はぁ?とりあえず寝てていい?

夕凪

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神話

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『では、なぜリュゼが後継者なのかについてだが。これは生まれ変わりっていう言葉から分かる通り、エンリュゼーファ神の魂をリュゼが持っているからだ』



 そうなんだろうな。頷いて肯定を示す。



『だが、その魂はエンリュゼーファ神の魂そのものではない。そこで、説明するにはエンリュゼーファ神について説明しないといけない。だからまずは、神話について語ろうか』



 そして、後継者に関する説明の前に、遥か昔の神話が語られ出した。

























 この世界には、数多の神々と多種多様な種族が存在していた。
 世界は一つであり、分け隔たれてはいない時代。
 精霊の園は地上にある精霊たちの故郷であり、多くの生き物たちの憩いの場。
 そして、魔族と呼ばれる者達も共に生きていた。
 彼らは、エルフ並みの魔力を持ち、獣人のような様々な身体的特徴を持つ。能力面も様々だ。
 人間から魔族まで、種族による能力差はかなりの開きがあったが、それぞれがお互いに協力し合うことで平和な世界が構築されていた。




 とある神が動き出すまでは。










 神はそれぞれの能力に特化した存在だった。火を司る火の神。水を司る水の神。地を司る地の神等々、のちに魔法属性と言われる属性の神々。他にも、ありとあらゆる奇跡を体現する治癒を司る聖の神や、生死を司る生命神から時間や空間を司る神々まで、実に多くの神々がいた。

 そして、その中の1柱が司っていたのは、欲。

 神はそれぞれ違う力を司っているが、全ての神が等しく強力な力を有していた。それこそ、その力を司る神を超える神はいない程の。


 神々は地上の生命子どもたちを皆で見守りながら、世界をより良くして行こうとしていた。自らが司る力を調整し、地上のバランスを保っていたのだが、ある時、欲を司る神に異変が生じた。


 他の神たちの力は、分かりやすく強力だ。生命神は言わずもがな、火や水の神は、全てを燃やし尽くしたり、水で地上を飲み込み洗い流すことも出来る。しかし、欲と言うものは、生命体たちの生きる意志に干渉することしか出来ない。地味ではないか。つまらないではないか。もっと他の神々のように分かりやすい力が欲しい。


 欲の神に生じたのは欲であった。







 そして起こったのは、神々による戦争。


 欲の神は、自らの仲間であり同僚の神々を襲いだした。突如始まった欲の神による襲撃は、簡単に第一犠牲者を生み出した。消滅した神の存在は他の神々にも伝わり、気付けば欲の神対他の神々という構図になっていた。


 欲の神には直接的な戦闘能力はない。しかし、たった一人で他の神々を相手っていたにも関わらず、欲の神を止めることが出来た神はいなかったのだ。神々は誰も、何故欲の神が彼等に牙を剥いたか分からなかった。

 次第に増えていく犠牲者。消滅していく神々の魂。そして、火や水、雷や光の力を扱っている欲の神。


 欲の神ラドニアは、殺した相手の力を奪っていたのだ。殺される神が増えていくほど、ラドニア神の力は増していく。他の神々の力を奪う前ですら抑えることの出来なかった存在が、更に力を増していく。

 ラドニア神を止めることが出来る神はいなかった。そのことに、ラドニア神自身も気付いていた。自分以外全ての神々を相手にしても負ける要素は微塵もない。負けないという絶対的な自信と、憧れていた他の神の力を手にした自分。

 ラドニア神が戦いの火蓋を切り落として、地上の時間で既に100年の月日が流れており、そのころには、ラドニア神の目的も変わっていた。


 全ての神の頂点に立つ。
 抗う者は全て消す。


 また、ラドニア神に対峙する他の神々はあることに気付いた。それは、ラドニア神が殺した全ての神の力を手に入れているわけではないことを。それを、ラドニア神自身も気付いていた。ラドニア神が手に入れることが出来ていたのは、火、水、地、風、雷、氷、光、闇、そして植物の力のみだった。

 

 ラドニア神の前に立つ神は、沢山いたはずがいつの間にか7柱のみになっていた。彼等は例え自らが消滅するとしても、ラドニア神を主神として戦いを止めるということは出来なかった。

