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世界樹の樹液
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振り下ろされた剣はきちんと世界樹の幹を剣先に捉え、世界樹に傷を付けた。確かな手応を確認し、後方に飛び退りながら剣を収める。そして、世界樹の様子を固唾を飲んで見守る。
俺が切りつけた傷口から、プクリと透明な樹液が溢れ出し、ゆっくりと流れ出て来た。だが、それ以外に何も変化は起こらない。
「ユヴェーレン、どうだ?」
『ダメねぇ』
ユヴェーレンは首を横に振って結果を告げる。世界樹の意識が戻らない。この方法では効果がなかった。
『となると、あの石を作り出した何者かがここに来た時期を大体割り出せるな』
「は?なんでだ?」
ズィーリオスの合点がいったと言いたげな声音に、アバドンが納得出来ずに問いただす。そんなアバドンを、可哀そうな子を見るような憐みを込めた目でズィーリオスが答えた。
『この森を荒らす危険がある魔物に、樹液という力を与えようとする人物を世界樹が許すと思うか?今はこの森だけの影響だが、本来世界樹の管理区域は全世界だ。世界の魔素濃度を制御する役割がある世界樹はが、そんな危険人物に自身の樹液を渡す許可を出すはずがないだろ?ってことは、その危険人物は世界樹の意識がない間に樹液を採取したってことになる』
「なるほどなー」
アバドンは自分の手元にある石と樹液に意識が持っていかれ、ズィーリオスの視線に気付いていない。気付かない方が良い現実もあるが・・・これは。ズィーリオスの目が何処か遠くを眺め出した。あ、ダメだこりゃ。
『そしてそこから考えられるのは、その人物こそが世界樹に何かした人物かもしれないという結論に至るんだよ』
「確かにそうなるな!」
その辺りに関しては話について来れたようだ。ズィーリオスがチラリとアバドンに視線を向けると、アバドンは問題ないと言いたげに真剣な表情で首肯した。
ヤバい!2人の温度差が酷過ぎる!固く口を塞いで零れそうになる声を押し殺し、緩みそうになる表情を必死に耐える。ズィーリオスの話している内容は全く笑う様なものではない。場違いな笑いを抑え込むことが大変だった。そんな俺を苦笑いしたユヴェーレンが見つめていたが、相手をしている余裕はなかった。何とか深呼吸して感情を落ち着かせる。
俺が自分の感情を落ち着かせている間に、ズィーリオスの視線が俺に向けられていたことは気付かなかったことにしよう。
『はあ。まあというわけだからリュゼ、樹液』
「あ、ごめん」
やっぱりそのままスルーしてくれるわけがなかったか。冷たい声音のズィーリオスに反射的に謝る。そして駆け足で樹液が溢れる世界樹の幹の側まで移動する。しかし、樹液を採取する入れ物がないことに気付いた。マジックバッグの中にあるポーションの入れ物ならばちょうどいいが、空のポーションは今持っていない。どうしよう。チラリと背後のズィーリオスを窺う。
・・・俺の悩みに気付いているのかいないのか分からない。
『リュゼぇ』
「ん?」
どうしようか悩んでいると、ユヴェーレンから声を掛けられた。ユヴェーレンはいつの間にか俺の側に来ており、更に顕在化までしていた。
「どうした?」
ユヴェーレンは何故か更に俺に近づいて来て、顔を近づけて来る。え?な、なにっ?どうした!?ユヴェーレン!?
『これぇ、さっきアバドンから取り上げたから使ってぇ?』
取り上げたってなんだ。そのツッコミが喉から出かかったが、目の前に広がった光景に思わず唾を飲み込んだため出て来ることはなかった。ユヴェーレンは分かっていてワザとしているのではないだろうか。上半身を俺の方に突き出すように、そして首を傾げて体全体をくねらせて、ユヴェーレンは超至近距離でウインクをしてきた。なんだこの色気は!しかもこの状況下で!!
