2 / 31
002『運命』
しおりを挟む
シオン・スメラギは淡い紫色の短髪をあたたかな風に透かれながら重苦しい足取りでレグルスの城門を通過した。
代々続く実家の洋菓子店を継ぐのがなんとなく嫌で、なんとなくフリーターとして生きていたシオンを見兼ねた両親がついに激怒。
その時咄嗟に「軍に入るから継がない!!」と宣言したせいで、シオンのテンションは果てしなく低い。
⋯⋯軍といっても異星人と戦うだけが任務じゃないし。オペレーターとか事務的な部署に就けば、大丈夫。
無事に希望の部署に入れたら、適当な頃に彼女つくって結婚して子供が生まれて⋯⋯老後はベテルギウスの自然豊かな地で穏やかに過ごす。うん、我ながら完璧な人生設計だな!
平々凡々のお手本みたいな青年、シオンは知らなかった。
レグルスを象徴とする星獣レオに見初められ、身に余る程の重い重い寵愛を一身に注がれ、最終的には人々から「陛下」と呼ばれる存在になる事など、知る由もなかった。
✲
レオの豪快なあくびを他所にオーケストラのけたたましい合奏と共に、厳かな式典がはじまる。
レグルス城のバルコニーから新米兵達を見下ろしながら「いやぁ~今年もいい子が入って来るといいねぇ!」なんて言って呑気にしている国王陛下であり、レオの契約者⋯⋯グランの隣でレオがまたあくびをした。
今年もどうせロクな奴は居ないんだろうな、フン。
ちらり、レオが興味無さげに新米兵達に目を向けた瞬間。止まっていたはずのナニかが動き出してしまった。
ーーーーレオ。
かつて、ただ1人だけ居た主と同じ【淡紫の花】を見つけてしまった。
ーーーーおいで、レオ。
一目。
一目見ただけの、名前すら知らない彼に果てなき執着心を抱いたレオは確信する。
あぁ、これは運命だ。抗ってはいけない、逆らってはいけない、運命だ。
必ずあの者を我が主にする。どんな手を使っても、絶対に。
「どうしよう」
新米兵達に向けて長ったらしい演説を開始した父、グランの隣に座している彼女⋯⋯ウェーブかかった銀髪のロングヘアが美しいお姫様、ヒイラギの頬が色鮮やかに高揚している。
「あたし⋯⋯恋しちゃった⋯⋯」
ヒイラギの視線は真っ直ぐに【淡紫の花】へ向いていた。
「決めた、絶対に彼をあたしの旦那様にする」
生まれて初めての恋心に野心を燃やすヒイラギに呆れたレオの口角が不気味に上がる。
何やら素晴らしい妙案を思い付いたらしい。
「ヒイラギ、俺と組まないか」
唐突なレオの提案に「ふぇ!?」と情けない声を出したヒイラギの身体が僅かに強ばる。
「俺も【淡紫の花】が欲しい。なぁに、レグルスの象徴である俺と現国王の娘であるお前が組めば⋯⋯誰も逆らえない」
獅子と姫君、双方にロックオンされた事を知らないシオンが退屈そうにあくびをした。
✲
上官から、式典の後ーーーーへ来るようにって言われた事は覚えているのに、眠たい目を擦っていたせいで肝心の場所を聞きそびれた。ちょっとヤバいかも?
自分が方向音痴な事を忘れていたシオンは気が向くままに歩みを進めた結果、見事に迷子となった。
そして今、何故かシオンはレグルス城内の森に居る。
上官に指定された場所ではない事は明らかだがシオンの足は止まらない。
「ここはどこだ⋯⋯?」
森の開けた場所に出てきたシオンは木々の隙間から覗く青空を見上げた。高くそびえ立つ木々が邪魔で太陽の位置から方角を見る事もできない。
「ここはネメアの森」
声が聞こえた方へ顔を向けたシオンの目が大きく見開く。
「俺と主が出会った、大切な場所だ」
公的な式典以外では姿を見せない事で知られているレグルスを象徴とする星獣レオが、シオンの目の前に居た。
「レオ様!?」
自らの前に跪き、頭を下げたシオンの肩を前足で突いたレオの機嫌は上々だ。
「えっ⋯⋯?」
バランスを崩して地面に背中をついたシオンに跨ったレオがじいぃっとシオンの若草色の目を凝視した。
「名は」
「えっ?」
あまりにも突拍子のない出来事に困惑するシオンに構わず、レオは自身の目的を完遂せんとする。
「名は何だと聞いている」
「シオン、です⋯⋯」
「そうか。シオン、か。その名、その顔、その匂い⋯⋯覚えたぞ」
シオンの頬に自身の頬を擦り寄せたレオがゴロゴロ喉を鳴らした。レオの漆黒のたてがみがくすぐったくて身体を捩ったシオンが「んぅ⋯⋯」と小さな声をあげた。
「必ず」
レオの鮮血色の目とシオンの若草色の目がぶつかり合う。
「必ずお前を俺の主にする」
ネコ科動物特有のザラザラした舌でシオンの首筋を舐めたレオの言葉がシオンを支配した。
「いずれ首筋に俺の証を刻む」
何をされているのか、何を言われているのか。まるでわかっていないシオンの口と自身の口を重ねたレオが一方的な誓いを立てる。
「迎えに行く。待っていろ、シオン」
レオに内頬を舐められたシオンがビクッと跳ねた。
代々続く実家の洋菓子店を継ぐのがなんとなく嫌で、なんとなくフリーターとして生きていたシオンを見兼ねた両親がついに激怒。
その時咄嗟に「軍に入るから継がない!!」と宣言したせいで、シオンのテンションは果てしなく低い。
⋯⋯軍といっても異星人と戦うだけが任務じゃないし。オペレーターとか事務的な部署に就けば、大丈夫。
無事に希望の部署に入れたら、適当な頃に彼女つくって結婚して子供が生まれて⋯⋯老後はベテルギウスの自然豊かな地で穏やかに過ごす。うん、我ながら完璧な人生設計だな!
