はぁ?とりあえず寝てていい?

夕凪

文字の大きさ
上 下
197 / 340

再会

しおりを挟む
 部屋の中に姿を現したのは、見たことのある人物。・・・名前、何だっけ?ガルム達と同じように忘れていた。



「なんだ?リュゼ君、まさか忘れたわけではないよね?」



 見るからに貴族な爺さん。そう、アンナの祖父である。




「これは忘れ去られていたようですね」




 おじいさんの背後から、ひょこっと顔を覗かせたのは、手紙の差出人であるアンナだ。




「えーっと。2人とも久しぶり」




 俺が忘れている?ははは・・・そんなわけ・・・・。話を逸らそうとしたがダメだった。




「この姿では初めましてですね。ズィーリオスです。アイゼンさん、リュゼがすみません。」




 ズィーリオスに後頭部を鷲掴みにされ、強制的に頭を下げさせられた。忘れてた。アンナ達ならいざ知らず、ズィーリオスという真面目な存在がいるのだった。




「そう・・・だな。本当にあのズィーリオス君か?全くそうとは思えない。本当に髪の色も同じでにしか見えないぞ」




 ズィーリオスが名前を言ってくれたおかげで、アンナの祖父の名がアイゼンだということが分かったのだから、これはフォローのつもりだったのか?後頭部を解放され、自由の身となる。・・・紅茶飲もう。


 アイゼンがカップを傾ける俺を見て、なぜだか緊張が解けたようだ。アンナは先ほどから静かだが・・・、ズィーリオスを見て固まっている。もふもふに会えると思っていたのに、固い人の姿をとっていたことにショックを受けているに違いない。だってモフれないからな。この姿だと。


 アイゼンがアンナを誘導して俺たちの対面のソファーに座らせる。彼らの分の紅茶が運ばれて来た時に、アンナがやっと元に戻ったようであった。

 アイゼンが紅茶を一口飲んで、息を吐く。その表情は先ほどまでの雰囲気とは打って変わって、どこまでも真剣な眼差しであった。





「到着して早々で悪いが、あまり時間がない。早速本題に入るぞ」




 軽くアバドンの事を紹介し、ズィーリオスの元の姿を見せて本当にあのズィーリオスだと証明した後、アイゼンが口火を切る。





「まどろっこしい話は無しだ。簡潔に言うとこれから君には、王都に向かってもらう。そこには手紙にあった協力者がいるから、その方から更に詳細を聞いてくれ」
「ちょっと待ってくれ!いきなり王都に行けと?」




 ズィーリオスが俺の感情を代弁する。あまりにも急な話だった。ここまで戻って来るのはまだいい。けれど、王都まで戻らないといけないとは聞いていない。王都は敵だらけではないか!

 睨み付けるズィーリオスだが、アイゼンは全く動じず懇願する。



「すまない。急な事は分かっている。けれど、君たちがここに戻って来たことを敵に知られている可能性が高いんだ。その目を欺くためには、敢えて急ピッチで事を運ぶ必要がある。こちらの準備は問題なく出来ているから、私たちに任せてほしい」




 ズィーリオスとアイゼンの見つめ合いが続く。俺に関することなのに、なんで俺が蚊帳の外にいるのか分からない。

 暇だからクッキー食べよう。サクサクとクッキーを食べ、紅茶で喉を潤す。同じく暇しているアバドンにもクッキーを御裾分けして、念話でクッキーと紅茶の味について会話をする。




「はあー」




 焼き菓子談義を楽しんでいたら、隣で盛大な溜息が聞こえた。ズィーリオスが見つめ合いで負けたようであった。




「とりあえず話は聞きましょう」




 ズィーリオスがアイゼンに話の続きを促したことで、彼らが計画している流れを説明してもらうこととなった。













 この計画はだいぶ前から考えられていたようだった。
 現在、カストレア家は犯罪者に与したとして社交界から嫌厭されている。アイゼンの存在があったおかげで何とかお家取り潰しには至っていないが、アイゼンの事を嫌っている勢力が追い落としに奔走しているらしい。だが、王都にいる協力者はカストレア家の存続を願っており、また俺の冤罪を晴らしたいと考えているそうだ。そのため、俺の冤罪が証明されれば、カストレア家の問題は解決する。カストレア家の存続もかかっているが、それよりも恩人に報いたい、という気持ちを尊重し、共犯者として協力者は協力を申し出た。そしてその協力者は、俺の事を知っており、俺もその協力者の事を知っている人物らしい。
 そこでその協力者は一芝居打つことにした。カストレア家が自分たちの汚名を返上するために、リュゼを探し出し拘束したことにして、敵の手に渡らないように保護することにした。1年前のあの時から準備を重ね、もういつでも反撃する用意は整っている。
 保護するという第一段階をクリアしたからには、後はその協力者に任せてしまえば良い。ただ、計画を成功させるためには俺の協力も必要不可欠である。だから、このままことにして協力して欲しい。


 内容としてはそういうことであった。全部をひっくるめて纏めると、計画の事を何も知らないフリをして協力して欲しいということだ。


 王都にいる俺も相手もお互いに知っている人物となると、協力者はあの2人しかいない。今まで俺が逃げていることを忘れて日々を暮らしている間も、俺のために動いてくれていたのだろう。

 アイゼンは貴族の中でもかなりの影響力を持った人物らしい。その人物が協力者として共犯する相手となれば、それなりの地位にいる人物に限られる。王子、それもレオであれば、アイゼンがこれほど信頼しているのも頷ける。

 だが、協力者が本当にレオとシゼだとして、俺が気軽に、アイゼンに知っている人物として確認を取ることは出来ない。アイゼンも今この場では、協力者が誰か教えるつもりはないようだ。でも、確信している。あの2人が動いてくれているのなら、俺が計画に協力しない手はない。




