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011『ふんっ!』
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ーーーー俺はレオの主だから。どこにも行けないし、行かないよ。
そうは言いつつもどこか悲しそうな、寂しそうな、何もかもを全部を諦めているような、あの淡色が忘れられない。
「絶対ぜーーーーったいアイツより俺の方が良いだろ!!」
ベッドでジタバタ暴れるヘラクレスに契約主は軽蔑の眼差しを向けた。
「だってよく考えてみ? シオン殿は俺と居た方がメリットいっぱいだぞ?」
ガバッと上体を起こしたヘラクレスが指折り数える。
「城と王家から逃げられるし、アイツに噛まれて痛い思いしなくて済むし、あと情事は俺の方が上手いぞ!」
突然ぶっ放されたヘラクレスの爆弾発言に契約主の呼吸が止まった。
「シオン殿とアイツの交わり方ははっきり言って異常だぞ、羨ま⋯⋯流石に心配になる程度にはシオン殿のナカにアイツを感じる」
いやいや待て待て、と呼吸を思い出した契約主の背筋が凍りついている。
「え、情事ってセッ⋯⋯のことだよな? 人間と星獣ってどうやっ⋯⋯ていうかレオってライオンだよな? え、どうやって⋯⋯え?」
「どうって⋯⋯⋯⋯」
契約主の腕を引いてベッドに誘導したヘラクレスが笑う。
「こうするんだよ、普通に」
シオンと違って状況判断ができる契約主はヘラクレスの誘いに乗ってみることにしたようだ。
「へぇ?」
紅玉の目が挑発的な態度を浮かべた。
✲
ローア・ネメアラヴァン。レグルス国先王グランの実弟にして、レグルス国の最高指揮官。そして⋯⋯数年後にはレグルス国王の父になるはずだった地位の男。
レオが【淡紫の花】を見つけさえしなければ。レオが【淡紫の花】に誰も逆らえない証を刻まなければ。我が子の未来は輝かしいものだったはずなのに。
シオンさえ居なければ。ただ髪色が建国王と同じなだけの一般人が国王を名乗るなど、決してあってはならない。
最後の最後までシオンが王位に就くことを反対したローアだったがもちろん適うはずもなく、今は反撃の機会を伺っているところ。
だがシオンの傍らには常にレオが控えていて、触れることはおろか近付くことすらもできない。うむ、どうしたものか⋯⋯と考えながら城内を歩くローアに兵士達が敬礼する。
「おはようございます! 騎士団長様!」
「あぁ、おはよう」
侍女達も礼をする。
「おはようございます、騎士団長様」
「おはよう」
城内の者達に挨拶をしながらローアの1日ははじまっていく。普段と何も変わらない穏やかな朝だったはずが、ふいに起こったざわめきに消されてしまった。
「おはようございます、ローア様」
シオン・ネメアラヴァン⋯⋯レオに気に入られたことだけを理由に王位に就いた一般人。レオの最初の主とされるレグルス建国王とよく似た青年。
「グルルル⋯⋯」
ネメアラヴァンを名乗る者達、国を運営する大臣達、意図せず平民から国王になったシオンを妬む兵士や侍女達。レグルス城内にシオンの敵は多い。いついかなる時もレオは牙と爪を鈍く光らせてシオンを守っていた。
「あ、あぁ⋯⋯おはよう」
「グルルル⋯⋯」
なんとか気さくに挨拶をするローアに対してレオが今にも襲い掛かりそうな体勢で低く唸り声をあげている。言葉はなくとも、レオが何を言っているのかその場に居た者全員が把握していた。
俺のシオンに触れるな。
「グルルル⋯⋯」
「レオ」
唸り声をあげるレオの前にしゃがんだシオンが好戦的なたてがみを撫でる。
「ほら、ローア様に朝のご挨拶は?」
「嫌だ」
「えぇ⋯⋯」
位置的にシオンに背を向けられたローアは気付く。シオンのうなじに在る星獣レオと契約した者の証である印を挟むように付けられた牙の痕に。
シオンがレオの主だということを証明する、唯一無二の証⋯⋯漆黒の獅子に深く刻まれた、牙の痕を。
とても国王陛下のお召し物とは思えない襟ぐりが広く開いたラフな服装をしている、シオンのうなじはいつだって無防備に晒されていた。
寵愛、牽制、執着⋯⋯重い重い感情を込めてレオは敢えて契約印を、痛々しくも美しい所有の証を晒しているようだ。
「ふんっ!」
「お行儀悪いぞ?」
「構わん」
シオンの頬にたてがみを擦り寄せたレオの喉がゴロゴロ鳴る。シオンに撫でられて多少なりとも機嫌が良くなったらしい。
絶対に誰も入れない2人の領域を見せ付けられていたローアがシオンのうなじに手を伸ばす。
何が唯一無二の証だ。何が2人目の主だ。
こんなもの、ただの怪我じゃないか。ただの獅子の噛み痕じゃないか。
ーーーーその花に触れてはいけない。
綺麗な花には棘はあるとはよく聞く話だが、その花はそんなに生易しいものではない。
触れたら最期。
「レオ!?」
「ローア様!!」
「騎士団長様!!」
一切の情け容赦の無い爪で深く抉れた顔からボタボタと血を流してうずくまるローアに兵士と侍女が一目散に駆け寄る。
「医療班を!! 早く!!」
シオンの指示で我に返った侍女が早足で医務室へ向かう。
