はぁ?とりあえず寝てていい?

夕凪

文字の大きさ
上 下
253 / 340

街に漂う違和感

しおりを挟む
「ねえ、高ランクのあなたたちを見込んで頼みがあるのだけれど」



 ・・・厄介ごとの匂いがする。やっぱりさっさとこの場を抜け出す方が良かっただろうな。今からでも遅くないか?



「実は少し前から、この街では不可解な事件が続いていてね。その調査をお願いしたいのよ。今ギルドマスターたちが不在なのは、それの調査を行っているからなのだけど」



 ほらやっぱり厄介ごとじゃないか。そんな面倒そうなものやらないっての。



「すまないが、我々は今、別の依頼を遂行中なんだ。ここにはただ立ち寄っただけなんだ。それに、ギルドマスターたちが動いているならそのうち解決するだろ」



 ガルムが俺たちを代表して受付長の提案を断る。よし、ナイスだガルム!俺たちにはここで道草を食っている時間はないぞ!



「そう。それは残念ね」



 受付長は、心底残念そうに肩を落とした。いくら残念がっても、俺たちが手を貸す理由なんて皆無だから、諦めてもらうしかないな。それに、ここのギルマスとサブマスが動いてるにも関わらず、俺たちにも手を貸してもらおうとしているなんて、ギルマス達の信頼度が低いな。ああ、でも人手不足って可能性も考えられるわけか。

 受付長が名残惜しいとでも言いたげに顔を上げてガルムを見るが、ガルムの意思は硬そうだ。ただの冒険者パーティにしか見えないが、今は一応、ハーデル王国を代表した使者の任を受け持っているからな。



「分かったわ。この件は、この町の住人である私たちが解決することだものね」



 溜息を吐きながら頭を振った受付長は、スッと息を吸った後、顔を上げて微笑を浮かべた。



「とりあえず、今回の件は本当にごめんなさい。あのバカたちは叱っておくから、またあなたたちに手出しを指せるようなことにはならないと思うわ。流石にバカでも、自分たちより高ランクの実力者だと分かれば手出しはしないはずよ」
「そうしてくれ」



 ガルムは話はこれで終わりとばかりに席を立つ。それを見て俺も立ち上がり、続けて全員が立ち上がった。部屋を出ようとした時、不意に受付長が警告を発した。



「そこの少年。この街に滞在している間は気を付けなさい。その相棒君の側から離れてはダメよ?」



 唐突過ぎる俺へのフリに、意味が解らず首を傾げる。だが、受付長の表情は真剣であった。もしかすると、俺がガルム達から離れている間に襲われるとでも思っているのか。まあ、あの酔っ払いたちの中に、1人ぐらいはギルドの注意を無視する奴が出来て来てもおかしくないか。一番襲いかかりやすい子供だしな。



「当然、離れるつもりはないぞ」



 ズィーリオスを抱き締めて答えると、安心したのか頷いて微笑んだ。そして、今度こそ引き留められることなく俺たちは部屋を後にした。
















「あっ!やっと解放されたんっすね!」



 ギルドのロビーまで戻って来ると、そこにはジェイドとナルシアが待っていた。どうやら俺たちに何があったか既に知っているようで、特に追求されることもなく、災難だったっすねと軽口を叩いていた。



「そうそう!ここに来る途中で宿を探してたんっすけど、良い感じの所見つけたっす。ただ、テイマー自体が少ないってのもあって、テイマー向けの宿はなかったっすね」



 この街にはズィーリオスも一緒に泊まれる宿はなかったのか・・・。人化してもらうか?どのタイミングで人化してもらうべきか考えていると、一度ジェイドが見つけた宿まで行ってみることになった。

 宿に到着する前に人化してもらう方が良かったが、結局そのタイミングはやって来ず、そのまま宿に入った。そこでガルムが色々と宿の主と話し合いをした結果、この街に滞在する間はここで寝泊まりすることが決定した。そして、交渉してもズィーリオスは大きすぎるため一緒に寝るのはダメだと断られ、ズィーリオスだけが宿の裏の倉庫代わりの小屋で寝泊まりすることになった。

