はぁ?とりあえず寝てていい?

夕凪

文字の大きさ
上 下
219 / 340

牢獄

しおりを挟む
 王城の客室にてだらけ始めて7日目。流石にそろそろズィーリオス達に会いたい。もふもふが恋しい。ユヴェーレンもズィーリオス達と何やら色々とやっているようで、あまり来なくなってしまっていた。そのため、1人の時間が長すぎて暇であった。獣人の青年、アーランドが教えてくれた場所で鍛錬をすることで、時間を潰して過ごすこともそろそろ限界であった。喋り相手になるほどには仲良くなったラセンは、今日は非番でお休みらしい。



「暇だ」



 ベッドに仰向けで、大の字で寝そべりながら呟く。誰も俺の言葉を拾ってくれる人がおらず、虚しい。溜息を吐いて部屋の入口に顔を向ける。レオには悪いけど、もう勝手に帰ろうかな?そう思いながら、飛び出してきた欠伸を放つ。

 そして再び顔を天井に向けようとした時、部屋の外が騒がしくなる。多数の足音がこちらに近づいて来ていた。レオが護衛を連れてやって来たと言うには、どこか気配が荒々しい。完全に体を扉側に向ける。だが、起き上がることはない。足音の向かう先が俺の下ではないことを祈りつつ、入口に注視していると、気配の集団が俺の部屋の前に来た瞬間に、扉が乱暴にこじ開けられた。


 は?何ごと?呆気に取られている隙に、複数の騎士たちが部屋の中に侵入してきた。そして俺の姿を発見した途端、一目散に集まって来た。強引にベッドから降ろされ、両腕を後ろに回されて手錠をかけられる。そして乱暴に部屋から外に引きずり出された。状況の把握に戸惑い、抵抗するより前に制圧された。



「おい!いきなり何なんだ!何しやがる!」



 俺を両サイドから連行する騎士に尋ねるが、顔を顰めただけで答えようとはしない。マジで意味が分からない。まさか、演習場で喧嘩を売って来たあの貴族の仕業ではないよな?可能性を色々と考えるが、それらは全て可能性であり、何が原因かは全く分からなかった。


 これもレオとシゼの計画の内なのだろうか?いや、だとしたらそれっぽいことは伝えるはずだ。色々と状況を把握しようと頭を回していると、いつの間にか地下に連れて来られていた。そしてそこは、見るからに牢が並んだ牢屋であった。その牢の中の一つに放りこまれ、鍵をかけられる。そして俺を連れて来た騎士たちは鍵を閉めてそそくさと出て行った。


 あまりの落差にしばし呆ける。騎士たちの足音が完全になくなり、地下牢の重厚な扉が閉まった音が牢全体に響き渡る。そして俺は、やっと自分の今いる場所を確認しだした。

 そこは、石で出来た牢であった。鉄格子で入口は封じられているが、他は全てが石だった。一切何もない。床は幸いジメジメしていることはなく乾燥しているが、砂埃が酷い。ベッドの類はなく布団もないので、後ほど支給されるわけではないのであれば、直に床で寝ることになるのだろう。先ほどまで最高級のベッドで寝ていただけに、この落差は酷い。


 立っているわけにもいかないので、壁に凭れて座り込む。俺はレオの客人として扱われていた。そして俺はバルネリアの公子としての地位で王城で厄介になっていたのだ。裁判が始まる前は、俺がバルネリアだからこそ、牢は高位貴族用の尖塔の一室だった。しかしここは、どこからどう見ても普通の地下牢である。牢の中には直接の光源はなく、廊下から洩れる明かりだけが窓のない牢の中での唯一の光源だった。



「マジか・・・」



 思わず言葉を零す。牢に入る人生を送るとは思わなかった。罪を犯した感覚が一切ない中での牢獄は、なかなかに衝撃的な状況だ。

 犯罪者役で王都に来たはずが、これでは完璧な犯罪者である。未だに役が続いているのだろうか。勘弁なんだけど。



『いたぁーーーー!!見つけたわぁ!』
「ッ!?」



 突如脳内にユヴェーレンの声が響き渡り、目の前に壁をすり抜けて現れる。びっくりしたー!目を見開いてユヴェーレンを見つめる。頼むからいきなり大声を出して現れないでくれ。



