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29日目(結婚式)

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 彼女の名はラフィ。
 純白のドレスに身を包んだ彼女がいるのは、王都にある由緒正しき教会の大聖堂だ。


「汝、病める時も健やかなる時も――」

 隣で神父が誓いの言葉を読み上げる。

 そして目の前には、結婚相手である隣国の王子。

 結婚自体はずっと前から決まっていた。許嫁……いわゆる政略結婚というやつだ。
 もちろんラフィ自身は望んでいなかった。だから国の端っこで領地経営などしていたのだ。
 だが、ついにしびれを切らした両親に無理やり連れ戻されてしまった。
 しかも、こんな大がかりな結婚式のオマケ付きで。


(……あの方は、きっと今頃怒っているでしょうね)

 向こうからすれば、結婚の予定を隠して弄ばれたみたいなもの。
 しかも、急なことでちゃんと別れも告げられていない。

(ああ、せめてもう一度だけでも……)

 バーンッ!


「その結婚式、ちょっと待ったぁぁぁあああッ!!!」


 勢いよく開け放たれた扉の音。息を切らせて立つ男。
 その男は、とてもよく見覚えのある人物だった。

「あなたは……」
「どうも、叔父です」

 ラフィの唯一の理解者である、母方の叔父。
 領地経営の後押しをしてくれたのも彼であり、恩人である。

「お静かに。早く着席を」
「あ、すいやせんすいやせん」

(もう。だらしないところは相変わらずですね。まあ、いないから心配していたのでホッとしましたが)

 とはいえ、さすがに間が悪過ぎる。

(一瞬、もしやと思ってしまったじゃありませんか……)


「いやぁ、ビックリしましたね」
「ええ、まったく――えっ!?」
「どうも、僕です」

 そう言って、男はニコリとほほ笑んだ。


「なっ……」
「おや、どうされました? そんな幽霊でも見るような顔をして」
「なぜあなたがここにいるのですっ!?」

 ラフィの声に、会場中の視線が一気に集まる。
 それをまるで指揮者のように優雅に受け止めながら、男は言った。

「え~、会場にお集まりの皆様……どうも、僕です」

((((誰!?))))

「突然ですが、姫様をいただいていきます」
「な、なにを――」

 驚くラフィを、男は両腕で抱える。

「ふふ、これぞまさしく本物のお姫様抱っこ……ですね」
「は?」

((((この状況でなに言ってんだこいつ!?))))

「それでは皆様ごきげんよう。しからば!」

 シュバッ!


 ◇◇◇


「あなた、自分が何をしたかわかっているのですか?」
「申し訳ございません。ただ……」
「言い訳無用です。いいですか、これは外交問題です。大事な結婚式をメチャクチャにされ、皆怒り心頭のはずです。相手方だけでなく、お父様やお母様も、出席した来賓者も、準備に奔走した従者も、国民も、全員がです」
「それは姫様も……ですか?」
「当たり前です!」
「あんな手紙を残しておきながら?」
「…………は?」

 男が取り出したのは、テープで復元されたビリビリの手紙。

「な……な……」
「もう一度聞きます。やっぱり、姫様も怒っていますか?」
「そ、そんなの……」




「…………見てわかりませんか?///」
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