はぁ?とりあえず寝てていい?

夕凪

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世界の危機?

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「たて?たてってあの防具とかの盾?」
『そうそれ』



 普通の世界をイメージした青と緑の星の前に、赤黒いおどろおどろしい星が宇宙空間に浮かぶイメージが脳内に広がる。・・・絶対に違うだろ。



『なんか変な事考えてない?』



 俺の脳内を見たのか?見れないはずなのだが・・・まあズィーリオスだし?取り敢えずズィーリオスの問うような視線からは目を逸らしておく。



『・・・・・盾は比喩に決まっているだろ?結界を地獄とまとめて張ったんだよ。精霊の園の結界はまだしも、魔界の結界を破壊されるとかなりヤバいことになるからな。魔族と人族の戦争が始まって大量の死者が出る。だから結界を破壊されないように悪魔を利用しているんだよ。流石に悪魔が出て来ると、魔族だけの被害に留まらず世界が崩壊する危機があるからな』



 あー。アバドンのあの呪いの力を見ていると、世界が崩壊するのも納得できるんだよなー。アバドン1人でも世界を崩壊させることぐらい出来るだろうし。

 そう考えると・・・・。魔界アンド地獄の結界は相当強力な結界なのだろう。そして、その結界を超えて来たアバドンはよく頑張ったんだな。俺と契約するために。・・・・頑張るところが違う気がするけど。



『でも、だ。それは、今だからこそ効果がある方法だ』



 今だからこそ?それは結界があるうちは、ということか?俺の疑問が顔に出ていたのだろうか。ズィーリオスは無言で説明を続けた。



『結界があるうちっていう考え方も正しい。知っての通り、結界は時間が経てば維持出来なくて消えてしまう。だが、よく考えてみてくれ。力を削ぎ落されているラドニア神が、もし力を取り戻したら?』



 取り戻したら・・・マズイことになるな。まさか・・・これから起こることとは、そのラドニア神が力を取り戻すまたは、結界が消えるとかか?

 顔面の筋肉が強張る。かなり昔に結界を張ったらしいから、結界が消えるということはあり得る。ラドニア神が力を取り戻さなくとも、結界が消えてしまえば、悪魔たちが押し寄せて来る可能性があるということだ。

 それに、ラドニア神が力を取り戻したら、精霊の園が危なくなるかもしれないのか。あ、でも・・・ラドニア神の信徒であるエルフやドワーフのパートナーとなる精霊たちの存在を消すだろうか?消さ・・・ないだろう。大丈夫じゃないか?



「結界がいつ消えるかっていう危険性はあるが、ラドニア神が力を取り戻しても大丈夫じゃないのか?精霊の園が地上に出たとしても、エルフとドワーフがいるから大丈夫だろ。魔界の方も地獄が盾になっているから何の問題もないはずじゃ?」



 ズィーリオスがラドニア神のことを警戒する意味が分からない。



『俺たちは生命神から記憶だけを受け取っているだけに過ぎない。ラドニア神の本当の力がどの程度か予測できていない。それに、悪魔よりも神の方が力が強いのは想像に難くないだろ?だから、地獄にいる悪魔に関係なく魔界を潰しに掛かって来る可能性も考えないといけない。世界は簡単に亡びるぞ。神の力が直接介入する可能性があるんだ』



 それは・・・・一理ある。神が悪魔より弱いわけがない。数々の神々を屠っていた神だ。悪魔など物の数でもないのだろう。



『確かに、その可能性もあるな・・・』



 俺は真剣に考え込んでいると、ユヴェーレンの声が割り込んで来た。



『だけどぉ、今のところはラドニア神のことは気にしなくて良いわよぉ。力を取り戻しているって様子はないみたいだからぁ』
「え?」



 今まで、あれほどズィーリオスに警戒心を植え付けられたのに、気にしなくて良いだと???俺の必至な思考時間と気力を返せ!