『い、いきなりなんだよ。どうした?』



 ちょっと引きながらユヴェーレンに尋ねる。



『遅かったみたいねぇ。まさかリュゼがこんなところにいるなんてぇ』



 もっと分かりやすく話してくれ。半目になりながらユヴェーレンを見据える。



『何が遅かったんだ?俺がこの状況に陥った理由が分かるのか?』
『ええ!だから逃げる様に伝えようと思ったのだけどぉ、もう既に手が回されていたみたいねぇ』



 残念、惜しかったわぁと言いながら手を頬に当てて首を振るユヴェーレン。そこまで焦っているようではないので、すぐさまどうにかなることはなさそうだ。状況把握のためにも、情報が必要だ。



『ユヴェーレン。何があったのか教えてくれないか?』
『勿論、良いわよぉ?』



 そして、いきなり牢獄に放り込まれた流れを、ユヴェーレンに教えてもらうのだった。


























 王城、謁見の間。
 リュゼのもとに騎士たちが雪崩れ込んでいる頃、謁見の間には、王、王太子を筆頭に、バルネリア公爵とその息女、宰相に各種大臣たちが勢揃いしていた。いきなり呼び出された大臣たちは、バルネリア公爵が娘を引き連れてやって来ていることに、僅かに異変を感じとっていた。

 しかし、ここは王の前。内容を聞かずして文句を言うことは出来ない。




「皆を集めたのは他でもない、我が息子、王太子の婚約者を通知するためである」



 王の言葉に、悪い予想が的中してしまった貴族たちはどよめく。それは、今まで保ってきた貴族の力の均衡を崩すことに相違ない。



「王太子の婚約者は、そこにいるバルネリア公爵令嬢だ。これは決定事項である。異論は認めぬ」



 王の紹介と共に、リルシーアは一歩前に進み出て、王に見事なカーテシーを披露する。その姿は、確かに王太子妃として見合う美しい所作であり、彼女が纏うドレスが彼女の美しさを更に引き立てていた。真っ赤な髪に生える薄水色の清楚なドレスは、彼女がバルネリアの一族だと言うことを大臣たちの頭の中から忘れさせた。その隙を見逃さないとでもいうように、王が追い打ちをかける様に反対意見を事前に潰した。


 すぐに我に返った者達は、この事実に反論することが出来ずに歯を食いしばる。一方で第一王子派は満面の笑みで祝福の言葉を放つが、相手がバルネリアだということに敏感に反応を示した。驚きの表情でバルネリア公爵を見る。



「そして一月後には2人の婚姻を上げる。皆の者、そのつもりでいる様に」



 その言葉に、今まで黙って聞いていた大臣たちは堪らず騒めく。王族の婚姻の準備にしてはあまりにも期間が短すぎる。婚姻の時期をワザと引き延ばすことで、王家がバルネリアと近づくことを防ごうとした者達は、顔色を変える。



「陛下!王族の婚姻としてはあまりにも早すぎやしませんか。もっと準備に時間をかけて盛大に行う方がよろしいかと」



 大臣の1人が声を上げる。



「いや、お前たちは知らないだろうが、既に準備は進めている。1か月後で問題はない」



 王の返答に大臣たちは青ざめる。いくら第一王子派と言えども、婚約者がバルネリアだと言うのは、流石に意見が分かれるものだった。

 その後も大臣たちから声が上がるが、王はそれら全てを退けた。アイデアが尽き、口数が減った大臣たちの様子を見て、バルネリア公爵はほくそ笑ん後、王に向かって陳情があると申し出た。

 話が変えられ、これ以上追求することが出来ない状態に、王は快く受け入れた。婚姻は決定事項のため、大臣たちの質問は面倒なだけなのである。



「バルネリア公爵、如何した?」
「実は先日の裁判でのことです。裁判を開く際に、あの庶民が我々バルネリア家の者だという証拠が提出されていたのですが、それをこちらも専門家に調査を依頼したところ、確かにバルネリア家の縁者の者の所有物であることは分かりましたが、それがあの庶民の物であるということは証明出来ませんでした。あの者と我が息子が同一人物である証拠は何一つなかったのです」



 その言葉に、大臣たちも騒めく。

 バルネリア公爵はチラリと宰相の様子を窺う。バルネリア公爵が証拠品を持っていると言うことは、それは宰相の管理していた物を盗んだと自供したのと同意だ。しかし、宰相は何も反応しない。バルネリア公爵を問いただすこともなく、ただ黙って王の様子を窺っていた。その姿に、バルネリア公爵は宰相の姿に不審げな眼差しを送る。だが、何も反応はないので、その証拠品がどうなろうと興味はないのかもしれないと、宰相の事は気にしないことにした。



