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束の間の休息
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ちょっ!?何なんだよ!これ!
俺は命からがら沼地を転がりながら木の攻撃から逃げていた。そして、何とか木たちの攻撃範囲から抜けだすことに成功したのだが、休憩している間に気付いてしまった。体中に付着していた泥が固まってしまっていることに。でも、それだけならば別に構わない。軽く体を動かせば、ボロボロと崩れ落ちて行くだろう。しかし、そうではなかったのだ。固まった泥は、まるでコンクリートのように固く重い。再び荒野に戻って来て、休憩のために大の字で寝転がっていた俺は、地面と泥がくっ付いてしまい、身動きが取れない状態になってしまったのだ。
ここに来て薄々と感じてはいたが、地獄では、魔力体でも肉体がある時と同じような状態になるらしい。唯一、言葉だけが念話で置き換えられているぐらいだろう。つまり、地獄で起きることは、全て魔力体に影響を及ぼすということだ。
洞窟の中で出会った魔物のように、肉体を持っていても魔力の影響の方がここでは強いのだ。そして、物体でも魔力体に影響を及ぼすことが出来る。物理攻撃は効かない、などと甘えた考えでは足元を掬われてしまう。
『こんなところでのんびりしている時間はないよ!』
分かってるよ!?だからもう移動しようとしているじゃん!でも、出来ないんだよ!!現状を把握しているはずの黒の書に急かされ、俺は全力で腕や足を持ち上げようと試みるが微動だにしない。これは、肉体がない影響なのだろうか?肉体がないからこそ、身体能力に影響が出ているのかもしれない。肉体の性能には頼れなさそうだ。
俺の腕と足の部分の泥岩からは、ヒビが入った音すらなかった。全く歯が立たない状況になってしまっている。さて・・・・どうしたらいい?
目の前に広がる地獄の空は、雷雨前の怪しげな空模様だ。いつ雨が降り出してもおかしくはないが、何故かすぐには降りそうに見えない。地獄らしく、常にこのような天気なのだろう。晴天とかに会わないしな。
『ねえ!思考放棄して現実逃避しないで!』
だったらこの状況を打破する策を教えて欲しい。俺はいっぱい考えた。いっぱい走った。疲れた。
『そこまで思考放棄することなくない!?』
黒の書だって思考することは出来るんだから、俺の代わりに策を考えてくれよ。危険は今のところないのだから、暫くボーっとさせてくれ。
『・・・・だったら、第1章第1節第2項か、第4項を使うんだね』
・・・・解決策がまさかの魔法か。普通なら魔法を使うのだろうけど、俺の魔法はこんな状況で解決策になるようなものではないと思うんだけど・・・。
『嫌なら自分で他の策を考えなよ。望み通りちゃんと答えたでしょ』
まあ、うん。答えてくれた、な。黒の書に言い返す言葉が見つからない。魔法を使えば、再び悪魔や魔物たちに見つかる危険がある。しかし、魔法を使わなくとも、いつかは見つかってしまう危険がこの場にはある。そして、この状況では黒の書の意見が最も最適であることも分かる。他に方法はないのだから。
だけど問題は・・・。
『召喚は大丈夫だよ。岩人形になった君の右手部分に出て来るから』
岩人形・・・。いや、実際そうなのだから何も言うまい。心配だった召喚が問題なくできるのであれば、魔法も問題なく行使できるな。それにしても、こんなことで俺が魔法を使う日が来るとは。
『その“こんなこと”を解決できないから魔法を使う状況になっているんでしょう』
ごもっとも。黒の書ってなんだかズィーリオスみたいだな。
『君の相手をしていると否応にもそうなっちゃんだよ。はあ』
え、やばっ。今黒の書に溜息吐かれたんだけど!?
