はぁ?とりあえず寝てていい?

夕凪

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魂の欠片同士

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『リュゼ?本当に大丈夫?』



 意識が自分の内側から外に向く。反応を示さない俺に、ズィーリオスが不安そうで心配そうな声で尋ねて来る。その声で俺は今の状況を思い出した。



「あ・・・・。ズィーリオスごめん。大丈夫だから」



 ズィーリオスの声に返答し、ユヴェーレンや周囲の精霊王たちにも大丈夫であることを伝える。しかし、ズィーリオスをユヴェーレンや精霊王たちも俺の言葉を信じていないようだ。



『全然大丈夫には見えないけどぉ?』



 ユヴェーレンがコレが原因?と探るように俺の右手をジッーっと見つめる。ユヴェーレンだけなら押し通すことも出来る展開だが、他に6人もいる精霊王たちまでは流石にキツイか?



「いや、ちょっとびっくりしただけだから・・・」



 予想以上に真剣な顔をしている面々に頬が引きつく。なんでそんなに食い気味なんだ?



『でも、ここが光ってから様子がおかしかったものぉ。欠片の1つであるその禁書がぁ、持ち主であるリュゼにどのような影響を与えるかぁ、私たちには分からないわぁ。心配もするわよぉ』



 やっぱり、黒の書がエンリュゼーファ神の魂の欠片であることは確かだった。そして、ユヴェーレンが続けた言葉に納得がいった。魂の欠片が2つ揃うということは、今まで前例がなかったのだ。だからこそ、その欠片が集うことで起こる事象は想定が付かない。黒の書にも意思があるのだ。今のところ、黒の書に俺の意思を乗っ取られるという危機感は全くないが、起こり得たかもしれないということだろう。



「心配してくれてありがとう。でも、本当に心配しなくて良い。今、俺とこの黒の書の根本が、同じ1つの魂でありその欠片であることを認知したことで、黒の書に感じていた違和感の原因が分かったんだ。今は、こう・・・・もっと深い所まで1つになった感じ?がするんだ」



 言葉にしようとするが、この感覚はなんとも言えない。
 初めて黒の書を目にした時、これは俺の物だという感覚が強かった。そして、実際に右手の甲に紋章が刻まれ俺の物となった時、足りなかったモノを手に入れたような、失くしていた物を取り戻したような満ち足りた感情が広がった。そして今は、その時に得た感覚よりは弱いが、確実に似たような感覚が胸の中を満たしている。枷が外されて自由になり、本領を発揮できるようになったみたいな・・・。あ、それが近いかもしれない。



「そうだ!まるで、今までは枷を嵌められていたけど、本質を理解したことで自由になったような感じだ!黒の書の本領を発揮できるようになった感覚がするんだ!」



 1人頷きながら満足する。誰も俺の感覚に同意することが出来ないが、そんなことは俺には関係ない。自分自身が満足しているのだからそれで良いだろう。



『本当に・・・問題はない、のだな』



 戸惑いながら呟くように零すズィーリオスに返答はしなくてもいいか。無言は肯定を示すっていうし。そんな俺とズィーリオスの会話を聞き、ユヴェーレンや精霊王たちはなんとも言えない顔をしているが納得したようだ。俺が嘘を言っていないことは確認しているだろうからな。



『大丈夫ならいいのぉ・・・。でも異変を感じたらちゃんと言うのよぉ?』



 それでも、最後の一押しとばかりに告げるユヴェーレンにテキトーに頷きながら、ズィーリオスの毛繕いを行う。やっぱりもふもふは触っているだけで気持ちが良い。この毛並みは至高だ。



『本人が大丈夫と言っているのだから、我々がそこまで心配することはないだろう』
『そうだネー』
『はぁ。欠片同士が反発する可能性は低いと証明されたのは良かったわぁ』



 雷の精霊王のおかげで、この話は終息する気配が漂い出した。俺と契約関係でないからこそ、そこまで心配していないのだろう。



『でもぉ、この光は何ぃ?ずぅーっと光っているわよねぇ?』



 しかし、先ほどから光続けている紋章についてはスルー出来なかったようだ。視界に入ってしまうので仕方ないか。



「多分喜んでいる?」
『禁書がか?』
「そう」
『・・・』



 首を傾げながら答えた俺に、雷の精霊王が確認を取る。誰も何も言わない。あれ?禁書に意思があることを精霊王たちは知らなかった?



