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睨み合い

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 その後、暫くお互いの認識をすり合わせたことで、ユヴェーレンの思い違いを正すことが出来た。これからも共に旅を続けていくことを再確認するいい機会となったのではないだろうか。



『話がまとまったようですし、そろそろ良いでしょうか・・・・』
「「『『あっ』』」」



 全員の言葉が重なる。皆同じく、植物の精霊王の存在を忘れてしまっていた。俺たちだけの世界に入り込んでいたが、その一言で全員顔が一斉に植物の精霊王に向いた。そして、お互いに顔を見合わせて黙り込む。全員が無言で、念話で話し合うこともなくアイコンタクトを交わし合い、何事もなかったように植物の精霊王に向き直った。



「どうぞ」



 代表して俺が先を促すと、俺たちを一瞥した植物の精霊王が僅かな間を開けた後に話し始めた。


『悪魔がこの場に居る理由は分かりました・・・。ですが・・・・、世界樹を傷つけたのはどういうつもりですか・・・・?』
「ッ!?」


 なんで知っているんだよ!?あの場に居なかったし、気配もなかったじゃないか!なぜバレているのか分からずに動揺していると、『彼女が来たってことはそうなるわよねぇ』というユヴェーレンの諦めの声が聞こえて来た。ちょっと待ってくれよ、ユヴェーレン!予測出来ることだったのか!?


『なんで知っているのか、という顔ですね・・・』


 俺の顔を一瞥した植物の精霊王は、世界樹を取り囲んでいる周囲の森に目を向ける。


『この森の全ての木々は、私の体の一部のようなものです・・・・。私は植物の精霊王・・・。世界樹以外の全ての植物は、私の体のようなものなのですよ・・・』


 ああ・・・。そりゃあ、バレるわな。というかここはもう、植物の精霊王の腹の中と言っても良い場所じゃん・・・。



『体の一部と言っても、普段は完全に切り離された状態です・・・・。私が意識を乗せなければ、体の一部のように扱うことは出来ません・・・』



 良かったー。辺り一体に目と耳があるわけじゃないのか。あ、良かった、のか・・・・?いや、たまたま運が悪く、俺が樹液を採取している様子を見られていたといことだから・・・全く良くないな。

 なんだかんだ言っても、樹液の件がバレているのは確実だ。恐る恐る顔を植物の精霊王に戻すと、バッチリと目があった。ああ、ヤバい。どうしよう。



『ズィー!説明頼む!バトンタッチだ!』
『え?俺が!?』
『そう!だってズィーは俺たちの外交担当じゃないか!』
『・・・外交担当なんていつ決まったんだよ』



 ズィーリオスから突き刺さる視線は完全に無視して、絶対喋るものかという気迫を込めて口を閉ざす。だが、その気迫は別の人物に刺さってしまったようだ。


『だんまり、ですか・・・・』


 俺たちの周囲の蔓が、まるで威嚇するかのように蠢きだす。お願いだからズィーリオス!俺の代わりに説明してくれ!俺が言ったらただの言い訳にしか聞こえないじゃん!第三者の口から説明してくれ!見ていた立場も共犯者にはなるけどさ?

 ユヴェーレンとアバドンが警戒態勢に入り、ズィーリオスの尻尾がピンと立ち上がる。お互いに睨み合いながら、どちらとも一歩も動かない。戦力的にはこちらの方が上だと思うが、植物の精霊王が引く様子は全くない。



『取り敢えず落ち着け。理由を説明するから』



 静かな森の中で溜息を吐いたズィーリオスが名乗りを上げ、なぜ世界樹を傷つけたのかを説明しだした。






















『そういうことだったのですね・・・・』



 納得したような言い方だが、雰囲気は納得したように見えない。表情が動かないため詳しくは分からないが、仕方なく納得しというような雰囲気がある。



『何者かによる世界樹の異変ですか・・・。傷付けられて反応しないとなれば、それは重大な問題ですね・・・』



 俺たちを囲んでいた蔓が地面の中に戻って行き小さくなっていく。良かった。一先ず、ズィーリオスの説明で一時休戦を手に入れることが出来たようだ。さすが俺たちの外交担当だ。

 ズィーリオスの手腕に感心していると、なにやら視線を感じた。その方向に目を向けると、植物の精霊王が俺を見つめていた。感情の映らないその瞳を見て、背筋がぞわぞわとした感覚に襲われる。そして反射的に背筋を伸ばして口を開いた。


「えーっと、あのー」


 何と言えば良いか分からず、言葉を探す。


『今回のことは不問にします・・・・』
「え?」


 俺よりも先に植物の精霊王が言葉を発した。そして、いきなりのことで脳が何を言われたかを認識出来ていなかった。



『世界樹に剣を突き立てたことです・・・。外のことだからと放置している間に、このようなことが起こっているとは思っていませんでした・・・。ですから今回は、世界樹に刺激を与えて意識を戻そうとしてくれたのだと思うことにします・・・』



 許された、のか?・・許されたのか!言葉をゆっくりと咀嚼して噛み締める。つまりそれは、お咎めしないという宣言だ!もういきなり攻撃して来ることはなく、ずっと警戒しておく必要もない。



「ッ!?」
『リュゼ!?』



 視界がブレ、気付けばズィーリオスの尻尾で体を支えられていた。



『大丈夫ぅ?』
「うん」



 心配気に顔を覗き込んで来るユヴェーレンに笑顔を向け、立ち上がろうとした瞬間に再び体勢が崩れた。これには自分自身が驚いた。足に力が入らない。体重を自分で支えることが出来ないのだ。何とか立ち上がろうとするが、俺の意思に反して足は体を支えてくれない。



「えーっと。どうしたんだろ」



 乾いた笑みを浮かべながらズィーリオスの尻尾に体重を乗せていると、アバドンに両脇の下を掬われて持ち上げられた。



「アバドン!?」
「大人しく・・・って暴れるそんな気力もないのか」



 こんな子供のような扱いは恥ずかし過ぎる。抵抗しようと足をバタつかせたが、大して足は動いていなかった。そのままズィーリオスの背の上に寝かされる。いつも俺がズィーリオスの背で寝ている体勢でだ。そして気付いた。上体を起こそうとする気力が湧いてこないことに。上体どころか、指一本動かすのも怠いほど体が重く感じていた。


 ああ・・・。俺、疲れてたんだ。


 理解をしたその瞬間、思い出したかのように疲労がドッと押し寄せて来た。昨日から気を張り詰めてばかりで、眠らずに一晩を超えているのだ。そりゃあ眠気もやって来る。それが、植物の精霊王が攻撃してこないと分かった安心感で、張り詰めていた緊張の意図が切れたのだ。



『昨日は眠っていないものねぇ。それにずっと戦い続きで神経張り詰めさせていたんだものぉ。逆に良くもった方じゃないかしらぁ?』



 ユヴェーレンの声が遠くに聞こえだす。視界がボヤけ、脳が思考を放棄していた。言葉を紡ごうとするが、頭は回らず口を開けることすら鬱陶しい。



『あとは私たちで話し合っているからぁ、ゆっくり休みなさぁい。よく頑張ったわぁ』



 眠・・・・って、いい・・・・のか?もう、眠すぎ・・・・る。ああ、このもふもふ感・・・いい。やっぱり・・・・ズィーリオスのもふもふ・・・・最高だ・・・。


 もう視界は完全に閉じており、何も見えない。だけど、ズィーリオスだけでなくユヴェーレンとアバドンも近くにいる気がしていた。そして、頭を撫でられた感覚を最後に、深い眠りへと沈んでいった。
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