『どうでも良いからさっさと魔法を行使するっ!!』
あ、はい。黒の書に叱られて、俺は魔法の内容に思考を向ける。黒の書がおススメしていたのは、第1章第1節の第2項と第4項。第2項は火魔法で、第4項は水魔法だ。水魔法ならばイメージはつく。再び泥に戻して洗い流せってことなのだろう。しかし、選ばれたもう一つの属性は水と対となる火属性。
リアル寸法の人形陶器が完成するなー。中国の兵馬俑にある兵士の一体にさせられるのだろうか。俺、顔まで全部が泥を被ったわけではないぞ?沼地を転がったため、肩から腕、腰から足に掛けて多く泥が付いただけで。あ、後背中もか。顔を含めた他の部分は、僅かに付着した程度だ。頬にもついていることは感覚で分かる。表情を動かす度にむず痒い。
『別に意味もなく火魔法を推薦するわけがないでしょ。焼くのは正解だけど』
あら、焼くのは正解なのか。ってことは・・・・。
『そういうこと!やっとまともに思考してくれた!高火力の火炎を利用して、リュゼの体の周りの泥岩を全部燃やし尽くしてしまおうってこと!』
ちょっと待って。その方法だと、確かに熱波や火炎は俺に効果はないが、溶けた泥岩は俺に影響を与えるんじゃないか?熱せられて溶けているわけだから、相当な温度になっているぞ?
『あー、そこが微妙なところだねー。まあ、大丈夫だとは思うけど・・・行使した魔法によって生じた変化には影響を受けないはずだから』
うーん。これは水魔法の方が良さそうだな。火魔法以外に選択肢がないならばまだしも、最も効果的に見える水魔法があるのだ。ならば、ここは安全を考慮して水魔法を行使しよう。魔法行使後は、完全に危険度が跳ね上がるけど。
水で洗い流した後に、急いで走って逃げよう。そろそろゆっくりと休憩する時間が欲しい。今も休憩の時間ではあったが、この状況は穏やかに休憩できる状況ではないため、息を整える程度の小休憩だった、ということで・・・。
『魔力もあるし問題ないね!よし、やろうか!』
ねえ、ふと思ったんだけどさー。やる気に満ち溢れている黒の書に声を掛ける。魔法を行使した後に、折角散らした悪魔や魔物が再び集まって来るなら、いっそのこと暫くこのままで良くないか?
『・・・・・』
黒の書は何も言わない。だが、黒の書が聞いていることは分かっているため、そのまま俺は理由を述べた。
この状態に悪魔や魔物が集まったら、余計に魔法を行使する。だったら、悪魔と魔物の両方を蹴散らしつつ、この張り付き状態を脱出した方が効率が良くないだろうか。その分、本来ならば今魔法を行使することによって遭遇するかもしれなかった敵を、確実に屠ることが出来る。移動先の安全を気にしながら休憩をする必要もない。そもそも、移動先で休憩が出来るかも分からない。ならば、今ここで大胆に休憩することで、逃げた後の対応がしやすくなるだろ?
『それは・・・あるね』
黒の書が俺の意見に理解を示した。そして、黒の書は自身の判断を肯定するように、もう一度肯定の言葉を吐いた。
『目が覚めてからここまで、色々なことがあったのは事実だ。そして、君の精神にも疲れが見えてきている。束の間でも安全が確保されている今こそ、きちんと休憩をとった方が良いかもしれないね』
おお!?ということは?
