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植物の精霊王の事情

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「それでー、あの・・・・つまりどういうこと?」




 結局、この集会は何なんだ?今いる精霊王が全員集まっているとか・・・・。まるで動物園の珍獣に群がって来た人たちみたいな。この辺りでは人間は珍獣なのか?それとも、ユヴェーレンの契約者ってことが珍獣なのか?どちらにせよ・・・・俺、珍獣と思われてないか?


 人からの視線は何度も受けたことがあるから割と慣れているが、流石に複数の精霊王からの視線は居心地が悪い。それぞれが精霊王として存在感を放っているため、一人当たりの視線が重いのだ。




『皆リュゼに会いたがっていただけよぉ。気にしなくて良いわぁ』
『何言ってるんだ?僕たちだってお喋りしたいんだけど?』




 ユヴェーレンが俺に対してぶっきらぼうに放った言葉は、他の精霊王たちを刺激した。一番ユヴェーレンの近くにいた火の精霊王が、眉を上げ首を傾げて反論する。ユヴェーレンと他の精霊王たちとの妙な空気が流れだした。その空気の変化を悟った俺は、彼等の意識がこちらに向かないようにゆっくりとズィーリオスの尻尾を捕まえて抱き込んだ。

 サイズ感が最高で抱き心地が良い。



 
『会いたがっていたっていうのはマジ?』
『残念ながらな・・・』




 ユヴェーレンが嘘を吐くわけないと分かっているが、確認しなければ気が済まなかった。精霊王たちが何か念話で話し合っ・・・・言い合っているが、俺とズィーリオスはお互いだけに念話を向けて話しているので、彼等が何を言っているかは分からない。技術としての念話と契約により念話は若干違いがあるのだ。

 例えるならば、多数に向けたスピーカーと個人間の電話ぐらいの違いだろうか。電話の方に意識を向けているため、俺からしたらユヴェーレン達の声は認識しずらい。反対に、ユヴェーレン達は俺たちの話を聞き取ることが出来ないという感じだ。電話だと近くにいる人に片方の声が聞こえるのだが、その辺りはきちんと距離感があるという前提を取っている。


 そのような状況だったので、俺はユヴェーレン達の会話内容は聞き取ることが出来なかった。しかし、和やかではないことは雰囲気から窺い知れた。・・・・まあ、同じ精霊王同士だし、長い付き合いだろうから放置していても大丈夫だろう。うん、・・・・多分。









 視線をユヴェーレン達から逸らし、俺はズィーリオスに向き直るために体を捻ってズィーリオスに圧し掛かる。



『なあ、なんでここに植物の精霊王がいるんだ?どっか行くってなったから、ユヴェーレンにその・・・何だっけ?んー、なんかの水を持ってきてもらうように頼んだんだろ?』



 俺はズィーリオスのもふもふに顔を埋めながら先ほど聞いた話の疑問点を投げ掛ける。取り敢えず、精霊王たちが集結している理由は、俺に会うためという謎の理由だったのは一旦置いておくことにいた。今は深く考えてはいけないものだ。俺の直観がそう言っている。



『あー、それか。実は、あの時俺たちの目の前にいたのは、植物の精霊王の本体ではなかったらしいんだ』
『本体じゃない?』
『そう。疑問に思わなかったか?リュゼと契約して魔力量に余裕のあるユヴェーレンでさえ、魔力の拡散が酷いから単体では近づきたくないといっていたのに、植物の精霊王はあの場に現れたことを』
『あ、思った』



 それは確かに疑問に思っていたことだ。だから契約者が近くにいるかと考えたが、近くに人の存在はなかった。完全に植物の精霊王だけだったのだ。



『だよな。リュゼが寝ている間に聞いたが、今目の前にいる方が本体で、あの時のは意識を植物に乗せていた仮の体だったらしい。あの状態だと本体が危険に晒されるわけではないから、何かあっても安心ってことだな。実際、意識が抜けた後の抜け殻の植物は、枯れるように干からびていっただろう?仮の体は行動範囲が広くて安全な分、あまり長時間は入っていられずああゆう感じで最後は枯れるんだと』
『そういうことか。だから俺たちが攻撃体勢に入っても全然ビビッていなかったのか』



