【第1部完結】ループ・ザ・ダンジョン🌀現代にダンジョンが出現した世界で、一人だけゲームみたいに【セーブスキル】を得た底辺ぼっちの成り上がり

やまたふ

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第1部 1章 底辺ぼっち、スキルの目覚める

ボス戦……そして初めてのループ

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 地震……?

 はじめ、スマホに視線を落としていた時杉はそう思った。

 足の裏から伝わったズンッという衝撃。
 フロア全体を震わす強い縦揺れ。

 だが、その予想はすぐに勘違いだと気づいた。

「あれは……!」
「?」

 驚いた表情で一点を見つめるデルタ。
 つられて時杉も同じ方向を向く。

「なっ……!?」

 ソイツは、ひとことで言い表すなら“白虎トラの化け物”だった。

 白い毛並みに黒い縞模様。ただ、身体は四足ではなく二足歩行の人型。
 体長はゆうに3メートルはあるだろうか。丸太のように太い手足には刃のように鋭い爪が伸びている。

 そして極めつけは、肩に担がれた身の丈ほどの巨大な戦斧アックス

(な、なんだこのバケモノは……!?)

 正体不明のモンスターに時杉がたじろぐ。

 これまで遭遇したどのモンスターとも異質な迫力。
 学校では様々なモンスターの生態についても学ぶが、こんな個体は教科書にも載っていなかった。

 すると、怯える時杉の隣でデルタが緊迫感のある声色で呟いた。

「……あれはたぶん、ここのだね」
「ボスッ!?」

 ボスとは、各ダンジョンに稀に存在する、そのダンジョンのぬしとも呼ぶべき強力なモンスターである。
 通常のモンスターと違って同一の個体は存在せず、それぞれが唯一無二の姿かたちをしている。

 ゆえに、時杉が見たことないのも当たり前だった。
 しかし、そこで時杉はハッとする。

(そうだ! ネットの攻略情報を見れば……!)

 手に握っていたスマホのカメラを起動する。

 たとえボスといえども、情報がないわけではない。
 未開拓のダンジョンでもない限り、必ず誰かの戦った記録がある。場合によっては攻撃方法や弱点、その他もろもろの情報まで蓄積されていることもある。

 だからこそ、写真を撮って画像検索にかければ、と時杉は考えた。

 ――思えば、それが最初のだった。

「ダメッ!!」

 デルタが叫ぶ。

「あ……」

 ヤバい――と感じたときには、すでに手遅れだった。

 スマホの画面いっぱいに映し出されるボスの姿。
 グッと脚に力を込めたのが見えた次の瞬間には、もう眼前に迫っていた。

 常識外れの跳躍力。
 加えてレンズ越しだったことで、余計に時杉の反応が遅れる。

「GAAッ!!」

 棒立ちの時杉へめがけて、ボスが容赦なく斧を振り下ろす。

 ガンッ――!!!

「ぐぁ……!」

 時杉の身体が勢いよく後方へ倒れ込む。

(あれ、生きてる……?)

 放たれたのは即死級の一撃。
 本来であれば身体が真っ二つとなり、あっけなく命が散っていたはず。

 にもかかわらず、時杉は無事だった。
 負ったのはせいぜい地面を転がってできた打撲や擦り傷程度で、致命傷にはほど遠い。

 いったいなぜ……?