『敵が来るまでここで休んで行こうか。まあ、この状態で休めるのかは不明だけど』
お休みの許可をゲットー!荒野で体の半分近くを泥岩で固められたまま、休憩を取る日が来るとは思わなかった。けれど、黒の書の言う通り、束の間でも確実に休憩が得られたのはありがたい。
『お休み・・・?まあ、お休みかな?うん』
そういうことだから、敵の気配がしたらすぐに起こしてな!黒の書に索敵を頼み、俺はいつの間にか力んでいた全身の力を抜く。すると、俺の予想以上に疲弊していたのだろう。あっと言う間に意識が沈んでいった。
俺は命からがら沼地を転がりながら木の攻撃から逃げていた。そして、何とか木たちの攻撃範囲から抜けだすことに成功したのだが、休憩している間に気付いてしまった。体中に付着していた泥が固まってしまっていることに。でも、それだけならば別に構わない。軽く体を動かせば、ボロボロと崩れ落ちて行くだろう。しかし、そうではなかったのだ。固まった泥は、まるでコンクリートのように固く重い。再び荒野に戻って来て、休憩のために大の字で寝転がっていた俺は、地面と泥がくっ付いてしまい、身動きが取れない状態になってしまったのだ。
ここに来て薄々と感じてはいたが、地獄では、魔力体でも肉体がある時と同じような状態になるらしい。唯一、言葉だけが念話で置き換えられているぐらいだろう。つまり、地獄で起きることは、全て魔力体に影響を及ぼすということだ。
洞窟の中で出会った魔物のように、肉体を持っていても魔力の影響の方がここでは強いのだ。そして、物体でも魔力体に影響を及ぼすことが出来る。物理攻撃は効かない、などと甘えた考えでは足元を掬われてしまう。
『こんなところでのんびりしている時間はないよ!』
分かってるよ!?だからもう移動しようとしているじゃん!でも、出来ないんだよ!!現状を把握しているはずの黒の書に急かされ、俺は全力で腕や足を持ち上げようと試みるが微動だにしない。これは、肉体がない影響なのだろうか?肉体がないからこそ、身体能力に影響が出ているのかもしれない。肉体の性能には頼れなさそうだ。
俺の腕と足の部分の泥岩からは、ヒビが入った音すらなかった。全く歯が立たない状況になってしまっている。さて・・・・どうしたらいい?
目の前に広がる地獄の空は、雷雨前の怪しげな空模様だ。いつ雨が降り出してもおかしくはないが、何故かすぐには降りそうに見えない。地獄らしく、常にこのような天気なのだろう。晴天とかに会わないしな。
『ねえ!思考放棄して現実逃避しないで!』
だったらこの状況を打破する策を教えて欲しい。俺はいっぱい考えた。いっぱい走った。疲れた。
『そこまで思考放棄することなくない!?』
黒の書だって思考することは出来るんだから、俺の代わりに策を考えてくれよ。危険は今のところないのだから、暫くボーっとさせてくれ。
『・・・・だったら、第1章第1節第2項か、第4項を使うんだね』
・・・・解決策がまさかの魔法か。普通なら魔法を使うのだろうけど、俺の魔法はこんな状況で解決策になるようなものではないと思うんだけど・・・。
『嫌なら自分で他の策を考えなよ。望み通りちゃんと答えたでしょ』
まあ、うん。答えてくれた、な。黒の書に言い返す言葉が見つからない。魔法を使えば、再び悪魔や魔物たちに見つかる危険がある。しかし、魔法を使わなくとも、いつかは見つかってしまう危険がこの場にはある。そして、この状況では黒の書の意見が最も最適であることも分かる。他に方法はないのだから。
だけど問題は・・・。
『召喚は大丈夫だよ。岩人形になった君の右手部分に出て来るから』
岩人形・・・。いや、実際そうなのだから何も言うまい。心配だった召喚が問題なくできるのであれば、魔法も問題なく行使できるな。それにしても、こんなことで俺が魔法を使う日が来るとは。
『その“こんなこと”を解決できないから魔法を使う状況になっているんでしょう』
ごもっとも。黒の書ってなんだかズィーリオスみたいだな。
『君の相手をしていると否応にもそうなっちゃんだよ。はあ』
え、やばっ。今黒の書に溜息吐かれたんだけど!?
