はぁ?とりあえず寝てていい?

夕凪

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救助した子ども達

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 なぜ、こうなったんだ?



 理解出来ない状況に俺は陥っていた。



「リュゼお兄ちゃん!それでその後どうなったの!?」
「どうなった!?」
「ねえねえ!?」
「えいっ!」
「つづきはー!?」


 奴隷商たちを捕まえた後、その身柄の引き渡しと子供たちの保護を行ってもらう為に、再び街に戻っている最中だった。捕まっていた子供たちのリーダー的存在であった獣人の男の子が、俺がこの子たちを助けたと言ってしまい、その時の様子を熱く語ってしまったことで、俺へ熱い視線を向けてくるようになってしまった。俺が一番子供たちと年齢が近いということもあったのだろう。保護した子供たちに群がられ、なぜかめちゃくちゃ懐かれていた。



「おい!ちょっと待て!今、髪を引っ張った奴は誰だ!」
「きゃー!リュゼお兄ちゃんが怒った!!」
「みんな、逃げろー!!」



 髪の毛を後ろに引っ張られ、ガクンと後ろに後頭部が反る。犯人を探し出そうとしたら、俺の周りにいた子たちが一斉に離れてズィーリオスの傍に逃げていった。



「はあー」



 子供たちの楽しそうな笑い声に思わず溜息が零れる。ただの悪戯に一々反応していては疲れるだけなのだが、つい反応してしまう。もういいや。反応してしまうものは仕方ない。

 俺とズィーリオス、そして子供たちが乗っている馬車は、俺たちの乗っていた貸出された馬車だった。御者席にガルムが座り、他のメンバーは皆、奴隷商の馬車に乗って付いて来ている。そっちの馬車に犯人たちが乗せられていた。

 子供たちも、初めはズィーリオスのことを怖がっていたが、俺とズィーリオスの様子を見てから、次第にズィーリオスに触れるようになり、怖くないことを知った子たちから絡むようになっていった。そして最終的に、もふもふに魅入られた子供たちによってズィーリオスは為されるがままになっていた。

 ズィーリオスに登っていた子供たちと混じって、俺から逃げ出した子たちは一緒に遊び始める。移動中は暇だろうと思い、地球の童話をこの世界に合わせて少し変更して語っていたのだが、もう続きは聞かなくてもいいのだろうか?・・・良さそうだな。



「みんなあっちに行ったが、お前たちは行かなくても良いのか?」



 ほとんどの子供たちが移動したが、まだ俺の許に残っていた子たちに顔を向ける。残っていたのは、満身創痍で戦っていた獣人の男の子と、エルフの男の子、そしてナルシアと共に馬車で待っていたエルフの女の子だった。エルフの女の子が言っていたお兄ちゃんは、あの倒れていた男の子であり、再会した後からお兄ちゃんにべったりで離れる様子がない。だから、エルフの男の子がここにいる時点で、女の子も動くことはない。

 どうやら獣人の男の子とエルフの男の子は同い年で、子供たちの中で最も年上だったため、コミュニケーションをとっている間に仲良くなったらしい。


 何があったのか話しを聞くと、子どもたちは皆、別々の街から誘拐されて集められたようだ。そして、本当なら今日の朝には新しく捕まった子が来る予定だったが、時間になっても連れて来られなく、何やらトラブルがあったらしいので、朝から奴隷商人の機嫌が悪かったようだ。そのため、子どもたちの中で最も戦闘力の高い獣人の男の子とエルフの男の子が選ばれ、魔物と戦わされていたというのだ。

 ・・・すっごく身に覚えがある。俺も誘拐されかけたんだけど、偶然だね!というには、無理があるだろうか。・・・無理だな。

 口が裂けても俺とアバドンが誘拐犯を潰したせいだとは言えない。誘拐されかけたのは俺だったなどと。



「いや、俺はリュゼ兄ちゃんが今まで戦ってきた魔物との闘いの話が聞きたい!さっきまではちびたちに向けた話をしていたからな!」



 獣人の男の子は、小さい子たちがズィーリオスのもとに行った隙を狙っていたらしい。エルフの男の子は何も言わないが、その目が隣にいる獣人の男の子と同様に輝いている。

 ウッ!そんな純粋な目で懇願されることなんてほとんどないから、拒否することなんて出来やしないじゃないか!!

