はぁ?とりあえず寝てていい?

夕凪

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同じ流れ

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「生物の気配がないな・・・」
『そりゃ聖域の側だからね』



 不気味なほどに生命の気配が感じない森の中のオアシスは、その見た目にそぐわない。ズィーリオスが滝つぼの下へと近づいて行く。そのため、俺は背中に乗ったまま何とは無しに視線を滝の方へ向けた。え、マジで?



「ズィーリオス。もしかして、聖域ってあの裏?」
『そうだよ』



 滝のすぐ横まで移動すると、そこには隠れるように洞窟があった。滝の裏と言えば隠された洞窟というのが定番ではあるが、まさか本当にあるとは思わないって。単なる好奇心で滝の裏に視線を向けただけの俺だったが、場所をドンピシャで特定してしまうつもりはなかった。そもそも、そんな場所は定番過ぎて隠れされてないに等しい。今回は聖域だからこそ幻影の結界も合わさり隠されているのだけれど。

 なんか・・・こう、場所の面白さがないな。ロザロ山脈の時のような、あんなところに聖域があって、こんなところが聖域の入口なの!?っていう驚きが足りない。



『リュゼ?何を想像しているのかは分からないけど、聖域の場所や入口は、たまたまそこが魔界と隣接しているところってだけだからな?』



 そんなに俺の顔はおかしかったのだろうか?両手で自分の顔をペタペタと触ってみるが、真顔ってだけで特におかしい表情をしているわけではない。



「顔というよりも、体全体でつまらないと言っているぞ」



 顔を触っているとアバドンが答えを教えてくれた。教えてくれたのだが、体全体で言っているという意味が分からない。首を傾げてアバドンを横目に見ると、大きく溜息を吐かれて首を横に振られた。何故だ。



『動作があからさま過ぎたのよぉ。後ぉ、雰囲気がぁ』



 そこまであからさまだっただろうか。自分の行動を振り返るが・・・全くに身に覚えがない。ユヴェーレンに顔を向けても、それ以上は何も教えてくれずニコニコと笑みを向けて来るだけだった。仕方ない。自分の言動一つ一つを一々覚えていられるわけがない。



『場所に面白さを求めてはいけないわぁ。どうしようもないものぉ』



 ユヴェーレンがこそっと耳元で囁いて来るが、念話なんだから意味なくないか?それを知ってか知らずか、ユヴェーレンはクスクスと笑って耳元に息を吹きかけて離れて行った。反射的に体がビクッと反応を示す。俺の扱いが皆して酷い。

 そっと溜息を吐く。これも仕方がないことなのかもなー。俺も似たようなことをする時があるし。まあ、それだけ気が置けない関係になったということだな。うん!


 俺が頬を緩めて何度か頷いていると、視界の端に不審者を見る目を投げ掛けているアバドンが映るが、その姿は見なかったことにしよう。



「ズィー!ここにはこの前みたいなヤバいやつがあったりするか?」



 少々上ずった声音になってしまったが、そこは気にしない。ズィーリオスも、俺のテンションが高くなっていることには全く触れずに続けた。



『ここは大丈夫だぞ。だから、結界の方に意識を向けることだけを考えるんだぞ』
「わかったって!」



 何度同じことを言うんだよ。自然と語気が荒くなる。まるで、持ち物をちゃんと持ったか確認する、遠足の日の子供を見送る親のようだ。



『だってリュゼのことだしなー』
『そうねぇ』



 珍しくズィーリオスとユヴェーレンがお互いに頷き合う。あれ?さっきもこんな感じの流れがあったよな?まだ続いてたのか・・・。




 それ以上何も言えずに黙っていると、ズィーリオスとユヴェーレンは俺が納得したとでも思ったのか、話を変える。



『取り敢えず俺たちは行って来る』
『分かったわぁ』
「あ、ちょっと待て」



 踵を返したズィーリオスが俺を背に乗せたまま、滝の裏の洞窟の中に入ろうとした時、アバドンからの制止の声が掛かった。振り返ったズィーリオスだったが、アバドンの視線は俺に向けられていた。



「結界の魔力を感じ取れるか試すみたいだが、あまり自分の同調しすぎるなよ」
「え?」



 アバドンが俺を心配して忠告するなんて。もしかしたら明日はこの森がなくなっているかもしれないな。



「・・・なんでそんな目ぇかっぴらいて驚いているんだ」



 いやいや、これは当然の反応だと思うけど!?



