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悪魔との契約

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「契約をしたとして、魂はどうなる?」



 ずっと、契約を交わすならと気になっていたことだ。



「魂?」



 悪魔が拍子抜けした表情でポカーンとした。ん?魂の行方は気になるだろう?やっぱり悪魔と契約を交わすなら、その対価は魂ではないのか?願いを叶える時は対価が魂だった。ならば、悪魔にとって最も意味がある契約なら、尚更対価として魂を要求してもなんらおかしくないだろう。


 お互いに首を傾げ見つめ合う。なんなんだ?この状況は。



「悪魔は願いを叶えるための対価として魂を取るだろ?なら契約の際にも何かしらあるんじゃないのか?悪魔にとって契約は特別なんだろ?」



 暗に契約で魂を取らないのか?と尋ねてみる。すると悪魔は、こいつ何を言っているんだ?とでも言いた気に溜息を吐いた。ユヴェーレンは相変わらずニコニコと様子を眺めている。だが、ズィーリオスだけは俺と同意見だったようで、隣でうんうんと頷いて俺に同意している。



「確かに契約時に魂を取る時もある。だがそれは、悪魔によって様々だ。それに、大体そういうのは願いと兼ねていることが多いんだよ。契約と願いを同時にって感じだな」



 悪魔が馬鹿にしたように肩をすくめて、イスに背中を預ける。

 つまり今の悪魔の話から考えれば、悪魔との契約は、必ずしも魂の取引があるわけではないということか。それに俺からは特に悪魔に対しての願いはない。逆に悪魔の方が契約して欲しいという願いがある状態だ。だから契約で、魂を取引するつもりはないということだな。俺にとっては全くデメリットはない・・・・と?


 ユヴェーレンに顔を向ける。どうしたのと首を傾げるユヴェーレンが肯定するなら確かなはず。



「ユヴェーレン。今の話は本当か?」
『ええ。本当よぉ。プライドの高い悪魔がぁ、ここまでの好条件を出してくることなんて滅多にないわぁ。契約と同時に魂の取引を行う場合ぃ、悪魔側からしたらぁ、それは同等または利害関係での関係性になるのぉ。契約するけど傅かない、逆に利用している側なんだっていう心境ねぇ。だけど魂の取引を行わない契約はぁ、完全に相手への服従を示すのよぉ?契約と一口に言ってもその内容によって意味が変わるのよぉ。全くめんどくさいわよねぇ?』



 精霊なのに、なぜか悪魔事情に詳しいユヴェーレンがそういうなら、実際にそうなのだろう。目の前の悪魔とは腐れ縁と言っていたから、その影響で情報を手に入れていたのかもしれない。でも、そのお陰で真実が確かめられるからありがたい。ユヴェーレンが肯定するということは、真実は意味するのだから。

 再び悪魔に顔を戻す。無言で、目だけで訴えてきていた。契約しよう、と。


 フッと笑みが零れる。あまりに真剣な悪魔の顔は、悪魔らしくない。横のズィーリオスの様子を確認する。俺とは正反対の方向を向いていた。そこに何かがあるわけではなさそうなので、単にいじけているだけのようだ。



「ズィー。良いよね?」
『好きにしたらいい』



 やっぱりいじけている。短期間で自分以外の契約者が出来ることに不服らしい。けれど反対はしないというのなら、最終的な決定は俺の意思に任せるということであり、俺の契約者として多少は認めているということだ。

 不貞腐れているズィーリオスの頭を引き寄せ抱き締める。尻尾がすぐに揺れたが、間違えた!と言うようにピタリと止まり硬直していた。



「まあまあまあ。今日はぎゅっと抱き締めて寝てあげるから」
『それぇ、いつもと変わらないでしょぉ』



 慰めるつもりでズィーリオスに向かって言ったのだが、ユヴェーレンが呆れながら突っ込む。ズィーリオスは聞いているのか聞いていないのか、反応がないため分からない。しかし、何も言わないということは、肯定と受け取らせてもらおう。今日はズィーリオスを盛大に構って上げなくては!



