はぁ?とりあえず寝てていい?

夕凪

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リュゼの秘密2

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「俺がいると結界が消える時期が分かる?あっ。俺がエンリュゼーファ神の魂を持っているから感知できるとか!?」




 これしか考えられないだろう!自信満々にドヤ顔で答えた俺の回答は、即座に返された真顔のユヴェーレンに否定されたことであっけなく砕け散って行った。俺の顔面も同様に、表情筋がスンっと働かなくなる。




『魂が関与しているのは合っているのだけれどぉ、他の人っていうかぁ、そこの聖獣は当然ながら私たち精霊王も知っているわよぉ。この場に居る精霊王のみだけどぉ』




 それはつまり、俺だけが知らないということだな。・・・・またこれも、秘密とやらが関わっているのか?



『実はねぇ、エンリュゼーファ神が消滅する間際にぃ、自身の魂に細工をしたって話は覚えているぅ?』



 あー。確かそんなことも言っていたな。数秒考え込んで思い出したあと、ユヴェーレンを見ながら頷く。真面目な顔で俺に問いかけているので、ふざけようとしているわけではなさそうだ。本当に真面目な話なのだろうとこちらも真剣に耳を傾ける。



『このエンリュゼーファ神の魂はぁ、完全に消滅するわけではなくて砕けたのぉ』
「砕けた?」
『ええ。そうよぉ』



 魂って砕けるのか?まるで魔石のように。・・・物質だったって初めて知ったんだが。今までの俺は、魔力みたいに形のない力みたいなものだとばかり・・・・。

 撫でるズィーリオスの手を片方止め、自分の心臓に手を当ててみる。ドクンッドクンッという鼓動を感じる。石のようなものの気配は感じない。・・・・そりゃそうか。もし感じたら、即心臓の痛みと共に血管を傷つけて死ぬか。

 身内には概念を腐らせることが出来る奴がいるんだから、魂が砕けたとしてもおかしくはないか・・・?



『えーっと。いいかしらぁ?』
「・・・ああ」



 俺が自分の世界に入ってしまっていたことを即座に見抜いたようだ。流石俺と一緒に旅をしてきたユヴェーレンである。このぐらいのことはもう見抜けるのか。そして、俺が戻って来るまで待ってくれるのはありがたい。



『この魂はぁ、砕けて複数の欠片となったのだけれどぉ、この中の欠片にはいくつか大きい欠片があったのぉ。細かい欠片は回収不可能なほどに細かすぎて消えてしまっているのだけれどぉ、この大きい欠片に関してはぁ、今もまだ残っているのぉ』



 そう言って真っすぐに俺を見て来るユヴェーレンの目と合うと、俺はユヴェーレンが言いたいことが何かを理解した。



「そうか。つまり、その欠片の1つが俺と言う訳か」
『ええ。そういうことよぉ』



 やっと俺の秘密についての全容が見えて来た。俺はエンリュゼーファ神の魂の欠片を持っているから、完全なエンリュゼーファ神とは違う後継者という扱いなのか。魂の一部を引き継いでいるからという意味で。まるで職人みたいな考え方だな。いや、職人の方が、完全に引き継がないと後継者とは言えないこともあるな。こればかりはその師匠の人柄次第だし、なんとも言えない。



『そしてぇ、この欠片なのだけどぉ、勿論他にもあるわぁ。それもぉ、魂とは違って姿を変えた状態でね?』
「姿を変えて?」



 ユヴェーレンは、間違いではないことを後押しするように力強く頷き返してくる。魂は魂ではないのか?



『ええそうよぉ。特に力の強い欠片だけがねぇ?』



 そしてユヴェーレンが俺のすぐ目の前まで近寄って来る。無言で近づいて来る美女というものは・・・、こう、圧力を感じるな・・・。俺が下がるとユヴェーレンも距離を詰めるため意味がない。仕方なく下がる足を止めてユヴェーレンを見つめ返すと、ユヴェーレンは視線を外して、ズィーリオスを撫でる俺の両手に手を重ねて来た。顕在化をしていないため触れることはないが、優しい魔力の塊が俺の手の甲を撫でる。思わず手を止めた俺だったが、これは不可抗力だということをズィーリオスに伝えたい。文句はユヴェーレンまで!