「グルルル⋯⋯シオンに触れようとしてその程度で済んだことを光栄に思え、愚か者」
そうは言いつつもどこか悲しそうな、寂しそうな、何もかもを全部を諦めているような、あの淡色が忘れられない。
「絶対ぜーーーーったいアイツより俺の方が良いだろ!!」
ベッドでジタバタ暴れるヘラクレスに契約主は軽蔑の眼差しを向けた。
「だってよく考えてみ? シオン殿は俺と居た方がメリットいっぱいだぞ?」
ガバッと上体を起こしたヘラクレスが指折り数える。
「城と王家から逃げられるし、アイツに噛まれて痛い思いしなくて済むし、あと情事は俺の方が上手いぞ!」
突然ぶっ放されたヘラクレスの爆弾発言に契約主の呼吸が止まった。
「シオン殿とアイツの交わり方ははっきり言って異常だぞ、羨ま⋯⋯流石に心配になる程度にはシオン殿のナカにアイツを感じる」
いやいや待て待て、と呼吸を思い出した契約主の背筋が凍りついている。
「え、情事ってセッ⋯⋯のことだよな? 人間と星獣ってどうやっ⋯⋯ていうかレオってライオンだよな? え、どうやって⋯⋯え?」
「どうって⋯⋯⋯⋯」
契約主の腕を引いてベッドに誘導したヘラクレスが笑う。
「こうするんだよ、普通に」
シオンと違って状況判断ができる契約主はヘラクレスの誘いに乗ってみることにしたようだ。
「へぇ?」
紅玉の目が挑発的な態度を浮かべた。
✲
ローア・ネメアラヴァン。レグルス国先王グランの実弟にして、レグルス国の最高指揮官。そして⋯⋯数年後にはレグルス国王の父になるはずだった地位の男。
レオが【淡紫の花】を見つけさえしなければ。レオが【淡紫の花】に誰も逆らえない証を刻まなければ。我が子の未来は輝かしいものだったはずなのに。
シオンさえ居なければ。ただ髪色が建国王と同じなだけの一般人が国王を名乗るなど、決してあってはならない。
最後の最後までシオンが王位に就くことを反対したローアだったがもちろん適うはずもなく、今は反撃の機会を伺っているところ。
だがシオンの傍らには常にレオが控えていて、触れることはおろか近付くことすらもできない。うむ、どうしたものか⋯⋯と考えながら城内を歩くローアに兵士達が敬礼する。
「おはようございます! 騎士団長様!」
「あぁ、おはよう」
侍女達も礼をする。
「おはようございます、騎士団長様」
「おはよう」
城内の者達に挨拶をしながらローアの1日ははじまっていく。普段と何も変わらない穏やかな朝だったはずが、ふいに起こったざわめきに消されてしまった。
「おはようございます、ローア様」
シオン・ネメアラヴァン⋯⋯レオに気に入られたことだけを理由に王位に就いた一般人。レオの最初の主とされるレグルス建国王とよく似た青年。
「グルルル⋯⋯」
ネメアラヴァンを名乗る者達、国を運営する大臣達、意図せず平民から国王になったシオンを妬む兵士や侍女達。レグルス城内にシオンの敵は多い。いついかなる時もレオは牙と爪を鈍く光らせてシオンを守っていた。
「あ、あぁ⋯⋯おはよう」
「グルルル⋯⋯」
なんとか気さくに挨拶をするローアに対してレオが今にも襲い掛かりそうな体勢で低く唸り声をあげている。言葉はなくとも、レオが何を言っているのかその場に居た者全員が把握していた。
俺のシオンに触れるな。
「グルルル⋯⋯」
「レオ」
唸り声をあげるレオの前にしゃがんだシオンが好戦的なたてがみを撫でる。
「ほら、ローア様に朝のご挨拶は?」
「嫌だ」
「えぇ⋯⋯」
位置的にシオンに背を向けられたローアは気付く。シオンのうなじに在る星獣レオと契約した者の証である印を挟むように付けられた牙の痕に。
シオンがレオの主だということを証明する、唯一無二の証⋯⋯漆黒の獅子に深く刻まれた、牙の痕を。
とても国王陛下のお召し物とは思えない襟ぐりが広く開いたラフな服装をしている、シオンのうなじはいつだって無防備に晒されていた。
寵愛、牽制、執着⋯⋯重い重い感情を込めてレオは敢えて契約印を、痛々しくも美しい所有の証を晒しているようだ。
「ふんっ!」
「お行儀悪いぞ?」
「構わん」
シオンの頬にたてがみを擦り寄せたレオの喉がゴロゴロ鳴る。シオンに撫でられて多少なりとも機嫌が良くなったらしい。
絶対に誰も入れない2人の領域を見せ付けられていたローアがシオンのうなじに手を伸ばす。
何が唯一無二の証だ。何が2人目の主だ。
こんなもの、ただの怪我じゃないか。ただの獅子の噛み痕じゃないか。
ーーーーその花に触れてはいけない。
綺麗な花には棘はあるとはよく聞く話だが、その花はそんなに生易しいものではない。
触れたら最期。
「レオ!?」
「ローア様!!」
「騎士団長様!!」
一切の情け容赦の無い爪で深く抉れた顔からボタボタと血を流してうずくまるローアに兵士と侍女が一目散に駆け寄る。
「医療班を!! 早く!!」
シオンの指示で我に返った侍女が早足で医務室へ向かう。
「グルルル⋯⋯シオンに触れようとしてその程度で済んだことを光栄に思え、愚か者」
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