はぁ?とりあえず寝てていい?

夕凪

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食事会

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 体調不良の者達をそれぞれの部屋に放りこんだ後、俺たちは王女に夕食に誘われていた。到着したばかりであり使者の代表でもないので、簡易的な食事会のようだ。エルフ側としては、使者よりも精霊王の契約者の方が重要人物らしく、俺がズィーリオスと共にアバドンの部屋にいる所に呼びに来たのだ。

 俺と契約したことで、ユヴェーレンの監視も以前よりは緩和されており、アバドンが別の部屋に一人になることも許可が出ていた。そのため、アバドンが1人部屋になっているのだが、ユヴェーレンが何かしらの方法で監視していそうだ。だからこそ、あのユヴェーレンが一番最初に許可を出したのだろう。

 少し前のことを回想することで現実から逃れていたが、そう長くは回避できない。いつかは現実を見なければならないのだ。



『なあ・・・・』
『・・・なんだァ?』



 簡易的な食事会ということもあり、王女と俺たちだけで夕食を食べているのだが、あまりのことにただひたすら無言であり、念話でさえも会話をすることが出来ておらず、何度も言葉を詰まらせていた。



『・・・あとでお前のところ行く・・・』
『・・・・だな。俺のじゃねぇと、お前らの腹は膨れないし』



 目の前の草・・・じゃなかった、野菜をフォークでちょんちょんとつつきながら、鼻で溜息を吐く。目の前にあるのはサラダの山であった。それもドレッシングなど全くかかっていない素のままの。国の状況が状況なので、食べ物に贅沢を言えるわけがないことは解っているが、それでもこれはないんじゃないだろうか。

 前菜、スープ、などが野菜なのはまだ分かる。サラダもそのままサラダだろう。だが、メインもサラダとは一体どういうことだろうか。メイン料理の肉がたった一口分で、備え付けられているサラダの方が多いとは・・・。これはどう見てもサラダがメインだろう。一口分など、フレンチの一番初めに来るアミューズと大して変わらんぞ?


 日頃肉ばっかり食べていたから、ここで野菜のツケが回って来たのだろうか。アバドンが料理を担当するようになって、割と野菜系も食べていたんだけど?



「すみません。お口に合わないようですね・・・」
「あっ・・・」



 王女が眉を寄せて申し訳なさそうにこちらの様子を窺っていた。かく言う王女の目の前にも、山のようなサラダが鎮座していた。先ほどから減っているような気がしない。・・・きっと王女は毎日この食事内容で飽きているのだろう。

 お互いに目の前のサラダに目を向けて押し黙る。エルフだから野菜ばかりの生活ってわけではなさそうだ。ナルシアが野菜だけを食べていた様子は見たことがない。だから、エルフも普通に肉を食すのだろう。別に、この国のエルフたちは肉を食べないということはなさそうだ。だが・・・、圧倒的に肉がない。サラダではなく他に調理法はないのか。どれだけサラダが好きなんだよ、ここの料理長は。



「大丈夫ですよ。流石にこれは・・・仕方ないです」
「・・・野菜は自給自足してるとか?」
「精霊たちの力を借りているので、野菜は沢山取れます」



 ・・・なるほど。だからサラダが盛りだくさんなのか。精霊の力を借りて育てている野菜だから、なるべく手を加えたくなくてサラダなのかもしれないな。・・・だったらせめてドレッシングでも作ってくれよ!!


 アバドンに即席でドレッシングを作ってもらえないだろうか。ドレッシング無しで山盛りのサラダを食べきるのはキツイんだが。一応聞くだけ聞いてみるか。



『アバドン。即席でドレッシングを』


 バンッ!!