『どうでも良いからさっさと魔法を行使するっ!!』
あ、はい。黒の書に叱られて、俺は魔法の内容に思考を向ける。黒の書がおススメしていたのは、第1章第1節の第2項と第4項。第2項は火魔法で、第4項は水魔法だ。水魔法ならばイメージはつく。再び泥に戻して洗い流せってことなのだろう。しかし、選ばれたもう一つの属性は水と対となる火属性。
リアル寸法の人形陶器が完成するなー。中国の兵馬俑にある兵士の一体にさせられるのだろうか。俺、顔まで全部が泥を被ったわけではないぞ?沼地を転がったため、肩から腕、腰から足に掛けて多く泥が付いただけで。あ、後背中もか。顔を含めた他の部分は、僅かに付着した程度だ。頬にもついていることは感覚で分かる。表情を動かす度にむず痒い。
『別に意味もなく火魔法を推薦するわけがないでしょ。焼くのは正解だけど』
あら、焼くのは正解なのか。ってことは・・・・。
『そういうこと!やっとまともに思考してくれた!高火力の火炎を利用して、リュゼの体の周りの泥岩を全部燃やし尽くしてしまおうってこと!』
ちょっと待って。その方法だと、確かに熱波や火炎は俺に効果はないが、溶けた泥岩は俺に影響を与えるんじゃないか?熱せられて溶けているわけだから、相当な温度になっているぞ?
『あー、そこが微妙なところだねー。まあ、大丈夫だとは思うけど・・・行使した魔法によって生じた変化には影響を受けないはずだから』
うーん。これは水魔法の方が良さそうだな。火魔法以外に選択肢がないならばまだしも、最も効果的に見える水魔法があるのだ。ならば、ここは安全を考慮して水魔法を行使しよう。魔法行使後は、完全に危険度が跳ね上がるけど。
水で洗い流した後に、急いで走って逃げよう。そろそろゆっくりと休憩する時間が欲しい。今も休憩の時間ではあったが、この状況は穏やかに休憩できる状況ではないため、息を整える程度の小休憩だった、ということで・・・。
『魔力もあるし問題ないね!よし、やろうか!』
ねえ、ふと思ったんだけどさー。やる気に満ち溢れている黒の書に声を掛ける。魔法を行使した後に、折角散らした悪魔や魔物が再び集まって来るなら、いっそのこと暫くこのままで良くないか?
『・・・・・』
黒の書は何も言わない。だが、黒の書が聞いていることは分かっているため、そのまま俺は理由を述べた。
この状態に悪魔や魔物が集まったら、余計に魔法を行使する。だったら、悪魔と魔物の両方を蹴散らしつつ、この張り付き状態を脱出した方が効率が良くないだろうか。その分、本来ならば今魔法を行使することによって遭遇するかもしれなかった敵を、確実に屠ることが出来る。移動先の安全を気にしながら休憩をする必要もない。そもそも、移動先で休憩が出来るかも分からない。ならば、今ここで大胆に休憩することで、逃げた後の対応がしやすくなるだろ?
『それは・・・あるね』
黒の書が俺の意見に理解を示した。そして、黒の書は自身の判断を肯定するように、もう一度肯定の言葉を吐いた。
『目が覚めてからここまで、色々なことがあったのは事実だ。そして、君の精神にも疲れが見えてきている。束の間でも安全が確保されている今こそ、きちんと休憩をとった方が良いかもしれないね』
おお!?ということは?
『敵が来るまでここで休んで行こうか。まあ、この状態で休めるのかは不明だけど』
お休みの許可をゲットー!荒野で体の半分近くを泥岩で固められたまま、休憩を取る日が来るとは思わなかった。けれど、黒の書の言う通り、束の間でも確実に休憩が得られたのはありがたい。
『お休み・・・?まあ、お休みかな?うん』
そういうことだから、敵の気配がしたらすぐに起こしてな!黒の書に索敵を頼み、俺はいつの間にか力んでいた全身の力を抜く。すると、俺の予想以上に疲弊していたのだろう。あっと言う間に意識が沈んでいった。
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