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警戒

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『いきなり攻撃してきといて、攻撃が届かない空中に逃げられたから下りて来いとは都合が良すぎないか?簡単に下ろすわけがないよね?』



 ズィーリオスがホバリングしながら冷たい声音で、俺に代わって女性に告げる。そして、更に高度を上げて行った。



『ふーん・・・。聖獣・・・それも、今代の管理者・・・・ですか・・・』



 女性がズィーリオスを見て聖獣の管理者であることを見破った。ズィーリオスが管理者であることを見破れるということは、やはり王位精霊であることは間違いない。そして、女性の姿を象った蔓を操っているということは、その正体は1つだ。



『植物の精霊王・・・』
『なんでしょう・・・?』



 やはりそうだったか。まあ、見ていたら簡単に分かる状況だったからな。それにしても、知り合いであるユヴェーレンではなく俺を呼ぶということは、しっかりとした理由が存在するだろう。・・・心当たりはあるが。



『分かった。行こう』
『リュゼッ!?』



 ズィーリオスが驚愕の声を上げて再び飛行を再開したが、動揺しているのか上空をウロウロと旋回を繰り返していた。しかし、アバドンはズィーリオスに付いて行くことはせず、空中で浮かんだまま地上の様子を眺めていた。



「流石にずっとここで浮いていることは出来ないだろ?」
『だとしても、流石に危険過ぎる!』



 ずっと上空から眺めて居ても状況は好転しない。それに相手の意図はまだ明らかになっていない。心当たりは合っても、それは俺の想像の範疇から脱していないのだ。確かに出合い頭に攻撃をしてきた相手だが、こちらの方が頭数は多い。それに、精霊王ということは、アバドンの正体に関してもきっとバレているだろう。だって、先ほどアバドンと女性が睨み合っているのを見てしまったのだから。



「別に俺1人で相対するわけじゃないんだから大丈夫だろ。なんだよ。ズィーは離れたところで見ている予定だったのか?」
『そんなわけないじゃん!?』



 ズィーリオスがそう言ってくれることは分かっていた。だからこそ、冗談を本気で捉えたズィーリオスの焦り声に頬が緩んでしまう。



「なら大丈夫だろう。行こう」
『分かった。だけど、俺の側から離れるなよ?』
「まあ、状況によるけどな」



 含み笑いをしながらズィーリオスに返すと、溜息を吐いたズィーリオスが女性の前に立っているユヴェーレンの隣に向かって移動を開始した。俺たちの意図に気付いたアバドンも後を追って下りて来る。



『聖獣とは違って、そこの人間は以外と素直なのですね・・・・』



 下りて来た俺たちを見た女性は、少し意外だというような声音で呟く。しかし、表情が変わらないため、声だけでしか感情を推し量れない。だから、女性の反応は俺の憶測だ。



『それでぇ?』

 

 女性が俺を頭の先からつま先まで見下ろして来る。懸念していた攻撃は、今のところしてくる様子はない。



『今まで誰とも契約を交わさなかった闇の精霊王の契約者ともなれば、他の皆さんも気になると思いますよ・・・』



 え?今までユヴェーレンは誰とも契約をしたことがなかったのか?俺が初めて・・・?



『それに・・・。まさか王位精霊と真正契約を結ぶとは思いませんでした・・・』



 俺とユヴェーレンを交互に見た女性は、俺とユヴェーレンが真正契約を結んでいることまで分かったらしい。契約の種類まで視たのだろうか?そんなことまで分かるなんて凄いな。これこそが王位精霊の力ということか?



