はぁ?とりあえず寝てていい?

夕凪

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似た者同士

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「君はさっきの。えーっと、ここ以外で鍛錬が出来る場所を知っているのか?近衛騎士団の演習場は使えないぞ?」



 案内の騎士が獣人の騎士に確認を取る。



「多分違うと思うので、大丈夫だと思いますけど・・・」



 少し自信なさげに犬耳騎士は答える。その返答に考え込む姿勢を見せた騎士は、俺に振り向いて尋ねる。



「どうしますか?」



 選択権を譲るようだ。俺としては時間さえ潰すことが出来るのなら、場所にこだわりはない。ここよりもっと悪環境での鍛錬だっておこなってきたのだ。



「別にそこでいいぞ。気にしない」
「では行きましょう!!」



 俺の返答に、獣人の騎士は耳をピンと立てて嬉しそうに笑顔を向けた。










 獣人の騎士を先頭に場所を移動する。



「さっきは助けてくれてありがとうな。今もだけど、俺に手を貸してしまったらお前まで睨まれるぞ?」



 獣人の騎士に礼を言いつつも、不用意な行動に釘を刺す。だが既に遅いかもしれない。俺たちが演習場を出て行く姿を、多くの騎士たちに見られてしまっている。



「勿論、あんたもだが・・・」



 一歩後ろを歩く騎士にも振り向きながら声を掛ける。



「私は気にしてないので大丈夫です!平民なので慣れてますから!」
「僕もです!獣人が嫌いな人もいるから慣れてます!」



 両者共に気にしないと反応が返って来たが、そんなわけがないだろう。鍛錬と言う名の暴行が行われる可能性が高いのだから。それに、両者共に慣れているというのは如何なものか。



「そんなことより、ルーデリオ様の方が心配ですよ。あいつらの心無い言葉と視線は、貴方に向けられていたのですから」



 騎士の言葉に、獣人騎士が後ろにいる俺に振り向いて頷いて同意を示す。



「別に。あんなのはいっぱいいるし」



 向けられる視線に思わず目を逸らして答える。俺は慣れている。だから平気だ。平気なのだ。



「いや、何強がっているんですか。あれだけ大勢からの悪意に慣れることなど・・・」
「うるさいな。良いんだよ!お前たちは気にしなくて!俺のことより自分たちの今後を心配しろよ!ったく」



 騎士の言葉を遮り、強引に話を終わらせる。



「お前たち、名はなんて言うんだ?俺はルーデリオと言う。ルーデリオと呼んでくれ」



 そして、別の話題に方向転換する。一度騎士同士で顔を見合わせていたが、お互いにちゃんと空気を読んでくれた。



「私は、ラセンと言います」
「僕はアーランドと言います!」



 なるほど、ラセンとアーランドか。



「ラセンは俺の護衛をやってくれているから分かるが、アーランドは俺たちに付いて来ても大丈夫なのか?怒られるんじゃないか?」



 先ほどから気になっていたことを訊ねる。俺のせいで、余計にアーランドの負担を増やしてしまったのではないだろうか。

 心配だったのだが、なぜかラセンとアーランドが嬉しそうに俺の顔を見つめていた。な、なんだ?そんなに名を呼んだことが嬉しかったのか?



「今日は休暇だったので大丈夫ですよ。やることなくて暇だったので、演習場に立ち寄っていただけですから」
「それなら良かったが・・・」



 俺と同じで暇を持て余していたタイプだったようだ。だが、折角の休暇にも関わらず鍛錬をしようとするなど、お利巧過ぎだ。休みじゃなくとも休もうと隙を狙っている俺とは正反対だ。周りが嘘をついていても、真実を告げたあの姿。きっと彼は根っからの真面目で正直な人なのだろう。そして、人懐っこく素直。悪い人に簡単に騙されそうだ。



「あっ、見えました!あそこですよ」



 アーランドが指差した先は、王城の片隅にある木々が生い茂った場所の、僅かに開けた空間だった。確かにここなら剣が振れるだけの空間はあり、俺のような人間が鍛錬をするにはピッタリの場所だ。



「ここは良いな」
「でしょ!って痛ったぁ!」



 胸を張って答えたアーランドの頭に、ラセンが拳骨を落とす。アーランドは頭を押さえたまま蹲り、上目遣いにアーランドを睨み付ける。



「ちょっと!いきなり何すんだよ!」
「お前な、口調には気を付けろ!これだけ砕けた言葉遣いでも許して下さる方は普通いないぞ!つけあがって完全に砕けてどうする!」



 ラセン的に先ほどのアーランドの口調はアウトだったらしい。俺は気にしないんだけどなー。アーランドが騎士とは何たるか、貴族への対応の仕方はどうすべきかの講義を始め出した。アーランドは分かりやすく耳も尻尾もペタリと下げ、地面に座り込んでいる。



