はぁ?とりあえず寝てていい?

夕凪

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ホーンホースとオーガのボスたち

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 四方八方から飛来した電撃は魔力鎧によって消滅することはなく、本来の威力はそのままだった。全身の各所に痛みが走る。久しぶりに感じるまともな痛みに顔を顰めて、自己回復を行って傷を癒す。そして釘状になったままの地面の上に重力に従って落ちかける。それを回避するために、釘状の地面の先端部分を横から蹴り避けようとした。しかし、体が動かない。鋭く尖った先端が近づいて来て、今にも体を突き刺しそうになる。


 マズッ!!動かない自分の体に舌打ちをする。完全に先ほどの攻撃によって体が痺れてしまったようだ。受け身を取ることも出来ずに、俺はそのまま釘の山と化した地面に落ちた。電撃の時よりも物理的な衝撃に息が止まる。辺りには土煙が巻き上がり、月の光すらも遮る。だが、そもそも視界を封じている俺には意味がない。だからこそすぐに分かった。オーガの魔力が高まっている。

 体中の苦痛に耐えながら、なんとか針の筵のような倒れていた場所から抜け出て、頭上から落ちて来た雷の矢の攻撃範囲外へと逃げ出た。急いでいたため、土煙を吸い込んでしまったようで、咳き込みながらもボスの居場所の気配を探ることは止めない。


 幸いにも、俺は目立った怪我を負うことはなかった。しっかりとした素材で仕立て上げられた防具は、貫通したり綻びが出ることもなく、昨日までと全く同じ状態であった。軽く確認しただけだが、それだけ丈夫な装備のおかげで血が出ているようなところはない。しかし感じる痛みからは、服の下に打撲痕として残っているのだろう。全身打ち身でもあるため、外傷よりも内傷の方が多い。時間をかければ、自己回復で全快すると思われる程度だ。


 だが、動くだけで痛いのは仕方ないことであろう。立ち上がる動きが自分でもぎこちないことが分かる。バルネリアの血のおかげでこの程度で済んでいることは、なんとなく分かった。それは、麻痺が解け、回避のために動き出せたことから感じた。普通なら、もっと麻痺の症状が続くもののようだ。

 土煙が晴れて、期待していた通りになっていなかったことに一驚しているオーガの顔を見たら、図らずとも察することが出来るだろう。

 それに、いくら防具の性能が良いと言っても、それには限界がある。今回のように、俺が串刺しにならないよう防具が役目を果たしてくれても、その内側にまで届く影響に関してはどうしようもない。寧ろ、吐血するほどの内傷を負う場面で、ただの打撲で済んでいるのだ。相変わらず、この体は丈夫に出来ている。おかげで怪我を負うことはあまりないが、そのたびに俺がバルネリアの人間であることを見せつけられている気がして、あまり気分は良くない。


 頬に何かが付いているようでむず痒い。黒剣を握ったままの手の甲で頬を拭う。その時、こちらの方に意識を向けていたオーガと目が会い、俺は無意識に口角が上がる。


 魔法の使い方が完璧だ。しかもそんなオーガが、最速の足を手に入れていることで、更に厄介なことになっている。ならば・・・・、ひとつずつ、厄介なものを消していけばいい。


 沸々と感情が高揚していく感覚が俺を包み込む。ああ、この感覚久しぶりだ。意識が自然と、目の前の敵だけに向いて行く。集中力が高まり、聴覚と広げた魔力の感覚がより鋭くなる。対比するように、痛みが引いていく。


 研ぎ澄まされた感覚がピタリとオーガとホーンホースの動きを捕捉し、僅かな動きさえも手に取るように把握していた。


 俺の気配が変わったことをボスたちも理解したのだろう。先ほどまでと打って変わり、攻撃だけでなく僅かな行動すらも止まり、俺の動きを警戒しているようだ。


 ハハッ!警戒?そんなもの、意味などないことを教えてやろう!この辺り一帯は既に俺のテリトリーと化しているのだから!


