない。

(マジか……よくあそこから助かったな。タイミング的には完全にアウトだったはずなのに……)

 どうやら寸前のところで回避できていたらしいが、正直なところ何が起きたかさっぱり記憶にない。

(あるとすれば直前に気絶して、それで運良く攻撃が頭の上を通り過ぎて助かった……とか? まあでも、なにはともあれ生きててよかった。マジで人生終わったかと思った……)

 もしかしたら今頃あの世で閻魔様と面会していたかもしれない。
 想像したらまた鳥肌が立ってきた。

(それにしてもあのモンスター……どう見てもゴリゴリのインファイターって雰囲気だったくせに、いきなりあんな技出すとか反則だろ……)

 改めて思い出しても、ボスが繰り出した最後の技は凶悪だった。
 予め知っていなければ、あの急な広範囲攻撃をとっさに対策なんてできるわけがない。

(……でも、一応予兆だけはあったんだよな。俺が勝手に勘違いしただけで……)

 攻撃の直前のことだ。
 ボスは思い切り身体を捩ってこちらに背中を向けた。

 冷静に考えれば、あの場面で急にバランスを崩すわけもない。であれば、なにかしら大技の予備動作と推測することくらいは可能だったかもしれない。

 それなのに、あろうことか時杉はまんまと隙ができて逃げるチャンスだと思ってしまった。
 その結果、逆に自分自身が無防備な背中を晒すことになり……。

(……最初の攻撃のときだってそうだ。敵が目の前にいて写真なんか撮ってる場合かよ。馬鹿か、俺は……)

 今思い返してもいろいろとひどい。
 殺してくださいと言っているようなものだ。

 と、そうして時杉が己のマヌケさに腹を立てていたところで……。

「――だいじょーぶ? ほら、コレでも飲んで元気出しなよ」
「!」

 いきなり目の前に現れたペットボトル。
 以前と全く同じシチュエーションとあって、今度は声を上げることなく時杉は顔を上げた。

 そして案の定、そこにはよく見覚えのある金髪の美少女がいた。

「デルタさん……」
「?」

 差し出されたペットボトルを受け取りながら、時杉は思わずちょっと泣きそうになってしまった。

(よかった、ちゃんと無事だったんだ……)

 あれだけ足を引っ張っておいて、もし自分だけ生き残っていたら夢見が悪いどころではない。きっと後悔と自己嫌悪に押しつぶされていただろう。
 元気そうなデルタの姿に、時杉は心の底から安堵した。

「あれ? もしかしていらなかった?」
「ああいえ、すいません。なんかホッとしちゃって……」
「あらら、そんなにのど渇いてたんだ。いいよ、グイッといっちゃって。好きなだけ潤しなよ」
「あはは……ありがとうございます」

 そういう意味ではないんだけどな……。

 若干苦笑いを浮かべつつ、時杉が未開封のキャップを開けてボトルを呷る。
 相変わらずの心地よい甘さと冷たさが身体に染みこんでくる。

 そしてある程度喉が潤ったところで、時杉はなんとはなしに呟いた。

「それにしても、本当にメロンソーダ好きなんですね。まさか2本も持ってきてるとは思いませんでしたよ」

 500ミリのペットボトルを2本で計1キロ。いくら好きだからってさすがに重いのでは?
 単なる世間話程度の発言。そこまでの他意はない。

 ただ、返ってきたのは意外な返答だった。

「2本? 持ってきてないけど」

 デルタがきょとんと首を傾げる。

「あれ……でもコレ、新品ですよね?」
「うん、今キミが開けたばっかだよ」
「え、でもじゃあ、やっぱり2本目ってことに……」
「え~。いくらアタシがメロンソーダ中毒者でも、さすがに2本は持ってこないよ~。今日は軽めの調査に来ただけだしね」
「……?」

 そんなわけないじゃん、とでも言いたげにデルタが笑う。
 その一方、今度は時杉が首を捻った。

 もしかして冗談? からかわれている?
 最初はそう思った。

 だが、どうもデルタに嘘や冗談を言っている気配はない。
 それに腰のポーチを見る限り、たしかに2本もペットボトルが入るようにも見えない。

 これはいったいどういうことだ……?

 己の記憶と噛み合わないデルタの言葉や反応に困惑する。

 すると、そんな時杉に対し――。

「ところでさ、なんかさっきから普通に知り合いみたいな感じだけど……」

 デルタが不思議そうな表情で切り出す。

「……!?」

 理由は分からなかった。
 けれど、時杉は聞く前からとてつもなく嫌な予感がした。

「アタシたち――」

 そして、その予感は見事に当たっていた。



……だよね?」
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