 ズィーリオスだけ物置小屋に放置するのは心苦しい。そうするぐらいならば街の外で野宿すると言ったが、まさかのズィーリオスに反対されて俺は宿で寝泊まりすることになった。因みに俺の宿代は、ここに来るまでに通った宿同様にガルム持ちである。


 今夜の宿も無事決まり、俺たちはそれぞれ自由時間となって解散した。夕食は宿でとることになったので、夕食の時間には再び合流することになった。それまでは街をぶらぶら散策することにしよう。


 ガルム達と別れていつものメンバーで街の中を進む。ズィーリオスの背に乗り、ユヴェーレンが周辺を飛び回り、アバドンが隣で歩く。一緒に行動する人数が減り、いつものメンバーになったことでどこかホッとした。ただ、夜になるまでの時間はそれほどない。近場を見て回る方が良いだろう。

 フラフラと街の中を歩き回る。途中でジェイドとナルシアの2人を見かけた時は、回れ右をしてその場を立ち去り、ガルムとアネットが八百屋の前で買い占める買い占めないの言い合いをしている場面に遭遇した時も、そっとその場を後にした。

 あまり街中を見て回れなかったが、雰囲気を楽しむという面で見れば有意義な散策であった。ただ、やはりこの街で何かが起きていることは確かなようで、どことなく違和感があった。だが、何に対して違和感を感じているのかは分からない。漠然とした違和感である。街全体になんとなく違和感を感じたのだ。ガルムが言っていたように、活気がないことに違和感を感じているのだろうか。いや、違うはず。


 気にしてもしょうがないものに意識を割いても無駄だ。違和感の正体を暴くことは諦め、俺たちは夕食を食べるために宿へ向かった。


 宿の夕食は、特に変わったもののない一般的な食事だった。名産品や地元グルメを期待していた俺にとっては、面白みのない内容である。味は、アバドンの作る料理の方が良いのは当然の結果だろう。


 食事をしながら明日以降の話し合いをし、明日の早朝には出発することになった。物資を十分に補給したため、すぐにでも行こうという結論になったのだ。なにも、全員がここの食事が味気ないと思ったからではない・・・はず。


 宿部屋は2人部屋を3つ取っており、女性陣、ガルムとジェイド、俺とアバドンの分け方だ。明日の朝は早い。そのため「大地の剣」は直ぐに寝ると言って各々の部屋へと上がっていった。俺はズィーリオスを小屋に送ることが出来ず、小屋の前から帰ることが出来なかった。アバドンは既に部屋へ戻っている。


『ズィー、今なら誰も見てないから、人化して一緒に部屋で寝ようぜ?』
『何言っているんだ。それだと1人分の代金を踏み倒したことになるだろ。明日は早いんだからさっさと戻って寝なよ』


 抱きついて、もふりながら懇願するも、正論によって拒否された。


『こんな暗い所で1人で寝させるなんて』
『別に1日ぐらい気にしないから』


 分かっていても、なるべくズィーリオスが1人でいる時間を少なくしようと、この場に居座るために粘る。



『そんなことよりも、俺は明日の朝リュゼが起きられなくて、ガルム達に迷惑かけることの方が気になるからな?』



 俺の心配はそんなこととして片付けられた。こっちは心配しているというのに!



『俺がいないと起こすのが大変なんだから。明日はアバドンとユヴェーレンには頑張ってもらわなければならないな。あと、ガルムもか』



 ズィーリオスにとっては、俺を起こすことの方が難問らしい。



『だから、自力で起きれるように今日はさっさと寝て、明日の朝早く来てくれ。それなら誰にも迷惑は掛からないな』



 ズィーリオスにとっての最適解が出たようだ。それは、この場においての最適解でもある。俺が早く起きてズィーリオスを迎えに来れば、1人にする時間も短くて済むのだ。



『わかった。早く起きられるように頑張る』



 ズィーリオスに渋々宣言して自分の部屋に戻り、明日の朝一にズィーリオスを迎えに行くことを心に決めて、いつもよりも早い就寝についた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

