はぁ?とりあえず寝てていい?

夕凪

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悪魔の力

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『うわー。うじゃうじゃしてるじゃん』




 気配を断ち、オークの集落となっている巣である洞窟を、離れた木の上から眺めていた。他の木の上には悪魔とズィーリオスもいる。

 洞窟の前の広場には篝火を囲むオークが4体。夜間の警備についているようだ。



 オーク殲滅を決めた俺たちは、巣の場所が分からないため周囲のオークを手当たり次第に倒していった。そしてオークが進む方向の気配を探りながら、この場まで辿り付いた。予定通り夕食はトンテキ祭りで、明日まで待つことなくそのまま集落を潰すことにした。悪魔がウズウズしており煩かったのが原因だった。だから明日は日中、絶対に寝て過ごそう。誰がなんと言おうと寝てやる!!



『人間!見とけよ!』



 悪魔が俺に向かってそう宣言した瞬間、悪魔がオークたちの下に襲撃をかけ一瞬で4体を音もなく瞬殺した。これぐらいは当然だ。そして洞窟に入ろうとして立ち止まり、後ろを振り返る。

 どうした?いきなり怖じ気づいたとかはないよな?何してんだ?



『ついて来ないのか?俺様の実力を見せれないんだが?』



 不思議そうな声が脳内に響く。え、外で寝て待ってるのはダメなわけ?



『待ってちゃダメか?』
『まさか悪魔の力がこの程度のものとは思っていないよな?大悪魔たる俺様の力に興味ないのか!?』



 欠伸混じりの俺の発言に、悪魔が信じられないとでも言いたげな声音で話す。悪魔の力が身体能力が高いというだけであるとは勿論思っていないが、悪魔の力というものは興味あるな。教えてくれる雰囲気なので教えて貰おうかな。俺は悪魔について何にも知らないし。この機会に色々と悪魔について知れば、強制送還をするときにその知識が役に立つだろうしな!

 でも、素直に興味あると言うのはなんかなー。



『そんなに悪魔の力ってのは凄いのか?ズィーリオスとユヴェーレンと比べて弱いんじゃ?』



 嘲るように悪魔を挑発する。すると案の定、悪魔がムキになって言い返してきた。



『はあ!?俺様の方があいつらよりぜってぇーっつぇーから!』
『何言ってるのぉ?私の方が強いわよぉ』
『俺が一番だ!』



 悪魔の反論を聞いていたズィーリオスとユヴェーレンが反応した。2人が反応する必要はないんだけど。聞いている様子では、ユヴェーレンは悪魔の力を知っているようだ。念話で言い合う声が脳内で騒音となる。煩いっ!



『分かったから!全員強いってことだろ!?ズィーリオスとユヴェーレンは強いってことは分かってるから!悪魔の奴は生き残って来たその年月で、強いんだろうなってことは知っているから!今からその力を証明すれば良いじゃないか!行動で証明しろ!』



 実際に叫んでいたわけではないが、疲れ果てた気分だ。木の枝から地面に飛び降り、はぁーと息を吐く。ズィーリオスとユヴェーレンは俺が強いと言ったためか、機嫌が直ったようだ。悪魔と言い合うのを止めて、それぞれ俺の側までやって来る。悪魔は多少不貞腐れているようだが、力を見せつけることに決めたらしく、やっと洞窟の中へと進むことになった。










 入口付近はオークの存在は殆どない。もっと奥にいるようだ。



『まず悪魔の力がどういうものか知っているか?』



 僅かにいた入口近くのオークを倒したことで、完全に悪魔の機嫌は直っていた。悪魔が普段暮らしている魔界よりは戦いが少ない機会の中で、戦うことが好きなのは悪魔にとっては相手が弱くとも戦うこと自体が出来れば嬉しいのかもしれない。



『いや、知らない』



 先頭を楽し気に歩く悪魔が、後ろをついて歩く俺に聞く。



『そうか、知らないかー。知らないのかー!』



 あれ?この流れなんか見覚えがあるぞ?



