はぁ?とりあえず寝てていい?

夕凪

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腕輪型の魔道具

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 ユヴェーレンはホッと胸を撫で下ろして、表情を和らげた。反対に、アバドンは邪魔が入ったことで少し残念そうに口を尖らせていた。しかし、そんなアバドンでもユヴェーレンがいきなり叫び出した理由には興味があったようで、すぐさまなんてこともなかったかのようにユヴェーレンの言葉を待ちだす。

 アバドンの視線に苦々しい表情を浮かべたユヴェーレンは、一度アバドンを睨み付けたあと、俺に顔を向けた。



『ほらぁ。さっきその魔道具の効果について見覚えがあるって話していたじゃなぁい?それを思い出したのよぉ』
「そういうことか!」



 おお!思い出せたのか!それは良い報告だな!このユヴェーレンの念話はガルム達にも届いていたようで、何のことかと首を傾げる面々に状況を教えた。そして、彼等が状況を理解したのを確認し、俺はユヴェーレンに頷く。



『その魔道具を使うと魔物を操ることが出来るようになるわぁ』
「「なっ!?」」
「「ッ!?」」



 誰ともなく全員が息を飲む。



「魔物を、操る・・・だと?」



 ガルムが茫然と床の上の魔道具に目を向ける。魔物を操るなんて聞いたことがない。



「それは・・・テイマーとは違うんですよね?」



 アネットが恐る恐るユヴェーレンに尋ねる。姿が見えていないので見当違いの方向を向いているが、ユヴェーレンは自分に対しての質問であると判断できたようだ。



『えぇ。全然違うわよぉ。テイマーの魔物はぁ、魔物側が自らの意思でその人と共にいたいと感じて降伏している状態なの。だからぁ、テイマーからすると魔物を使役していてぇ、共に生きて行くパートナーみたいなものなのよぉ』



 アネットが頷き、ガルム達の視線が俺とズィーリオスに注がれる。そう言えば、俺は冒険者ギルドでテイマーとして登録していたんだったな。ガルム達からの視線を受けて、自分の立場を思い出す。そうだそうだ。ズィーリオスはエレメントウルフという種族だということになっているんだった。テイマーとしての俺の在り方を完全に忘れていた。俺はユヴェーレンの言葉で、完全に他人事のように聞いていたことに気付く。ガルム達はズィーリオスが聖獣であることを知らない。だからこそ、テイマー自身がテイマーがなんたるかを忘れてはいけない。



「そうだった。テイマーって普通、使役している魔物に戦わせるもので、テイマー自身にはほとんど戦闘能力はないんだったな・・・」



 ガルムの発言と共に、一斉に大地の剣の面々から視線が突き刺さる。



「・・んだよ」
「いや、認識がおかしくなっていたなと思ってな」



 ガルムの言葉にアネットやジェイドが力強く頷く。ナルシアは苦笑いを浮かべて俺を見ていた。隣で緊張感のないアバドンの欠伸の音が聞こえる。



『でぇ、話を続けるわねぇ?』



 俺とガルムの無言の見つめ合いをユヴェーレンが終了させる。



『だけどぉ、この魔道具は“魔物を操る”なのよぉ。どういうことかと言うとぉ、魔物側の意思などは関係なく無理やり服従させるのぉ。傀儡にするって言ったら分かるかしらぁ?』
「なるほど、操り人形にするってことか・・・」



 ガルムがユヴェーレンの説明を聞いて眉を顰めて考え込む。顔を歪ませた俺は、魔道具を睨み付ける。今、言われて気付いたことがあった。俺は、その現象に心当たりがあるのだ。

 心ここにあらずといった様子で虚無な目をしていた魔物。
 見たことも来たこともない場所なのに、まるでそれが何なのか、ここが何処なのかを予め知っていたかのように迷いなく行動していた魔物。
 


