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030『頼むから って言って』
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閉じたカーテンの隙間、わずかに射し込む陽光が眩しい。若草色の目を開けたシオンは働かない頭で日付を数えて、わからなくなってやめた。
部屋に閉じ込められて、どのくらい経った? 何回か食事を摂った気がするし、摂ってないような気もする。
目が覚めたのに、まだ寝てるみたい。
なんとか起き上がれたは良いけど、体がだるくてベッドから出たくない……あと、立ち上がる時ってどうしてたっけ?
ぼんやりとしか見えない視界に誰かの、人型の気配を感じたシオンはその者に手を伸ばす。
「レオ……?」
シオンの部屋に入れる者など、レオとエアル、そして隣国の第一王子でありながら、軍医として戦場に身を置くスイレンしか居ない。
妻のヒイラギはもちろん、ネメアラヴァン王家を筆頭にほとんどの者は部屋に近付くことすら許されない、不可侵領域。
近々スイレンが来る予定は無かったはずだから、きっと人間に変身したレオだろう。
「傷が酷い」
予想外の声に、覚醒したばかりでぽやぽやしていたシオンの思考がクリアになっていく。
「まだ横になってた方が良い」
カルタ・コダ。シオンの幼馴染で、レオが『俺のシオンに触れても良い人間』と認めた、希少すぎる青年だ。
「ここ、入れるんだ……」
ベッドサイドの椅子に座って膝上で本を広げていた、カルタの袖を掴んだシオンがまだ起きていない声で言う。
「俺が居なくなって、どのくらい経った?」
1週間だよ、なんてとても答えられないカルタは掴んできたシオンの手をそっと解いて、シオンのすべてを狂わせた元凶を梳いた。
「ごめんな、俺のせいだ」
嫉妬に狂った獣に凌辱にされるってわかっていたら、町に連れ出したりなんかしなかったのに。
「ううん。楽しかったし良いよ、気にしないで」
項にあけられた契約印、痛々しいなんてものじゃない。ただの怪我でしかない。身も心もレオに支配すことを選ばざるを得なかったシオンに、これはあまりにもあんまりだ。
シオンが居ないの、もう何日も部屋から出れないの、って泣き叫ぶ王妃様に言われるがままやって来たシオンの部屋は酷い有様だった。
激しく暴かれ続けた痕に加えて、どこもかしこも牙の痕と爪の痕だらけで。エアル様の回復術を受けているのに2日間も起きなくて。
生きてるのが不思議なくらい、項に深々と刻まれた牙の痕は特に見るに耐えなくて、でも視線を外すことはできなかった。
消してあげたいのに、王家の方々でさえシオンに触れられないんだ。いくらレオ様とエアル様に接触を許された俺でも、こればっかりはどうしようもない。
絶対に助けてあげたいのに、絶対にかなわない。
「ずっと考えていた、このままシオンが起きなかったらどうしようって……」
ようやくちゃんと目覚めたシオンはちょっとだけ間を置いて、ふにゃりとした笑顔を向けた。
「心配してくれてありがとう。もうどこも痛くないし、大丈夫だから」
嘘だ、そんなわけないだろ。三日三晩を越えても獅子の牙に犯され続けて、2日間も意識を飛ばして、大丈夫なわけないだろ。
いつだってそうだ。シオンは自分の出来事を甘く見過ぎている。本当にどこまでも楽観的で、何もわかろうとしない。
「平民の俺じゃシオンを助けてあげられない」
きっと酷い顔をしているだろうから、シオンに見られたくない一心で頭と項に手を回して、心音が聞こえそうな距離まで引き寄せた。
こんなに簡単にシオン自身に、重ね重ね上書きされる契約印に触れても無事で居られるヤツなんて、きっと俺だけだろうな。
レオ様に見初められて望まない玉座に拘束られることとなったから、シオンの敵は多いし、それと同じくらい崇拝対象とされることも多い。
国王としての立ち振る舞いを頑張ってはいるけど、慣れないことばっかで大変だろうな、ってのは誰の目から見てもわかる。
だからこそ、幼馴染の俺の前でくらい、ただのシオンで居てほしい。シオンがシオンのままで居れるようにしたい。
「ちゃんと『痛い』って言って」
より一層、深くなった傷痕を撫でながら、自分でも驚くくらいスラスラ言葉が出てきて止まらない。
「首に穴あけられてるんだぞ。痛いに決まってるだろ、俺の前では平気なフリするな」
カルタの肩に顔をうずめたシオンは何も言わないまま、大人しく接触を受け入れていた。
「今は俺しか居ないから。吐き出せる時に吐き出しとけ、な? ほら『痛い』とか『助けて』とか、言いたいことあったら…………え?」
穏やかな寝息を立て始めたシオンの肩越しに、視線のみで「俺のシオンを返せ」と訴えるレオ様に生命の危機を感じたのは、言うまでもない。
部屋に閉じ込められて、どのくらい経った? 何回か食事を摂った気がするし、摂ってないような気もする。
目が覚めたのに、まだ寝てるみたい。
なんとか起き上がれたは良いけど、体がだるくてベッドから出たくない……あと、立ち上がる時ってどうしてたっけ?
