はぁ?とりあえず寝てていい?

夕凪

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ネーデ到着

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 マジックバッグより便利なものである次元収納。
 その取得方法をアバドンに聞くが、説明があまりにも難解で取得は無理そうであった。ズィーリオスも同じである。

 次元収納という名の通り、空間、次元に関与する能力が必要なのだ。それらは属性という枠ではない。更に、仕組みを理解しないと事故に繋がるため、きちんと理解出来ないと試してみることもダメだと言われてしまった。




「それならあの、調理する時に使っていたものはなんだ?」
「これのことか?」
「そう、それだ」




 次元収納については一先ず諦め、料理していた場所について聞く。次元収納にしまっていたそれを再び取り出して見せてくれた。




「これは持ち運び用の調理台だ」




 見た目は殆どアイランドキッチンだった。それもガスではなくIHタイプの。
 アバドン曰く、全て魔石で機能しているようだ。魔界の職人によって作られた最高級の調理台である。属性は存在しないため、各種属性が込められた魔石を利用しているわけではなく、どうやら別の仕組みを使っているらしい。詳しいことは分からないそうだ。表面に見えている魔石は一つであり、その魔石に魔力を流すことで、一気にコンロも水も手元を照らす光さえも使えるようだ。

 更に、作業場の下にはクリーンの魔法が標準装備されている洗浄場所もついている。その他の収納スペースには、当然の如く食器や調理道具が納められており、調味料用の収納スペースまである。

 料理に必要な道具全てが揃っていた。食材があれば、この調理台でいつでも調理が出来る。しかも次元収納に入っているので、調理台が置けるスペースさえあればどこでも料理が出来る。そして驚くべきことに、次元収納は時間経過がないらしいのだ。次元収納という食材の保管庫。

 アバドンは俺たちの野宿時の食生活を支えるためにやって来たのではないか。そう思ってしまうほど、様々なものが揃っていた。



 マジックバッグの中から鰹節と削り器を取り出し、アバドンに無言で差し出す。



「なんだ?」
「これはアバドンが持っていた方が良いだろ?俺たちの食事はお前が担当なんだから」
「お。そうだな」




 そして受け取った瞬間に、手元から鰹節と削り器が消えた。次元収納へ入れたのだ。



「もう片付けて良いか?」
「ああ。ありがとうな」



 アバドンがキッチンを次元収納に片付ける。先ほどと同じく、手に触れた瞬間にフッと消える。重いものでも難なく動かせるっていいな。俺は若干遠い目をして苦笑いをしてしまった。

 魔界の技術は、垣間見ただけでも明らかに人の世とはレベルが違う。戦いに明け暮れて、文明的なものは何も発展していない世界だと無意識に思い込んでいた。けれど、キッチンという戦闘に関係ないものがこれほどの技術で作られているのなら、魔界は発展した世界なのかもしれない。属性ではなく、様々な力に溢れた場所ならあり得ない話でもないはずだ。


 出発すると合図が掛かるまで、俺はその場から動かなかった。















 その後も平和に時間が過ぎていった。昼過ぎまで寝て、起きたらアバドンの作った食事をとって、移動する。移動中に食材に成り得る魔物に遭遇したら、解体して次元収納に放り込み保管。生ものだからと気にする必要もなく、着々と食材が増えていく。アバドンの次元収納はかなりの広さがあるらしいので、俺のマジックバッグと違い、量を気にすることなくドンドン持ち運ぶことが出来る。

 そんな毎日を繰り返し、いよいよ過去に俺とズィーリオスが暮らしていた活動範囲に入ったのは、集合日の前日である昨日だった。そして今日、太陽が真上に上る頃正午に、待ち合わせである。そのため久々に午前の時間帯に起こされ、眠い目を擦り欠伸を漏らす。


 今日の予定では、一気に飛んで英雄の森を出てネーデ方面へ飛び、近くの人気のない街道で下り、そこからは地上を移動して集合場所に向かうことになっている。出発の準備だけして、俺はズィーリオスの背で眠っていよう。


 のそのそと準備を行う。特にやることはなかった。そのため、すぐに飛び立つことが出来、俺は直ぐまた寝ることが出来たのだった。

 もふもふの魅力には抗えない。・・・抗うつもりもないけど。













『ーーろ。起きろー!』



 ズィーリオスの声に上半身を起こす。眠い眼を擦り大きな欠伸をして目を開く。呆れた表情の「大地の剣」がいた。



「ん?着いたー?ふあーーぁ」



 硬くなった体を伸ばす。んーん、気持ちいい!良く寝た!