平々凡々のお手本みたいな青年、シオンは知らなかった。
レグルスを象徴とする星獣レオに見初められ、身に余る程の重い重い寵愛を一身に注がれ、最終的には人々から「陛下」と呼ばれる存在になる事など、知る由もなかった。
✲
レオの豪快なあくびを他所にオーケストラのけたたましい合奏と共に、厳かな式典がはじまる。
レグルス城のバルコニーから新米兵達を見下ろしながら「いやぁ~今年もいい子が入って来るといいねぇ!」なんて言って呑気にしている国王陛下であり、レオの契約者⋯⋯グランの隣でレオがまたあくびをした。
今年もどうせロクな奴は居ないんだろうな、フン。
ちらり、レオが興味無さげに新米兵達に目を向けた瞬間。止まっていたはずのナニかが動き出してしまった。
ーーーーレオ。
かつて、ただ1人だけ居た主と同じ【淡紫の花】を見つけてしまった。
ーーーーおいで、レオ。
一目。
一目見ただけの、名前すら知らない彼に果てなき執着心を抱いたレオは確信する。
あぁ、これは運命だ。抗ってはいけない、逆らってはいけない、運命だ。
必ずあの者を我が主にする。どんな手を使っても、絶対に。
「どうしよう」
新米兵達に向けて長ったらしい演説を開始した父、グランの隣に座している彼女⋯⋯ウェーブかかった銀髪のロングヘアが美しいお姫様、ヒイラギの頬が色鮮やかに高揚している。
「あたし⋯⋯恋しちゃった⋯⋯」
ヒイラギの視線は真っ直ぐに【淡紫の花】へ向いていた。
「決めた、絶対に彼をあたしの旦那様にする」
生まれて初めての恋心に野心を燃やすヒイラギに呆れたレオの口角が不気味に上がる。
何やら素晴らしい妙案を思い付いたらしい。
「ヒイラギ、俺と組まないか」
唐突なレオの提案に「ふぇ!?」と情けない声を出したヒイラギの身体が僅かに強ばる。
「俺も【淡紫の花】が欲しい。なぁに、レグルスの象徴である俺と現国王の娘であるお前が組めば⋯⋯誰も逆らえない」
獅子と姫君、双方にロックオンされた事を知らないシオンが退屈そうにあくびをした。
✲
上官から、式典の後ーーーーへ来るようにって言われた事は覚えているのに、眠たい目を擦っていたせいで肝心の場所を聞きそびれた。ちょっとヤバいかも?
自分が方向音痴な事を忘れていたシオンは気が向くままに歩みを進めた結果、見事に迷子となった。
そして今、何故かシオンはレグルス城内の森に居る。
上官に指定された場所ではない事は明らかだがシオンの足は止まらない。
「ここはどこだ⋯⋯?」
森の開けた場所に出てきたシオンは木々の隙間から覗く青空を見上げた。高くそびえ立つ木々が邪魔で太陽の位置から方角を見る事もできない。
「ここはネメアの森」
声が聞こえた方へ顔を向けたシオンの目が大きく見開く。
「俺と主が出会った、大切な場所だ」
公的な式典以外では姿を見せない事で知られているレグルスを象徴とする星獣レオが、シオンの目の前に居た。
「レオ様!?」
自らの前に跪き、頭を下げたシオンの肩を前足で突いたレオの機嫌は上々だ。
「えっ⋯⋯?」
バランスを崩して地面に背中をついたシオンに跨ったレオがじいぃっとシオンの若草色の目を凝視した。
「名は」
「えっ?」
あまりにも突拍子のない出来事に困惑するシオンに構わず、レオは自身の目的を完遂せんとする。
「名は何だと聞いている」
「シオン、です⋯⋯」
「そうか。シオン、か。その名、その顔、その匂い⋯⋯覚えたぞ」
シオンの頬に自身の頬を擦り寄せたレオがゴロゴロ喉を鳴らした。レオの漆黒のたてがみがくすぐったくて身体を捩ったシオンが「んぅ⋯⋯」と小さな声をあげた。
「必ず」
レオの鮮血色の目とシオンの若草色の目がぶつかり合う。
「必ずお前を俺の主にする」
ネコ科動物特有のザラザラした舌でシオンの首筋を舐めたレオの言葉がシオンを支配した。
「いずれ首筋に俺の証を刻む」
何をされているのか、何を言われているのか。まるでわかっていないシオンの口と自身の口を重ねたレオが一方的な誓いを立てる。
「迎えに行く。待っていろ、シオン」
レオに内頬を舐められたシオンがビクッと跳ねた。
10
お気に入りに追加
100
あなたにおすすめの小説

鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。


見ぃつけた。
茉莉花 香乃
BL
小学生の時、意地悪されて転校した。高校一年生の途中までは穏やかな生活だったのに、全寮制の学校に転入しなければならなくなった。そこで、出会ったのは…
他サイトにも公開しています

王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?
名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。
そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________
※
・非王道気味
・固定カプ予定は無い
・悲しい過去🐜のたまにシリアス
・話の流れが遅い



性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる