はぁ?とりあえず寝てていい?

夕凪

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動き出した仲間たち

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「さて、作戦会議を始めようか。まずは現在各自が持ち合わせている情報から共有し、その後、それらから組み立てられる計画について話し合おう」



 アイゼンの言葉に全員が同意を示し、ズィーリオスがまず最初に話し始める。王と大臣たちの話し合いの場で起こったこと、リュゼの現状を話しだす。リュゼが地下牢に入れられたと伝えられた時、ズィーリオスの声音が硬くなったが、気付いても誰もそのことに触れることはなく、ズィーリオスの報告が終わる。

 次はアイゼンの報告だった。貴族たちの動きについてだ。特にバルネリア家と他複数の家門を注視している状態だという。

 最後にシゼルスの報告だった。レオナードの状況に関しての情報だ。



「とりあえず、レオナード殿下は現状では無事だということだな」



 アイゼンがホッと息を吐く。まずは王族の安否の確認。リュゼよりも優先順位が高いのは当然であるため、アイゼンの反応は普通だ。しかし、ブラコンなシゼルスは自分の目でリュゼの無事を確認出来ていないので、アイゼンの反応に心底どうでも良さそうに無視し、ズィーリオスを見た。レオナードが無事なのは、シゼルスには分かり切ったことだからなのであろう。



「本当に兄様は無事なんだね?」
「無事だ。繋がりは切れていない」



 この場に居合わせている“人”の中で、唯一シゼルスしか理解の出来ない内容だろう。リュゼと契約した聖獣の言葉。そして共にリュゼの一番の弟を自負する彼らは、今だけはその争いを休戦し、お互いの言葉に信頼を置いていた。シゼルスは、リュゼがすぐさま処刑されたわけではないと安堵し、やっと張り詰めていた神経を緩める。その瞬間、堰き止められていた疲労感が押し寄せて来た。しかし、これからが重要なフェーズである。顔を軽く叩いたシゼルスは、レオナードに託された書類を全員に見える様にテーブルの上に置いた。



「これは?」



 アイゼンがシゼルスに尋ねる。アイゼンがシゼルスに、見ても良いのかと確認の視線を送り、シゼルスが許可した。アイゼンはシゼルスの行動から、この書類が重要な物であることを察していた。先ほどまでレオナードの許にいた人物が手放さずに持って来た物である。それは、レオナードからの指示が含まれていると判断するに十分であった。


 アイゼンが書類の束を捲っていく。軽く目を通していくアイゼンだったが、次第に興味深そうに、新しい玩具を見つけたかのように、笑みを深める。見た目は悪そうな人感満載であったが、誰もその表情に突っ込むことはしない。いや、アバドンが引きながら突っ込もうとしていたが、またしてもズィーリオスによって黙らされていた。

 アバドンの正体を知らないズィーリオス以外の一同は、なぜこの男がこの場に居るか理解出来なかった。しかし、リュゼを何よりも大事にするズィーリオスへの信頼は確かなものだった。ズィーリオスがこの場に居ることを許しているのならば、きっと使える人間なのだろうと判断していた。



「これは面白い。流石殿下だ。ほとんど証拠は押さえているではないか!後は我々が現場を押さえるだけか。アハハ!」



 アイゼンが読んでいる間、ズィーリオスが書類を見つめていたのに気づいていたアイゼンは、シゼルスに視線で確認を取り、ズィーリオスに書類を渡した。隣からアバドンが覗き込むが、チラリと少しだけ見ただけですぐに身を引いて座り直していた。そして、アイゼンが書類を流し読みした後、面白そうに笑いながらシゼルスを見つめる。



「なるほど、それで殿下は君を寄こしたのだな。ふむ。詳しい計画に関しては、君の頭の中ということで良いんだね?」
「はい」



 ズィーリオスが書類から顔を上げる。シゼルスが全員の顔を見渡した。



「これから、今後の動きについての大まかな計画を話す。細かいところを詰めていこう。各自何かしら意見があれば、また聞きたいことがあれば、そのたびに質問してくれ」



 一同が頷く。書類の内容を全員に伝えた後、計画を煮詰めていくのだった。






















「今日は美味い酒が飲みたいな!」



 機嫌の良いガルムの言葉に、「大地の剣」のメンバーは皆が疲れた表情を浮かべながらもしっかりと同意した。会議が終了してすぐ、彼らは自分たちのやるべき仕事をこなすために、行動を起こしていたのだ。

