はぁ?とりあえず寝てていい?

夕凪

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脅迫

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「ま、待て!!」



 国王がまごつきながら声を張り上げる。ユヴェーレンに対してか、バルネリア公爵に対してか分からないながらも、公爵は足を止め国王を見る。国王の視線はバルネリア公爵に向けられており、放った言葉がバルネリア公爵に対してのものだと判明した。姿を消していたユヴェーレンは念話だけであったが、探されていることはいないようである。それよりも、ユヴェーレンの念話の内容の方が重要であった。


 精霊王の契約者が誰だと言った?言葉のまんまを受け取るなら、それは、精霊王の契約者を犯罪者として処罰しようとしているということ。そしてその契約者は、あのダガリスの弟子。

 現状起きている“魔物襲撃”も一大事だが、国王たちが重罪人として投獄した者の扱いも、殊更注意しなければならないと気付いたのだ。精霊王の契約者を敵に回すということは、精霊王を敵に回すのと同意だ。いくらバルネリア家であっても、実体を有さない精霊を相手にするのは無理がある。剣は使えないため、純粋な魔法のみ。だが、どこにいるか見えない敵に攻撃を当てることは至難の業だ。

 そしてこのタイミングでの暴露。それはきっと、契約者の大事にしている“魔物”に手を出すならば、それは精霊王をも敵に回すということの警告ではないか?

 ならば、精霊王を敵に回さず、暴れている“魔物”を抑え込むにはどうすればいいか。



 国王は頭の中をフル回転させる。被害が加速している今、悠長に考え耽っている時間はない。天井から小石の欠片がパラパラと降ってきている。ここも危険だ。早く移動しなければ。

 焦れば焦るだけ、思考が停滞していく。王の言葉を待っている臣下たちの目には、若干の焦りの色が浮かんでいる。バルネリア公爵も、待てと言われた状態なので動くに動けない。


 そして、投げ捨てる様に判断を下した。



「精霊王の契約者を無罪とし、直ちに保護に向かえ!そして魔物の攻撃を止めさせるように頼むのだ!」
「はっ!」



 下された命令に、待機していた騎士が部屋から飛び出していった。これで、リュゼの絶対的な無罪判決が確定した。もうこれからは、簡単に罪状を覆すことは出来ない。



「陛下!」



 バルネリア公爵が国王を呼ぶ。公爵は葛藤していた。精霊王と戦って勝てるかどうかは分からない。負ける可能性の方が高いだろう。けれど、ルーデリオを生かしておくのは危険過ぎて反対したい。だが、生かしておかなければ国自体がなくなってしまう。そうなれば公爵という地位も意味のないものになってしまう。バルネリアの血を持つので、他国でもそれなりの地位を望むことは出来るだろうが。

 

「宰相の企みによって、彼は嵌められた。無実である可能性の方が高かったのだ。ならば、問題ないだろう」



 国王はバルネリア公爵を見て言い放つ。その顔はもう、次の指示について考えており、リュゼの釈放は決定事項であることをバルネリア公爵に知らしめた。バルネリア公爵は下唇を噛む。

 例え現状の終息を図れても、精霊王がいるのならばルーデリオ・バルネリア本人だと確かな証明が出来る。そうなれば、どちらにせよバルネリア家は終わる。国外逃亡は可能だろうが、果たして人類の禁忌と謳われる禁術を使用した者達を、自国に受け入れてくれるだろうか。自分を殺そうとした者達を見す見す逃すだろうか。圧倒的な力を有して帰って来た者が、復讐しないのことなどあり得るのだろうか。

 バルネリア公爵は最善の方法を見つけ出せずにいた。



「バルネリア公爵!何をしている!?各所に指示を出さねばならん!行くぞ!」



 部屋から出ようとした国王は、バルネリア公爵が付いて来ていないことに気付き声を上げる。ハッと意識が思考の渦から戻って来たバルネリア公爵は、慌てて国王の後を追う。一先ず今は、国王と行動を共にしながら考えるしかないと。

