はぁ?とりあえず寝てていい?

夕凪

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穏やかな道のり

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「2人とも、なんてものを捕って来ているのよ・・・」



 キャンプ場に戻って来た俺たちに逸早く気付いたアネットが、呆れた声を上げてこちらも見た。そんなアネットの声に反応して他の者達も俺たちの帰還に気付いた。そして、俺たちが持って来た戦利品を見て、皆バラバラの反応を示した。

 エルフ兄妹は分かりやすく目を見開いて驚き、ジェイドとガルムは瞳を煌めかせる。ナルシアはただもう微笑んでいるだけだ。



「お!良いもの捕って来たな!」



 だが、アバドンだけがいつもの軽い感じで俺たちに近寄って来た。アイビーゴートは相手をするのがなかなか面倒臭いが、肉はかなり美味しい。身が柔らかく、筋がなくて食べやすい。匂いがあるため、調理時に匂いを消すことが出来れば、料理のグレードを大幅に上げることが出来る高級食材である。料理人の腕が試される食材なのだ。

 アバドンにアイビーゴートを2体引き渡し、ウキウキで両手にアイビーゴートを持ったアバドンが離れていく。キャンプ場から離れた所で解体を行い、次元収納に保管しておくのだろう。ついでに魔石の回収も行ってくれる。魔石はマジックバッグの中に入れておいてもらうことになっているので、俺はマジックバッグの中に何個の魔石が入っているかさっぱり把握していない。

 アバドンが解体しているときに、近寄って来た魔物を倒していることもあるからだ。マジックバッグの中に入らない程の魔石を集めていても、アバドンに保管してもらっていれば良いので、魔物を倒した後は回収することにしていた。

 ズィーリオスにクリーンを掛けてもらい、体をスッキリとさせる。



「明日の食事は楽しみだな!てことで、俺はもう寝る。お先ー」



 片手を上げてガルム達に声を掛けた後、場所を移動して起きているガルムたちから離れる。俺が持っていた寝袋はエルフ兄妹に貸しているので、俺とアバドンには寝袋がない。テントも兄妹に貸していた。だが、寝袋を使って寝ることは殆どないので、なくとも大して問題はない。ガルム達に必要だと言われたから用意しただけのものだったからだ。テントも今夜は雨が降る様子はないので大丈夫だろう。
雨が降ったとしても、ズィーリオスが魔法で簡易的な屋根を作ってくれることになっている。

 いつものお昼寝の時のように、俺はズィーリオスに凭れかかりながら眠りについた。
















 翌朝、欠伸を噛み殺しながら目を覚ます。ズィーリオスに押されながら朝食の席につく。今日の朝食は、昨日の夜調達したアイビーゴートの肉が使用されていた。コクのあるクリームシチューとパンを合わせた、朝から至福の食事を楽しむ。

 アイビーゴートの肉は、かなり高級品として扱われる食材だ。筋のない身は柔らかいが、しっかりと歯ごたえのある肉質。しかし、肉にかなり臭みがあるので調理が難しい。高級食材として扱うには癖が強い食材だ。そのため、料理人の腕が問われる。

 しかし、そんな食材を使って全く臭みを感じさせない。ただただ肉の美味しさのみが引きだされていた。全員が無言で食べ尽くして満足感を漂わせながら、勢いのままに再び西へと向かった。














 満腹感から来る眠気に従って馬車の中で寝ていると、ズィーリオスにテシテシと前足で叩き起こされて、意識が浮上して来る。



「ぐッ!?」
「リュゼお兄ちゃん起きて!ねえねえ馬車の外見てみて!」
「凄いよ!」



 上半身を起こし、寝ぼけ眼でボーっとしていると、エルフ兄妹から突撃されて背後のズィーリオスに倒れ込む。背中にはダメージはないが、妹の方のアニーナの膝が丁度脇腹に突き刺さり、痛みで目が完全に覚めた。アニーナは早く外を見て欲しくて興奮気味であり、俺に膝蹴りを当てたことに全く気付いていない。