 時刻は既に夜。だが、明るく照らされた道を歩く。夜だからこそに賑わうこの場所は、王都の繁華街。冒険者向けの酒場があちらこちらに店を連ね、彼らの同業者によって賑わいを見せていた。完全に溶け込んだ「大地の剣」は、依頼帰りの冒険者を装う。



「どうだ、ジェイド?今日は女性陣と別行動して、大人の店に入らないか?」



 ニヤついたガルムが、内緒話をするように手を口元に当ててジェイドに囁く。しかし、その声はそこまで小さくない。近くを歩いているアネットとナルシアの耳に届いていた。2人から冷たい視線が突き刺さる。特に、ジェイドに刺さるナルシアの目は非常に鋭い。


「なっ、なんだよ。たまには良いじゃないか!」


 何も言われてはないが、ガルムが両手を振りながらわたわたと言い訳をする。それがいっそう、彼女たちの視線を凍らせた。



「ふんっ!勝手にすれば?良い店を紹介しようと思ったのに!良いわよ、私はナルシアと行って来るから!!」



 プイっと別の方向を見たアネットがナルシアの手首を鷲掴みにし、急ぎ足で去って行った。その後ろ姿を、残されたガルムはバツが悪そうに、ジェイドはこの世の終わりのような顔をして見つめていた。その様子を、辺りにいた冒険者たちが酒のつまみにしながら見物しており、ゲラゲラと笑いながら新しい酒を注文しに行く。



「はあ。別に酒を飲むだけだって言うのにな・・・」



 ガルムの熊耳が縮こまる。それは、長年共にパーティを組んでいるジェイドだからこそ気付けた変化だった。お互いに肩を叩いて慰め合いながら道を歩く。客引きが左右から声をかけに来るが、気が乗らないというように、あしらいすり抜ける。



「あら?お兄さんたち、どうしたんだい?そんな辛気臭い顔をしてさ。下を向いて歩いていたら、どこかにぶつかっちゃうよ」



 客引きとは違う声が掛けられ、ガルムとジェイドは顔を上げる。そこにいたのは、胸元が大きく開いた大胆なドレスを身に纏った妙齢の人間の女であった。女の美しいスタイルを強調するシンプルなドレスは、彼女を若々しく見せている。繁華街の奥。バカ騒ぎしながら飲みまくる酒場ではなく、娼館が立ち並ぶエリアに来ていた。



「はあ。そう見えるか?」


 ガルムが力なく答える。


「見えるとも。お兄さんたち冒険者だろ?なんだよ。依頼に失敗でもしたのかい?」
「いや、失敗はしてないさ」
「ならなんでこんなにも辛気臭いんだ?うーん、どうだ?うちの店に来てスッキリして帰っていってはどうだい?自分で言うのもなんだが、ここらで一番人気の店だぞ?」



 今までの客引きとは違う、気楽な呼び込みだった。



「いや、いい。そんな気分ではないんだ。はぁー、酒場はいつの間にか過ぎていたか。戻るか」



 ガルムがジェイドに振り向き尋ねると、こちらはただコクリと頷くだけ。聞いているのか聞いていないのか分からない。明らかにガルムよりも重症である。そんな2人を見て女は考え込む。その隙にガルムとジェイドは回れ右をして、元来た道を引き返そうとしたが、女が回り込んで引き留めた。



「酒を飲むだけでも構わないさ。今のあんたたちをそのままにしていたら、どこかで変なのに絡まれそうだ。若くて綺麗な子や、可愛い子が揃っている。話を聞くだけでもしてもらいな?誰かに話を聞いてもらうだけでも、なにもせず酒を飲むよりはだいぶマシになるはずさ」



 女の提案にガルム達は顔を見合わせる。そして、女の店に案内を頼み、その後を付いて行った。
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