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15日目(来ない……)

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 彼女の名はラフィ。
 時刻はすでに日付が変わる直前。


「……ハァ。今夜はもう来ないのでしょうか」

「――ほう、誰を待っているのです?」

 ヒョコ。


「あ、あなたは……!」
「どうも、僕です」

 今日も今日とて現れた男。
 しかし、その笑顔はいつもと違ってあからさまにニヤけていた。

「わかりますよ。たしかに昨日の僕はかっこよかったですからね」
「ち、違います、別にあなたのことを待っていたわけではありません! む、むしろ今夜は静かに過ごせてよかったなとホッとしていたころです!」
「ほう。では助けられたとき、僕のことを頬を赤く染めつつうっとりした表情でやや目じりに涙を溜めながら見つめていたのも違う、と?」
「なッ!?」
「フフ。いいんですよ、そんなに恥ずかしがらなくても。好きになったならハッキリそう言った方がいいです」
「そ、そんなこと……」
「というわけで、今日はまた姫様にプレゼントをお持ちしました」

 そう言って、男はいかにも宝石でも入っていそうな小箱を取り出した。


「えっと、さすがにちょっと早すぎるのでは……?」
「いえ、こういうのは早い方がいいです」
「で、でもまだ私自身、この気持ちがなんなのかハッキリとは……」
「大丈夫です。僕が教えます」
「……!」

 男の力強い言葉に、つい小箱を受け取ってしまうラフィ。

「さあ、開けてみてください」
「はい……」


 パカッ。


「…………これは、なんですか?」

 震える声で、ラフィは訊いた。

「手裏剣です」

 男はドヤ顔で答えた。

「見ればわかります。なぜこれを私に、という意味です」
「なぜって……なりたいんですよね、忍者?」
「……はい?」
「ピンチを救ってくれた忍者への憧れ。わかります。かくいう僕が忍者を目指したのも師匠に危ないところを助けてもらったのがきっかけですから。さあ、姫様もまずは基本の手裏剣から――」
「始めません。そしていりません。お引き取りを」
「そうですか。しからば」

 シュバッ。




「…………ばか」
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