「あー。良いから取り敢えず同調だけはし過ぎるな。お前の魔力と相性が良いだろう。そしてそれは当然のことだから、集中を乱して下手に刺激すると何が起こるか分からないぞ」



 やっぱり、今日は似たような流ればっかりだな。



「おい。聞いてるか?」
「大丈夫!聞いてる」



 手をヒラヒラと振ってアバドンに答える。そもそも、結界の魔力を感じ取ることをズィーリオスからの課題として出されているのだから、そこまで行くほどのことにはならないだろ。いくら世界の壁が近く、距離が近いところと言え、今まで聖域内でそんな魔力を感じたことはない。“黒の書”の魔力なら感じ取ったが、それは実物が聖域内の空間に合ったからだ。それも“黒の書”側からの呼びかけが合ったんだし。世界と世界の間にある結界の魔力を片方の世界からどう感じ取れっていうんだ。


 ズィーリオスの背を軽く叩いて進むように促す。そして、後方からズィーリオスに向けて語られた念話は聞かなかったことにして、俺とズィーリオスは滝の裏側にある洞窟の中へと入って行った。
















 これ、中はどうなっているんだ?辺りを淡く照らしてくれるズィーリオスの光の球体。そして確認できるのは、目の前に広がる3本の道。そして、ここに来るまでの道のりの全ての分かれ道が3本になっていた。しかし、不思議なのが分かれ道に入ってすぐにまた分かれ道があるところだ。分かれ道から次の分かれ道まで、一番遠い距離でも10メートルぐらいじゃないだろうか。



「ズィー。ここってどうなってるんだ?」
『迷路?』
「・・・迷路だな」



 ズィーリオスも流石に困惑してきたようだ。正解の道を知っていると言っても、ここまで何度も分かれ道があるとは思ってもいなかったらしい。それもそうだ。



「迷子になっていないよな?」
『大丈夫だけど・・・』
「え、何。正解の道、知ってるんでしょ?もっと自信持てって」



 人を不安にさせるような言い方をしないで欲しいものだ。



『そろそろ奥に着く頃だよ・・・たぶん』
「・・・たぶん、ね」



 構造から分かる通り、ここの洞窟は人工的な造りをしていた。昔から聖域とされているなら、この場所は神々がいた時代の人たちが掘り進んだ場所なのだろうか・・・。

 洞窟内には俺の声だけが反響し、他に物音ひとつしない。あまりにも静かすぎる空間のせいで、ズィーリオスに何かしら声を掛け続けたくなる。そして、その感情のままにあまり時間を置くことなく口を開く。



「なあ、ズィー。もし、間違った道を進んだ場合ってどこに行くんだ?」
『分からない』
「え?」



 分からない?分からないってあるのか?何それ。不正解の道は生きて帰れないから何があるか分からないってオチじゃないよね?

 そっと今まで来た道を振り返る。何処までも続くと思えるほどの何もない真っ暗闇が続いていた。まるで深淵へと続く道のりのようで体をブルりと震わせ、俺は進行方向に向き直る。


 すると、通路の先で僅かに光る点が見えた気がした。



「あ!今何か光った!」
『光ったな!』



 ズィーリオスも見えていたようだ。やっと見えた光に俺たちを安堵し、心持ち軽くなる。そして、速足になったズィーリオスに乗って、俺たちは光の先に向けて駆けて行った。
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