「やっと起きたのか・・・」



 ガルムが疲れ気味だ。遠い距離をあっち行ったりこっち行ったりで疲労が募っているのだろう。



「はぁ。まあいいや。もう行こうか」



 首を横に振って、側に停めてあった2台の馬車の1つにガルム以外が乗り込んで行き、ガルムの追うようにアバドンももう一つの馬車の中に乗り込んで行く。状況を把握出来ていない俺はズィーリオスから降ろされ、人化したズィーリオスによって連れ込まれる形で共にアバドンが乗った方の馬車に乗り込んだのだった。










 街の外壁は前とは見違えるほどに高くなっていた。馬車の中を確認されたが、何も言われることなく街の中へと入る。確認していたのは当然ながらこの街の兵士だ。それなのに、俺の姿を見ても目を見開くだけで捕らえようとしないのはどうしてだろうか。泳がせておいて、急いで上司に今頃連絡している頃なのかもしれない。



「心配するな。この街の領主が誰だったか覚えているだろ?それにこの街の住人は、お前たちから受けた恩を忘れてない。兵士たちも、この街を拠点にしている冒険者も、住人も皆、国から強制的にあった協力要請には最小限のパフォーマンスしか見せていない。やっているフリってやつだな。外から来た奴はまだしも、今から行くのは領主の屋敷だ。だからその屋敷内であれば、皆お前たちの味方だ」




 ガルムの俺たちを見つめる視線は、穏やかで温かい。これこそが、親が我が子を見つめる視線というものなのか。そう疑うほどに優しい。だが、いくら子供が好きだと言うガルムと言えど、たかが1年ほど前に少し関わっただけの子供に、これほど優しくするものなのか。俺には理解出来ないが、ガルムが俺に敵対意識を持っていないことだけは分かる。それさえ分かれば、後は俺が知らなくても問題はないだろう。ずっと付き合っていくか分からないのだから。



「そうか」



 なんだかガルムを直視出来ない。むず痒い感覚に襲われたので、一言だけガルムに告げる。ただ、話を理解したということだけは伝えたかった。


 そんな俺の様子をどう捉えたのか、フッと微笑を浮かべて黙り込んだ。そして馬車内が静かなまま、目的地の領主の館に向かって揺れた。















 館についてからは、流れる様に直ぐに面会室へと通された。ガルム達は報告のため分かれることになり、今はズィーリオスとアバドンと共に横一列でソファーに座り、出された紅茶を飲んで時間を潰していた。久しぶりに飲む紅茶は、貴族らしく品のある香りと繊細な味わいで美味しい。

 紅茶と共に、俺用に用意してくれたらしいクッキーを摘みながら、ボーっと人が来るのを待つ。そしてふと思い出した。今、ズィーリオスは馬車に乗るために人化し、そのまま下りて来たため人型だ。以前、ここの領主とズィーリオスが会った時、ズィーリオス人化した姿ではなく、もふもふの姿だった。それに今回、ここに来るように指定したのはアンナだ。アンナがこの場にやって来るかもしれない状況で、人化したままで良いのだろうか?

 ガルム達のようにバラすとしても、まずは見覚えのある姿で会った方がいいのではないだろうか。



「なあ、ズィー。元の姿に戻っていた方が良いんじゃないか?」
「そのままで構わない。報告で聞いている」



 横を向いてズィーリオスに尋ねる。ズィーリオスが答えようとした瞬間、扉が開かれる音と共に、ズィーリオスではない声が室内に響いた。
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