お願いだから俺に構わないで下さい

大味貞世氏
ファンタジー
高校2年の9月。 17歳の誕生日に甲殻類アレルギーショックで死去してしまった燻木智哉。 高校1年から始まったハブりイジメが原因で自室に引き籠もるようになっていた彼は。 本来の明るい楽観的な性格を失い、自棄から自滅願望が芽生え。 折角貰った転生のチャンスを不意に捨て去り、転生ではなく自滅を望んだ。 それは出来ないと天使は言い、人間以外の道を示した。 これは転生後の彼の魂が辿る再生の物語。 有り触れた異世界で迎えた新たな第一歩。その姿は一匹の…

幼女と執事が異世界で

天界
ファンタジー
宝くじを握り締めオレは死んだ。 当選金額は約3億。だがオレが死んだのは神の過失だった! 謝罪と称して3億分の贈り物を貰って転生したら異世界!? おまけで貰った執事と共に異世界を満喫することを決めるオレ。 オレの人生はまだ始まったばかりだ!

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

異世界転生~チート魔法でスローライフ

玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

【完結】公爵家の末っ子娘は嘲笑う

たくみ
ファンタジー
 圧倒的な力を持つ公爵家に生まれたアリスには優秀を通り越して天才といわれる6人の兄と姉、ちやほやされる同い年の腹違いの姉がいた。  アリスは彼らと比べられ、蔑まれていた。しかし、彼女は公爵家にふさわしい美貌、頭脳、魔力を持っていた。  ではなぜ周囲は彼女を蔑むのか?                        それは彼女がそう振る舞っていたからに他ならない。そう…彼女は見る目のない人たちを陰で嘲笑うのが趣味だった。  自国の皇太子に婚約破棄され、隣国の王子に嫁ぐことになったアリス。王妃の息子たちは彼女を拒否した為、側室の息子に嫁ぐことになった。  このあつかいに笑みがこぼれるアリス。彼女の行動、趣味は国が変わろうと何も変わらない。  それにしても……なぜ人は見せかけの行動でこうも勘違いできるのだろう。 ※小説家になろうさんで投稿始めました

チートな親から生まれたのは「規格外」でした

真那月 凜
ファンタジー
転生者でチートな母と、王族として生まれた過去を神によって抹消された父を持つシア。幼い頃よりこの世界では聞かない力を操り、わずか数年とはいえ前世の記憶にも助けられながら、周りのいう「規格外」の道を突き進む。そんなシアが双子の弟妹ルークとシャノンと共に冒険の旅に出て… これは【ある日突然『異世界を発展させて』と頼まれました】の主人公の子供達が少し大きくなってからのお話ですが、前作を読んでいなくても楽しめる作品にしているつもりです… +-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-  2024/7/26 95.静かな場所へ、97.寿命 を少し修正してます  時々さかのぼって部分修正することがあります  誤字脱字の報告大歓迎です(かなり多いかと…)  感想としての掲載が不要の場合はその旨記載いただけると助かります

お前じゃないと、追い出されたが最強に成りました。ざまぁ~見ろ(笑)

いくみ
ファンタジー
お前じゃないと、追い出されたので楽しく復讐させて貰いますね。実は転生者で今世紀では貴族出身、前世の記憶が在る、今まで能力を隠して居たがもう我慢しなくて良いな、開き直った男が楽しくパーティーメンバーに復讐していく物語。 --------- 掲載は不定期になります。 追記 「ざまぁ」までがかなり時間が掛かります。 お知らせ カクヨム様でも掲載中です。

転生先ではゆっくりと生きたい

ひつじ
ファンタジー
勉強を頑張っても、仕事を頑張っても誰からも愛されなかったし必要とされなかった藤田明彦。 事故で死んだ明彦が出会ったのは…… 転生先では愛されたいし必要とされたい。明彦改めソラはこの広い空を見ながらゆっくりと生きることを決めた 小説家になろうでも連載中です。 なろうの方が話数が多いです。 https://ncode.syosetu.com/n8964gh/

処理中です...