はぁ?とりあえず寝てていい?

夕凪

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 どこだ?ここ・・・。目を開けると薄暗くジメジメとした洞窟にいた。通路の壁に出来た窪みのような空間にいるのか、背後は壁であり、前方には左右に伸びる通路がある。

 さっきまで聖域にいたはずなのに。ここはどこだ?辺りを見渡してみるが、ズィーリオスの姿はない。意識を失っている間にズィーリオスが何処かへ連れて来たのだろうか?それにしても周囲にズィーリオスの気配はない。いや、そもそもズィーリオスとの繋がりは感じるがそれは薄っすらとであり、どこか弱々しい。更に、契約による繋がりから位置情報を探るも発見出来なかった。まさか・・・ズィーリオスがいない?付近にいないのは確定だ。かなり遠くにいるのだろうか?・・・それはあるかもしれないなー。思い返してみれば、俺たちって長距離間離れたことがなかったし。・・・・だとすると、一体どれだけ離れているんだ?そうか、ズィーリオスが側にいないのか・・・。

 急激にズィーリオスが側にいないことを実感しだした。なんだか落ち着かなくなり、そわそわしだす。あ、そうだ!ズィーリオスが居なくても、ユヴェーレンかアバドンがいるだろ。まさか、全員がいないなんてことはないだろうしな!

 そして、周囲を見渡してみるが、誰もいない。・・・皆?ジメジメとした空間には、俺1人の息遣いと気配しかなかった。そのため、無意識に口が開く。ここはあまりにも静か過ぎる。



「・・・・・。ッ!?」



 声が・・・出なかった。口を動かしているにも関わらず、自分の耳に自分の声が聞こえてこない。何も聞こえない。え、嘘だろ・・・?何度か試すが、それでも声が発せられることはなかった。思わず茫然と立ち竦む。

 そして、嫌な考えが脳内を埋め尽くし始める。俺にとって最も最悪な予想が。


 ・・・俺は、ズィーリオス達に捨てられた?


 体が小刻みに震える。近くに誰もいないということは、俺は捨てられたのでは?でも、契約はまだ続いている。契約を切ることが出来ないから、物理的な距離を取ることで離れることにしたのか?え、けれど、俺がエンリュゼーファ神の後継者だから、守るために近づいたって・・・。嘘・・・なわけないよね?ユヴェーレンがそう言っていたのだし。嘘であるはずがない。だとすると一体何故だ?

 考えても考えても、一向に答えは見つからない。ズィーリオスは、ずっと俺と一緒にいてくれるって言ってた。あの言葉が嘘だなんて思いたくない。きっと皆、何かしらの事情でこの場を離れているんだ。俺がハーデル王国で独房に閉じ込められていた時みたいに、それぞれ何かしらの役割を果たしているのだろう。何をしているかは分からないけど。

 目を閉じて何とか心の平穏を保つ。こんなところで取り乱してしまうわけにはいかない。俺が皆の思惑を汲み取ってあげないと。だって、俺は皆の契約者なのだから。



 深呼吸をして落ち着いてきたことによって、冷静さを取り戻す。ズィーリオス達に何があったかは分からない。だけど、俺が取り乱したところで何も状況は変わらないのだ。だったら、俺は俺に出来ることをやるだけだ。まずは、ここが何処か把握することから始めよう。こんなジメジメしたところに長時間も居続けたくはない。一先ず、この洞窟から出ることを目標にしてみるか。

 周囲の気配は相変わらず感じない。魔物が近くにいるということもなさそうなので、探索してみることにしよう。安全を確認し、一歩を踏み出した。


 その瞬間。


『あ、そこ右ね』
「ッッッッッッ!?」


 思わぬ声に体が飛び跳ねて後方に転がる。な、ななんだ!?いきなり!?その声が誰の声かも判別できず、挙動不審で周囲を見渡す。誰もいないはずなのに、なんで・・・!?