 無意識で起きたただの事故で咎めることは出来ないので、グッと堪えて笑みを浮かべた。



「外がどうしたんだ?」
「リュゼお兄ちゃんが寝ている間に結構進んだんだよ!そして、ね!」



 自身の兄であるエルラテに意味有り気に視線を向ける。



「外を見てほしいんです!見たらすぐにわかります!」



 エルラテの方もかなり興奮気味だ。これは一度外を見ないと落ち着かないだろう。馬車の出入り口まで移動し、入口をそっと開けて外を確認する。すると、開けた瞬間から一気に物凄い熱気が入り込んできた。思わぬ暑さが顔面を直撃し、反射的に顔を背けて入口を閉める。



「やばっ!」
「でしょっ!」



 驚嘆した俺の声に反応し、即座にアニーナの声が飛んできた。




 外は完全な砂漠だった。もう、中央砂漠に突入していたようだ。さっきまで森の中だったのに。こんなにガラリと環境が変わるものなのか。先ほど感じた熱気を思い出し、この場の空気が快適なことに気付く。



「なんでここは暑くないんだ?今いるのは砂漠だろ?」



 俺の独り言に、黙って俺の反応を見ていたアネットが答える。



「そりゃあ、魔道具を使用しているからよ。この馬車は、馬車内の快適性を求めているものなのだから、外部からの気温の変化を受け付けないようにしているのよ」



 この馬車にそんな機能もあったのか。揺れを極力抑えるというだけではなかったようだ。この馬車、いいな。ちょっと欲しいなと思いかけた瞬間、ズィーリオスが視界に入り、ズィーリオスがいれば魔法でどうにかしてくれるのではという思考に至る。そうならば、わざわざこの馬車である必要はない。一瞬にして馬車の魅力が下がる。

 だが、あまりズィーリオスに頼ってばかりではいられない現状では、この馬車は凄く便利な代物であることが十分に理解出来た。


 だから俺は、砂漠に来ていることも知らず、呑気に快適に眠っていられたのだろう。入口付近に入って来ている砂を見て、もう一度入口を開けようとした腕を下ろす。車内が沙だらけになっては適わない。馬車が停止した時でいいだろう。



「それにしても、森を抜けてすぐ砂漠っていう環境だったのか?」



 質問に答えてくれるだろうアネットに顔を向けながら尋ねる。



「そうよ。徐々に砂漠になるって環境ではないのよ。だからこそ、人の国との境界線が引きやすい場所なのだけれど。一応あなたが眠っている間に、最も砂漠に近い村で休憩代わりに立ち寄ったわ。調味料を沢山買ったから、今夜の夕食もまた美味しい物になるんじゃないかしら」



 チラリとアバドンを見たアネットの視線を受け、アバドンは良い笑顔で任せてくれとアピールをし出した。大丈夫。そんなに主張しなくとも、調味料という単語が出た時点でアバドンの料理には期待しかしてないから。アバドンを落ち着かせて一息吐く。あー喉が渇く。流石に湿度はどうにも出来ないのだろう。朝から水分を取っていないから、という原因は完全に頭にはなかった。

 勝手に砂漠のせいにして水分摂取をする。馬車の中は快適だが、馬車の外が砂漠であるということを認識してしまっただけで、なぜか無性に喉が渇き、暑くなってきている気がしてしまう。実際はそんなことはないのに、だ。なんとも砂漠とは不思議な所である。



 その後も順調に馬車は進む。砂漠に入ったにしては魔物が来ない。思ったより魔物との遭遇率は低いようだ。砂漠は見晴らしがいいので遭遇率が高いと思い込んでいたが、そうでもないらしい。アバドンがとても暇そうである。


 俺としても、砂漠で戦ったことは勿論ないので、どんな魔物が現れるか少し楽しみである。希望としては美味しく食える奴が良い。・・・・砂漠で美味しそうな魔物ってなんだ?全く想像できないんだけど?


 自分で自分の希望に疑問を浮かべながら、砂漠にいるとは思えない快適な空間を贅沢に享受するのだった。
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