「分かった。協力しよう」
「助かる。ありがとう」
「いや、こちらこそ」



 俺が頷いたことで、アイゼンとアンナの表情が柔らかくなる。



「もし、リュゼ君が拒否した場合にと、協力者から手紙を預かっていたのだが、要らなかったようだな」
「え、それ見せて」



 アイゼンが詰めていた息を吐きながら、ソファーに沈み込む。そして安堵の表情でポツリと呟いた。
そして俺の言葉に対して、まあいいかと言いながら手紙を寄こす。


 見るからに質のいい紙を使っている。封はされているが、印は押されていない。誰からかは分からないようにしている。だが、これほどの品質の紙を使えるのは貴族の中でも一部だけだ。あからさま過ぎやしないだろうか。



 ビリっと乱雑に封を切る。中には一枚の紙が入っていた。その紙も質が良く品のある便箋である。流し読みで内容を読む。




 始めは謝罪からだった。
 あの時すぐに問題を解決出来ず、今の今まで伸ばしてしまい、ギルド資格の剥奪に犯罪者として扱うことになってしまったことへの詫びであった。

 そして内容が変わる。失った全てを取り返す準備が出来た。俺たちは信じて身を任せて欲しい。そう締めくくられていた。レオナードとシゼルスの名と共に。


 俺の予想は間違いなかった。そして名前だけでなく、2人しか知らない俺の昔の情報が書かれていた。確実に本人であると俺に証明するためであろう。今の俺と昔の俺の両方を知る人間は、レオナードとシゼルスしかいないのだから。


 手紙は持っていても良いということなので、マジックバッグの中に入れておく。この中身は誰かに見られては困る。


 ここまで俺に協力して欲しいと頼むのは見たことない。きっとやろうとしていることは本気であり、成功するという自信があるのだ。成人しておらず、国政にあまり関わっていない2人が、国内に蔓延った膿を出すために準備を整える時間が必要だった。

 そして今、最後のピースである俺が揃ったのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

お願いだから俺に構わないで下さい

大味貞世氏
ファンタジー
高校2年の9月。 17歳の誕生日に甲殻類アレルギーショックで死去してしまった燻木智哉。 高校1年から始まったハブりイジメが原因で自室に引き籠もるようになっていた彼は。 本来の明るい楽観的な性格を失い、自棄から自滅願望が芽生え。 折角貰った転生のチャンスを不意に捨て去り、転生ではなく自滅を望んだ。 それは出来ないと天使は言い、人間以外の道を示した。 これは転生後の彼の魂が辿る再生の物語。 有り触れた異世界で迎えた新たな第一歩。その姿は一匹の…

幼女と執事が異世界で

天界
ファンタジー
宝くじを握り締めオレは死んだ。 当選金額は約3億。だがオレが死んだのは神の過失だった! 謝罪と称して3億分の贈り物を貰って転生したら異世界!? おまけで貰った執事と共に異世界を満喫することを決めるオレ。 オレの人生はまだ始まったばかりだ!

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

異世界転生~チート魔法でスローライフ

玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

チートな親から生まれたのは「規格外」でした

真那月 凜
ファンタジー
転生者でチートな母と、王族として生まれた過去を神によって抹消された父を持つシア。幼い頃よりこの世界では聞かない力を操り、わずか数年とはいえ前世の記憶にも助けられながら、周りのいう「規格外」の道を突き進む。そんなシアが双子の弟妹ルークとシャノンと共に冒険の旅に出て… これは【ある日突然『異世界を発展させて』と頼まれました】の主人公の子供達が少し大きくなってからのお話ですが、前作を読んでいなくても楽しめる作品にしているつもりです… +-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-  2024/7/26 95.静かな場所へ、97.寿命 を少し修正してます  時々さかのぼって部分修正することがあります  誤字脱字の報告大歓迎です(かなり多いかと…)  感想としての掲載が不要の場合はその旨記載いただけると助かります

お前じゃないと、追い出されたが最強に成りました。ざまぁ~見ろ(笑)

いくみ
ファンタジー
お前じゃないと、追い出されたので楽しく復讐させて貰いますね。実は転生者で今世紀では貴族出身、前世の記憶が在る、今まで能力を隠して居たがもう我慢しなくて良いな、開き直った男が楽しくパーティーメンバーに復讐していく物語。 --------- 掲載は不定期になります。 追記 「ざまぁ」までがかなり時間が掛かります。 お知らせ カクヨム様でも掲載中です。

転生少女、運の良さだけで生き抜きます!

足助右禄
ファンタジー
【9月10日を持ちまして完結致しました。特別編執筆中です】 ある日、災害に巻き込まれて命を落とした少女ミナは異世界の女神に出会い、転生をさせてもらう事になった。 女神はミナの体を創造して問う。 「要望はありますか?」 ミナは「運だけ良くしてほしい」と望んだ。 迂闊で残念な少女ミナが剣と魔法のファンタジー世界で様々な人に出会い、成長していく物語。

白い結婚を言い渡されたお飾り妻ですが、ダンジョン攻略に励んでいます

時岡継美
ファンタジー
 初夜に旦那様から「白い結婚」を言い渡され、お飾り妻としての生活が始まったヴィクトリアのライフワークはなんとダンジョンの攻略だった。  侯爵夫人として最低限の仕事をする傍ら、旦那様にも使用人たちにも内緒でダンジョンのラスボス戦に向けて準備を進めている。  しかし実は旦那様にも何やら秘密があるようで……?  他サイトでは「お飾り妻の趣味はダンジョン攻略です」のタイトルで公開している作品を加筆修正しております。  誤字脱字報告ありがとうございます!

処理中です...