 ズィーリオスの耳が、ピクリと動いたのが視界の端に映る。もう機嫌は直っているのか。それともまだか。確認する勇気など出てくるわけもなく、ユヴェーレンの次の動作に意識を集中させる。



『その欠片の1つがリュゼ自身ねぇ。そしてぇ・・・』



 ユヴェーレンが俺の両手かズィーリオスの後頭部からかは分からないが、下に向けていた顔を上げる。その瞳は真っすぐに俺の瞳を捕らえていた。逸らすことは出来ない。



『もう1つを既にリュゼは持っているのよぉ?』



 え?持ってる?いつの間に?首を傾げ、ユヴェーレンを見つめながらこれまでのことを回想する。何かそれっぽい物を手に入れただろうか。視線が次第に下がって行く。そして、その視線がユヴェーレンに覆われている両手に辿り着いた瞬間、それが何を指しているかを理解した。



「もしかして・・・!?これ、か!?」



 限界まで目を見開いた俺は、右手を強く握りしめ、左手を右手の甲に添える。その瞬間、俺の意思に反応したように右手の甲が光だした。いや、違う。見えなくなっていたあの紋章が浮かび上がったのだ。

 六芒星の中央部には、宇宙を思わせる引き込まれそうなほど美しい細工。黒の書の所有者を示す紋章が、呼応するかのように光を放っている。その光を目にした精霊王のものと思われる感嘆の声が聞こえてきた。



『そうよぉ』



 顔を上げると、ユヴェーレンが嬌笑を浮かべていた。けれど、その目はどこか悲しげにも嬉し気にも見えた。妙に気になったその瞳の色に、俺はユヴェーレンに問いかけようとした。しかし、無意識かワザとかは分からないが、俺の言葉を遮るように先にユヴェーレンが口を開けた。



『そしてぇ、その右手を開いてあげてぇ。折角綺麗にしたのにぐちゃぐちゃになっちゃうわぁ』



 喉元まで出かけた言葉を飲み込み、俺は自身の右手に視線を下ろす。すると、そこにはズィーリオスの毛を鷲掴みにする俺の拳があった。



「あっ、ごめん!ズィーリオス!」



 咄嗟に謝りながら手を離し、跡がついてしまった毛を撫でつける。すると、必ず視界には紋章が映りこむ。



『長すぎるよ?』
「・・・???」



 聞いたことがあるようなないような、どこで聞いたか思い出せない声が聞こえた。周囲の精霊王たちを見渡してみるが、声の主らしき者はいない。逆に、いきなり顔を向けた俺に対し、不思議そうに首を傾げて見つめ返したり、柔和な笑みを浮かべて見つめ返されるだけだ。誰の声だ?



『少し話さなかっただけで忘れたの?ずっと一緒にいるのに?』
「え?」



 俺の様子がおかしいことに気付いたユヴェーレンやズィーリオスは、すぐさま警戒して周囲を見渡す。けれど、結界に覆われ精霊しかいないこの場に、不審者が入り込んでいることはあり得ない。

 ずっと一緒にいる?そしてこのタイミング。そこから考えられるのは、黒の書しかない。



『そう!そうだよ!』



 喜びに溢れた声音は、確かに黒の書の意思であることを物語っていた。声を聴くのはかなり久しぶりじゃないか?最後に聞いたのはいつだっただろうか?



『うーん、数カ月前ぐらいだったかな?ってそれはどうでも良いんだよ!君がお互いの本質を知ったことで、完全に魂が馴染んだようだね』



 数か月前なんだ・・・。て、あれ?今まで意識がある間にこんな風に会話が出来たっけ?



『いやー、出来てないよ。馴染んだからこそできるようになったことだね』



 さっきも馴染んだとか言っていたな。そうか。俺と黒の書の繋がりを、俺自身がはっきりと認識したから馴染んだのか。



『そうだねー』



 ああ、そうか。俺の感じていた懐かしさは、魂由来のものだったのか。

 自分の中にもう一つの自分がいるような不思議な感覚が全身を支配する。そして、その陰に隠れる様に、黒の書の声に感じる違和感がスッと消えてなくなった。
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