「こいつに意思はあるぞ?」



 雷の精霊王が俺の目をジーっと見て、溜息を吐いた。



『そうか。なら、その欠片はエンリュゼーファ神の魂の欠片の中でも大きい方だったのだな』



 大きさとかは分からないが、雷の精霊王は勝手に何かに納得したようだ。それに、他の精霊王たちも納得したらしく首肯していた。



『えーっとぉ。何の話をしていたんだっけぇ?』
『エンリュゼーファ神の魂が複数の欠片となって散って行ったってところだ。そして、そのうちの1つがリュゼの魂であり、そこの禁書だと分かったってところだな。リュゼがいることで結界の効果が切れる時期が図れるという説明をしていない。やはり歳か?』
『へー?』



 ユヴェーレンの疑問にズィーリオスが答えたが、ズィーリオスの余計な一言のせいで怪しい雰囲気が漂い始める。目を閉じたままのズィーリオスは余裕の態度であり、その態度が余計にユヴェーレンの癪に障ってしまったようだ。俺のすぐそばで不穏な威圧をぶつけ合わせないで欲しい。俺を巻き込むんじゃない!

 だが、ズィーリオスが動かない限り俺も動けない。これは先ほどのことをまだ根に持っていたようだな。

 ユヴェーレンの不穏な気配に、周辺で俺たちの様子を窺っていた精霊たちが一斉に散って行った。それに対して雷の精霊王が咎めたことで、ユヴェーレンはズィーリオスを睨みながら渋々威圧を辞めた。



『全く、闇よ。折角後継者の契約者となったと言うのに、同じ守護者と争い合ってどうする。そして聖域の管理者よ。闇を煽るようなことをいうのは控えてくれぬか?』



 雷の精霊王が両者を諫め、両者とも気まずそうにし出した。凄いな、雷の精霊王。簡単にこの2人の喧嘩を止めたぞ。いつもは落ち着くまで放って置いていたのに。



『お?!もしや私との契約に興味があるか?』
『『ダメだ(よぉ)!!』』


 俺が雷の精霊王を見つめていると、片眉を上げ、楽しそうな雷の精霊王が問いかけて来る。そんなに俺の顔は物欲しげだっただろうか?いきなりの契約のお誘いに動揺していると、ズィーリオスとユヴェーレンが同時に制止の声を上げた。あまりの息のピッタリぐらいに驚き、そして、込み上げて来るものを抑えることが出来ずに噴き出してしまったのだった。















 俺が息を整え終えた頃。場の空気は当初よりも和やかなものになっていた。きっと、先ほどの雷の精霊王の言葉が冗談だったのだろう。



『因みに誤解のないように言っておくが、先の発言は冗談半分、本気半分だ。君が本気ならいつでも大歓迎だ』



 ・・・冗談は半分だったらしい。でも、この言葉すらもまるで冗談だというような雰囲気で発するため、本気かどうかが分かりにくい。両サイドで俺を挿むように座っているユヴェーレンとズィーリオスを両手で抑えながら、一先ず断っておくことにした。今後気が変われば契約しても良いかもしれないが、今のところはそのつもりはない。というのも、雷の精霊王以外の精霊王たちの獲物を狙うような視線が怖いからだ。まるで食らいつこうとしている獣のような目で俺を見ていたため、直感が契約するなと言っていたのだ。



『それでぇ、話を戻すわねぇ。結界の効果が切れる時期についてだけどぉ、それは欠片を持っているリュゼが感知できるってことではないのぉ。同じ魂を持っていると言ってもぉ、リュゼが張った結界ではないからねぇ。だったらどうやって判断するかだけどぉ』



 ユヴェーレンが俺を真っすぐに見る。まるで、俺の瞳のその奥を覗き込もうとしているかのようだ。



『それはぁ、リュゼの存在そのものなのよぉ』
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