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身柄の引き渡し

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「ふーん。あん時の冒険者の奴等かー」


 男が息を顰めるように動かなくなった。なるほど、カマを掛けてみるか。


「ギルドに知られたら、お前らどうなるんだろうな?」


 その瞬間、男が必死に何かを訴え出したが、汚いもののせいで何を言っているか聞き取れない。だから、俺らには何も言っていないということと同じだ。



「よし、こいつ等をギルドに引き渡すか」



 腰掛けていた窓枠から降りて、男を迂回しながら扉まで近づく。



「アバドン、暫くの間こいつ等を頼むな」
「おう。見張りな、オーケー」



 アバドンに男たちの見張りを任せ、俺は廊下に出てガルムとジェイドの部屋に向かい、扉をノックする。すると、直ぐに扉が開けられ、俺は招き入れられた。



「あれ?何で全員集合してんの?」



 そこには、男性陣だけではなく女性陣も集合していた。



「もう、終わったのか?」
「大体?とりあえず犯人は、昨日俺たちに絡んで来た冒険者だった。だから、これからギルドに付き出そうと思うんだけど、ギルド職員を呼んで来てくれないか?」
「昨日の奴等だったのか。分かった」
「だったら俺が行ってくるっすよ」
「よろしく」



 ギルドへの連絡を頼むと、ジェイドが言ってきてくれるようだ。俺が行っても、子供だからと相手にされない可能性もある。二度手間になるのは嫌なので、誰かに行って来てもらえないかと頼んだ。俺たちの部屋に入り込んでいるという現場証拠を押さえてもらう方が確実で手っ取り早いだろう。それに、俺たちがあの男たちをギルドに連れて行くのは嫌過ぎる。



「では、そのまま街を出る準備をしようか」
「・・・え?なんで?」



 あまりにもさらっと、ガルムが言った言葉を皆が受け入れるので、反応が遅れてしまった。いきなり過ぎるだろ。



「なんでって、もうそろそろ夜明けだぞ?ギルド職員に彼らを引き渡す頃には、予定通りの時間になっているはずだ」
「マジかよ・・・」



 ショックのあまり膝から崩れ落ちる。



「リュゼ!?どうした!?」



 ガルムとアネットが駆け寄って来て、側にしゃがみ込む。



「俺の・・・睡眠時間がぁああ!!」
「「・・・・・」」



 ガルムとアネットは静かに立ち上がり、「さぁーって、準備するか!」と言いながら離れていき、アネットは既に扉まで移動していたナルシアと共に部屋から出て行った。

 睡眠時間の重要を分からせてやらなければ。沸々と煮えたぎった怒りを胸に、俺はガルムの部屋から出て行く。後ろから溜息が聞こえたが、俺は知らん!!

 部屋へと戻って来た俺は、再び窓枠まで移動し、その枠に腰掛ける。そして、俺がいない間に何があったのかは分からないが、先ほどよりも憔悴しきった男を睨みつけながら、睡眠の重要性と睡眠時間についてを延々と言い聞かせ続けた。














 何だか外が騒がしい。部屋の外から聞こえて来る複数人の足音と話し声に、俺は喋ることを止めて廊下に目を向ける。気配が段々こちらに近づいて来ていた。もうギルドの職員が来てしまったらしい。まだまだ男に言い聞かせきれていないのに。



「入りますよ!」



 声を掛けながら入って来たのは、あの受付長と2人の男性の職員だった。部屋の中の光景を見て、職員全員が唖然と固まる。そしてすぐに顔を歪めて目を逸らした。それもそうだ。ドギツイものがそこに散らばっており、風下なので匂いもキツイだろう。腐敗した部下は、既に塵となって風に飛ばされていた。そのため、アバドンが手を出した証拠はない。男が証言したとしても、誰にも信じてもらえないだろう。



