はぁ?とりあえず寝てていい?

夕凪

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神話の続き

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「マジか・・・。そんな聖戦があったんだな・・・」



 今まで知らなかったこの世界の神話はまさに聖戦と言えるものだった。なぜ、ほぼ全滅するまで抗い続けていたのだろうか。たくさんの仲間が消滅したことで、後に引けなくなってしまったのだろうか?それとも、お互いに連携が上手くいかなかったのか?分からない。分からないが、なぜ欲の神は他の強そうな力を持っている神々に勝つことが出来たんだ?



「なら、今世界に君臨している九元教の主神ラドニア神は、本来は欲の神ってことか」
『そうなるな』



 ズィーリオスが鷹揚に頷く。



「だったら、今存在する神は生命神とラドニア神ってことか?」
『いや。それが違うんだ』
「は?」



 言っている意味が分からない。神話では、生命神は長い眠りについたって感じのことを言っていたじゃないか。最後にラドニア神の前に立っていたエンリュゼーファ神が消滅し、他に残っているのは生命神だけだろ?



『実は生命神も消滅してしまっているんだ』
「は・・・・・???」



 ズィーリオスは一体何を言っているんだ?生命神は世界を守るために力を使い果たして、復活のために永い眠りについていたんだろ?なんで回復中の生命神が死んでるわけ?え?まさか・・・。寝込みを襲われた?自分の魂は守るのを忘れて?



『まあ、そうなるよねー』



 ズィーリオスが渇いた笑みを浮かべた後、真顔になって溜息を吐く。



『というのもね。ラドニア神が実質的に主神になったあと、世界の様子が変わり果てていたんだ。当然神々の戦いの影響は少なからず出ていたからね。だけど一番の違いが、エンリュゼーファ神が最期に施した結界。これは、空間の神の力と結界の神自身の力を使った結果だったんだ』



 そしてズィーリオスの説明は続く。


 消滅した神々の力を象徴する力を持つ者達は、ラドニア神にとって目障りな存在となってしまった。主神という立場を利用し、消滅した神々の力を使う者達を、それ以外の者達に迫害するように仕向けていた。そのことを警戒していたエンリュゼーファ神は、それらの力を持つ者達・・・俗にいう魔族を、別の空間へと保護するために隔離したのだ。それがのちに魔界と呼ばれる場所である。

 残念ながら、全ての迫害された魔族達を魔界に移動することは出来ておらず、魔族狩りが行われてしまったらしいが。


 また、自然が荒れ、世界が荒れていた世界で、精霊が生活することはその性質から厳しいものがある。そのため、精霊たちも精霊の園に隔離・保護されることになった。しかし、エルフやドワーフたち精霊と共に生活する者達のために、魔界のように完全に隔離されることはなく、世界との入口を開くだけにしていた。

 その結果、世界に種族の多様性がなくなり、現在のような形になった。そして世界には、火、水、地、風、植物、雷、氷、光、闇の9つの力だけが残されることになったのだ。



 そうして世界は、大きく分けて3つに分けられた。

 魔族が住む魔界。
 精霊たちの住む精霊の園。
 人間や獣人などの人や、動物や魔物が存在する中間界。




 結界によって分けられたことで、全ての種族が生きながらえることが出来たが、ラドニア神はそれが気に食わなかった。

 自身がこの世界の主神となることに成功した。そして、世界の生命たちに崇められる状況を作り出したが、消滅してもなおラドニア神を邪魔したエンリュゼーファ神の結界に怒りが爆発する。怒りのままに、ラドニア神は世界を分けた結界を破壊しようとしたのだ。

 しかし、それは生命神によって防がれた。その頃には、丁度生命神が目覚める最低限の力が回復していた。それでも、本来ならば目覚めることはあり得ない程僅かな力である。けれど、世界の危機を察知した生命神は、無理やり自身を覚醒させラドニア神の行動を阻止した。それは、ラドニア神の力を削ぎ落すことに成功はしたが、ラドニア神自体を消滅させるには至らなかった。

