はぁ?とりあえず寝てていい?

夕凪

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非公式の謁見

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「静かになったな」
「そうですね」



 王城のとある一室。リュゼが脱獄し、暴走し始めたことにより、シゼルス達はアイゼンと合流することにした。保護する予定だった騎士が殺されたことによって、宰相の罪を告発することが出来る人物がいなくなってしまったのも、1つの要因であった。王城に乗り込んだ人物がいるということで、本来ならこれほど悠長に紅茶を飲んで人を待つことは出来ないだろう。しかし、犯人が目指すのは王の命ではなく、騎士団方向に向かっていることが分かっていたので、王城から逃げることはなかった。そもそも、王城を明け渡すなど言語道断。最悪の事態に至るまで、王は逃げ出すことは出来ない。

 そのため、確実にいると分かっているその人物を待っていた。アイゼンが面会を行う予定だったハーデル王国の国王を。

 王を待つ面会室にいる間に、アイゼンは再びシゼルスと合流したのだ。それだけ長いことこの部屋で待たされているということでもある。緊急事態であるため王も忙しいのだろうが、こちらも緊急事態と報告している。それにも関わらずやって来るのがこれほど遅いのは、何かしらかの妨害があるのか。

 そして暫く前から王城を揺らす轟音は聞こえなくなっていた。リュゼが捕まったとは思えないので、正気に戻ったか、目的の物を発見したか、それともその両方か。待つことしか出来ないシゼルスとアイゼンは、リュゼの状況に同憂し、また憂国していた。

 というのも、ズィーリオスのリュゼが国を亡ぼすという発言が、目に見えてきているからである。リュゼは魔法は使えない。武器も持っていない。そんな状況にも関わらず、王城内部を縦横無尽に破壊し動き回っている。リュゼに武器を持たせたら・・・、本気で国を落としに来たら・・・・、想像できなかった未来が想像出来てしまう。


「そうだ。ズィーリオスは一緒にどこに行ったんだ?」


 アイゼンが杞憂だというように首を振った後、気持ちを切り替える様にシゼルスに尋ねる。そう、今この場に、ズィーリオスはいなかった。アイゼン、シゼルス、そしてアバドンと見えない状態のユヴェーレンだけである。人間2人からしたら3人しかいる様には見えない。ユヴェーレンがここにいることは、アバドンしか知らないのだ。



「こうなった以上、もう強引にことを納めるしかないので・・・」



 シゼルスは決まり悪そうにアイゼンから視線を逸らす。シゼルスとしても絶対に取りたくなかった方法。だが、リュゼが暴れてフォローが難しくなった以上、確実性を取るのではなく、多少の賭けに出る必要が出て来たのだ。



「どういうことだ?」



 はっきりと答えないシゼルスに、アイゼンの目が細くなり訝る。シゼルスとしても、アイゼンにことの詳細を話したいが、話したら確実にアイゼンは反対する。いや、シゼルスも反対したのだが、止められなかった。だからアイゼンに話したとしても止めることは出来ないし、余計な心配にさせるだけだ。


 けれど、アイゼンの圧が凄い。シゼルスがアイゼンの圧に負けて口を開こうとした時、扉が開かれた。即座にアイゼンとシゼルスは入って来た人物を確認し、立ち上がって出迎える。待っていた人物である国王の登場であった。


 今回の面談は非公式。公式の場での謁見ではないので、例え難しいお願いをするつもりであっても、シゼルスとしてはそこまで気が重くはない。けれど、王とはその立場の重要性から、王城内であっても1人で行動することはない。

 だから・・・。

 王の後ろから続いて入って来たのは、王の専属護衛であるバルネリア公爵。シゼルスとリュゼの心底嫌いな父親であった。


 その姿が目に入った瞬間、シゼルスの顔から完全に表情が抜け落ちる。対するバルネリア公爵も、この場にシゼルスがいるとは思わなかったようで、一瞬目を見開いていたが、すぐさま仕事に戻る。だがその目は、どこまでも舐るようで気持ち悪い。