 前触れもなく一息に真っすぐと距離を詰める。そして、左斜め下から右斜め上に向かって逆袈裟の一撃を放つ。純粋な魔力が斬撃となって地面を抉りながら飛んで行った。その一撃は、剣先僅か2メートルほどの至近距離から放たれて、ボスたちに迫りゆく。咄嗟にオーガが張った土壁は、あっさりと切り裂かれた。ホーンホースは反応が間に合わなかったが、少しは反応していたおかげで、まともに攻撃を喰らうことは避けられたようだ。ホーンホースの角を1つと、オーガの右肩から顔に掛けて一撃を入れることが出来たようだ。


 そして、そのまま土壁を回り込むこともせずに、振り上げたままの剣を真下に振り下げながら、先ほどと同じように斬撃を放った。何とか残っていた土壁を完全に破壊して、その奥にいるボスたちに飛んでいく。


 大量の土煙が上がり、ボスたちの姿を覆い隠す。しかし、それは魔力の探知すらも覆い隠してくれるわけではない。邪魔がなくなったことで、さらに俺は内側に飛び込み、魔力の塊に向かって横一文字に剣を振るう。今度ばかりは斬撃ではなく、直接剣が届く範囲内だった。

 振るった剣はホーンホースの胸元を捉えた。



 絶叫を上げてホーンホースが暴れ出したことで、オーガがホーンホースの上から落とされる。落とされはしたが、しっかりと地面に足を付けて着地し、即座に魔法を放って俺から距離を取る。そして俺は、暴れているホーンホースの横っ面を回し蹴りで蹴り飛ばし、オーガが放った魔法の盾にする。衝突音が響き渡り、聴覚が一時的に機能を停止した。何も聞こえない中、魔力とオーガの気配が周囲の状況を判断する方法となる。

 巨大な魔力の塊は1つだけとなった。


 もう、高速稼働領域におけるアドバンテージは通用しない。にやりと笑みを浮かべてオーガを見つめる。オーガの体は震えていた。連動するように、その目も揺れていた。



 怒りを表すように。

 俺の周りを囲むかのように、横4メートル、高さ2メートルほどの壁が複数現れた。そして、その壁に身を隠しながら空から雨のように雷の矢を降らせ始めた。しかし、数が増えて制御が覚束ないのだろう。剣を横に振るうだけで簡単に消えて行った。だが、それはただのフェイクだったようだ。本命と思われる電撃の一撃が、オーガから真っすぐに俺に襲い掛かる。見るからに当たればただでは済まないことが予想出来る威力だ。


 でも、避けるなどつまらないだろ?ジッとオーガを見つめていた俺が、一切その電撃に目を向けずに剣に魔力を込めて振るう。それは、黒剣に触れた瞬間に端から消えて行く。ヴァルードの遺品である黒剣が、この程度の魔法を対処できないわけがないのだ。だって、あのヴァルードなのだから。


 ずっと見つめていたオーガの目に、初めて恐怖の色が浮かんだ。怒りとは違った瞳の揺れは、俺から一歩下がるという行動として目に見える形となる。


 だからこそ、笑い返した俺であったが、オーガがいきなりピタリと止まって動かなくなった。あからさま過ぎる隙であるが、なんだか違和感を覚えてこちらも動かずに様子を探っていると、オーガの瞳から恐怖の色が抜け落ちる。そして代わりに、その目はどことなく虚ろな視線に変わっていた。だがその変化は、瞬きするほどの僅かな間だけのことであり、次の瞬間には、ホーンホースがいた時と同じ冷静な目をしていた。纏っている雰囲気からは、相変わらず俺への殺気だけは感じることが出来る。


 一体今のオーガの目はなんだったのか。俺の見間違いか?まあ、見間違いだろうが何だろうがどうでも良い。結局、あのオーガを屠ればどうだっていいのだ。


 連続で放たれる魔法を切り払って接近を繰り返し、オーガへ攻撃を加える。そしてオーガは、俺の攻撃を魔法を盾にすることでダメージを緩和させながら避けて、合間に反撃を繰り出すという攻防戦に突入したのだった。
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