はぁ?とりあえず寝てていい?

夕凪

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夜の王都に潜む影

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2-33 不穏な影

で出て来た3人の人物たちの密会です。

忘れてしまった方は、見直してみてください。




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「全く、面倒な事になったぞ」




 男は手にしていたワイングラスを目の前の円卓のに置いて、同席している者たちに目を向ける。そこには、久しぶりに会った者達の姿があった。


 ワイングラスに真っ赤な液体を注いでいる、高貴な雰囲気を漂わせた男。
 葉巻を口に含み、煙を吐き出しているエルフの女。
 闇夜に溶け込むかのような真っ黒な服を来た青年。



 共犯者たちは、再びとある酒場の奥深くの密室にて集っていた。顔ぶれは変わらず、あの時と同じである。


「なんであんたのところで見つけられずに、王子の方に先を越されるのよ。役に立たないわね」
「はあ!?見つけられたけど、一足遅かっただけだ!!お前の方こそ、表立って動けるくせになんで痕跡1つ見つけられねぇんだよ!人数が多いだろうが!」
「バカなの?あんたのところとは違って、こっちは強制が出来ないのを分かっているでしょうが!」



 青年と女が言い争う。またか、この光景を何度も見ている男が溜息を吐いて、口論に口を挿む。



「今は過ぎたことを罵り合っている時間はない。例の白髪はくはつの少年は王城にいる。それも、バルネリアの血筋と判明した」
「あら!」
「おお!」



 男の言葉に青年と女は面白そうに男の言葉に反応を示す。彼らもバルネリア家の事については当然知っている。門外不出とまで言われるその血は、希少故にとてつもなく価値が高い。生まれる子は、貴族の平均魔力量より多い魔力量を持っており、尚且つ、かなりの高確率で2属性持ちが生まれる。更に、肉体も普通の人間よりも強靭で、戦闘においては右に出る者はいないと謳われている一族だ。

 その名は国外にも知れ渡る。バルネリア家があるからこそ、他国はハーデル王国への進攻を行わない。一騎当千の実力者の名は伊達ではない。


 かつて、とある国がバルネリア家の幼い子供を誘拐した事件があったが、怒り狂った・・・実際には喜々としていたとも言われているが、当時の誘拐された子の兄弟がその国で暴れまわり、国としての
機能が一時停止したと言われている。結局兄弟たちは、誘拐された兄弟を連れ帰ることが出来たが、その隙をついて、隣国の帝国によってその国は侵略され消滅した。


 つまり、それだけバルネリア家の力は、国外では畏怖されている名でもある。けれど、だからこそ、欲しいと思う者は後を絶たない。ハーデル王国の王族と婚姻を結ぶより、バルネリア家と婚姻を結びたいと思う貴族は国内外で多い。


 だが、バルネリアの血は外に出ない。


 その血筋は管理されている。




 そんな状況の時、管理されていないバルネリアの存在が発見されたら、バルネリアの血を欲しがる者達はどうのように反応するか。そう、想像するに容易い。





「そいつは庶子だったってことか?」
「いや、正当な血筋だ。死んだと思われていた奴なのだが、どうやら生きていたらしい。エルフの部下に精霊を使って魔力を調べさせたら、バルネリアの者だと判明した。バルネリア公爵もこの件については知らなかったようだ。今朝、登城したバルネリア公爵は随分焦っている雰囲気だったな」
「なるほどな」



 青年は男の言葉に頷いて納得する。彼らが探していた人物が、まさかのあのバルネリアの正統な血を引いた者であった。これはあまりにも美味しい話である。



「でもそれは、こちらが先に捕まえることが出来ていたらもっと良かったのだけれどね?」
「だとしても、バルネリアの血を感じる要素がないから気付かないだろ?おっさんが調べてやっと判明したことだと言っていただろうが。バカか?」
「うるさいガキは黙ってなさい」
「はあ!?」



 やはりこの2人が口論になるのは止められない運命のようだ。男は最後の一滴をワイングラスに注ぎ込み、ボトルを地面に捨てる。転がったボトルはドアの前まで進み、コツンと扉にぶつかって止まった。