『驚き過ぎじゃない?』


 もう一度聞こえて来た声に、再び体がビクッと反応を示す。て、あれ?その声、黒の書?


『そーだよー。もー。全く。酷いよー』


 プンプンという擬音が似合いそうな怒り方をした黒の書が、いきなり俺に声を掛けて来た犯人だった。あの状況で、いきなり声を掛けて来たら誰だって飛び跳ねると思うんだ。


『そうかな?君がビビり過ぎなんだよ』


 ビビり・・・。俺がビビりなのではない!この状況がそうさせたんだ!


『いやいやー。ビビりだって!』


 ケラケラと笑われ、揶揄われる。反論したいが、俺以外の体験者がいないため、俺の反応が普通であることを証明できない。クッソー!


『アハハ!でも、これで肩の力が抜けたんだから良かったじゃん!』


 言われて気付く。確かに、いつの間にかリラックスした状態になっていた。全身の力が抜け、心に余裕が出来ている。心を落ち着けたと思っていたが、それでも知らず知らずの内に緊張していたらしい。


『それに、まるで1人じゃないって感じがして嬉しいんじゃない?』


 その一言に息を飲む。それは、今まさに俺が感じていたことであった。


『僕たちは1つだからね。だから、実際は君1人なんだけど』


 俺1人だろうがなんだろうが、そこはもう構わない。会話が出来るって素晴らしいことなんだな・・・!


『だよね!会話が出来るって素晴らしいよね!』


 そうだった。黒の書も、俺が手にするまでは、ずっと聖域内で1人ぼっちだったわけだからなー。たまに聖獣が来ると言っても、それは500年に一度程度であり、黒の書に認められた持ち主でもないため、会話は出来ない。俺以上に会話をするということの素晴らしさを知っているのだ。いつもはあまり会話出来ていないからな。これからはもっと会話をしよう!


『そうしてくれると嬉しいな!普段は、あまり君に話しかけると、君の周りにいる者達に変に思われてしまうから、声を掛けられなかったんだけど』


 そう、だったのか。俺が皆の話を聞きそびれないように遠慮していただなんて。うん。これは絶対にもっと会話をしよう。特に、今回ズィーリオス達と合流するまでは、ひたすら会話をしていよう。


『まあ、会話をしようと思わなくても、会話は出来るんだけどね!』


 あ、そうだ。今もそんな感じだもんな。


『そうそう!』


 普通ならあり得ない会話方法。思考どころか、湧き出た感情がそのまま伝わる。まるで、以心伝心のように、声に出さなくても何もかもが伝わっている。念話とは全然違う意思の疎通。言葉に当てはめるならば、これは会話と言えるだろう。けれど、これは本当に会話の範疇に入るかは疑問だ。応答が早く、俺の思考や感情がすぐに伝わる。会話というには全てが筒抜けの状態。俺の中にもう1人の人物がいるような共有度。

 でも、それが嫌だとは感じなかった。この状況が俺にそう感じさせているのか、それとも同じ魂の欠片だからこその感覚なのだろうか。


『主導権が奪われるかも、とは思わないの?』


 主導権?


『そう。体の主導権とか意思の主導権とか。こんな状態って普通じゃないでしょ?人間に限らず、全ての生命の肉体には1つの魂しか入らない。でも、今の状態って2つあるみたいな状況じゃん?』


 そういうことか。うーん。でも別になー。


『でも、受け容れちゃってるんだよねー』


 説明は出来ないが、そういうものだと受け入れている俺がいるのは事実だった。


『僕が君の体を乗っ取ろうとしていないからだろうけどねー』


 なるほど、そういうことか。無意下にそれを分かっていたから、俺は安心していたっていうことか。何度も首を縦に振る。傍から見たら、誰もいないのに首を振っている変な人になっていただろう。


『でも、誰もいないから見てないよ。大丈夫。変だってバレないよ』


 ・・・ちょっと?それだと俺が変な人みたいじゃないか。


『実際変な人じゃん。ここにいる時点で』
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