『誰と契約するかなんて私の自由じゃなぁい。契約しないって選択だってあって当然でしょぉ?』
『ええ・・・・。そうですね・・・。精霊とは自由な存在ですから・・・』



 ユヴェーレンの機嫌が少し悪くなる。そんなユヴェーレンのフォローなのかどうかは分からないが、女性はユヴェーレンの選択を肯定した。そして、ユヴェーレンの方から俺の方を見て手を差し出して来た。その手を取るには、俺一旦、ズィーリオスの背から下りる必要があるが・・・。



『改めて挨拶をしましょう・・・。私は植物の精霊王です・・・・。現在は精霊の園フェアリーガーデンで暮らしています・・・』
「・・・リュゼ、です」



 この手は取っても大丈夫なのだろうか?隣にいるズィーリオスは、俺が女性・・・植物の精霊王の手を取ることを嫌がっている。ユヴェーレンも何も言わないが、俺の前に出て来たことで俺が握手をすることを拒んだ。行動で意思を示しているため分かりやすい。



『あら・・・。手を取ってくれないのですか・・・?』



 俺をガチガチに守る体勢に入っているユヴェーレン達を見て、植物の精霊王が俺の顔を見てくる。



『当たり前の反応だろ。なんで攻撃してきた奴の手を、なんの疑問も抵抗もなく取れると思っているんだよ。警戒するに決まっているだろ』



 ズィーリオスが唸りながら俺たち全員の考えを代弁する。



『ああ・・・。そうでした・・・』



 え?あれだけ攻撃してきていたのに、自分から攻撃してきたことを忘れていたのか・・・?



『だってそれはそうでしょう・・・。闇の精霊王が契約者を見つけたということは良いのです・・・。共に聖獣がいるということも・・・。しかし、なぜあのような者がここにいるのです・・・?』



 植物の精霊王の視線が俺に・・・、いや、俺のすぐ背後にいるアバドンに向く。



『ここがどれほど神聖な場所か分かっていますよね・・・?なぜ、この場にそぐわない者と行動を共にしているのですか・・・?』



 俺たちの周囲に円を描くように蔓が10本ほど出現した。そのせいで、余計に全員の警戒度が上がる。ズィーリオスが今にも離陸出来るように翼を広げて準備態勢に入った。



『勿論分かっているわよぉ。私だって精霊王の一角だものぉ』
『ならばなぜですか・・・?そもそも、この世界にいるはずのない存在が、なぜ存在しているのです・・?世界樹の異変も、この者が原因なのでは・・・?』



 矢継ぎ早に繰り出す質問に俺が答えようとした時、アバドンが俺の肩を叩いて俺の前に出た。周囲の蔓がアバドンに照準を向ける。



『残念ながらお前の望む結果ではないんだな、これが。俺は人間が召喚してきたからこっちに来たに過ぎない』



 まあ、確かに召喚されて来たのは合っている。だが、お前はその召喚に割り込んで来た奴だろ。嘘を見抜く精霊の前で、嘘と誠のギリギリの辺りを攻めるアバドンの回答に、思わず半目になってその後頭部を見つめる。これはどう判断されるのだろうか。



『本当に召喚で来たのですね・・・。まさか、悪魔を召喚する人間がいたなんて・・・。まだ召喚の方法が人の間で残されていたというわけですね・・・』



 あ、それは真実と判定されるんだ。植物の精霊王が手を顎に持っていく。動きは人っぽいが、やはりどこか違和感のある動き方だ。



『その人間が君だということですか・・?』



 植物の精霊王の顔が、俺に向いたと同時にズィーリオスが唸る。



『違うわよぉ。たまたま寄った人の街で事件に巻き込まれた時に出会っただけよぉ。その事件を起こした人間がぁ、悪魔を召喚したのよぉ。リュゼが召喚したわけがないでしょうぉ?勝手に決めつけないでよぉ』
『そうだったのですか・・・』



 ユヴェーレンがイラつきながら反論するが、植物の精霊王は全く気にした様子もなく納得していた。同じ精霊ならば、簡単に納得してくれるようだ。精霊は嘘が付けないという特性を理解しているのからこそだろう。


『その時にぃ、この男がリュゼと契約するまで何度でもやって来るって言ったのよぉ。私たちがいない所でこっち側に出て来られたらぁ、何が起こるか分からないでしょぉ?それが危険過ぎるからぁ、監視の意味も込めてリュゼと契約を交わしているのぉ』



 ユヴェーレンも、対話は自分がやる方が早いと気付いたようだ。相手の出方に警戒しながら説明を続けた。
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