 すると女が青年を無視して男に問いかける。



「そうなったなら、いよいよ動くのかしら?」



 女の口元が弧を描く。両肘だけでなく胸も円卓の上に乗せ、僅かに乗り出すような姿勢になった女は、片手で葉巻を持ち、もう片方の腕は円卓に乗せている。口から白く独特な匂いの煙を零しながら男を見つめる。



「そうだな。バルネリアも動こうとしているようだし、タイミングとしては今が最も最適な頃合いだろう」




 その言葉に楽しそうに女はほくそ笑む。しかし、男は「だが」と続けて女を見据える。




「君のところも忙しくなるかもしれないぞ。白髪のバルネリアが、例の事件を無罪だと認められたことで、そちらにも話が行くだろう。あの王子の事だ。もう来ているのではないか?」




 その言葉に女は顔を顰める。



「ええ。今朝方王城から連絡が来たわ。前代未聞のことだから、すぐには出来ないと返事を返したけれど」




 女は今朝の出来事を思い出し、嫌そうに溜息を吐く。王城からの連絡が来たのだから逆らうことは出来ない。逆らってしまえば今までの苦労が水の泡になってしまう。怪しまれて色々とバレるわけにはいかない。なるべくそれっぽい理由を付けて引き延ばさなければ。




「ふーん。表に出てしまえば俺の仕事ではなくなるからな。忙しそうだな!」



 青年は両腕を後ろに回して、女に告げる。その目は明らかに女に対してバカにした目であった。その青年に対し、女は睨み付けることで反撃する。けれど青年はなんとも思っていないようであり、勝ち誇ったような笑みを浮かべていた。



「そう言っているが、まだお前たちの仕事は残っているだろ。白髪のバルネリアを第四王子より先に見つけることが出来なかったのはお前の落ち度だ。別の事で挽回してもらうぞ」



 男が女を見ていた青年に声を掛ける。すると、痛いところを突かれたように表情を歪ませて、苦々しく了承の意を示した。




「じゃあ、なんだ?王城内にいると言う白髪のバルネリアを捕まえて来れば良いのか?」




 青年が男に尋ねる。しかし、男は蔑んだ目付きで青年を見返す。



「本当にバカだな」
「ああ゛!?」



 男に青年はドスの効いた声で殺気を放ちながら詰め寄る。男は表情は一切変えないが、一瞬だけ目に焦った色を浮かべた。しかし、青年は男のそんな細かな変化に気付くことはなく、舌打ちをして離れていった。男はホッと息を吐く。



「お前なら、例え場所が王城でもそれは簡単な事だろう。しかし、相手はバルネリアだ。逆にお前たちだからこそバレる可能性もある。そこは俺が上手くやってやる」



 その男の一言に青年は不服だと言わんばかりに睨み付ける。男は、内心の緊張を悟られないように、得意の笑みで内心の全てを覆い隠す。




「それよりもお前は、消えたエレメントウルフの方を探せ。どうやら人の姿を取れるのは確定だ。この王都内のどこかに潜んでいる」
「・・・断定出来ているのか?」
「ああ、王都の外にいる可能性は低い。そしてきっと髪の色を隠しているはずだ。場所が特定していて、しかもここ王都内であれば、お前たちにとって人一人を見つけることぐらいは容易いだろう?まあ、相手がエレメントウルフっていうのがネックではあるが、どうにかなるだろ」




 男から提示された内容に、青年は不承不承引き受ける。このメンバーの中で、それが自分の立ち位置として最も最適な場所だということぐらいは分かっているのだ。ただ、偉ぶっている男が気に食わない。エルフの女も気に食わないが。




「チッ。白髪しらが野郎。どうやって俺たちの目から逃げ隠れられていたってんだ?バルネリアは裏での生き方にも精通しているってのかよ」




 青年が吐き捨てる。忌々しいと感じていることは明らかで、男は完全に青年の注意が自分から離れたことに、やっと本気で安堵出来た。




「だが、安心しろ。また人探しもやってもらうことになるが、これからはお前たちの本領発揮をしてもらうことになるだろう。強い奴を用意しておいてくれ」




 その言葉に青年はニヤリと笑みを浮かべる。








 そしてその後も、今後の流れについて男を中心にして、話し合いは続く。
 様々な者達の様々な思惑が入り乱れる中、今日の王都も、いつもと変わらずに夜が更けていく。
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