あからさまに俺を揶揄っていた。豊満な谷間が見えてしまうのは不可抗力だ。耳が熱くなるのを感じながら、急いで突き出された15センチほどの大きさの瓶を受け取り、世界樹へ向き直った。背後からクスクスと笑うユヴェーレンの声が、薄くなる存在感と共に聞こえて来た。きっと顕在化を解いたのだろう。顕在化によってユヴェーレンの体が空けなくなるので、普段よりも余計に色気が増して感じるのだ。やっぱりワザとだったな。
口をへの字に曲げながら瓶の口を世界樹の幹へ押し当てる。瓶の中へ透明な樹液がゆっくりと入っていく。樹液が瓶の底に辿り着き、溜まっていく様だけを見続ける。他は視界に入れないように。
10分ほどずっと樹液が溜まっていく様を見ていると、耳の火照りも心臓の鼓動も元に戻っていた。そして、樹液の方と言えば、まだ2、3センチほどしか溜まっていない。それに、初めの頃よりも樹液の量が減っている。世界樹が自身の傷の再生を行っているようだ。これは・・・時間が掛かるな。
『どんな感じだ?』
「この通り。全然だな」
いつも通りに戻ったズィーリオスが隣までやって来て、俺の手元を覗き込んだ。
『うわー。これは時間かかって厄介だな。だが、樹液の量から考えてアレはもっとあるだろうし、そうなると・・・』
ズィーリオスが考え込みながら世界樹の周りをゆっくりと回り始めた。世界樹の幹を舐める様に見ている。これは、もしかして?
「ズィー、もしかして他に傷がないか確認しているのか?」
『んー。そー』
かなり真剣に確認している。返事が雑だ。適当に返事してないよな?まあ、いいや。
「アバドン!チェンジ!」
「はー?めんどくせぇー」
振り返って瓶を持っていない腕を上げながらアバドンを探す。すると、凄くダルそうな声と共に、1人テーブルとイスを出して休憩していた。テーブルの上にはあのチーズケーキと紅茶があり、頬杖を付いてだらけていた。おい。1人だけ何をやってるんだ。
因みにユヴェーレンは世界樹の意識に問いかけをしており、アバドンを見ている者は誰もいなかった。
「暇してるじゃん!俺と代わるか、ズィーリオスと一緒に世界樹の傷口探しをしろよっ!」
「暇じゃねぇよ。俺様は今、味の確認で忙しいんだよ!」
その言い訳は反則じゃないか!?見た感じは完全に暇人のそれだが、アバドンが言っていると、本気で試食しているようでなんとも言えない。もっと美味しくなるのならば、アバドンはアバドンの仕事をしてもらう必要がある。
『ほっといても大丈夫よぉ』
俺たちの会話が聞こえていたようだ。何処にいるか分からないが、ユヴェーレンの念話だけが飛んできた。ユヴェーレンはアバドンの現状を把握していて、敢えて放置していたのだろう。だったらユヴェーレンの言う通り、そのまま放置で良いかもしれない。
『ないとは思うけどぉ。誰か他の精霊王が見ていた場合ぃ、悪魔に世界樹の様子を確認させるという状況がマズイのよぉ』
確かに絵面がマズイな。その後ユヴェーレンは、近くに精霊王がいたらすぐ分かるから絶対にありえないと言っていたが、それでも、もしものために対策しておきたいようだ。なんでも、今の世界樹の周辺は、魔素濃度が高すぎて、魔力の塊が魔素に引っ張られやすい環境になっているらしい。そのせいで、精霊が寄り付かない状況のため、俺のような魔力タンクが常にいない環境で精霊が現れることはない。王位精霊ならば可能性はあるが、それでもかなりキツイ環境のため、普段から精霊の園からわざわざ出て来ない精霊王が、無理してまで出て来ることはないと断言していた。
