はぁ?とりあえず寝てていい?

夕凪

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絡む酔っ払い

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「てめぇら見ない顔だな!!他所者の癖に舐めたこと口にしてんじゃねぇ!!」



 酔っ払いの男たちがゾロゾロと俺たちのテーブルまで集まって来た。各々が武器に手をかけて血走った目を向けて来る。酒臭い匂いが辺りに漂いだす。



「は?人間風情が俺様に口答えするだと?死にてぇのか?」



 折角俺が抑え込んだアバドンが、酔っ払いのバカたちのせいでいきり立つ。俺が抑えていた腕は意味を失くし、アバドンはイスから立ち上がって男たちにガンを飛ばす。アバドンに今ここで暴れられては困る。街に到着して早々、問題を起こして逃げる様に立ち去ることだけはしたくない。まだ、この街の特産品を食べていないんだから!



「アバドン!もう忘れたのか!?お前があいつらのレベルまで下りてどうする!!」
「ちょっ!だから、リュゼッ!?」



 俺がアバドンの腕を掴み直して確保した途端、焦って声が裏返ったガルムが、俺の名前を呼んだ。



「なんだ、このチビ。そう言えばさっきも舐めたこと言ってくれたよな!」



 酔っ払いの先頭にいる、横に大きい丸々とした丸坊主の人間が、手元の剣に手を這わせながらニヤニヤと臭い息を吐きかける。強烈なアルコール臭に顔を顰めた俺は、反射的に数歩後ろに下がった。

 そんな俺の姿を、酔っ払いたちは俺が怖がって引いたと思ったらしい。ニヤリと笑みを深めて俺を舐め回すように見てきた。



「ほう?よく見たらなかなか良い顔をしているじゃないか。男なのが惜しいな」



 ゲラゲラと人の顔を舐るように見て笑う酔っ払いたち。気持ち悪い。



「でも、この顔なら男でもイケそうだな?」



 誰かが放った言葉に、他の何人かが同意して盛り上がる。



「おい!そこの女!お前とガキが今から俺たちの相手をしてくれるなら、今までの事をなかったことにしても良いぜ!?」



 バカみたいにゲラゲラと笑う男たちに、アネットは顔を顰めて俺を引き寄せ、ガルムがアネットを背後に庇う位置取りに移動した。その間に、ズィーリオスがアネットと俺の隣にピタリと寄り添う。そして、俺の言葉で酔っぱらいからのターゲットが外れたアバドンは、1人不穏な気配を漂わせていた。そのあまりの不穏な様子に、俺は酔っ払いたちに感じていた気持ち悪さよりも、アバドンの様子に危機感を覚えていた。



「え、あれヤバくないか」
「ええ。あいつら終わったわね」



 小声でアネットに尋ねると、アネットも先ほどまでの警戒心はなくなったようで、体から力が抜けてたようであった。ガルムはまだ酔っ払いたちに注意を払っているが、アバドンの動きにもかなり注意を払っている様子である。ズィーリオスに至っては酔っ払いよりもアバドンの方を警戒していた。



「おい!お前らこっちに来いって・・・うわッ!?」



 坊主の男がニヤニヤとアネットと俺に声を掛けた瞬間、奴の足元の床が抜けた。綺麗に床の穴の中に吸い込まれていった。驚いた周りの酔っ払いたちも、次の瞬間には続々と彼等の足元の床が抜けて落ちていく。それはそれはピンポイントに、酔っ払いたちは床を踏み抜いていく。

 床下は地面があったようで、彼等の姿が視界から消えることはなかった。首から上だけが飛び出た者、肩から上だけが飛び出た者と様々だ。・・・まるで、出っ放しのもぐら叩きのようだ。


『偉いわぁー!ちゃんと手加減が出来たのねぇー!』


 酔っぱらった男たちが床から生えている光景が視界に広がる中、頭の名にはのほほんとしたユヴェーレンのご機嫌な声が響いていた。


『ふんっ。リュゼに直接手を出すなと言われていたからな!それにこの方法なら、俺様が手を出した事には気付くまい』
「ぎゃあーー!なんかが触った!!」
「下に何かいるぞ!」
「掴むんじゃねー!」
「おい!お前ら!助けろッ!!」