ぼんやりとしか見えない視界に誰かの、人型の気配を感じたシオンはその者に手を伸ばす。
「レオ……?」
シオンの部屋に入れる者など、レオとエアル、そして隣国の第一王子でありながら、軍医として戦場に身を置くスイレンしか居ない。
妻のヒイラギはもちろん、ネメアラヴァン王家を筆頭にほとんどの者は部屋に近付くことすら許されない、不可侵領域。
近々スイレンが来る予定は無かったはずだから、きっと人間に変身したレオだろう。
「傷が酷い」
予想外の声に、覚醒したばかりでぽやぽやしていたシオンの思考がクリアになっていく。
「まだ横になってた方が良い」
カルタ・コダ。シオンの幼馴染で、レオが『俺のシオンに触れても良い人間』と認めた、希少すぎる青年だ。
「ここ、入れるんだ……」
ベッドサイドの椅子に座って膝上で本を広げていた、カルタの袖を掴んだシオンがまだ起きていない声で言う。
「俺が居なくなって、どのくらい経った?」
1週間だよ、なんてとても答えられないカルタは掴んできたシオンの手をそっと解いて、シオンのすべてを狂わせた元凶を梳いた。
「ごめんな、俺のせいだ」
嫉妬に狂った獣に凌辱にされるってわかっていたら、町に連れ出したりなんかしなかったのに。
「ううん。楽しかったし良いよ、気にしないで」
項にあけられた契約印、痛々しいなんてものじゃない。ただの怪我でしかない。身も心もレオに支配すことを選ばざるを得なかったシオンに、これはあまりにもあんまりだ。
シオンが居ないの、もう何日も部屋から出れないの、って泣き叫ぶ王妃様に言われるがままやって来たシオンの部屋は酷い有様だった。
激しく暴かれ続けた痕に加えて、どこもかしこも牙の痕と爪の痕だらけで。エアル様の回復術を受けているのに2日間も起きなくて。
生きてるのが不思議なくらい、項に深々と刻まれた牙の痕は特に見るに耐えなくて、でも視線を外すことはできなかった。
消してあげたいのに、王家の方々でさえシオンに触れられないんだ。いくらレオ様とエアル様に接触を許された俺でも、こればっかりはどうしようもない。
絶対に助けてあげたいのに、絶対にかなわない。
「ずっと考えていた、このままシオンが起きなかったらどうしようって……」
ようやくちゃんと目覚めたシオンはちょっとだけ間を置いて、ふにゃりとした笑顔を向けた。
「心配してくれてありがとう。もうどこも痛くないし、大丈夫だから」
嘘だ、そんなわけないだろ。三日三晩を越えても獅子の牙に犯され続けて、2日間も意識を飛ばして、大丈夫なわけないだろ。
いつだってそうだ。シオンは自分の出来事を甘く見過ぎている。本当にどこまでも楽観的で、何もわかろうとしない。
「平民の俺じゃシオンを助けてあげられない」
きっと酷い顔をしているだろうから、シオンに見られたくない一心で頭と項に手を回して、心音が聞こえそうな距離まで引き寄せた。
こんなに簡単にシオン自身に、重ね重ね上書きされる契約印に触れても無事で居られるヤツなんて、きっと俺だけだろうな。
レオ様に見初められて望まない玉座に拘束られることとなったから、シオンの敵は多いし、それと同じくらい崇拝対象とされることも多い。
国王としての立ち振る舞いを頑張ってはいるけど、慣れないことばっかで大変だろうな、ってのは誰の目から見てもわかる。
だからこそ、幼馴染の俺の前でくらい、ただのシオンで居てほしい。シオンがシオンのままで居れるようにしたい。
「ちゃんと『痛い』って言って」
より一層、深くなった傷痕を撫でながら、自分でも驚くくらいスラスラ言葉が出てきて止まらない。
「首に穴あけられてるんだぞ。痛いに決まってるだろ、俺の前では平気なフリするな」
カルタの肩に顔をうずめたシオンは何も言わないまま、大人しく接触を受け入れていた。
「今は俺しか居ないから。吐き出せる時に吐き出しとけ、な? ほら『痛い』とか『助けて』とか、言いたいことあったら…………え?」
穏やかな寝息を立て始めたシオンの肩越しに、視線のみで「俺のシオンを返せ」と訴えるレオ様に生命の危機を感じたのは、言うまでもない。
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