 生命神は自らの消滅を対価に、ラドニア神が結界を破ることが出来ないようにしたのだ。しかし、生命神にも誤算があった。それは、削ぎ落したラドニア神の力が完全には消滅せず、中間界に落ちて行ってしまったのだ。だが、それを対処するにはもう力が残っていない。

 ラドニア神は欲の神。自身の欲望を叶えるために再び結界を破壊しようとするだろう。そのためには、生命神によって削ぎ落とされた力を回収する必要がある。だからこのことを伝えないといけない。そうして生命神は、いつかの日のために自らの最後の力を振り絞り、記憶を託したのだ。結界が破壊されると危険な、そのトップの者達に。






「それで・・・・、皆知っていたのか」
『そういうことよぉ』



 ユヴェーレンの言葉に、他の精霊王たちも頷く。どうやら精霊王たちは、精霊王の代替わりが行われる度に、新しい精霊王にこの神話を語り継いでいるらしい。そのため、ずっとその時代から生きているわけでも、生まれる度にその記憶を持って生まれているわけではないらしい。

 聖獣の記憶の伝承が変わっているだけである。では、悪魔は?



「じゃあ、悪魔の方は?」



 俺の秘密は知っているようであったが、神話のことは分からない。しかし、なんとなく知っているような気がする。



『あの子も知っているわよぉ。流石に上級・・・公爵位の悪魔にはこの件について知らされているみたいだからねぇ』
「そうか」



 魔界のトップといえばやっぱり魔王だろうか。種族のトップのみに知らされたらしいため、魔王の立場の者は、この重要事項を一部の悪魔には共有すべき情報と見たのだろう。



「あれ?待ってくれ。悪魔は魔界にいるんだろ?そして魔族も魔界にいるんだよな?魔族の中では悪魔が上位種ってことなのか?」



 悪魔は天使の対義語という様な印象がある。だが、悪魔は魔族の一員だと言うならば・・・?



『違うわぁ。そのことを悪魔たちの前で言ってはダメよぉ。同一視するなぁって怒るからぁ』



 あ、同じじゃないらしい。ならばなぜ同じ魔界にいるんだ?



「同じ世界にいたら魔族たちが悪魔に殺されそう」



 ポツリと呟いた俺の独り言は、ユヴェーレンの耳に届いていたらしい。



『そぉ。そうなっちゃうのよぉ。だからぁ、実質的には悪魔の住む場所と魔族が住む場所は別なのよぉ?』



 え?そんな区切りが出来るのか?



『魔界わねぇ、死後の世界のすぐ近くに作られた世界みたいなのよぉ。うーん。私も実際に見たことがあるわけではないからぁ、詳しくは分からないのだけれどもぉ、魔族が住む場所と悪魔の住む場所は完全に世界みたいよぉ。こっちの世界から見るとどちらも同じく隔離された世界だからぁ、一緒くたに魔界って呼ばれているけれどねぇ?悪魔たちは同じく魔界って呼ばれるのが嫌みたいでぇ、悪魔たちがいるところは地獄って呼んでいるみたいだけどねぇ。まあ、実際地獄のような世界らしいわよぉ。地獄は元々隔離された世界だしぃ。魔界は結構普通な感じらしいけどぉ』



 だからアバドンは分かりやすく、あっち側こっち側と言ってくれていたのか。地獄と魔界の違いを説明するのが面倒だったという可能性もあるけど。



「なるほどなー」



 何度も頷いて感嘆する。精霊の園ここに来て世界の成り立ちを知ることになるとは思っていなかったが、なかなか面白いじゃないか。

 ・・・て、あれ?


「そうなると、魔界のトップにこの話が行くのは分かるが、なんで悪魔のところにも行っているんだ?元々隔離された別の世界なんだろ?」
『あー。それはな、魔界が地獄と近いって言っていただろ?実は地獄を盾に魔界が隔離されているかららしいんだ』



 ユヴェーレンに代わったズィーリオスが俺に答えた。
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