 部屋に入室したのはこの2人だけではなかった。続いて入って来たのは、第三王子。王位継承を破棄したことで、第三王子の専属護衛は必ずしも毎日ずっと一緒にいる必要はなくなっていた。第三王子は学園の高等部、専属護衛のバルネリア公爵家次男カイザスが中等部所属ということもあり、シゼルスは顔を合わせずに済んでいた。また、王子が学園にいない時は基本時に騎士団に行っている。そのため、わざわざ専属護衛も連れて歩く必要はないと第三王子が拒否していたのだ。

 シゼルスは第三王子に挨拶をしたあと、バルネリア公爵に形式上の簡易的な挨拶を行った。その後は完全に無視の姿勢に入った。国王と王子が隣同士に腰掛け、その後ろにバルネリア公爵が陣取る。

 その様子を見てアイゼンが国王に声を掛ける。人払いのお願いだ。テーブルに紅茶を準備し、静かに侍女たちが出て行く。


「すみませんが彼もお願いします」


 アイゼンがバルネリア公爵をチラリと見ながら国王に申し出る。しかし、国王は首を縦に振らない。



「それは出来ない。勤務中はどんな時でも、というのが専属護衛だからな。それにそちらも護衛がいるだろう?」



 それは暗に、バルネリア公爵を下がらせたらそちらが襲い掛かって来るつもりか、と尋ねていることを意味していた。勿論そんなつもりは毛頭ない。バルネリア公爵に何を吹き込まれたか知らないが、国王はかなり警戒しているようであった。



「では、こちらの護衛も下がらせますので。それで如何ですか?」



 アイゼンが妥協案を提示するも、王は鼻を鳴らして拒絶し、シゼルスに視線を向ける。レオナードの専属護衛がここにいると言うことは、アイゼンはレオナードの味方であると言うこと。そして、レオナードは現在、罪状の確認のために監禁状態だ。国王からしたら、警戒するなと言う方が難儀である。

 シゼルスとしては、バルネリア家の追求も行ってリュゼの正統性を証明したい。信じられないからこそ、この場に居られると困る。それに、この王城内部に入って分かったことだが、王城内はリュゼの脱獄で確かに混乱し荒れていた。しかし、上層部は落ち着きを保っていた。いや、保っているように見せていた。

 実状としては、今朝方に発覚した王太子と副宰相の娼館での小競り合いの件で揺れていたのだ。目撃者が商人や冒険者だったことで、瞬く間に王都中に噂が広まった。既に王都の外にも広がっていることだろう。そのため、王太子をこのまま王として戴冠させるのが難題となっていた。これは王太子の婚約者であるバルネリア公爵令嬢にも関わって来る。王太子妃候補として水面下で進められていた計画が、難航している。

 だからはっきりとは態度を示さなくとも、国王は王太子の扱いに対して考えており、バルネリア公爵も気が気でないだろう。神経質になっている二人の神経を逆撫でするのは危険すぎる。

 例え、今回の国王との話し合いに、バルネリアに関する話題を振るつもりがなくとも。



 シゼルスとアイゼンは、国王とバルネリア公爵の状態を見極め、この場でバルネリア家の禁術にまで触れることは出来ないことを悟った。そもそもまだ証拠が挙がっていない。宰相と冒険者ギルド、裏ギルドの繋がりの捜査に手間がかかり、バルネリア家の禁術に関する情報があまりなかった。

 禁術に関して突っ込み、バルネリア家を揺さぶることは今回は諦めるしかなかった。

 バルネリア家と禁術との関係は、当分の間触れられることはないことが決定したのだった。



「ダメだ」
「分かりました。このままでお話をいたしましょう。我々は陛下に手を出すつもりは一切ございません」



 アイゼンがバルネリア公爵の滞在に折れる。そうすることで漸く話し合いが始まった。シゼルスが持っていた数々の証拠資料をアイゼンが国王の前にて指し示し、説明を行いながら、追加の現状についてを。
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