はぁ?とりあえず寝てていい?

夕凪

文字の大きさ
上 下
246 / 340

ギルドからの依頼

しおりを挟む
「リュゼ君、の、やること、は、簡単。彼等と、共に、行動、するだけ」



 ロンが俺への依頼の内容を伝えるが、簡素過ぎて良く分からない。言葉のまま受け取っても良いのだろうか。



「理解していないようだから俺から説明する」



 ガルムが俺の理解していない様子を見て、ロンの説明を補足すると手を上げた。



「リュゼのやることは本当にシンプルだ。俺たちと共に行動する。以上だ」



 全く補足になっていない。まさか本当にそのままの意なのだろうか。



「流石に、君を国からの使者とするには幼過ぎるから、使者という位置付けにはなっていない。そうだなー。俺たちの護衛みたいなものだと思っていれば良いぞ」



 なんかー、本当に俺の役割は特になさそうだ。本当に精霊王であるユヴェーレンさえ一緒にいるのであれば、後は何していても良いみたいな雑さを感じる。ロンにはそんな意図はなさそうだが、国からの圧力がロンにあったのだろう。でなければ、わざわざAランク冒険者パーティに、Bランクの個人である俺を指名してまで連れて行かせようとはしない。それも、ギルドからの指名依頼として。普通の指名依頼であれば、冒険者側が断ることも出来る。けれど、ギルドからの指名依頼は、ほとんど拒否することは出来ない。

 今回、冒険者ギルド側であるロンには俺に負い目があるため、断っても構わないという態度であったが、通常はギルドからの指名を断ることは、冒険者活動に制限を加えられる可能性があるので行わない選択である。詰まる所、強制依頼なのだ。

 それだけ国は、どうしてもユヴェーレンを利用したいのだろう。



「護衛ねえー。ガルム達に護衛なんざ要らないと思うけどな」
「そう言うなって。事実、俺たちよりもお前たちの方が圧倒的に強いだろう?なあ?ネーデの英雄さんよぉ」



 おちゃらけたガルムが意味深に俺とズィーリオスに視線を向ける。ガルム達は冒険者の中でも最も親しい者達だ。ある程度は俺の実力を把握しているからこそ、本心か冗談か分からない言葉を吐き出したのだろう。そしてその言葉は、俺と彼等の力関係が対等であると認めているという意味でもあった。

 Aランク冒険者パーティと対等に張り合えるとBランクに言ったのだ。それだけ、実力を認められているという証である。



「それに、西大陸はナルシア以外は行ったこともないからな。始めての地で活動する際の冒険者の基本を教えてやる。まだリュゼには、野営の基本とか色々な事を教えていないしな。この機会に前回の続きをすると思えば良い」



 どこか期待を無理やり隠し込んでいるようなガルムの表情に、何か裏があるのではとジッとガルムを見つめるも、俺はユヴェーレンではないため何も分からない。ボロが出ないかと思っていても、簡単には尻尾を出さない辺り、流石貴族を相手にしてきた冒険者と言えるだろう。



「怪しむ必要はないわよ?ただ単に、ガルムはリュゼ君と一緒の時間が増えて世話を焼けると楽しみにしているだけだから」
「おい!アネット!?何を言うんだ!?」



 けれど、アネットがガルムの隠していた思考を暴露したことで、簡単にガルムの尻尾が飛び出た。それも、だいぶしょうもないことが。



「ほら、初めて会った時の事を覚えている?ガルムは子供好きなのに、この顔のせいで子供に怖がられて近づけないって言ったこと」



 あー、そんなことを言っていた気がする。俺の表情から、心当たりを見つけたことに気付いたアネットはそのまま話を続ける。



「それで、リュゼ君だけは怖がらないからって滅茶苦茶喜んで、冒険者の先輩として色々教えてあげようとした矢先にあの事件でしょ?それで教える機会がなくなって、かなり落ち込んでいたのよ。だから今回、遠出するってことは一緒にいる時間が確実に長いわけじゃない?それで歓喜しているだけだから、警戒する必要はないわよ」



