はぁ?とりあえず寝てていい?

夕凪

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良いこと

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 ズィーリオスと合流出来た後は、特に問題が起こることはなかった。レオ危機一髪事件を知ったズィーリオスがレオに謝り、ひたすらモフられて疲れ果てていたぐらいで、誰も怪我をすることなく、王への報告のために王城に行った。

 そこできちんとユヴェーレンの事は口止めさせてもらい、今後また同じような事があったら、ユヴェーレンが黙っていないと伝えておいた。そのため、俺が闇の精霊王と契約していることは、国の上層部だけが知ることになった。

 同じ空間にバルネリア公爵もいたが、お互い言葉を交わすことなく終わった。直接手を下せる範囲まで近づいたら何か感じると思ったが、案外何も思うことはなかった。本当に俺にとっては、もうどうでも良い人物なのだろう。今後会う予定は全く一切全然ないので、俺がこの人達の事を気にするだけ無駄だ。今回の件に僅かに関わっていたとしても。




 国王からの指示が通っていなかった者達にまでしっかりと指示が通り、俺の無罪がきちんと証明され、騎士たちは俺やズィーリオスに攻撃しようとはしなくなった。そのため、王城の雰囲気が落ち着くかと思っていたが、どうやらシゼが裏で色々と人を動かしていたようで、手が空いた騎士たちは別の場所へと慌ただしく駆けて行った。どうやら、ハーデル王国の宰相が今回の黒幕として関わっていたらしい。しかも、冒険者ギルドのギルドマスターも関与していたようだ。おかげさまで王城は大忙しの大混乱である。

 ギルマスは、王都のギルドマスターになるほどなので、それなりの実力者であるはずだが、そこは「大地の剣」と俺が送り込んでいた騎士さん、後は副ギルマスの助力を得て、無力化し拘束したらしい。殺さずに生け捕りにするため少々苦戦したようだが、誰も致命傷を負うことなく軽傷で済んだようだ。

 俺たちは彼等の邪魔にならないように、カストレア家の王都の別宅にて過ごすこととなった。冤罪による投獄であったため、謝罪をするために王城で客室を用意するのが普通らしいが、王城のあちらこちらが破壊されており、また、対応している場合ではないことで、アイゼンのところにお邪魔することになったのだ。

 王城を破壊した張本人である俺とズィーリオスは、今現在裏庭にあった大きめの木の木陰で、もふりもふられながらのんびりと微睡んでいるところである。

 レオとシゼは、今回の黒幕の発見に貢献した人物ということで、王城でお仕事をしている。なんだか大変そうであったが、まあ書類作業とかは俺には出来ないので、ここでのんびりと邪魔にならないようにしているのが一番だ。

 アイゼンも宰相という立場の人物がいなくなったことで、人手が足らずに駆り出されているようだ。宰相がいないなら副宰相にやらせればいいと思うのだが、何が起きていたのか、副宰相もクビになって投獄されているらしい。

 政務を担う宰相・副宰相が同時に居なくなるなど、この国は大丈夫なのだろうか?俺には関係ないしどうでも良いのだが、レオとシゼが住んでいる国なので、気になってしまう。彼等が国を良くしていく立場なので、自分たちでどうにか苦労しながらも模索していくことだろう。

 でも、もし2人が疲れたから逃げたいと言えば、俺が2人を引き取ろう。サバイバル生活は出来るから、2人が自力で生きていける様になるまでは俺が面倒を見てやろう。

 というか、アバドンとズィーリオスが面倒を見てくれる気がする。アバドンがいれば食べ物の心配はしなくて良いのだから。


 国に関わる者ではないので、もの凄く楽である。後始末に奔走する必要はないのだ。なんかベイスにいた時みたいだな。あの時は鍛錬である意味忙しかったけど。

 朝から晩までゴロゴロ出来る状況に頬が緩む。これだよこれ。ズィーリオスとお昼寝して、美味しい物をたらふく食べて、ふかふかのベッドでもふりながら眠る。あー、雲がゆっくりと流れていく。風に揺れる木々の騒めきがBGMとなり、優しい風が頬を撫でて過ぎ去る。アバドンは俺がいる木の上の枝に乗り、そこで器用に寝転んでいた。ユヴェーレンはアバドンとは違う木の枝に腰掛け、ニコニコとただ俺たちの様子を眺めていた。皆でのんびり。あぁ、素晴らしい!