「本当にこんなことを仕出かすなんて・・・」



 首を横に振りながら職員の一人が溜息を吐き、隣の人も同意という様に小さく頷く。受付長は、憔悴しきった男を冷めた目で見つめたのち、俺とアバドンに向き直る。



「今回のことは本当に悪かったわ。まさか、ここまでどうしようもない人たちだったなんて・・・」



 受付長が頭を下げようとしたので、それを阻止して声を掛ける。



「冒険者1人1人の行動を監理するなんて無理な話なんだから、そういうのは本人たちにやらせるもんだからな?」
「そう言ってくれるとありがたいわ」



 困ったように苦笑いを浮かべた受付長が、他の職員の方に向いて、男たちの回収をして撤収することを指示した。



「フフッ」
「何よ」
「いや、何でもない」



 思わず零れてしまった笑い声に、受付長は居心地が悪そうだ。だいぶ気まずいのだろう。

 職員たちが回収する準備をしている間、受付長がガルム達と話をするために出て行く。こんな状況下だが、俺も出発する準備をしないと。準備と言えるほど、片付けなければならないだけの物があるわけではないが。

 宿への対応はギルドが応じてくれるようなので任せて、俺たちは部屋から退室し、ズィーリオスに会いに外に出た。







 暁闇の出立。
 宿の中での騒ぎに気付いてらしく、ズィーリオスは既に起きて待っていた。特に危機を感じることもなかったので、大人しく納屋で待っていた。そして、ユヴェーレンからことの詳細を聞き、状況を把握していた。

 ズィーリオスの背に乗って宿屋の入り口まで戻ると、そこには準備の出来たガルムたちが待っていた。

 そして、ガルムたちの他に複数のギルド職員の姿があった。先程、受付長と一緒に来ていた人たちではない。様子を見ているようだとヘルプに来た人達であった。もともとギルドの朝は早いからか、ギルド職員の誰も眠そうな顔をしている人はいない。だが、人々が起き始める夜明けはまだだ。それなのに、こんな朝早くから迷惑極まりない事件の後処理をさせられているなんて、なんとツイていないことか。俺には絶対に務まらない仕事だ。

 俺がそんなことを思っている間に、ガルムが代表して再び受付長と挨拶を交わし、俺たちはギルド職員たちの見送りを受けて門へと向かった。門の前に着くころには、ちょうど開門する日の出の頃だろう。

 途中でジェイドとナルシアの2人と別れる。2人は馬車を取りに行き、俺たちは門前で待っていることになった。





 門前に到着すると、数は少ないながらも何台かの馬車の姿があった。どの馬車も荷馬車と思われる大きさで、行商人と思われる人達が馬の様子を見ていたり、荷物の確認をしていたりで少し騒がしい。中には、乗り合い馬車らしき馬車の姿もある。見た目は荷馬車だが、御者と話しあって荷馬車の中に入っていくことから、乗り合い馬車なのだろうと推測できた。

 うん?たくさんある馬車の1台だけ、妙に他の馬車と距離を取っている馬車があった。御者席にいるのは行商人のようだが、どうにも他の行商人と距離を取っている気がする。まあ、人見知りの可能性もあるから気にしてもしょうがない。

 まだ朝早い時間にも関わらず、この門前だけは既に活動が始まっていた。



 周りの様子をボーっと眺めていると、ちょうど黎明の光が街を照らし出した。その瞬間、門の最も近い位置が騒々しくなっていった。どうやら、今から開門が行われるようだ。

 ジェイドたちが馬車を取って戻ってくるよりも早く門が開け切り、続々と並んでいた馬車が外へ連なって出ていく。皆で馬車の列を見送っていると、馬車の列の後方から御者席に座ったジェイドとナルシアの姿が見えた。



「遅くなったっす!いやー、結構混んでるんっすね」



 ジェイドが頭を搔きながら苦笑いを浮かべる。だが、別にそこまで遅れたわけでもないので、誰も気にせずにジェイドたちに労いの言葉をかけて、馬車に乗り込んだ。そして、ゆっくりと俺たちが乗った馬車は門の外へと進んで行った。
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