「あのオーガか・・・」
『可能性は高いな』



 ポツリと呟いた俺の言葉にズィーリオスが反応する。



「あっ、話には聞いていたっす。オーガの群れがここを襲ったんっすよね」



 ジェイドたちも一応知っていたのか。肯定をして俺はユヴェーレンに顔を向ける。



「どれだけの規模の魔物を操れるか分かるか?」
『ええ、勿論よぉ。この魔道具ではぁ、1体が限度かしらぁ?あ、でもぉ、弱い個体なら2、3体はいけそうねぇ』



 ユヴェーレンが魔道具に近づき目を凝らしてよく視た後、再び距離を取りながら告げる。



「だったらあのボスで確定だろうな」



 アバドンがぶっきらぼうに告げて欠伸を放つ。ヤバい。俺も眠くなってきた。アバドンから移された欠伸を放ちながら、俺もその時のことを思い出す。

 あのボスは明らかに強かった。弱いと言えるようなランクではない。アバドンからしたら他と違わず弱いだろうが、これまで見てきた魔物に比べると強い分類ということが分かっているのだろう。



「オーガの群れのボスか・・・・。なら少なくともAランクはあるだろうな。1体しか操れないなら、群れのボスを操る方が効率が良い。群れを統制できるボスを操って、自分たちの戦力として利用したのだろう」
「だったら、その群れのボスのオーガは普通のオーガではないわね。ジェネラルかしら?」
「実際にどれだけの規模の群れだったかが分からないから何とも言えないけど、かなり大きそうだからキングの可能性もあるわよ?」
「あとホーンホースのボスの方も上位種の可能性が高いっすよね」
「そうだな。騎馬隊のオーガとなるとジェネラルの可能性が高いか?」
「でもオーガならキングの可能性もあるっすよ」
「そうよねー。でも変異種だったのでしょ?ジェネラルの変異種なら、キングと同様のレベルでもおかしくないわ」



 大地の剣の皆が色々と話し合いを始め出した。上位種がどうのという話をしているが、今はその問題を話し合う時ではない。



『オーガの上位種の変異種が裏ギルドに操られていて、更に世界樹の樹液のバフを掛けられていた可能性があるっていう感じか?』



 今、考えられるのはこれしかない。話し合いが盛り上がっている大地の剣を尻目に、俺はズィーリオス達に念話で問う。



『ああ。その可能性が一番有効だろう』
『だな』
『そうでしょうねぇ。そして、その世界樹の樹液についての実験も行ってみないと』
『なら、誰にもバレないように遠くまで移動しないといけないな』



 ガルム達に対してこちらはコソコソと念話で話し合い、今後の動きを決めて行く。



『それならぁ、こっちに来ているついでに聖域の近くに行きましょぉ。聖域の周辺ならば人はいないでしょうしぃ』
『え?』



 この辺に聖域があったのか!?ズィーリオスから聞いていないぞ?でも、深海での時のように、世界樹の近くに聖域があるのはなんらおかしいことではない。目を見開いたままズィーリオスに顔を向けると、コクリと頷かれる。



『俺としてもその方が良い。リュゼが抱えている物も教えてしまったし、あそこの聖域に行くのはありだな。もし実験の途中で何かあってもすぐに逃げられる場所だからな』



 逃げ込める場所という意味では、聖域はこれ以上ない安全地帯だ。まあ、そんなことになれば、俺が逃げ込む前にアバドンが倒していそうだけど。



『良し。それなら、道中で手ごろな魔物を捕まえるのを忘れないようにしないとな』
『オーケー!それならこの俺様に任せとけ!!』



 聖域付近は魔物が寄り付かないようになっている。だからこそのズィーリオスの発言であると分かっているが・・・。アバドンはちゃんと言葉の意味を理解しているのか?大丈夫だろうか?魔物を“捕まえる”であって“倒す”ではないんだけど・・・。矢鱈とやる気満々なアバドンに一抹の不安を覚えるが、もし倒してしまったとしてももう一度捕まえれば良い。首を横に振って、僅かに残る最後の不安を振り払った。
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