 王城から近い貴族街だけれども、王城修復の騒音は聞こえない。貴族街は一軒一軒が広く、距離があるため、存外遠いのだろう。


 ズィーリオスの尻尾を抱き枕にして顔を埋めていると、ザクッザクッとこちらに歩いて来る足音が聞こえた。



『ガルム達が来ているぞ』
『そうか』



 ズィーリオスが教えてくれるが、俺は動きたくない。微塵も動きたくないのだ。もう少しで眠れそうだから、彼等には帰ってもらって・・・。


「おいリュゼ!起きろ!」


 ガルムが声を弾ませてやって来た。無駄に腹から声が出ていて喧しい。身じろぎ一つ取ることすら大儀なのだ。わざわざここにやって来たと言うことは、ただの連絡で終わることはないだろう。連絡事項なら、カストレア家の使用人に言伝を頼めば良いだけだ。なのに敷地内に入って来てまで俺を探しているのだ。


「起きろって!お前のとっては良い知らせだぞ!?」


 ズィーリオスの尻尾が持ち上がり、俺ごと持ち上げられる。目の前にガルムの顔が映る。ものすっごく不快だ。さっきまでの幸せの微睡みの時間は一体どこへ行ったというのだ。ガルムを睨み付けて、不愉快を全身で表明する。


「起きたみたいだな!よし、ズィーリオスこいつを連れてちょっと付いて来てくれ。ギルドまで行くぞ!」


 俺の表明を無視してガルムがズィーリオスに言い放つ。ふんっ。俺たちの微睡みタイムを邪魔したのだからズィーリオスが言うことを聞くわけが・・・・ぁあああ!?

 アバドンによって尻尾から引き剥がされ、その隙にズィーリオスは立ち上がる。立ち上がったズィーリオスの背に俺は乗せられて、ズィーリオスが歩き出す。これは明らかにギルドへ行く流れだ。


「裏切られた」


 ポツリとズィーリオスの背で愚痴を零すと、木の上から飛んで下りて来たユヴェーレンが慰める様に頭をポンポンと叩く。顕在化していないので触れていないが。


『まあまあ、お昼寝はまた今度にしましょうぉ?リュゼにとって良いことが待っているのは間違いないのだからぁ』


 ウフフと笑みを浮かべるユヴェーレンはどこか楽しそうだった。お昼寝はいつでも出来るから仕方ない。今日は諦めよう。その分、本当に良いことでないと納得出来ない。

 文句を言わずにズィーリオスに揺られて移動する。屋敷を出て、貴族街を抜ける。そして目的地であるギルドまで向かった。










「久しぶりだな」


 ギルドの前に到着して、ポツリと言葉が零れた。当然だが、前来た時と何も変わっていない冒険者ギルドが建っていた。ここに来ることはもう二度とないと思っていたので、避けることなく突入しようという状況がなんだか変な気分だ。


「さあ、行くぞ!」


 感慨深い思いに浸っていた俺だったが、ガルムの一声で一同はゾロゾロと中へ入っていく。躊躇して一歩を踏み出す感動のシーンは要らないらしい。俺がズィーリオスに乗ったままと言うのも一因かもしれないが、例え下りていたとしても、今のようにさっさと連れ込まれそうなのは何なんだろうか。

 大型の魔獣に寝そべって乗っている少年、という珍しい光景のせいか、沢山の視線が俺に突き刺さっている。それとも、そんな少年を中心に周囲を取り囲んで移動している大人たちのせいだろうか。


 突き刺さる複数の視線に耐え、ギルド内を突っ切る。向かう先は、ギルドの二階にある個室であった。そして、そこで俺はズィーリオスの上から降ろされた。
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