『えー?どうしても知りたい?教えて欲しいか?』
『・・・』



 立ち止まり、ズィーリオスとユヴェーレンに目配せをして回れ右をし、出口へ向かう。



『ちょっ、おいっ!勝手に帰るな!』



 ついて来ないことに気付いた悪魔が、慌てて戻ってきて俺の腕を掴む。ジトーっと悪魔を見返すと、少したじろぐ。



『分かった、ちゃんと教えてやるから!勝手に帰るなよ!俺様のカッコいい姿を見せれないだろうが』



 分かってくれたようで何よりである。首を横に振って溜息を吐き、悪魔の後を再び追う。



『悪魔の力はな、呪いと呼ばれるものだ。そこの聖獣や精霊のように魔法という力ではなく、魔法以上に様々な能力があるんだ』
『どういうことだ?』
『魔法は属性に偏った力だろ?けど、呪いには属性という区別はなく、全ての悪魔がそれぞれ違う力を持っているんだぜ?だから魔法では発現しない現象を引き起こせる。呪いの力は強力だ。だが、強力故に属性と違って必ず一つしか持っていないんだ』



 俺たちが使う魔法とは違った呪いという力。それが悪魔の力の総称。ということは、ラダーガが勘違いしていた悪魔は、確か狂刃の悪魔と呼ばれていたはず。二つ名のようなその名が、呪いの力を表していたのだろうか。

 悪魔に聞いてみると、肯定が返って来た。どうやら貴族位を持つ上級悪魔の中でも、特に上の悪魔は凶悪な呪いを持っていることで有名らしく、悪魔もその一柱だと自慢してきた。言っていることが事実なのかもしれないが、目の前の悪魔は全く凶悪そうには見えない。


 俺の訝し気な視線を感じ取ったのだろうか。自信満々に「まあ、見とけ」と言った悪魔が、やっと自分たちの巣が脅かされていると異変を感じ取って詰めかけたオークたちを見据える。今いる場所は2人で両腕を伸ばして歩けるほどの幅がある。一方通行だが、少し先に左右に道が分かれており、その左右からオークが押し寄せていた。その数はざっと見て凡そ20体ほど。


 そして悪魔は一切ゆったりとした足取りで、そのオークの群れに向かって行った。一切構えることなく。軽い足取りで進む悪魔を、一番先頭にいたオークは勝利を確信した笑みで自身の得物を振るう。悪魔は攻撃を防ぐ素振りもしないまま、余裕の姿勢を崩さなかった。

 悪魔に触れた瞬間、武器がボロボロになった。



「は?」



 思わず声を出してしまったが、既にオークたちが騒ぎ気付かれているので問題はない。呆気に取られて見ていた俺と同じように、悪魔を攻撃したオークも呆けたように手元を見つめていた。けれどそんな時間は長くは続かない。

 オークたちは後続により押され、更に悪魔が近づくことで、悪魔とオークの距離はゼロ距離であった。悪魔の体は、オークという肉壁の存在など無いかのように、歩みを止めることはなかった。悪魔が通り過ぎた後に残るのは、ボロボロに腐り果てた残骸が出来ていた。一体も生き残ってなどいない。あっという間に、押し寄せていたオークたちが全滅していた。


 分かれ道の分岐点で悪魔が振り返り、ドヤ顔で俺を見下ろす。



「これが俺様の力だ!カッコいいだろ?」



 これは凄い。カッコいいかどうかはさておき。



「これは何の力なんだ?」



 見ただけではその本質がよく分からない。



「俺様の力は腐蝕だ。“腐蝕の呪い”が俺様の力だ!」
「腐蝕。なるほど」



 言葉にされて、もう一度オークの成れの果てを見返すとよく分かった。腐れた肉塊が完全に細かな状態になっていた。有機物だけでなく、無機物も腐らせる。それが目の前の悪魔の、腐蝕の呪いの力であった。
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