「おーい、お2人さん?」
「なんですか?」



 ラセンの講義がひと段落ついたタイミングを見計らって声を挿む。少しスッキリしたようなラセンがこちらを見据え、ピクリとアーランドの犬耳が反応する。



「別に俺は2人の口調など気にしないぞ?逆に砕けてくれて全然構わないが?」



 ピタリとラセンの笑顔が固まる。アーランドの犬耳が完全に立ち上がる。



「貴族の話し方は疲れる。というか、俺もあまり慣れていない。騎士団長の話が聞こえていたかは分からないが、俺は貴族としての時間よりも、庶民としての時間の方が長いんだ。生まれは貴族でも、根の部分はお前たちと同じで庶民派なんだ。だから、せめて他に人がいない間ぐらいは、友達みたいに話そうぜ」



 ラセンとアーランドの歓声が上がり、アーランドの尻尾が千切れんばかりに振り回された。もふもふ・・・・。

 なんだかんだと2人とも敬語は苦手だったようだ。












「凄い綺麗。やっぱり、あの手合わせで負けたのはわざとだったんだね」



 アーランドが俺の素振りを見ながら呟く。その言葉にラセンも同意し、流石だと賞賛した。



「やっぱり?俺の実力はあんなもんだぞ」



 剣を振るう腕を止めてアーランドに顔を向ける。多少仲良くなったとはいえ、あれがわざとだったと広まるのはまずい。



「そんなことはないよ。だって僕、本能的に強い人が誰か分かるんだけど、あの場で一番強いのはルーデリオ様だって感じていたもん。それも圧倒的に強いって」
「確かに、これほどの剣の腕を持つ人があっさり負けるのは変だしな」



 地面に座り込んで休憩していたアーランドがとんでもないことを言い出す。ラセン、アーランドの言葉を真に受けてはダメだ!




「だ、だからそんなことはないって!素振りは得意だが、実際に相手がいる状態で剣を振るうのは苦手なんだよ」
「そうなのか。でも、慣れれば凄く強くなりそうだけど」



 ラセンは誤魔化すことが出来たみたいだが、アーランドは誤魔化しきれない。かなり自分の本能に信頼を置いている様子だ。獣人だからこそ分かるものがあるのだろうが、今まで出会った獣人には、そんな強者センサーを持った奴はいなかったぞ?完全に天性の才能だろう。



「ふーん。ルーデリオ様がそう言うならそういうことにしておくよ」



 納得はいかないようだが、追求は諦めてくれたみたいで安心だ。バレないようにホッと息を吐く。



「そうそう、2人は何故騎士団に?」



 話の終わりと同時にそれぞれが鍛錬を再開していたため、俺たちの間には剣を振るう音と、気合の声しか聞こえなかったが、その静寂を破る。



「俺は英雄に憧れて騎士になった口だ」



 俺の方をチラリと見た後、照れくさそうに顔を背ける。聞くところによると、ラセンは騎士になって10年は経っているらしく、今回俺の護衛を任されたのが初めての重要な任務だったらしい。レオナード殿下より、英雄の子孫である俺の護衛に着くことを賜り、とても感極まったと興奮して捲し立てていた。

 頬を紅潮とさせているおっさんは放って置き、アーランドにも尋ねる。



「僕はただ何となくだよ。獣人だから人間とは違って体力があって肉体が丈夫だから、それを生かせる職に就きたかっただけなんだ。冒険者でも良いんだけど、僕は母さんと2人暮らしだったから母さんを安心させるために、冒険者よりは危険の少ない騎士にしたんだ。僕に何かあっても母さんにお金が入るからね」



 まるで現代日本の若者のような回答だった。安定してお金の入る公務員を選んだということか。でも、アーランドの才能的に、騎士団にいるのは勿体ない気がするんだよな。俺が素振りをする姿を見て、自分の素振りに反映させてどんどん良くなっていっていたのだ。良い師匠がつけば、アーランドはもっと強くなるだろう。けれど、アーランドの才能に気付いていない現状の騎士団に居ても、彼の成長は望めない。

 まだ騎士団に入って2年ほどらしく、見習い期間が終わり、最近正式に騎士になったらしい。才能が勿体無いが、俺に出来ることはあまりない。

 所々2人にアドバイスをしつつ、日が暮れかけるまで鍛錬を続けたのだった。
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