 罪悪感があったことも一因して敗北を喫する。俺は、彼らが満足するだろうネーデの魔物襲撃事件のことを話しだした。





















 ネーデの魔物襲撃事件について話していると、いつの間にか他の子たちも周りに集まって俺の話を聞いていた。だが、途中で疲れ果てて眠り込む子たちもおり、馬車が街に到着するころにはだいぶ静かになっていた。話を強請っていた獣人の男の子は既に寝落ちしている。はやり疲れが貯まっていたようだ。


 門の中に入る為に順番待ちをしていると、馬車の外が一際騒がしくなる。騒がしさに子どもたちが目を覚ましだした。起きていた子たちからもうすぐ街の中に入ること知ってホッと息を吐くが、正体不明の外の騒めきに子供たちは不安そうに眉尻を下げて、ズィーリオスの傍で身を寄せ合う。そして、俺を見つめる。



「俺とズィーリオスがいるから大丈夫だ」



 不安を感じないように柔らかい口調で微笑みながら告げると、みんな肩の力が抜けたように柔らかな表情を浮かべる。この半日の間で随分と信頼されたようだな。純粋な子供たちの好意に、なんだか胸の中がむず痒くなる。なんだこの温かいものは。胸に湧き上がるよくわからない感情に恥ずかしくなり、俺は荷馬車の出入口まで移動して、外に対して警戒態勢に入る。

 外の気配を探っていると、複数人の気配が俺たちの馬車に向かっているのが感じられた。だが、それらの気配に害意は感じられない。一体誰だ?


 ジッと近づいてくる気配に注意を払っていると、それらの気配が丁度目の前まで来たのが感じられた。



「リュゼ!開けるわよ!」



 出入口の向こう側から聞こえて来たのは、アネットの声だった。そして出入口が開けられると、アネットが複数の騎士とあの受付長と一緒に顔を見せた。



「・・・・どういう組み合わせ?」



 受付長の顔をガン見しながら声を零す。なぜギルド職員がここにいるんだ?捕まえた冒険者たちのところならまだわかる。



「これは・・・!?ああ!本当に良かった!ありがとう!」



 受付長が目に涙を浮かべて声をあげる。そして、受付長の後ろから押しやりながら前に出て来たのは、見るからに脳筋っぽい獣人の男性。



「親父っ!!」



 すると、その男性に向かって獣人の男の子が飛び出していく。俺の武勇伝を聞きたがっていたあの男の子だ。



「おお!無事か!!良かった!怪我はないか!?」



 あの男の子の父親か。男の子の飛びつきを綺麗に受け止めた男性は、周りを置き去りにして親子2人の空間を形成しだした。



「息子さんが見つかって安心したのは解りましたから、邪魔なので退いて下さい」



 誰もが何も言えずに親子の再会を見守っていると、さっきまでの涙は嘘だったのかと思えるほどの冷たい声で、受付長がその男性に言い放った。さすがにその言い方はないだろうと一同が引いていると、邪魔と言われた男性が、男の子を抱き上げて俺を見る。



「息子を、子供たちを助けてくれてありがとう。彼女から聞いたよ。君たちは依頼として受けるまでもないないと思って、依頼を断り、救出してくれたんだね。父としても、この街のギルドマスターとしても礼を言う」



 ギルドマスター?・・・・そうですか。そう、ギルドマスター!?思わず男性を二度見した後に、受付長に顔を向ける。受付長は静かに頷く。マジか・・・。目の前の獣人の男性は、ガチのギルドマスターであるようだった。
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