 俺は、直接手を出さなければ良いとは言っていないんだけど・・・。ユヴェーレンに褒められて上機嫌になったアバドンが、床から抜け出ようと足掻いている男たちに見向きをせず、俺たちのところにやって来る。


「この建物、結構ボロイんだな。運が良かったぜ!」


 ガルムが唖然と床から突き出ている男たちに視線をやったあと、アバドンに目を向ける。状況から考えて、運が良いという一言で済ませるには無理がある。ガルムもアネットも、伊達に冒険者活動はしていない。この状況を造り出した犯人がアバドンであることは、気付いているようである。けれど、この場の空気を読んで問い詰めないでいてくれるようだった。

 因みに彼等の脱出を阻んでいるのは、ズィーリオスの仕業である。アバドンが動いた直後に、ズィーリオスの魔力が消費されていた。そしてよく見ると、地味に穴の面積を小さく復元している。植物魔法を使っているようだ。気付いた時には隙間がなくなり、酔っ払いたちは身動きが取れなくなっていた。


「そ、そうだな。俺たちは運が良かったんだな」


 ガルムがアバドンの言葉に戸惑い気味に返答するも、アバドンはガルムの反応には全く興味がないようだ。
 後頭部の辺りから息を吐く音が聞こえ、アネットが俺を引き寄せて捕まえていた腕を離す。



「いやーうざったかったから、スッキリしたぜ!」



 いい汗掻いた、みたいに言うんじゃない。俺の前までやって来て、満面の笑みで腰に手を当てて胸を張るアバドン。汗どころか指先1つ動いていないだろ。色々とあばどんに突っ込みたいことは多いが、この場には部外者が多すぎる。だがまあ、死傷者は1人も出ていないという点で考えれば、アバドンにしては良くやったと言えるだろう。



「ありがとうな?」
「おう!」



 アバドンはだいぶ機嫌が良い様子だ。さっきまでの不機嫌は目の錯覚か、と思うほどの変貌ぶりだった。



「ちょっと!一体どういうことですか!!」



 その時、ギルド内の異変に気付いたギルド職員がやって来た。そして、食堂の床から生えている冒険者たちを見て絶句した。












 先の事件の事情を聞きたいと、俺たちはギルドの個室に通されていた。俺たちの目の前にいるのは、ギルド職員の女の人だった。肩までの長さの茶色の髪に眼鏡をかけたこの女性は、ギルドの受付長をしている人らしく、今ギルドにいる職員の中では一番の上役であるらしい。なんでも、このギルドのギルマスとサブマスは、現在仕事で出払っている状態らしいのだ。

 ことの発端をガルムが一から説明している間、俺は出された水を喉に流し込み、お好きにどうぞのお菓子に舌鼓を打っていた。このドライフルーツが入ったクッキー、癖になる味だな。



「なるほど。ごめんなさいね。ここを拠点にしている冒険者たちが迷惑をかけてしまって」



 受付長の女性が、眉を下げて頭を下げた。その姿にガルムが大丈夫だと伝えて、受付長が困ったように頭を上げた。



「ここ最近、この街には色々ありましてね?おかげで冒険者たちもあのように昼から飲んだくれているのですよ」



 はあ、と溜息を吐きながら首を横に振る受付長。なんだかだいぶお疲れのようだ。



「それにしてもまさか、この街にAランクパーティと、Bランクのテイマーが来るなんて思ってもみなかったわ。この街の冒険者のランクはそこまで高くないのよ。だから、自分たちより強い人間がやって来たとは世にも思わなかったのね」



 受付長が指している彼等とは、さきほどの酔っ払い達のことであろう。因みに彼らは現在、他の職員と、あとからギルドにやって来た冒険者たちによって救出されているところである。

 手を頬に当てて首を傾げる受付長。話は全て終わったのだから、もう帰っても良いだろうか。空になったお菓子入れから目を逸らし、足元に寝そべるズィーリオスに視線を向ける。

 そして受付長は何かを決心した表情をした後、大きく息を吸い込んで口を開いた。
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