 ズィーリオスを恨みがましく睨んでやると、眉根を寄せて不機嫌な顔になる。



『だって、可能性があるなら伝えておいた方が良いと思ったから!いつ何が起こるか分からないでしょっ!!』
「そ、それもそうだな!悪かった!」



 不貞腐れてそっぽを向いてしまったズィーリオスに慌てて謝る。そうだよな。事前に全ての最悪の可能性を考えて、対策を練っておくことは大事だよな!

 俺がズィーリオスの機嫌を取っている間、ユヴェーレンが精霊王たちの冷たーい視線に晒されていたことは言うまでもない。
















 それから暫くして。
 ズィーリオスの顎を俺の膝の上に乗せ、ブラシを使って毛繕いをしていると機嫌が直ったようだ。



『えーっとぉ。責任を取ってここからは私が説明するわねぇ』



 ユヴェーレンがズィーリオスの様子と、他の精霊王たちの様子を窺いながら告げる。ズィーリオスがユヴェーレンの言葉に全く反応を示さないところが逆に怖い。気持ちよさそうに目を細めて、耳をペタンと後ろにくっ付けているズィーリオスの毛繕いをする手は止められない。席を立つことも許されない。俺とユヴェーレンは真面目に大人しくしておこう。無言で目を見合わせて頷き合う。



『結界のことなんだけどぉ。これはぁ、今起きる可能性が一番高いことよぉ』



 やっぱり俺の予想通りの結果だったか。結界の維持のタイムリミットが近づいていると。



『ここで問題ねぇ?他人が張った結界がいつ消えるか分かるかしらぁ?』
「問題・・・?」



 いきなり来た問題に思わずオウム返しをしてしまった。なぜ唐突にこんな簡単な問題を出したんだ?



「分かるわけがないだろ・・・?」



 問題にするぐらいだから、もしかして反対に分かるものなのか?俺が結界の切れる時期を見切れないだけか?



『正解よぉー!』
「・・・」



 正解なのかい!俺にどんな反応をしろと?真面目にやろうという意思は通じていなかったようだ。どうやら俺だけが真面目にお勉強をしようとしていたらしい。なあ、ズィーリオス。毛繕いしている手とは反対の手で、ズィーリオスの鼻筋を撫でる。尻尾が大きく揺れていることから、喜んでくれているようで和む。



『ねぇねぇ!聞いてる?』
「ん?」



 ズィーリオスから顔を上げると、目の前に頬を膨らませたユヴェーレンが立っていた。俺がズィーリオスに癒されている間に、何か言っていたらしい。



「あー、ごめん。何も聞いてなかった」
『もぉー!』



 いや「もぉー!」じゃないと思うんだ。絶対に碌な事喋っていない。さっさと結界についての説明をしてくれ。



「で?結界の効果が切れる時期が分からないのが普通なんだろ?それがどうしたんだ?」
『だからぁ!それを今説明していたのよぉ!!』
「マジか・・・!」



 想定外の返事に驚愕がそのまま口からついて出て来た。いきなりの俺の大きめの声に、ズィーリオスの耳がピンっと立ったのはセーフだろう。機嫌は良い状態のままだ。そっと胸を撫で下ろす。



『仕方ないわねぇー。相変わらず自分の世界に入ったらぁ、なぁーんにも聞いていないんだからぁ』



 それはー・・・すまない。聞こえないものは仕方ないと思うんだ。だって聞こえないんだから。ユヴェーレンから目を逸らしながら宙に視線を彷徨わせる。視界のほとんどがユヴェーレンの体に遮られているため、ユヴェーレンの視線からは逃れることが出来ているが、ユヴェーレン自体からは逃れることが出来ていなかった。更に、ユヴェーレンが顔を少し動かすだけで、俺の視界にユヴェーレンが入って来るのでやめてほしい。ユヴェーレンからしたら俺の行動の方を止めて欲しいのだろうけど。



『今度はちゃぁーんと聞きなさいよぉ?』



 溜息を吐いたユヴェーレンが後ろに下がりながら告げる。視界の占有率が下がったことに安堵しながら、そのことを悟られないように表情を引き締めてユヴェーレンに頷き返した。

 

『普通の結界は分からないものなのぉ。だけどぉ、エンリュゼーファ神の結界だけはぁ、貴方の存在によってその時期が分かるのよぉ?』
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