はぁ?とりあえず寝てていい?

夕凪

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ボスたち

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 ガシャーンッ!!


 絶望の音がクルーレ王国に響き渡る。粉々に砕けたキラキラと輝く光が、視界に広がる。夜の闇に浮かび上がる光は、状況に似合わない程幻想的な光景であった。



「間に合わなかったか・・・」



 その光景を目にしている俺は、立ち止まって思わず言葉を零して下唇を噛み締める。だが、ずっとここで止まっているわけにはいかない。光が消え去る前に、再び足を動かす。その先にある、光ではない闇に紛れている存在に向かって、俺は無心に駆けだした。











 俺はズィーリオス達と分かれた後、気配を辿りに移動をしながら国内に入った。そしてやっとボスに追いついたと思った瞬間、先ほどのガラスが割れる音が耳に飛び込んで来たのだ。

 それは、最終防衛地点を超えた結界の領域。そのボスがなぜ結界の存在に気付いていたのかは分からないが、結界の破壊を目的にしていたことは明らかなほど、真っすぐと魔道具の設置地点に向かっていた。

 そして結界がなくなったということは、結界を張っていた魔道具が破壊されたという何よりも分かりやすい証拠であろう。それは、この国のどこにも魔素から逃れられる場所がないということだ。高濃度な魔素の環境に慣れていないガルムたちが危険だ。だが、目下の危険は、結界の魔道具を破壊した魔物の方だ。



『緊急事態だ!!結界が破壊された!!』



 走りながらズィーリオス達に念話を入れる。すると、念話越しでもズィーリオスの気配が張り詰めたのが分かった。だが反対に、ユヴェーレンは多少気になったという雰囲気であったが、あまり心配はしておらず、アバドンに至っては全く興味がなさそうであった。

 ユヴェーレンは、精霊だからこそ気にすると思っていたが、精霊だからこそ興味があまりないようだった。やはり、契約者以外はどうでもいいといった思考であるようだ。



『こっちは今のところ大丈夫だから、リュゼは気にしないで自分のやることに集中してくれ。ほとんどアバドンの奴が暴れているから、そのうちそっちの援護に行けるはずだ』
『助かる!』



 危険性を理解しているズィーリオスだけが協力的だ。まあ、ユヴェーレンとアバドンが非協力的というわけではないのだけれど。それに、俺が黒剣を持っている限り、ユヴェーレンへの魔力供給は継続的に行える。ユヴェーレンの攻撃は俺の魔力が尽きない限り続くだろう。そして、魔素から魔力への返還効率が高い俺としては、これほど魔素濃度が高い環境で魔力が尽きることはない。それこそ、回復するよりも先に、魔法によって莫大な魔力を消耗させていかない限りは。



 見つけたッ!!


 走り続けていた俺は、結界の中心付近と思われる広場のような場所に佇む魔物の影を発見した。そしてそれと同時に、火によって照らされた範囲から見えるのは、魔物の周囲に転がって動かないエルフたちと、腰を抜かしている王子の姿であった。王子以外に生きている人の姿は見えない。他は逃げたか、もう物言わぬ屍になったかのどちらかだ。


 王子を助けるという構図は、俺だけでなく王子としてもごめん被る展開だろうが、ここはお互いに我慢しよう。止まることなく魔物と王子の間に突っ込んで行く。すると、魔物が俺を避ける様に王子から距離を取った。そのまま魔物は火の光で見える範囲まで出て来る。


 思わず息を飲んだ。


 予想はしていた通り、見ただけで魔物たちのボスだということが分かる姿だった。ホーンホースのボスは角が3本生えており、他のホーンホースよりも体は一回り程大きい。乗っているホーンホースに見合うほど、オーガの方も一回り以上大きな体でガタイが良い。武器は近接戦闘用ではなく、単純な杖のようである。どうやら魔法職のようだ。そして、ホーンホースとオーガから感じられる歴戦の猛者感。オーガは鋭い目つきで俺を睨み付けていた。少し前の殺気の犯人は、間違いなくこのオーガであろう。