 得心がいって何度か小さく頷くと、顔をグリグリとズィーリオスに押し付ける形になった。



『基本的に外で何かする時は、植物で仮の体を作り行動しているらしい。だから、その用事とやらもちゃんと行っているようだぞ。だがその分、植物の精霊王自身がここから出ることが出来ないらしいんだ。なんでも、この地に根を張っていることで外に出ることが出来なくなっているって言ってたな。まあ、植物の精霊王がいることで、この地の植物は永遠に枯れることはないらしいけど』



 制約があるってことが言いたいんだろうけど、最後の永遠に枯れないってところが耳に残ってしまった。枯れるからこその意味があると思っていたんだけど・・・・。まあここは精霊の園フェアリーガーデンだし、枯れない植物でもおかしくはないか・・・。

 思考停止気味の思考放棄であった。だが、ふと疑問が浮かび上がる。



『だったら、仮の体で何とかって水を取って外に持っていけばいいんじゃないか?』



 するとズィーリオスが「あー」となんとも言えない声を出した。



『それは、ここの決まりでダメになっているみたいだな』
『どういうことだ?』



 ズィーリオスから詳細を聞いて行くとその理由が分かった。曰く、その何とかの水はとても貴重なものらしく、使用するには精霊王の半数以上からの承諾が必要で、さらに外に持っていくには、精霊王本人が直接でなければならないらしい。だからこそ、植物の精霊王が持ってくることは出来ないのだと。


 もし俺たちがいなければ、どうやって世界樹まで持って行くつもりだったのだろうか。他の精霊王たちでも、近づくことが出来ないらしいのだが・・・。まさか、誰かがボロボロになりながら危険な荷運びをするつもりだったのか?・・・俺たちのタイミングが良かったのだろう。




『となると・・・。精霊王の半数以上ってことは5人だろ。そしてこの場には7人いるから・・・、そのまま5人がOKを出せば持ち出せるってことだな』
『そうだね』
『なるほど。それで皆集まっていたのか!』
『いや・・・・。本当にリュゼを見に来ただけなんだけど・・・』
『え・・・?』




 俺を見に来たという理由は取って付けたものだと思っていたのだが?たまたま集まったから採決が取りやすくなったとかは言わないよな?

 浮かび上がった答えに否定を押し付ける。置いておいたはずの話が、いつの間にか戻って来ていた。ダメだ。この件について深く考えてはいけない。ユヴェーレンの言う通り、気にしないスタンスでいこう。うん、そうしよう。


 精霊王たちが集まった理由について思考を止め、無理やり自分の中でたまたまだったということにして納得した。




『あ、因みに採決はリュゼが寝ている間に終わったから』
『そうなのか』



 
 ズィーリオスの言葉で、遠い目をして意識を投げ掛けていた俺は引き戻された。そうか寝ている間に終わったのかーと、ボーっと考えていると、その意味を理解した瞬間冷汗が背筋を伝った。




『待て。寝たって、俺どれだけ寝てたんだ?』




 不眠不休で働いていたのだから、寝ていたのは仕方ない。だが、いつもの眠気がない。いつもなら、強制的に起こされるので、寝不足で常に眠たい状態だ。しかし、その眠気がないのだ。

 その状態が表すのは、俺がたっぷりと睡眠時間を確保したという証拠。高濃度の魔素に晒されて今にも死にかけているであろうガルム達がいるのだ。なのに、呑気に長時間寝ていた・・・?


 ユヴェーレンはともかく、ズィーリオスは周りのこともちゃんと考えているしっかりさんだ。だが、そんなズィーリオスでも、俺に無理をさせてまで周りの危機を助ける様にとは言わないし、させない。ズィーリオスが周りがどうのと言う時は、俺が出来ることを分かっている時だけだ。


 ズィーリオスが俺を満足いくまで眠らせていたならば。今頃、ガルム達は・・・。
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