【異種BL】/NTERSEⓒT -淡紫の花-【獅子×青年】

宇崎初夏

文字の大きさ
上 下
30 / 31

030『頼むから  って言って』

しおりを挟む
 閉じたカーテンの隙間、わずかに射し込む陽光が眩しい。若草色の目を開けたシオンは働かない頭で日付を数えて、わからなくなってやめた。

 部屋に閉じ込められて、どのくらい経った? 何回か食事を摂った気がするし、摂ってないような気もする。

 目が覚めたのに、まだ寝てるみたい。

 なんとか起き上がれたは良いけど、体がだるくてベッドから出たくない……あと、立ち上がる時ってどうしてたっけ?

 ぼんやりとしか見えない視界に誰かの、人型の気配を感じたシオンはその者に手を伸ばす。

「レオ……?」

 シオンの部屋に入れる者など、レオとエアル、そして隣国アルタイルの第一王子でありながら、軍医として戦場に身を置くスイレンしか居ない。

 妻のヒイラギはもちろん、ネメアラヴァン王家を筆頭にほとんどの者は部屋に近付くことすら許されない、不可侵領域。

 近々スイレンが来る予定は無かったはずだから、きっと人間に変身したレオだろう。

「傷が酷い」

 予想外の声に、覚醒したばかりでぽやぽやしていたシオンの思考がクリアになっていく。

「まだ横になってた方が良い」

 カルタ・コダ。シオンの幼馴染で、レオが『俺のシオンに触れても良い人間』と認めた、希少すぎる青年だ。

「ここ、入れるんだ……」

 ベッドサイドの椅子に座って膝上で本を広げていた、カルタの袖を掴んだシオンがまだ起きていない声で言う。

「俺が居なくなって、どのくらい経った?」

 1週間だよ、なんてとても答えられないカルタは掴んできたシオンの手をそっと解いて、シオンのすべてを狂わせた元凶を梳いた。

「ごめんな、俺のせいだ」

 嫉妬に狂った獣に凌辱こんなにされるってわかっていたら、町に連れ出したりなんかしなかったのに。

「ううん。楽しかったし良いよ、気にしないで」

 項にあけられた契約印、痛々しいなんてものじゃない。ただの怪我でしかない。身も心もレオに支配わたすことを選ばざるを得なかったシオンに、これはあまりにもあんまりだ。

 シオンが居ないの、もう何日も部屋から出れないの、って泣き叫ぶ王妃様に言われるがままやって来たシオンの部屋は酷い有様だった。

 激しく暴かれ続けた痕に加えて、どこもかしこも牙の痕と爪の痕だらけで。エアル様の回復術を受けているのに2日間も起きなくて。

 生きてるのが不思議なくらい、項に深々と刻まれた牙の痕は特に見るに耐えなくて、でも視線を外すことはできなかった。

 消してあげたいのに、王家の方々でさえシオンに触れられないんだ。いくらレオ様とエアル様に接触を許された俺でも、こればっかりはどうしようもない。

 絶対に助けてあげたいのに、絶対にかなわない。

「ずっと考えていた、このままシオンが起きなかったらどうしようって……」

 ようやくちゃんと目覚めたシオンはちょっとだけ間を置いて、ふにゃりとした笑顔を向けた。

「心配してくれてありがとう。もうどこも痛くないし、大丈夫だから」

 嘘だ、そんなわけないだろ。三日三晩を越えても獅子の牙に犯され続けて、2日間も意識を飛ばして、大丈夫なわけないだろ。

 いつだってそうだ。シオンは自分の出来事を甘く見過ぎている。本当にどこまでも楽観的で、何もわかろうとしない。

「平民の俺じゃシオンを助けてあげられない」

 きっと酷い顔をしているだろうから、シオンに見られたくない一心で頭と項に手を回して、心音が聞こえそうな距離まで引き寄せた。

 こんなに簡単にシオン自身に、重ね重ね上書きされる契約印うなじに触れても無事で居られるヤツなんて、きっと俺だけだろうな。

 レオ様に見初められて望まない玉座に拘束しばられることとなったから、シオンの敵は多いし、それと同じくらい崇拝対象とされることも多い。

 国王としての立ち振る舞いを頑張ってはいるけど、慣れないことばっかで大変だろうな、ってのは誰の目から見てもわかる。