 だが、その答えはすぐにわかった。

「……大丈夫、トッキー?」
「あ、はい。なんとか――……ッ!?」

 上半身を起こした時杉の目に映る、刀を構えるデルタの後ろ姿。

 そして振り返った彼女の額からは、だらだらと流れるおびただしい量の血。
 それを見て、時杉は何が起きたのかを察した。

 おそらくデルタは自分をかばったのだ。
 時杉へ攻撃が当たる直前に割って入り、刀でもって斧を受け止めた。ただ衝撃をすべて吸収することはできず、額の傷はその際に負ったもの。

「デルタさん、それ……!」
「……アタシはへーき。こんなのカスっただけだよ」

 流れる血を袖でぬぐいつつ、デルタが笑顔を浮かべる。
 しかし、強がりなのは明白だった。

「それよりトッキーこそ立てる? 次、来るよっ!」

 デルタが叫ぶや否や、再び接近してきたボスが戦斧を振り回す。

「ひっ……!?」

 逃げなければならない。それは解っている。
 ただ、完全に腰が抜けてしまった。

 無防備な姿を晒す時杉に、分厚い刃が凄まじい速度で迫りくる。
 だが、それを防いだのはまたしてもデルタだった。

「このっ!」

 ボスの腕をデルタが斜め下から蹴り飛ばす。
 軌道が逸れたことで、かろうじて刃は時杉の頭上を通り過ぎた。

「キミの相手はアタシだよ!」

 立ちふさがるようにデルタがモンスターの前に着地する。

 二度も攻撃を邪魔された怒りか、はたまた単に近い目標に狙いを定めただけか。
 ボスの標的がデルタへと切り替わる。

「GAAAA!!!!」
「……!」

 両者の実力は拮抗していた。

 荒々しく戦斧を振り回すボスに対し、デルタは刀でまともに受け止めるのは分が悪いと判断すると、巧みにいなすことで対応した。
 迫りくる斧の刃を見切り、刀に触れると同時に角度を変えて受け流す。これほどの高速の中でそれを行うのはまさに神業。

 もしかしたらこのまま決着が着かないかもしれない。
 傍(はた)から見たらそう思えるだけの攻防。

 ……ただ、それはあくまでお互いが万全の状態だったならの話。

「くっ……!」

 徐々にデルタが押され始める。
 受け流しの精度が落ち、ボスの攻撃が肌をかすめる。

「はぁ……! はぁ……!」

 最初の一撃で受けた傷の影響。
 流れ続ける血が感覚を鈍らせるだけでなく、意識さえ刈り取ろうとしてくる。

(くそっ、このままじゃ俺のせいでデルタさんが……!)

 苦しそうな様子で刀を振るうデルタの姿に、時杉が奥歯を噛みしめる。

 デルタの傷は自分の不用意な行動が原因で負ったもの。
 おまけに動きを見ていれば分かるが、デルタはなるべくボスの注意が時杉へ向かないように立ち回っている。

(なんとか……なんとかしないと……!)

 このままではいずれジリ貧。
 状況を打破すべく、時杉は焦りながら必死に思考を巡らせる。

 そのときだった。
 ボスのバランスが崩れ、大きく傾いた背中がちょうど時杉のいる側へと晒された。

 ――今しかないっ!

 降って湧いたようなチャンスに、時杉が瞬時に決断する。
 立ち上がるや否や、壁際に向かって全力で駆け出した。

「トッキー!?」
「距離を取ります! だから俺のことは構わずデルタさんは――」

 せめて自分がボスの視界から消えることで、デルタが戦いに集中できるようにしよう。そう思っての行動。

 ただ……。

「GYAOOOOO!!!!!」
「っ!?」

 ――その決断こそ、今夜の彼が犯した最大のミスだった。

 雄叫びとともにグルンと回転するボスの身体。
 勢いそのままに振り抜かれた戦斧から生まれたのは、まるで空気を極限まで圧縮したような衝撃波だった。

 そして、その波は恐るべき速さで円のように広がってゆき――。

「あ――――」

 時杉の五感が最期に感じ取ったもの。

 それは自分を助けに必死の形相で走ってくるデルタの姿と……。


 ――――ドシュッ。


 こうして、時杉蛍介という一人の学生の人生は終わりを迎えた。




 🌀 🌀 🌀

 🌀 🌀

 🌀 





「…………あれ?」

 そして気づけば、彼はまたダンジョンの中に立っていた。
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