それほど、他の精霊王にアバドンの存在がバレる可能性は低い。しかし、ユヴェーレンも精霊のため、悪魔を世界樹に触れさせるのは嫌なのかもしれないな。
やっと4センチほど貯まった樹液を見ながら、俺は小さく溜息を吐いた。
俺が切りつけた傷口から、プクリと透明な樹液が溢れ出し、ゆっくりと流れ出て来た。だが、それ以外に何も変化は起こらない。
「ユヴェーレン、どうだ?」
『ダメねぇ』
ユヴェーレンは首を横に振って結果を告げる。世界樹の意識が戻らない。この方法では効果がなかった。
『となると、あの石を作り出した何者かがここに来た時期を大体割り出せるな』
「は?なんでだ?」
ズィーリオスの合点がいったと言いたげな声音に、アバドンが納得出来ずに問いただす。そんなアバドンを、可哀そうな子を見るような憐みを込めた目でズィーリオスが答えた。
『この森を荒らす危険がある魔物に、樹液という力を与えようとする人物を世界樹が許すと思うか?今はこの森だけの影響だが、本来世界樹の管理区域は全世界だ。世界の魔素濃度を制御する役割がある世界樹はが、そんな危険人物に自身の樹液を渡す許可を出すはずがないだろ?ってことは、その危険人物は世界樹の意識がない間に樹液を採取したってことになる』
「なるほどなー」
アバドンは自分の手元にある石と樹液に意識が持っていかれ、ズィーリオスの視線に気付いていない。気付かない方が良い現実もあるが・・・これは。ズィーリオスの目が何処か遠くを眺め出した。あ、ダメだこりゃ。
『そしてそこから考えられるのは、その人物こそが世界樹に何かした人物かもしれないという結論に至るんだよ』
「確かにそうなるな!」
その辺りに関しては話について来れたようだ。ズィーリオスがチラリとアバドンに視線を向けると、アバドンは問題ないと言いたげに真剣な表情で首肯した。
ヤバい!2人の温度差が酷過ぎる!固く口を塞いで零れそうになる声を押し殺し、緩みそうになる表情を必死に耐える。ズィーリオスの話している内容は全く笑う様なものではない。場違いな笑いを抑え込むことが大変だった。そんな俺を苦笑いしたユヴェーレンが見つめていたが、相手をしている余裕はなかった。何とか深呼吸して感情を落ち着かせる。
俺が自分の感情を落ち着かせている間に、ズィーリオスの視線が俺に向けられていたことは気付かなかったことにしよう。
『はあ。まあというわけだからリュゼ、樹液』
「あ、ごめん」
やっぱりそのままスルーしてくれるわけがなかったか。冷たい声音のズィーリオスに反射的に謝る。そして駆け足で樹液が溢れる世界樹の幹の側まで移動する。しかし、樹液を採取する入れ物がないことに気付いた。マジックバッグの中にあるポーションの入れ物ならばちょうどいいが、空のポーションは今持っていない。どうしよう。チラリと背後のズィーリオスを窺う。
・・・俺の悩みに気付いているのかいないのか分からない。
『リュゼぇ』
「ん?」
どうしようか悩んでいると、ユヴェーレンから声を掛けられた。ユヴェーレンはいつの間にか俺の側に来ており、更に顕在化までしていた。
「どうした?」
ユヴェーレンは何故か更に俺に近づいて来て、顔を近づけて来る。え?な、なにっ?どうした!?ユヴェーレン!?
『これぇ、さっきアバドンから取り上げたから使ってぇ?』
取り上げたってなんだ。そのツッコミが喉から出かかったが、目の前に広がった光景に思わず唾を飲み込んだため出て来ることはなかった。ユヴェーレンは分かっていてワザとしているのではないだろうか。上半身を俺の方に突き出すように、そして首を傾げて体全体をくねらせて、ユヴェーレンは超至近距離でウインクをしてきた。なんだこの色気は!しかもこの状況下で!!