 だが俺が息を飲んだのは、このボスたちの強者感に圧されたからではない。

 


 オーガの肌の色が黄色だったのだ。




 普通ではありえない色合いだ。通常のオーガは、緑から黒の間の色をしている。それなのに、黄色という色合いは異常だ。これは以前も見かけた変異種である。ネーデを襲っていた変異種のミノタウロスは赤色だった。今回は黄色であるらしい。全く森の中で隠れる気のない姿だ。

 冒険者ギルドが定めるオーガはAランク。それに肌の色から考えて、このオーガの魔法属性は光か雷。基礎属性ではなく上位属性か希少属性となれば、当然ながら評価は上がる。そのランクはSにも上るだろう。俺にとっては初めてのSランクの相手となるわけだ。


 ははっ。そりゃあ、こうなるわけだ。全身が泡立つ感覚と、背筋を伝う冷たい雫。


 今度は直ぐ近くから、強烈な殺気が俺に突き刺さる。でも、ヴァルードの圧力と初対面の時のアバドンの圧力に比べたら、この程度は耐えられる。圧倒的強者が俺の味方になったのは本当に運が良かった。敵対していたら、今頃俺はズィーリオスとユヴェーレンと共に命がけで逃げていたか、既に死んでいただろうから。

 それに、俺が勝てなくともズィーリオス達がいる。あいつらが控えていると分かっているからこそ、全力で挑むことが出来る。とても心強い存在なのだ。

 俺たちが睨み合っている間に、王子は這う這うの体で逃げ出すことに成功していた。隙を見せることが出来ないので、意識を割くことは出来ないが、なんとなく辺りから人の気配がなくなったことが分かる。そして、その気配が俺たちの様子を窺っていることも。


 数秒、いや数分のことだったのかもしれない。目を先に逸らしてなるものかと、にらみ合っていた俺たちだったが、突如としてボスたちが駆けだした。俺に一直線にやって来るのではなく、俺の周囲を回わりだした。どの方向から攻撃して来るか分からなくさせるつもりだ。ホーンホースとオーガの両方、またはそのどちらかには知能がある。

 背後の死角から飛んできた電撃を躱す。雷の明かりによって、一瞬だけ辺りが明るくなる。どうやら属性は雷の方だったらしい。これは・・・かなり手ごわそうだ。


 属性が雷でも光でも大した違いではないが、いきなり周囲が明るくなると、夜の暗さに慣れていた目が機能を一時停止させてしまう。ずっと暗い中であれば対処することは簡単だ。けれど、不意打ちの光が投げ込まれると、視界が真っ白に埋め尽くされてしまう。目を瞑って視界の一切を断ち切るしかないか。


 完全に視界が奪われる。その代わりに、周囲に魔力をまき散らし、辺り一帯を完全に俺の感知領域に塗り替える。耳と魔力の先に意識を集中させる。

 一瞬にして俺の魔力に飲み込まれたボスたちは、驚いたのか僅かに同様を見せた。その隙を見逃してやるわけがない。魔力の間隔だけを頼りに一気に距離を詰めて、魔力で覆った黒剣で斬りかかる。しかし、黒剣は空を斬り、ギリギリのところで避けられてしまった。

 想像していた以上に動きが速い。普通のホーンホースとは比べ物にもならない速さだ。そんなホーンホースと、遠距離攻撃が可能なオーガの組み合わせは、厄介な事この上ない。


 振った黒剣を再び構えようとした途端、急激に危機感を感じて空中に飛び上がる。すると、地面から無数の杭が突き出された。あと数秒避けるのが遅れたら、今頃俺は、地面から飛び出た杭に体を貫かれていた。そして空中では、当然ながらあまり身動きが取れなくなる。


 空中に逃げた俺を待っていたのは、四方八方から飛んで来る電撃だった。マズイッ!これは・・・逃げられないッ!咄嗟に魔力鎧を全力で展開したのと同時に、電撃が直撃した。
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