「こちらがその鑑定結果です。どうやら、かなり鑑定しずらい物だったようで、宰相閣下も騙されてしまったようです」



 バルネリア公爵は懐から紙を取り出し、近くに来た使用人に渡す。その使用人が宰相に手渡し、宰相が王に手渡す。そして王が中身を確認すると、眉間に皺を寄せる。そんな王の姿を見て、バルネリア公爵は顔には出さずに内心笑みを浮かべる。



「ほう、これは。宰相も騙されてしまうだけの事はある。バルネリア公爵は、腕の良い鑑定士に見てもらったようだな」



 宰相にお前も災難だったな、とフォローを入れた王は、手にした紙を宰相に渡し、声を張り上げた。



「王族と高位貴族を謀った罪人を今すぐに捕らえよ!!」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

お願いだから俺に構わないで下さい

大味貞世氏
ファンタジー
高校2年の9月。 17歳の誕生日に甲殻類アレルギーショックで死去してしまった燻木智哉。 高校1年から始まったハブりイジメが原因で自室に引き籠もるようになっていた彼は。 本来の明るい楽観的な性格を失い、自棄から自滅願望が芽生え。 折角貰った転生のチャンスを不意に捨て去り、転生ではなく自滅を望んだ。 それは出来ないと天使は言い、人間以外の道を示した。 これは転生後の彼の魂が辿る再生の物語。 有り触れた異世界で迎えた新たな第一歩。その姿は一匹の…

幼女と執事が異世界で

天界
ファンタジー
宝くじを握り締めオレは死んだ。 当選金額は約3億。だがオレが死んだのは神の過失だった! 謝罪と称して3億分の贈り物を貰って転生したら異世界!? おまけで貰った執事と共に異世界を満喫することを決めるオレ。 オレの人生はまだ始まったばかりだ!

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

転生少女、運の良さだけで生き抜きます!

足助右禄
ファンタジー
【9月10日を持ちまして完結致しました。特別編執筆中です】 ある日、災害に巻き込まれて命を落とした少女ミナは異世界の女神に出会い、転生をさせてもらう事になった。 女神はミナの体を創造して問う。 「要望はありますか?」 ミナは「運だけ良くしてほしい」と望んだ。 迂闊で残念な少女ミナが剣と魔法のファンタジー世界で様々な人に出会い、成長していく物語。

チートな親から生まれたのは「規格外」でした

真那月 凜
ファンタジー
転生者でチートな母と、王族として生まれた過去を神によって抹消された父を持つシア。幼い頃よりこの世界では聞かない力を操り、わずか数年とはいえ前世の記憶にも助けられながら、周りのいう「規格外」の道を突き進む。そんなシアが双子の弟妹ルークとシャノンと共に冒険の旅に出て… これは【ある日突然『異世界を発展させて』と頼まれました】の主人公の子供達が少し大きくなってからのお話ですが、前作を読んでいなくても楽しめる作品にしているつもりです… +-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-  2024/7/26 95.静かな場所へ、97.寿命 を少し修正してます  時々さかのぼって部分修正することがあります  誤字脱字の報告大歓迎です(かなり多いかと…)  感想としての掲載が不要の場合はその旨記載いただけると助かります

転生貴族のスローライフ

マツユキ
ファンタジー
現代の日本で、病気により若くして死んでしまった主人公。気づいたら異世界で貴族の三男として転生していた しかし、生まれた家は力主義を掲げる辺境伯家。自分の力を上手く使えない主人公は、追放されてしまう事に。しかも、追放先は誰も足を踏み入れようとはしない場所だった これは、転生者である主人公が最凶の地で、国よりも最強の街を起こす物語である *基本は1日空けて更新したいと思っています。連日更新をする場合もありますので、よろしくお願いします

異世界転生~チート魔法でスローライフ

玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

お前じゃないと、追い出されたが最強に成りました。ざまぁ~見ろ(笑)

いくみ
ファンタジー
お前じゃないと、追い出されたので楽しく復讐させて貰いますね。実は転生者で今世紀では貴族出身、前世の記憶が在る、今まで能力を隠して居たがもう我慢しなくて良いな、開き直った男が楽しくパーティーメンバーに復讐していく物語。 --------- 掲載は不定期になります。 追記 「ざまぁ」までがかなり時間が掛かります。 お知らせ カクヨム様でも掲載中です。

処理中です...