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犯罪者・・・役?

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 計画への協力を表明した後、詳しい“設定”について話が及んだ。今回の俺は、演じると必要は殆どなさそうだ。周りに任せておけば普段通りに振舞って良いらしい。抵抗も本気で暴れなければいいだけで、嫌がっているのが分かり、罪を認めないという態度や、不服であるということが見た者に伝わればいいだけだ。以前の、色々と俺とは真逆の設定の時とは全然違う。心理的負担がないのはありがたい。


 ズィーリオスはギルドの方でエレメントウルフと言ってしまっているので、実は獣人だという設定はかなり無理がある。この国では獣人が迫害されることはなく、偽る理由がないため、余計に怪しくなってしまうからだ。そのため、ズィーリオスには逃げられどこにいるか分からないが、俺だけは捕まえることが出来たということにするらしい。
 
 俺たちと「大地の剣」が合流した時、周囲に人の目はなかった。もし見られていたら、俺を王都に移送する時に一芝居打つ予定だったらしいが、ズィーリオスだけでなくユヴェーレンやアバドンもいなかったと断言するので、それは確かであろう。

 だからズィーリオスは、ずっと人化した状態で暫くは過ごすこととなった。そして、指名手配としてズィーリオスの姿と目される人型状態での、兄弟と言われる証拠である髪の色であるが、幻覚魔法を利用して、色を変えた姿に見える様にする。色は無難に茶色だ。全体的に茶髪の髪色を持つ人間が多いので、目立たないようにするためだ。

 そしてアバドンは、俺の仲間として顔バレはしていない。そのため、特に必要な変装はない。注意点としては、勝手に歩き回らないように、また貴族たちと会った時に口出ししないようにすることぐらいか。  
 ユヴェーレンは見えている人が少ないので、そのままいつも通り自由にしてもらう。

 ズィーリオスとアバドンはアイゼンの護衛として、同行が決まったのだった。




「それで到着して早々で悪いが、王都への出発は明日の朝だ。王族誘拐の凶悪犯を捕まえてのんびりしてはいられないからな!本来なら今日中に出発するだろうが、流石にそれはキツイ。まあ、ゆっくりして明日といったところだ。そういうことだから、明日はそのつもりでいろよ!」



 一通り情報が全員に浸透し、各々が自分の役割を確認した後、アイゼンが思い出したように爆弾を投下した。


 ちょっと待て!休む暇なし!?唖然とアイゼンを眺める。もっとゆっくり出来るもんだと思っていたんだけど!?

 どうやら久しぶりに来たネーデには、一日も経たずに離れることになるようだ。






















「いやー。ほんと、ネーデの英雄に対してこのような扱いをするのは、とても心苦しいよ」



 眉根を下げて困った表情で俺を見つめるアイゼンの目は、顔とは違って笑っている。顔は笑って目が笑っていないという表情は良く見るが、その逆は珍しい。難しそうなのだが、器用だな。

 久しぶりのベッドで、当分はお預けのもふもふを堪能した翌日の早朝。皆が玄関ホールに集合していた。

 俺の服装は罪人の服と言うわけではなくそのままだが、魔封じの効果のある鎖で体を縛られて拘束され、俺の持ち物であるマジックバッグと剣を没収されていた。捕まった罪人が持ち物を持ったままなのはおかしいということで没収されたのだ。ズィーリオスに預けるという選択肢は、元冒険者が荷物や剣を持っていないというのはおかしいと、これまた却下された。

 現在、俺の持ち物は一応付き人の護衛を演じるズィーリオスが持っているが、後々俺の身柄が王都に引き渡されるタイミングで引き渡しされるらしい。最終的に荷物も名誉も取り戻すのだからと言われ、渋々承諾した。

 あの剣が手元にないのは不安だ。あれは俺のお気に入りの剣なのだ。簡単には疵1つ付かないため壊れる心配はしていないが、一度は確実に見知らぬ誰かの手に渡るのだ。大事な物が汚されるような不快感に苛まれてしまう。