 神々は皆対等に世界を見守っていたが、それでも神々の中には暗黙の了解で主神がいた。それは生命神。全ての生き物の生と死を司る存在だ。他の神々とは力の差が圧倒的であるため、ラドニア神の相手が務まるのは生命神しかいない。しかし、生命神はこの場にはいなかった。生存している8柱目の神ではあったが、生命神が現れる可能性は決してないことをラドニア神も知っていた。


 生命神は、ラドニア神による神々の消滅が始まった辺りから、神々の前から姿を消していた。それは、神々の消滅と共に地上に悪影響が出始めたからであった。地上への影響を最小限で抑えるために、生命神は自らの全力を使って神々の影響を受けないように世界を保護したのだ。その際に力を使い果たした生命神は、消滅の一歩手前まで力を使い果たし、眠りについていた。



 よって残された戦える神は7柱のみとなったのだ。しかし、長期間の戦いの影響で7柱の神々は疲弊していた。反対に、ラドニア神は殺した神から多少なりとも力を奪うことが出来ていたらしい。数多の神々と戦って来たとは思えない程余裕があった。司る力を奪えずとも、どの神の力も強力なものであるため、回復程度にはなっていたのだ。


 
 7柱の神々はそれぞれ疲弊しており、ほとんどの者が立っているのもやっとの状態だった。

 治癒を司る聖の神。
 次元を司る空間の神。
 絆を司る召喚の神。
 物質を司る錬金の神。
 死霊を司る死神。
 引力を司る重力の神。
 そして、僅かな差でしかないがこの中で最も余裕があるのが、関係を司る結界の神。


 誰が見ても7柱の神々の敗北は免れない。









「くっ!ごめんッ・・・皆・・・。私はもうッ・・・」
「そうか・・・。聖がいなくなればっ、はあッはあッ、もう回復は見込めないっ」
「結界!!お前ッ、はあッはあッはあッ、奴を封印、するッことは、はあッ、はあッ出来ないのかッ!?」
「無理だっ!ハァーッ、ハァーッ。あまりにもっ、欲の奴との、神力の差がっ、大き過ぎるっ!ふーっふーっ」
「皆っ・・・・いなくなって、しまった、ものねっ」



 黙り込む一団の中で、聖の神が結界の神に近づく。その様子を咎めることなく、ラドニア神は余裕たっぷりに眺めて居た。まるで、次はどんな手で向かってくるのか楽しみにしているように。



「皆っ、い、今までありがとっ。はあッはあッ、た、楽しかったわッ」
「聖・・・」
「だからっ、後は任せるわっ!はぁーっはぁーっ。スッ。結界っ!!」
「「「「「「!?」」」」」」



 聖の神が結界の神の背中に触れたと同時に、聖の神が光の粒子となってその姿を崩れさせた。だが、神々が驚いたのは聖の神が消滅したからではない。最後の力を振り絞り、自らの力の一部である魂を結界に託したからであった。そのため、聖の神は力を結界に託した後完全に消滅した。

 それと同時に結界の神の神力が回復し、負傷部位の回復速度が一気に上がった。これは、聖の神の力が結界に託されたことを証明していたのであった。









 その様子を見た神々は、僅かな希望を目にしてその可能性にかけることを即決した。結界の神は渋っていたが、結界の神に託すことを決めた神の想いを一心に背負う覚悟を決めた。そして、結界以外の残りの5柱が自らの消滅と共に結界の神に力を託した。

 だが、本来ならば神の力を別の神に移すことは出来ない。しかし、それを可能にしたのが関係を司る結界の神。この7柱の関係はとても良好なものだったのだ。

 けれど、その光景にラドニア神は激怒し、熾烈な激闘が繰り広げられた。どれほどの間続いていたかは分からない。そして、長らく続いた激闘は、結界の神が膝をついたことで決した。元々の疲労が影響したのであった。


 そして結界の神エンリュゼーファ神は、自らに残る力を振り絞って、世界にいくつかの結界を張った。だが、エンリュゼーファ神は自らが消滅することが分かっていても諦めてはいなかった。諦められるわけがなかった。

 ラドニア神の一撃が自らを捕らえる瞬間、自らの魂に細工を施した。そして、エンリュゼーファ神は消滅した。
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