あからさまに俺を揶揄っていた。豊満な谷間が見えてしまうのは不可抗力だ。耳が熱くなるのを感じながら、急いで突き出された15センチほどの大きさの瓶を受け取り、世界樹へ向き直った。背後からクスクスと笑うユヴェーレンの声が、薄くなる存在感と共に聞こえて来た。きっと顕在化を解いたのだろう。顕在化によってユヴェーレンの体が空けなくなるので、普段よりも余計に色気が増して感じるのだ。やっぱりワザとだったな。
口をへの字に曲げながら瓶の口を世界樹の幹へ押し当てる。瓶の中へ透明な樹液がゆっくりと入っていく。樹液が瓶の底に辿り着き、溜まっていく様だけを見続ける。他は視界に入れないように。
10分ほどずっと樹液が溜まっていく様を見ていると、耳の火照りも心臓の鼓動も元に戻っていた。そして、樹液の方と言えば、まだ2、3センチほどしか溜まっていない。それに、初めの頃よりも樹液の量が減っている。世界樹が自身の傷の再生を行っているようだ。これは・・・時間が掛かるな。
『どんな感じだ?』
「この通り。全然だな」
いつも通りに戻ったズィーリオスが隣までやって来て、俺の手元を覗き込んだ。
『うわー。これは時間かかって厄介だな。だが、樹液の量から考えてアレはもっとあるだろうし、そうなると・・・』
ズィーリオスが考え込みながら世界樹の周りをゆっくりと回り始めた。世界樹の幹を舐める様に見ている。これは、もしかして?
「ズィー、もしかして他に傷がないか確認しているのか?」
『んー。そー』
かなり真剣に確認している。返事が雑だ。適当に返事してないよな?まあ、いいや。
「アバドン!チェンジ!」
「はー?めんどくせぇー」
振り返って瓶を持っていない腕を上げながらアバドンを探す。すると、凄くダルそうな声と共に、1人テーブルとイスを出して休憩していた。テーブルの上にはあのチーズケーキと紅茶があり、頬杖を付いてだらけていた。おい。1人だけ何をやってるんだ。
因みにユヴェーレンは世界樹の意識に問いかけをしており、アバドンを見ている者は誰もいなかった。
「暇してるじゃん!俺と代わるか、ズィーリオスと一緒に世界樹の傷口探しをしろよっ!」
「暇じゃねぇよ。俺様は今、味の確認で忙しいんだよ!」
その言い訳は反則じゃないか!?見た感じは完全に暇人のそれだが、アバドンが言っていると、本気で試食しているようでなんとも言えない。もっと美味しくなるのならば、アバドンはアバドンの仕事をしてもらう必要がある。
『ほっといても大丈夫よぉ』
俺たちの会話が聞こえていたようだ。何処にいるか分からないが、ユヴェーレンの念話だけが飛んできた。ユヴェーレンはアバドンの現状を把握していて、敢えて放置していたのだろう。だったらユヴェーレンの言う通り、そのまま放置で良いかもしれない。
『ないとは思うけどぉ。誰か他の精霊王が見ていた場合ぃ、悪魔に世界樹の様子を確認させるという状況がマズイのよぉ』
確かに絵面がマズイな。その後ユヴェーレンは、近くに精霊王がいたらすぐ分かるから絶対にありえないと言っていたが、それでも、もしものために対策しておきたいようだ。なんでも、今の世界樹の周辺は、魔素濃度が高すぎて、魔力の塊が魔素に引っ張られやすい環境になっているらしい。そのせいで、精霊が寄り付かない状況のため、俺のような魔力タンクが常にいない環境で精霊が現れることはない。王位精霊ならば可能性はあるが、それでもかなりキツイ環境のため、普段から精霊の園からわざわざ出て来ない精霊王が、無理してまで出て来ることはないと断言していた。
それほど、他の精霊王にアバドンの存在がバレる可能性は低い。しかし、ユヴェーレンも精霊のため、悪魔を世界樹に触れさせるのは嫌なのかもしれないな。
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