 計画の邪魔をせず、最速で事を納めるしかない。その間は何とか我慢しよう。




 震える体に合わせて鎖が小刻みに音を立てる。



「すまない!すまない!計画だと分かっているからこそ、な?・・・クッ!くっくっく!」



 俺が剣の心配をしている間に、もうアイゼンは隠しもせずに笑い出した。ふんっ!アイゼンから顔を背ける。背けた視線の先には、護衛の騎士服装に着替えた茶髪のズィーリオスとアバドンがいた。両者ともに顔が良いから滅茶苦茶似合っていた。俺は鎖で拘束されているというのに・・・。


 アバドンが俺を見て堪え切れず吹き出す。唯一ズィーリオスだけは悲哀に満ちた表情を浮かべていた。お願いだからどうせなら笑ってくれよ、ズィーリオス。ガチで虚しくなるではないか。



「えーっと、おじい様はきちんと役に立ちますから、心配しないでくださいね?私もすぐに追いかけますし、あなたの事はちゃんと助けますから」



 あたふたしながらもアンナが声を掛けてくれる。一緒に王都に同行するわけではないが、遅れて追いかけて来る予定だ。あの日あの場にいたアンナも行く必要があるが、明日まではネーデに居なければならない予定があるそうなので、追いかける形になったのだ。




「アンナ、ありがとうな」
「いえ。当然のことです」



 アンナのおかげでやさぐれていた心が少し回復した。



「この屋敷を出たら、もうどこに敵の目があるか分かりません。父上が責任を持って守ってくれるとは思いますが、貴方も口を滑らせてしまわないように気を付けてください」



 そして、昨日はいなかったネーデの領主が声を掛けてくる。領主として顔出しすることも計画のうちなので、見送りにきたのだ。昨日は政務で忙しかったらしく顔を合わすことが出来なかったからだ。


「はーーぁっ!面白かった!さてそろそろ出発の時間だ!行くぞ!」


 いつの間にか爆笑していたアイゼンが、使用人から連絡を受けて出発を告げる。


「父上。道中は緊張感を持って気を引き締めてくださいね?リュゼ君で遊ばないでくださいよ?」
「分かってるって!」
「本当ですか?」
「本当だ!さー、皆さっさと行くぞ!遅れるなよ!」



 アイゼンに注意をした領主から逃げる様に、騎士たちの指示をし出す。そのアイゼンの姿に溜息を吐く。ズィーリオスもアバドンも早速騎士として動き出す。だが、本当の騎士ではないため、騎士が何をして何をしないか良く分かっていない。騎士ではないとバレてはいけないため、単純な護衛だけを任務として任されていた。そのため、アイゼンにくっついていないといけないので、慌ただしく移動しだしたアイゼンの後を追いかけて行った。


 2人が出て行ったのを見て軽く息を吐いて、気持ちを切り替える。これから俺は犯罪者扱いされるのだ。今回動員されている人物たちが出て行ったのを確認して、俺は騎士によって連行される形で扉へと向かう。


「では、ご武運を」


 扉が開かれる寸前、領主が呟く。


「ああ」


 長い言葉は必要ない。短く返事を返し、開かれた扉の先を見つめる。そこには牢屋をそのまま持って来たかのような鉄格子状の荷馬車があった。その馬車に乗せられ、外からは移送中の馬車だと見えないように、牢屋全体を覆う布が被せられた。


 そして暫く外がざわついていたが、準備が整ったようでゆっくりと馬車が動きだした。イスもクッションもないこの状況が王都に着くまで続くのだ。絶対にお尻が痛くなるだろう。

 門に辿り着くまではゆっくりと進み、街の外に出てからは徐々にスピードが上がって行った。スピードに比例して、ガタゴトと揺れが酷くなっていくのだった。
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