 騎士団長が不在のため、騎士団の統率を担うことになった第三王子は、既に部屋から飛び出して騎士たちの許へと向かって行っていた。現在指揮を執っていると思われる副騎士団長に合流するために。


「私たちも行こう!シゼルス君、とりあえずリュゼ君を探すぞ!」
「分かりました!」



 国王が部屋から出て行くのを見送ったアイゼンたちも動き出す。国王の指示はまだ騎士全体には届かない。この混乱した状態で全体に行き渡るのは時間が掛かる。それに、リュゼは今、騎士から逃げているはずだ。ならば、騎士が保護しようと探したところで、リュゼは隠れて出てこない。アイゼンたちが直接動くしかないのだ。


 崩壊を警戒しつつ、速足で移動する。リュゼがいるとしたらズィーリオスの許か、騎士団方面。だがまずは建物の外に出る必要があった。外に出ればズィーリオスの位置が見え、崩壊の危険から逃れられる。例え遠回りになろうとも。



「あーー!俺様も暴れてぇー!」



 揺れる城内を走りながらアバドンが叫ぶ。ズィーリオスは元気に暴れまわっているのに、なぜ俺はダメなのかと言外に込められていた。頭上から降って来た大き目の瓦礫を殴って吹き飛ばす。先ほどから瓦礫を除去してくれているのもあり、アイゼンは反論することが出来ない。シゼルスも、アバドンほどではないが頭上からの瓦礫の除去に忙しく、突っ込む暇がなかった。けれど、精霊王が何か言ったのか渋々大人しくなる姿に、アイゼンとシゼルスは精霊王の有難みを感じていた。


 建物を抜け、日差しの下に出る。そしてすぐさま、シゼルスは状況把握のために周囲を見渡す。ズィーリオスが空を飛びながら、下から打ち上げられる魔法を全て回避し、彼等の攻撃が届かない場所へと移動して行った。

 被害が激しいのは王城であった。王城の敷地内には様々な建物が建っているが、王城程被害が出ているところはない。明らかに王城を狙い撃ちにしていることがよく分かる構図であった。


 国に相棒を取られた“魔物”が反撃として狙いやすいのは、やはり一番大きく聳え立っている王城だろう。そこを読んで、ズィーリオスは王城に集中砲火しているのか、はたまた単純に、王城内部にいる人達に怒りを覚えているからか。実際のところは本人しか知らないが、周りから見たら、目立つ王城に攻撃を加えている図になるだろう。



「ゲッ!?ズィーリオス!そこは止めろっ!!」



 突如、シゼルスがズィーリオスに対して顔面を蒼白にして叫ぶ。だが、騒がしいこの場所で叫んでも声は届かない。シゼルスの視線の先には1つの塔があった。王城の中でも端の方に位置するだ。そこを狙うようにズィーリオスが旋回している。

 シゼルスの叫び声でアイゼンもシゼルスの視線の先を見る。そしてシゼルスの叫びの意味を理解し、目を見開く。

 ズィーリオスが攻撃モーションに入っていた。今から走ったところで間に合わない。例え尖塔の中間から下の部分に当たったとしても、上部にいる人は助からないだろう。


 あの尖塔の上部で軟禁されているレオナードは。


 ズィーリオスが破壊している場所は、基本的に人が少ないところだった。人的被害は最小限に抑えるために、敢えて人がいない場所や少ない場所だろう場所を狙っているようであった。王城を破壊することで見た目的な被害は大きい。けれど、実質的な被害は少なくなるように理性的に暴れているのだ。

 それが仇となってしまった。尖塔は元々、人の出入りが極端に少ない。だからズィーリオスのターゲットとなってしまっていた。



「レオ!!」
「レオナード殿下!」



 岩石の塊を生み出したズィーリオスが、尖塔に向かって魔法攻撃を放ち、シゼルスとアイゼンの張り裂けるような叫びが上がった。
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