「王太子殿下!!」


 突如、食事会場の扉が勢いよく開かれ、息を切らせたエルフの兵士が転がり込んで来た。



『リュゼ“どれしんぐ”とはなんだ?』
『ドレッシング、な?』
『そうそれだ』
『あー、とりあえずその話は一旦ストップな』



 エルフの兵士が何とか呼吸を整え、片膝を付いて王女に報告を行った。



「森からオーガの群れが侵攻中!数は凡そ20!しかし、まだまだ控えている可能性があります!」
「オーガの群れだと!?」



 王女がイスから立ち上がってテーブルに手をついて身を乗り出す。その衝撃で、サラダが少し零れてテーブルクロスの上に落ちた。



「不味いですね。今我が国には、オーガを殲滅できる戦力はありません。結界の外に出て活動できる兵士は少ないですし。陛下に報告は致しましたか?」



 手を唇に添えて考え込みながら、王女は独り言を呟き、ふと顔を上げて兵士に訊ねた。



「はっ!陛下には連絡済みです!殿下に全てお任せするとのことです!」
「分かりました。現在の状況はどうなっていますか?」
「ハルザーク殿下が指揮を執り、結界外に出れる者達と共に戦闘中です」
「あの子が出ているならば一先ずは大丈夫でしょう。いくらオーガと言えども、20体ならばなんとか相手できるはずです。ですが、もしものために兵たちを待機させておいてください」
「畏まりました」



 兵士が一礼して立ち去って行った。王女は、兵士に接していた時とは違い、にこやかな笑顔で俺たちに向き直る。



「お二方、申し訳ありません。そういう訳なので、自室にて待機しておいてください」
「待機?そんなの面白くねぇ。俺らも参加しようーぜ!」



 にこやかな笑みを浮かべる王女に対して、戦いがあることを知ってしまったアバドンがニヤリとした笑みを浮かべて俺に振り向いた。

 俺?嫌だけど?めんどくさいじゃないか。それに王子がいる場所だろ?会わないようにするって決めたのに、何でわざわざ自分から会いに行こうとするんだ。



「お気持ちはありがたいですが、お客人の手は借りませんよ。我々だけで大丈夫ですから」
「俺は行かないぞ」



 アバドンの行動は拒否され、俺が行かないと明言したことでアバドンが戦いに行くことは完全に却下された。俺が行くと言えばアバドンもいけるのだ。だから俺を巻き込んだのだろうが、もう俺は疲れたから眠りたい。それに、今日は既にオーガと戦闘を行ったのだからこれ以上は良いだろう。それに・・・。



「じゃあ、俺たちは大人しく部屋で休んでいようか」



 席を立ち、不満たらたらなアバドンを引きずって会食場を出て行った。これでサラダとはおさらばだ!











 腹はまだ満腹には程遠い状態だが、サラダをひたすら食べ続ける状態から脱却でき、俺の心は軽くなっていた。



「さて、今起きている現状に関してだが・・・」



 今、俺たちはアバドンの部屋に集合していた。アバドンを引き連れたまま、アバドンの部屋で話し合うことにしたのだ。人払いは済ませてあるため、アバドンが俺たちの分の食事を作ってくれている最中であったりする。



「やっぱり昼の奴らは斥候部隊だったってところか?」
『そうだろうな』



 ズィーリオスが後ろ足で耳の後ろを掻きながら答えた。よし、毛繕いでもしてあげよう。ズィーリオスが足を戻したのを見計らってブラッシングを行う。



「かなりの被害を出してギリギリだろうな。まあ、昼に見た奴らと同じ戦力ならば、だが・・・」



 アバドンが火を止めて皿に盛りつけながら話に参加する。ズィーリオスは直接見てはいないが、気配だけでどれぐらいの相手か把握することが出来る。そのため、アバドンの言葉に同意を示した。



『けれどぉ、今来ているのが本隊だった場合ぃ、斥候すら削れなかったエルフたちではギリギリの戦いどころかぁ、壊滅するんじゃなぁい?』
「王子がいるのにか?」



 ユヴェーレンの考察に質問を投げ掛ける。王子はエルフの中でもかなりの戦力を有する強者だ。昼間はいなかったその人物がいるのに、そこまで酷い結果になるのだろうか?



『逆にぃ、戦える者がそのエルフしかいないことが問題なのよぉ。あの王子1人で20体のオーガを相手取るのはキツイと思うわよぉ』
「そう言われてみれば確かにそうだな」



 オーガを倒せる人物が王子1人だとして、兵士たちが王子の戦闘中に別のオーガを完璧に抑えるしかないということだ。結界の無い高濃度の魔素の中で、一体どれだけ普通の兵士たちが抑え込めるのか。これは、最悪の事態を想定して動いた方が良いかもしれない。

 皆で真剣な顔を突き合わせて頷く。よし、じゃあまずは・・いただきますっと!
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