 ズィーリオスからも問題ないと確認が取れたから、悪魔との契約を結ぶことにしようかな。



「早速契約しようか?」
「おう!」



 契約を始めようと促すと、満面の笑みで悪魔が喜ぶ。そんなに嬉しいのか。後々、やっぱり思っていたのと違うとか言い出さないだろうか?ちょっと不安になる。けどまあ、そうなったら悪魔の自己責任だし?あり得るかもしれない未来に少し不安が生じる。けれど今は目の前の契約だ。本人から言って来たのだから、俺の責任ではない。



「悪魔との契約は至って簡単だ!精霊の真正契約のように面倒なものではないぞ!」



 やっと契約が結べることがそんなに嬉しいのだろう。ドヤ顔で説明しだす。ズィーリオスもユヴェーレンも既に俺と契約を交わしているのだから、一体誰に対してドヤ顔しているのか。謎である。



「まずは悪魔との契約について教えるか。簡易契約の場合のみだが、精霊は契約者が変わるたびに名も変わる。だが悪魔の場合、契約の度に名が変わることはない。呪いは魂が力の源であり、名は魂に刻まれるから、呪いと名前は繋がっていて悪魔そのものを表すんだ。ほら、呪いの力でどいつのことか判断するって話をしただろ?」



 呪いは悪魔それぞれに違ったものが一つずつ。確かに、名を表すと言っても良いものだ。悪魔に頷く。



「で、契約する時は、名持ちならその名を教えることで契約が成立し、名持ちでないなら名付けをしてもらうことで契約成立するって流れだ」



 なるほど。かなり簡単な契約方法だな。所謂、真名ってやつなのかもな。



「じゃあ、ずっと悪魔悪魔呼んでたけど、名持ちなのか?」
「ああ。あるぞ」



 お!?名持ちだったらしい。俺が名前を考える必要はないってことだな。でも名持ちと言うことは、昔契約をしたことがあるという訳か。




「あ、だったら、契約した後に名で呼べば、他の奴もお前の名を知ることになるだろ?その時は契約関係に影響はないのか?」
「あー、そうだな。悪魔の真名はかなり強力な効果を有しているんだ。さっきも言った通り、呪いと直結しているからな。名付けを行った者と教えられた者、どちらがその悪魔に対して影響を持つかと言ったら、名付けを行った者が一番優位に立つ。だから、他の者に真名が知られたところで、大したもんではない。名を教えるという方も特に問題はない。契約を結ぶかどうかを決められるのは悪魔自身であり、“悪魔自身が契約のために真名を教えた”相手でない限り契約を結んだということにはならねえんだよ」



 纏めると特に問題はない、ということだが、意外と悪魔の契約も色々決まりがあるんだな。契約だから当然かもしれないが。




「知っといた方が良いのはこれで全部だな。いやー、どっかの誰かさんとは違って、重要な事はきちんと伝えるなんて、俺様は偉いな!」




 なんでその話を今このタイミングで蒸し返したんだ?馬鹿なのか?バカなんじゃないか!?



『んふっ。何かしらぁ?』



 ズィーリオスがユヴェーレンを見つめており、妖艶な微笑みは今日に限ってどこかほの暗い印象を抱かせる。



『何でもない』



 ズィーリオスはきちんと異変を感じ取ったようで、すぐに視線を逸らす。だが、悪魔は自己陶酔してしまっていて気付かない。ベラベラとあの時の事を語りだし、ユヴェーレンに鉄拳制裁を食らっていた。痛くはなさそうだが、頭を押さえて謝る悪魔を見て、ユヴェーレンは気が済んだようだ。ホッと息を吐く悪魔を半目で見つめる。



「け、契約するか・・・」



 ちらりとユヴェーレンを確認して安全を確かめ、悪魔は俺に切り出した。長引いても面倒だし、すぐに契約を結ぼう。



「俺様は魔界の大悪魔、腐蝕の“アバドン”だ。宜しくな!!」
「ああ、よろしく」



 その瞬間、契約が締結した感覚を感じ取った。
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