 だからこそ、幼馴染の俺の前でくらい、ただのシオンで居てほしい。シオンがシオンのままで居れるようにしたい。

「ちゃんと『痛い』って言って」

 より一層、深くなった傷痕を撫でながら、自分でも驚くくらいスラスラ言葉が出てきて止まらない。

「首に穴あけられてるんだぞ。痛いに決まってるだろ、俺の前では平気なフリするな」

 カルタの肩に顔をうずめたシオンは何も言わないまま、大人しく接触を受け入れていた。

「今は俺しか居ないから。吐き出せる時に吐き出しとけ、な? ほら『痛い』とか『助けて』とか、言いたいことあったら…………え?」

 穏やかな寝息を立て始めたシオンの肩越しに、視線のみで「俺のシオンを返せ」と訴えるレオ様に生命の危機を感じたのは、言うまでもない。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

灰かぶりの少年

うどん
BL
大きなお屋敷に仕える一人の少年。 とても美しい美貌の持ち主だが忌み嫌われ毎日被虐的な扱いをされるのであった・・・。

無自覚お師匠様は弟子達に愛される

雪柳れの
BL
10年前。サレア皇国の武力の柱である四龍帝が忽然と姿を消した。四龍帝は国内外から強い支持を集め、彼が居なくなったことは瞬く間に広まって、近隣国を巻き込む大騒動に発展してしまう。そんなこと露も知らない四龍帝こと永寿は実は行方不明となった10年間、山奥の村で身分を隠して暮らしていた!?理由は四龍帝の名前の由来である直属の部下、四天王にあったらしい。四天王は師匠でもある四龍帝を異常なまでに愛し、終いには結婚の申し出をするまでに……。こんなに弟子らが自分に執着するのは自分との距離が近いせいで色恋をまともにしてこなかったせいだ!と言う考えに至った永寿は10年間俗世との関わりを断ち、ひとりの従者と一緒にそれはそれは悠々自適な暮らしを送っていた……が、風の噂で皇国の帝都が大変なことになっている、と言うのを聞き、10年振りに戻ってみると、そこに居たのはもっとずっと栄えた帝都で……。大変なことになっているとは?と首を傾げた永寿の前に現れたのは、以前よりも増した愛と執着を抱えた弟子らで……!? それに永寿を好いていたのはその四天王だけでは無い……!? 無自覚鈍感師匠は周りの愛情に翻弄されまくる!! (※R指定のかかるような場面には“R”と記載させて頂きます) 中華風BLストーリー、ここに開幕!

ハンターがマッサージ?で堕とされちゃう話

あずき
BL
【登場人物】ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ハンター ライト(17) ???? アル(20) ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 後半のキャラ崩壊は許してください;;

執着攻めと平凡受けの短編集

松本いさ
BL
執着攻めが平凡受けに執着し溺愛する、似たり寄ったりな話ばかり。 疲れたときに、さくっと読める安心安全のハッピーエンド設計です。 基本的に一話完結で、しばらくは毎週金曜の夜または土曜の朝に更新を予定しています(全20作)

消えない思い

樹木緑
BL
オメガバース:僕には忘れられない夏がある。彼が好きだった。ただ、ただ、彼が好きだった。 高校3年生 矢野浩二 α 高校3年生 佐々木裕也 α 高校1年生 赤城要 Ω 赤城要は運命の番である両親に憧れ、両親が出会った高校に入学します。 自分も両親の様に運命の番が欲しいと思っています。 そして高校の入学式で出会った矢野浩二に、淡い感情を抱き始めるようになります。 でもあるきっかけを基に、佐々木裕也と出会います。 彼こそが要の探し続けた運命の番だったのです。 そして3人の運命が絡み合って、それぞれが、それぞれの選択をしていくと言うお話です。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

処理中です...