 アネットの追撃にガルムが顔を手で覆って縮こまる。大男の恥ずかしがっている姿に需要はないから!思わず冷めた目で見つめてしまっていても仕方がない。うん。

 撃沈したガルムを放って、確認のためロンに顔を向ける。



「とりあえず、俺には特に、あれしろこれしろって言う指示はないんだな。皆と一緒にナルシアを守りながら、エルフの国に向かえば良いのか」
「そう、だね」



 ロンが頷き、俺は自分の依頼の内容を把握し終える。



「因みに、報酬、は、この、ギルドに、限り、食堂の、使用、をタダに、する。どう?」
「オケッ!」



 完全に起き上がってガシッとロンと握手をする。ロンも俺もニコニコと笑顔だ。これぞまさにウィンウィンの関係だ。ガルムが寝取られたとか意味の分からないことを言っているが、撃沈させられて頭までも故障しているだけだろう。可哀そうに。出発までには治ると良いな。



「さっきの食事会発言から、この短時間でおおよその性格を見抜くなんて、やはりギルマスになる奴は違うわね」
「そうっすね」
「ええ」



 コソコソとアネット達の会話が聞こえるが、それよりもロンの言葉を聞き取るので忙しかった。何か俺について話していたようだが、まあ大したことではないだろう。



「食堂、の、職員に、リュゼ君、の、オーダー、は全部、無料に、するように、言って、おく、から。効果は、このあと、からで。報酬、だけど、今回、は、前払い、する。ギルド、からの、迷惑代、を含めて」
「それは嬉しいな!」



 今後、王都に来たらタダ飯が食えるということだ。これは嬉しい過ぎる報酬だ!アバドンがいるため、美味しい食事はいつでも食べられるのだが、自炊ではない店の料理を、タダで食べられると言われたら誰でも食いついてしまうと思うんだ。俺がロンに釣られたのではない!自分から陸に上がったのだ!


 自分で自分に言い訳を終え、非常に満足する。この言い訳が、僅かに念話でズィーリオスに垂れ流しになっていたことに気付かない。ズィーリオスだけだったからこそ、気付かなかった。やけにズィーリオスが震えているのを。俺は、ズィーリオスがガルムのアホさ加減に身悶えているだけだと思い込んでいた。



「久しぶりの冒険者活動だけど、道具とかは揃っている?」



 アネットが俺に確認し、俺はマジックバッグの中身を思い出す。思い出すが、何が必要だったかは完全に記憶にない。揃っているかどうかすら判断出来なかった。それに揃っていなくとも、完全にサバイバル生活をしていた俺にとっては、大した問題ではない。



「いや、そもそも必要な物が何だったかすら覚えていないな」
「そう?なら、出発前に買い物に行きましょう。ガルムが個人資産から払ってくれるでしょうから、何か欲しい物があったらガルムに強請ると良いわ」
「分かった!」



 アネットに物資の確保方法について助言を貰う。一文無しの俺にとってはとても有難い助言だった。それでも、お金は持っといて損はない。出発までの間に、王都近郊で済ませられる依頼でも受けることにしよう。そして資金を手に入れ・・・。



「あッ!?」



 突如発した俺の大声に、全員が目を丸くして俺を見つめる。一体何事かと集まった視線を無視して、俺はマジックバッグの中からギルドカードを取り出し、ロンに向かって身を乗り出しながらカードを差し出す。



「俺の口座のお金はどうなっている!?」



 俺の勢いにロンが身を引いて顔を引きつらせていたが、その言葉でハッと何かに気付き、次の瞬間目を伏せた。



「口座は、レッドリスト、入り、した時点、で、凍結、し、使用、停止、されま、した。レッドリスト、入り、した、人物の、口座の、お金、は全部、ギルドに、没収。そして、その資金、を、シェルさん、元、ギルマス、が着服、して、ました」
「なっ・・・・!?」



 かなりの大金が口座に入っていはずだ。その金が全部、盗られた、だと・・・。茫然自失の俺に、でもとロンが続ける。



「着服、が分かった、ので、彼女、の資産、から、補填、させて、頂く、事に、なって、います。まだ、国から、の調査、がある、ので、暫く、は、残高、無し、の状態、ですが」



 おっ。それはつまり?



「戻って来る、と?」
「はい。国の、政策、の、一環、でも、あった、ので、足りなく、とも、国から、も補填、して、くれる、そう」



 今直ぐではないが、過去の苦労が水の泡にならないことが解り、ホッと息を吐いた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

お願いだから俺に構わないで下さい

大味貞世氏
ファンタジー
高校2年の9月。 17歳の誕生日に甲殻類アレルギーショックで死去してしまった燻木智哉。 高校1年から始まったハブりイジメが原因で自室に引き籠もるようになっていた彼は。 本来の明るい楽観的な性格を失い、自棄から自滅願望が芽生え。 折角貰った転生のチャンスを不意に捨て去り、転生ではなく自滅を望んだ。 それは出来ないと天使は言い、人間以外の道を示した。 これは転生後の彼の魂が辿る再生の物語。 有り触れた異世界で迎えた新たな第一歩。その姿は一匹の…

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

幼女と執事が異世界で

天界
ファンタジー
宝くじを握り締めオレは死んだ。 当選金額は約3億。だがオレが死んだのは神の過失だった! 謝罪と称して3億分の贈り物を貰って転生したら異世界!? おまけで貰った執事と共に異世界を満喫することを決めるオレ。 オレの人生はまだ始まったばかりだ!

転生少女、運の良さだけで生き抜きます!

足助右禄
ファンタジー
【9月10日を持ちまして完結致しました。特別編執筆中です】 ある日、災害に巻き込まれて命を落とした少女ミナは異世界の女神に出会い、転生をさせてもらう事になった。 女神はミナの体を創造して問う。 「要望はありますか?」 ミナは「運だけ良くしてほしい」と望んだ。 迂闊で残念な少女ミナが剣と魔法のファンタジー世界で様々な人に出会い、成長していく物語。

異世界転移したよ!

八田若忠
ファンタジー
日々鉄工所で働く中年男が地球の神様が企てた事故であっけなく死亡する。 主人公の死の真相は「軟弱者が嫌いだから」と神様が明かすが、地球の神様はパンチパーマで恐ろしい顔つきだったので、あっさりと了承する主人公。 「軟弱者」と罵られた原因である魔法を自由に行使する事が出来る世界にリストラされた主人公が、ここぞとばかりに魔法を使いまくるかと思えば、そこそこ平和でお人好しばかりが住むエンガルの町に流れ着いたばかりに、温泉を掘る程度でしか活躍出来ないばかりか、腕力に物を言わせる事に長けたドワーフの三姉妹が押しかけ女房になってしまったので、益々活躍の場が無くなりさあ大変。 基本三人の奥さんが荒事を片付けている間、後ろから主人公が応援する御近所大冒険物語。 この度アルファポリス様主催の第8回ファンタジー小説大賞にて特別賞を頂き、アルファポリス様から書籍化しました。

異世界転生~チート魔法でスローライフ

玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

チートな親から生まれたのは「規格外」でした

真那月 凜
ファンタジー
転生者でチートな母と、王族として生まれた過去を神によって抹消された父を持つシア。幼い頃よりこの世界では聞かない力を操り、わずか数年とはいえ前世の記憶にも助けられながら、周りのいう「規格外」の道を突き進む。そんなシアが双子の弟妹ルークとシャノンと共に冒険の旅に出て… これは【ある日突然『異世界を発展させて』と頼まれました】の主人公の子供達が少し大きくなってからのお話ですが、前作を読んでいなくても楽しめる作品にしているつもりです… +-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-  2024/7/26 95.静かな場所へ、97.寿命 を少し修正してます  時々さかのぼって部分修正することがあります  誤字脱字の報告大歓迎です(かなり多いかと…)  感想としての掲載が不要の場合はその旨記載いただけると助かります

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

処理中です...